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川瀬巴水 旅と郷愁の風景 【SOMPO美術館】

前回ご紹介したリニューアルされたSOMPO美術館で「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」を観てきました。この展示は2期に分かれていて、私が観たのは前期の内容となっています(この記事を書いた時点で後期となっています)

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【展覧名】
 川瀬巴水 旅と郷愁の風景

【公式サイト】
 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/kawasehasui/

【会場】SOMPO美術館
【最寄】新宿駅

【会期】
 前期:2021年10月02日(土)~11月14日(日)
 後期:2021年11月17日(水)~12月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
日時指定入場制の展示であったので、混雑感はそれほどなく概ね自分のペースで観ることができました。後半は撮影可能なところがあったので、そこだけ若干混んでる感があったかな。

さて、この展示は大正から昭和にかけて活躍した版画家の川瀬巴水の大規模な回顧展となっています。前期・後期合わせて270点程度というボリュームで、時系列順に主要な作品が並ぶという決定版のような内容です。今回はあまりメモを取らずじっくりと楽しんできたのですが、定番の作品から観たことがないものまで幅広く、巴水が好きな私も大満足で楽しみにしていた甲斐がありました。解説のメモはありませんが、川瀬巴水については以前にもご紹介したので詳しくは下記の記事を参照頂ければと思います。展示は5階から3階へと下っていくようになっていて、3階だけ撮影可能となっていました。今回はその写真を中心にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  《川瀬巴水》 作者別紹介
  馬込時代の川瀬巴水 (大田区立郷土博物館)


<第1章 版画家・巴水、ふるさと東京と旅みやげ(関東大震災前)>
まずは巴水が版画家になることのコーナーです。ここには初期の「塩原三部作」や「旅みやげ第一集」「東京十二題」「東京十二ヶ月」「三菱深川別邸の図(前期のみ)」といった1918~1922年頃の作品が並びます。後期には「旅みやげ第二集」「日本風景選集」が出品されているので、前期後期の2回行っても楽しめそうです。 1918年(大正7年)に鏑木清方の弟子で同門の伊東深水の連作版画「近江八景」を観て感激して版画制作の道に入ったので、版画時代からは初期から揃っている感じかな。特に「東京十二題」は何度観ても素晴らしい作品ばかりで、いきなり見どころとなっています。(先述の記事に写真を載せております)


<第2章 「旅情詩人」巴水、名声の確立とスランプ(関東大震災後~戦中)>
続いての2章は1923年の関東大震災の後の時代の作品が並ぶコーナーです。関東大震災で家が全焼して写生帖も失ってしまいますが、版元の渡邊庄三郎は巴水を新しい作品のために旅へと送り出し、その旅行で描いた写生帖をもとに「旅みやげ第三集」が作られます。また、1926年に現在の大田区に引っ越しました。ここで震災後の傑作「東京二十景」を描き、人気を不動のものにするのですがマンネリが指摘されてスランプに陥ります。
ここには先述の「旅みやげ第三集」「東京二十景」の他に「東海道風景選集(前期のみ)」「日本風景集 東日本篇(前期のみ)」「日本風景集Ⅱ 関西篇」「新東京百景」「元箱根見南山荘風景集」などのシリーズがが並びます。確かに月夜や水面を描いた作品が多くてマンネリと言われる部分があるかもしれませんが、叙情的で面白い構図が多いので飽きるってことはないような…。この章の最後の辺りから撮影可能だったのでここから写真を使ってまいります。

川瀬巴水 「築地本願寺之夕月『新東京百景』より」
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こちらは現存する築地本願寺を描いたもの。写真が隣にあって比べるとかなり写実的ではあるものの、写真よりも静かで神秘的な感じに見えます。巴水は月夜が大好きなのは否めないw

川瀬巴水 「つつじ庭に遊ぶ二美人 『元箱根見南山荘風景集』より」
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こちらは岩崎小彌太に依頼されて描いた箱根の岩崎小彌太男爵別邸(現在は「山のホテル」)です。満開のツツジや富士山など華やかなモチーフが多く、気品が感じられます。これはちょっと巴水の中でも毛色が違うように思えるんですけどね。
 参考記事:山のホテルと箱根神社の写真 (箱根編)


<第3章 巴水、新境地を開拓、円熟期へ(戦中~戦後)>
最後は1930年代半ばから亡くなる1957年までのコーナーです。スランプを打破すべく朝鮮旅行した頃からの作品が並びます。

川瀬巴水 「白羊寺雙渓楼 『『朝鮮八景』より」
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日本と似ているようでちょっと違う異国情緒があるシリーズとなっています。夕日の当たる感じが特に美しい。

巴水は山川秀峰から朝鮮鉄道局の招きで旅行するので同行しないかと持ちかけられ、行き詰まりを感じていた1939年6月から1ヶ月程度の朝鮮旅行をしました。このシリーズがきっかけで震災後の精緻と描写に震災前の大胆な構図が合わさって円熟期へと入っていきます。

川瀬巴水 「京城慶会楼 『朝鮮八景』より」
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雪景色も巴水が大好きなテーマですw 朝鮮の光景だけど、どこか郷愁を感じるのは巴水の感性の賜物でしょうか。

川瀬巴水 「平壌之春(牡丹台浮碧楼) 『朝鮮八景』より」
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現在の北朝鮮の風景かな。のんびりと風景を楽しんでいる人たちが長閑な印象です。華やかで温かみがあって好み。

こちらは戦後の1952年の「野火止平林寺」の完成までの工程を紹介するために摺りの過程を10回に分けて記録したセット。
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10回も摺るの?って感じですが、実際には30回も摺りますw 工程が見て取れるので非常に分かりやすくて参考になります。これを作ったのは文部省による文化財保存の一環として伝統的な木版画の技術を記録するためで、美人画は伊東深水、風景画は川瀬巴水が選ばれました。

川瀬巴水 「野火止平林寺」
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こちらが完成品。版画とは思えないほどの巧みな色彩表現となっています。確かにこれは30回摺ってるのも納得かなw

こちらは同じく1952年に摺りあがりを確認する巴水(右)と摺師の斧銀太郎
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厳しい表情で観てるんで問い詰めてるみたいに見えるw 摺り上がりはクオリティに大きく影響するだけに作者のチェックも重要なんでしょうね。

こちらは巴水が使っていた印章
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中央の「川瀬印」はほとんどの巴水作品に押印されたそうです。確かに小さく入っている印に見覚えがありました。

川瀬巴水 「江の島 (1953・昭和28年カレンダーの8月)」
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こちらはパシフィック・トランスポート・ライン社注目制作作品のカレンダーからの1枚。夜の静かな海に灯りが反射して旅情を誘われます。左側の障子越しに見えるのが旅館からの光景っぽいですね。

川瀬巴水 「十和田湖の秋 (1953・昭和28年カレンダーの11月)」
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こちらもカレンダーからの1枚。以前に比べると色が明るくなったようにも思えますが、水面を行く帆船というのも巴水が愛した光景ですね。

川瀬巴水 「増上寺之雪」
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こちらは先述の文部省の依頼で作った製作工程の記録に使われた作品。モデルは巴水、奥さん、養女の3人なんだとか。これは42回も摺りを重ねているという恐るべき超絶技巧です。

川瀬巴水 「吉田の雪晴」
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こちらは終戦間際の1944年の作品。堂々たる富士山と雪景色が冬の寒さと清らかさを感じさせます。澄んだ空気まで伝わってきますね。

川瀬巴水 「上州法師温泉」
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こちらは1933年の作品(この辺は時系列がおかしい) 湯船に浸かってるのは巴水自身で、大きな風呂を真っ昼間から独占して手を広げて非常にリラックスした感じが出てますw これも旅情をかきたてますねえ。

川瀬巴水 「写生帖第40号 法師温泉寿の湯」
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こちらは先程の作品の元になったと思われるスケッチ。比べて観られるのが面白い。入浴の図解までしっかり描かれているのがさすがだけど、ちょっと微笑ましいw

今回はスティーブ・ジョブズが巴水を愛したということも取り上げていました。ってこれは新版画ではあるけど橋口五葉やないかw
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左の真ん中のモニタに写ってるのが橋口五葉の作品です。ジョブズは10代の頃に親友の家で巴水の作品を目にしていたようで、80年代から実際に新版画(特に巴水)を集めるようになりました。新版画の話をしているときに吉田博も良いよねって言ったら、ジョブズは巴水がナンバーワンだと言っていたほど心酔していたのだとか。それなら↑で巴水の絵を使ってほしかったようなw 

戦後、進駐軍が来たときにアメリカ人に川瀬巴水の作品は特に好まれたようで、その辺は吉田博と似た状況ですね。

川瀬巴水 「冨士之雪晴(忍野附近)」
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最後の辺りは富士山多めとなっていました。写真のように正確でありつつ、心に響く郷愁があるのが巴水の魅力です。

川瀬巴水 「法隆寺西里」
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こちらは資料として並んでいた最晩年の頃(1956)の作品。割と平坦で色の対比が巴水にしては強く感じられます。こういう作品もあったのは意外でした。


ということで、巴水の魅力を十二分に楽しめる内容で非常に満足できました。おかげで また巴水の図録を買ってしまった…w 会期が残り少なく、予約制となっていますので気になる方はすぐにでもどうぞ。今期オススメの展示です。
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