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イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン (感想後編)【三菱一号館美術館】

今日は前回に引き続き三菱一号館美術館の「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」についてです。前編は2章の途中までご紹介しましたが、後編では残りの2~4章についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC07551.jpg
 
【展覧名】
 イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン

【公式サイト】
 https://mimt.jp/israel/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅

【会期】2021年10月15日(金) ~ 2022年1月16日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編に引き続き、今日は2章からとなります。大部屋だけ撮影可能となっていましたので、そこについては写真を使って参ります。

カミーユ・ピサロ 「豊作」
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こちらは印象派のまとめ役だったピサロの1890年代の作品。年下のスーラの点描を取り入れたのが1880年代だったこともあり、印象派風でありながら所々に点描っぽい感じが残っているようにも思えます。特に対比的な色使いで陰影を表現しているのがさすがです。長閑で穏やかな光景にピサロ自身の人柄が出ているのかも。

カミーユ・ピサロ 「朝、陽光の効果、エラニー」
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木陰で休む女性を描いた作品。緑が非常に鮮やかで爽やかな印象を受けます。エラニーは1884年から住んだ地で、多くの作品が残されています。
 参考記事:《カミーユ・ピサロ》 作者別紹介

カミーユ・ピサロ 「エラニーの日没」
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こちらもピサロ。光が渦巻くようでちょっと不穏w 三角形に見える雲の形が面白い。新印象主義っぽさも少し感じられますね。

ポール・セザンヌ 「陽光を浴びたエスタックの朝の眺め」
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こちらはセザンヌの故郷であるエクス・アン・プロヴァンスからも近いエスタックの町。後のキュビスムに影響を与えた幾何学的な単純化が見て取れるかな。水彩のような淡い色彩でちょっと粗い仕上がりが逆に瑞々しい思えるのが不思議です。

ポール・セザンヌ 「湾曲した道にある樹」
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こちらもセザンヌ。細長いタッチを並べるような表現で力強さとリズムが感じられます。何気ない風景もセザンヌ風になるのがさすがです。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦畑とポピー」
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写真でも分かる厚塗り具合がゴッホならではw 色彩も力強く、麦の伸びていく感じも生命力があります。これは特に良かった…

フィンセント・ファン・ゴッホ 「プロヴァンスの収穫期」
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こちらも色彩が目に鮮やかな作品。ゴッホが特に大事にした農民への敬意も感じられます。

大部屋はこの辺までで、この後はまた撮影禁止となります。ここからは文字のみでご紹介

43 ポール・ゴーガン 「ヴィージラールの家」
こちらは1881年の第6回印象派展の「私の地主の所有地」という作品と考えられていて、1877年に移り住んだパリ郊外の街角が描かれています。手前に草の茂った空き地、奥にちょっと段の下がった家々の屋根があり、全体的に穏やかで地味な色彩となっていて技法や主題にピサロとセザンヌの影響が感じられます。まだゴーギャン自身の画風を模索している感じもするかな。

この近くにも1887年のゴーギャンの作品があり、やや色彩が明るくなったのが分かります。
 参考記事:《ポール・ゴーギャン》 作者別紹介

45 ポール・ゴーガン 「ウパウパ(炎の踊り)」 ★こちらで観られます
こちらは1891年の1回目のタヒチ滞在時の作品で、焚き火の周りで2人の踊る女性が描かれ 少し離れたところに座っている人々の姿もあります。画面中央に火を遮るような感じで斜めになった木があり、ジャポニスムからの影響かもしれません。暗闇にオレンジが鮮烈で神秘的かつ力強い印象を受けます。解説によるとこのウパウパの踊りは官能的な動きを問題としてタヒチを支配したフランス人によって禁止されましたが、ゴーギャンは植民地主義的だと反発していたのだとか。

この近くにはルノワールの風景画などもありました。


<III 都市の情景>
続いて3章は都市の風景を描いた作品のコーナーです。ここは点数少なめだけど、今回最も気に入った作品がありました。

47 フィンセント・ファン・ゴッホ 「アニエールのヴォワイエ=ダンジャンソン公園の入り口」
こちらは門のある公園の入り口を描いた作品です。奥には森、手前には道があり右に2人の女性がすれ違う様子が描かれています。まだ暗い色使いで、細い線が並ぶのは印象派から学んだものと思われます。パリに着いたゴッホが変貌していく予兆が感じられる作品でした。

53 レッサー・ユリィ 「夜のポツダム広場」 ★こちらで観られます
こちらが今回特に気に入った作品です。夜の街角が描かれ道を行く人々は傘を差し、路面は建物の灯りを反射しています。青く寒々しい色彩の中に煌めく光が何とも美しく幻想的で、足早に移動している人々の様子にも都会の情感が漂っていました。タッチは粗めで、やや縦に引き伸ばすような感じかな。あまりに良かったので帰りにこの作品だけポストカードを買いましたw

この近くにあったレッサー・ユリィの作品も良かったので、個展を開いて欲しいくらいですw


<特別展示「睡蓮:水の風景連作」>
階段を下った部屋は特別展示で、モネの睡蓮を比較しながら観られるという贅沢な空間となっていました。モネは連作による個展を画商のデュラン=リュエルと約束したものの、幾度も一方的に延期を通告し筆を加え続けました。画廊の一室で48点の睡蓮の連作による個展「睡蓮:水の風景連作」が開催されたのは1909年で、48点のうち21点が1907年に描かれ、その内の8点が対岸の木が影を落とす池の同一の視点から描かれています。残りの13点は縦長で、右にしだれ柳 左にポプラが影を落とし、中央を上から下まで空の光が蛇行する様子となっています。その3点がDIC川村記念美術館所蔵、和泉市久保惣記念美術館所蔵、イスラエル美術館所蔵で、ほぼ同じ構図の東京富士美術館所蔵の睡蓮もあります。

クロード・モネ 「睡蓮」 (DIC川村記念美術館所蔵)
クロード・モネ 「睡蓮」 (和泉市久保惣記念美術館所蔵)
クロード・モネ 「睡蓮」 (東京富士美術館所蔵)
いずれも似た構図で甲乙つけがたい作品ではありますが、川村のはやや青っぽくて色が淡く、赤や青の花が咲いています。和泉市のは光が赤っぽくて周りは暗めで陰影が深めに見えました。こうして比較すると時期や時間帯の違いなども感じられて作者の意図が伝わってくるようですね。


<IV 人物と静物>
最後は人物と静物のコーナーです。

54 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「レストランゲの肖像」 ★こちらで観られます
こちらは何かに右手を置いて微笑む男性の肖像です。優しい顔つきで血色が良く、幸せそうな雰囲気がにじみ出ています。背景と体は緑や赤が縦長のタッチで混じり合うように描かれ、右手の辺りはぼんやりとしていて背景に同化しそうなほどですが、顔の辺りは背景が暗くなって表情まで繊細に描かれていました。まるで幸せなオーラが出てるようにも見えるw 解説によるとこの人は結婚の際に証人になってくれた親しい友人なのだとか。

この隣にはドレスの女性を描いたルノワールの作品がありました。割とくっきりとしていて1880年代後半の作品なので古典回帰していた頃のアングル様式かな
 参考記事:《ピエール=オーギュスト・ルノワール》 作者別紹介

68 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「花瓶に活けられた薔薇」 ★こちらで観られます
こちらは青っぽい背景にピンクの薔薇が花瓶に活けられている様子が描かれた作品です。背景が静かに燃え立つような感じで、薔薇の赤さを引き立てています。明るい色彩なのに穏やかで、生命力や優しさを感じるのはルノワールならではの魅力だと思います。

この隣にはかなり写実的なルノワールの静物もありました。キャプションの年代不明だけど初期じゃないかな。

64 レッサー・ユリィ 「赤い絨毯」
室内で椅子に座る後ろ姿の黒い服の女性を描いた作品で、布を膝に手繰り寄せて縫い物をしているようです。上部には窓があって向かいの建物が見え、床は赤い絨毯で黒い服が引き立って見えます。すらりとした女性のシルエットが美しく、これまた私の好みでした。今回の展示にあったレッサー・ユリィの作品は全部良いw 解説によると、レッサー・ユリィの母は夫を早くに亡くして小さなリネン店を開いて息子たちを養ったそうで、ユリィにとって裁縫は日常の光景で頻繁に描いたモチーフだったようです。

59 エドゥアール・ヴュイヤール 「長椅子に座るミシア」 ★こちらで観られます
長椅子に座って寛ぐ女性を描いた作品で、ソファに肘をついてタバコを持ってるのかな?? 左手は新聞を広げてじっと読んでいるようです。花柄のソファや壁紙、ドレスなど装飾的な雰囲気となっていて、親密で静かな雰囲気となっていました。解説によると、この女性は友人のピアニストなのだとか。

63 ピエール・ボナール 「食堂」 ★こちらで観られます
テーブルごしの女性を描いた作品で、脇にいる犬の方を向いて世話をしているのかな。犬も大人しそうで可愛らしく顔を出しています。この女性は妻のマルトで、柔らかい色彩でややぼんやりした描写となっています。平坦な感じだけどテーブルの果実は陰影がついて立体的に見えるのが妙な感じだけど面白い。こちらも幸せそうな日常の光景となっていました。


ということで、素晴らしい作品ばかりでした。巨匠の作品だけでなくレッサー・ユリィという画家を知ることができたのが大きな収穫でした。会期は2022年の1月までとなっていますが、会期末が迫ると混雑も予想されますので気になる方はお早めに足を運ぶことをオススメします。

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Comment
素敵な投稿ありがとうございます
こんにちは。
先日等展示にお邪魔させていただいて、余韻に浸ろうと色々調べていたところこのような素敵なブログに出会うことが出来ました。
多くの作品についての投稿者様の印象を読み、「そんな解釈もあるんだ」などと楽しく余韻に浸っております。
これを機に別の投稿も読ませていただきたく思います。頑張ってください!
Re: 素敵な投稿ありがとうございます
ゆーきさん
コメントありがとうございます。この展示は巨匠の作品も多くて見応えがありましたね
レッサー・ユリィを知ることが出来たのは大きな収穫でした。
色々と回っておりますので、また別の展示も読んで頂けると嬉しいです^^
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■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
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  → 関東 > 絵画

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