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鈴木其一・夏秋渓流図屏風 【根津美術館】

前回ご紹介した根津美術館の庭園散策の後、「重要文化財指定記念特別展 鈴木其一・夏秋渓流図屏風」を観てきました。

DSC08803.jpg

【展覧名】
 重要文化財指定記念特別展 鈴木其一・夏秋渓流図屏風

【公式サイト】
 https://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

【会場】根津美術館
【最寄】表参道駅

【会期】2021年11月3日(水・祝)~12月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
日時指定予約制のため、混むこともなく快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は江戸琳派の鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」が2020年に重要文化財となったことを記念し紅葉のこの時期に行われたもので、其一の作品のみならずそのルーツとなる酒井抱一や琳派以外の作品も含めて「夏秋渓流図屏風」に繋がっていく様子を紹介する内容となっています。展示は大きく分けて3つの章から成っていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。


<序章 檜の小径を抜けて>
まず序章は今回の「夏秋渓流図屏風」にも出てくるヒノキをテーマにした日本画のコーナーです。ここには師の酒井抱一の作品以外に狩野派の作品なども並んでいました。

2 山本光一 「檜に白鷺図」
こちらは掛け軸で、其一の師匠の酒井抱一の弟子(其一の兄弟弟子)の作品で、山本光一は儒学者の山本素堂の長男です。抱一が描いた作品と同じ構図で描いたようで、右側で真っ直ぐ伸びるヒノキと、その上の方の枝に止まって じっと下を伺う白鷺が描かれています。滲みを活かす たらし込みの技法など琳派っぽい雰囲気があり、抱一からの継承ぶりが伺えました。
この隣にはほぼ同じ構図の狩野常信の「檜に白鷺図」もありました。琳派と狩野派が同じ構図ってのが興味深い。

3 谷文晁 「檜蔭鳴蝉図」
こちらも掛け軸で、中央に真っ直ぐ伸びるヒノキが描かれています。ちょうど幹の中間の右側にセミが止まっているので夏の様子かな。全体的に静かで、幾何学的な動きを見せる枝を組み合わせたのは谷文晁が交友のあった抱一の画風を取り入れたとのことでした。

4 酒井抱一 「雪中檜に小禽図」
こちらは十二ヶ月花鳥図の12月に該当すると思われる掛け軸です。雪の積もったヒノキが左側に真っ直ぐ伸び、下の方にはヤブコウジの赤い実や黄鶺鴒が餌を探す様子が描かれています。柔らかく滲みを使った色彩で、雪は薄く重ねて表現するなど冬の風情が溢れていました。


<第1章 「夏秋渓流図屏風」誕生への道行き>
続いては大型の屏風が並ぶコーナーです。ここには今回の目玉作品と、それに類する作品などが並んでいました。

7 酒井抱一 「青楓朱楓図屏風」
こちらは酒井抱一が著した光琳百図に掲載された六曲一双の屏風で、実際に尾形光琳の作品を実見して写したと考えられます。金地を背景に右隻は青葉の楓、左隻は紅葉した楓が描かれ、群青の川の波も金で表しているなど強い色彩とデザイン化されたデフォルメの優美さが見事です。右隻はうねり、左隻は比較的まっすぐに伸びる幹なども対比的なのは光琳が得意とした構成かな。これは特に見どころになる作品でした。

8 鈴木其一 「三十六歌仙・檜図屏風」
こちらも光琳百図に載っている金地の屏風で、右隻に三十六歌仙、左隻が檜図となっています。三十六歌仙は人の配置が流れるようなリズムで、表情やポーズも多様なのが流麗な印象です。檜図は枝葉が文様風にモノクロの墨絵で描かれているのが面白く、細かい描写でリズミカルな感じかな。くねくね曲がって軽やかに見えるけど色は静かな雰囲気でした。

この近くには酒井抱一の『光琳百図』がありました。版木が二度も火事で消失しましたが、その度に其一が復刻したようです。琳派の顕彰にも活躍したんですね。

11 円山応挙 「保津川図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは応挙が亡くなった年に描いた生涯最後の大画面作品で、八曲一双の屏風となっています。左右の滝が中央で集まっていく様子が描かれ、写実的ではあるけど線で描いているのでデフォルメっぽくも見えます。白い流れがダイナミックで、水の勢いがつぶさに表現されていました。この中央で川が合わさるのが鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」と共通しているようです。

5 鈴木其一 「夏秋渓流図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは今回の目玉作品で、渓流とその周りの檜の林が描かれています。右隻はクマザサやヤマユリが咲く夏で、左隻は桜の葉っぱが赤く色づく秋となっています。草木の緑も川の青も非常に深い色で、平面的にも思えるかな。川の飛沫を金の線で描くところは抱一に似ているように思いますが、琳派と中国っぽい画風が混じったようにも見えます。真っ直ぐな檜が並ぶ様子がリズムを生んでいて、構成も見応えがありました。


<第2章 其一の多彩な画業に分け入る>
最後の章は其一の多彩な作品を紹介するコーナーで、10点くらい並んでいました。

23 鈴木其一 「菊図」
こちらは掛け軸で、上から白菊、黄菊、赤菊と言った感じで並んでいます。咲いている向きが様々で、色や形の違いを楽しむ意図があるのかな。解説によると謡曲の「菊慈童」のイメージを重ねているとのことでした。これを観ると師の抱一の画風を忠実に学んでいる様子が伺えます。

25 鈴木其一 「昇龍図」
こちらは墨の濃淡で描かれた水墨の掛け軸です。上に登っていく龍が描かれ、体をにじり黒い雲のようなものをまとっていて、それが影かオーラのようにも見えます。鋭い爪や鱗などかなり細かくて勢いと動きがあるものの、顔はちょっと可愛いのが面白かったです。

34 鈴木其一 「秋草・波に月図屏風」
こちらは二曲一双の横長の小屏風で、裏表の両面が観られるような展示方法となっていました。表には秋の七草が描かれ、たらし込みを使った葉っぱや群青の朝顔など琳派らしいモチーフとなっています。裏面にはうねる波間に浮かぶ満月がぼんやり浮かぶ様子が描かれていて、表の七草が影のように浮かんで見えます。再び表に戻ってみると葛の花辺りにうっすらと裏側の月が浮かんでいるのですが、かなり一生懸命観ないと分からない(見えると思ってじっくり観ていると何となく分かるw) 感じでした。

35 鈴木其一 「群鶴図屏風」
こちらは群青に金箔の帯を配した抽象的な地を背景に、丹頂鶴と真鶴が飛び交う様子が描かれた作品。左右に飛び交っていてターンしているやつなんかもいます。デザイン化されているようにも思え、群れていてもごちゃついた感じはなく華やかさがありました。


ということで、其一だけでなくその周辺の巨匠の作品なども観られて満足しました。何より、コロナ禍で屏風を観る機会が無かったので久々にその大きさと迫力に圧倒されましたw もうすぐ会期末となりますが、オススメの展示です。
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