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ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ 【パナソニック汐留美術館】

先週の日曜日に新橋のパナソニック汐留美術館で「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」を観てきました。

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【展覧名】
 ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/21/211009/index.html

【会場】パナソニック汐留美術館
【最寄】新橋駅

【会期】2021年10月9日(土)~12月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
日時指定予約ではありますが、通路の狭いところもあって若干の混雑感もありました。

さて、この展示はジャポニスムとアール・ヌーヴォーをテーマに、ハンガリーのブダペスト国立工芸美術館のコレクションを紹介するもので、ジョルナイ陶磁器製作所などハンガリーを代表する作品も含め200点もの陶磁器や工芸品などが並ぶものとなっています。構成はテーマごとに5つの章(3章は4つの項)に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1章 自然への回帰 - 歴史主義からジャポニスムへ>
まずはジャポニスムがデザインに反映された頃のコーナーです。ジャポニスムは1862年のロンドン万国博覧会と1867年のパリ万国博覧会で日本の美術品・工芸品が紹介されたことで広まりました。ヨーロッパの人々に衝撃をもって迎えられ、現地でも日本趣味に基づくデザインの制作が行われるようになりました。ここにはそうした初期段階のジャポニスム作品が並んでいました。

13 ジョゼフ=テオドール・デック 「花鳥文花器」
こちらは両脇に唐獅子みたいなものが付いている花器です。鮮やかな黄色地に赤い花と青い鳥、内側は爽やかな空色をしています。日本というよりは中国っぽい色彩だけど花鳥は日本っぽいかな。まだ日本の理解がそれほど進んでいないようにも思えました。

2 マルク=ルイ・ソロン(?) 「尾長猿文飾壺」
こちらは青地に木で身を伏せるオナガザルが白で描かれた壺です。周りには華籠のような文様があったりして、見た目は日本のデザインのように思えます。これはよく研究している感じがあるかな。

8 図案デザイン:ユーリア・ジョルナイ 「ブラシ用装飾陶板」
こちらはまるで日本の鼈甲の櫛のような装飾陶板で、赤地に花や蝶の文様を象っています。流れるような配置が何とも優美で、解説によるとこれは1852年に創業のハンガリーの陶器製作所が作ったものらしく万博で名声を博したようです。確かにこれは完成度の高さが目を引きました。


<2章 日本工芸を源泉として - 触感的なかたちと表面>
続いては陶器のコーナーです。西洋は完璧な仕上がりとなる釉薬や顔料が評価されていましたが、東洋では予期せぬ偶発性が自由な創作の余地を残しています。こうした東洋の陶磁器の影響を受けて、西洋でも色や斑紋の組み合わせや光などを実験して作り上げて行きました。ここにはその成果を伺える作品が並んでいました。

27 ロールストランド磁器製造所 「黄釉花器」
こちらはオレンジ色の徳利みたいな花器で、側面のオレンジが微妙に色合いが違って揺らめくように見えます、その炎のような温かみと色彩が非常に美しく感じられました。

30 イエネー・ファルカシュハージ=フィッシェル 「茶粉釉六角形花」
こちらは六角形の胴に丸い首の花器で、側面は焦げ茶で上は明るい茶色となっています。所々にムラがあるのが渋い味わいで、まるで日本の茶器のような風格です。これはヘレンド製陶所ようですが、日本の美意識を感じられました。

この辺には形は西洋風だけど日本の陶磁器のような色合いの品がいくつかありました。

41 テプリツェ=ツルノヴァニ製陶所 「ラスター結晶釉花器」
こちらは捻りを加えたような有機的な形の器で、全体的に光沢のあるラスター彩(中東の金属的な質感の陶器)となっています。玉虫色で鈍い輝きが美しく、これを再現できる技術の高さが伺えました。


<3章 アール・ヌーヴォーの精華 - ジャポニスムを源流として‒ ① 花>
続いてはジャポニスムから生まれたアール・ヌーヴォーの品々が並ぶコーナーです。ここは更に細かく分かれていて、まずは花をモチーフにした作品が並んでいました。

60 デザイン:アルゴット・エリクソン 「オモダカ文花器」
こちらは水滴のような形の花器で、側面には白いオモダカの花が描かれています。全体的に淡い緑で、その色合いが柔らかいグラデーションになっていて、繊細かつ可憐な印象でした。

59 「朝顔文花器」
こちらは円筒形の大きな花瓶の側面に淡い色彩で朝顔が描かれています。写実的ではあるものの、ちょっと「たらしこみ」」のような滲みもあって、モチーフ的にも琳派を想起させました。これもかなり好みです。

67 ジョルナイ陶磁器製造所 「葡萄新芽文花器」
こちらは太く大きくて中央にやや膨らみのある胴の花器で、側面には金属的なエオシン彩というラスター彩に似た玉虫色の釉薬が使われています。そこに真っ赤なブドウの葉っぱが表され、どぎつい位の赤さに驚くと共にその迫力が目を引きました。中々のインパクトです。

この辺には「樹枝文デザート皿」という平皿のシリーズがあり、様々な花や草を円形にデフォルメして配しているのが非常に優美でした。

74 エミール・ガレ 「イヌサフラン文高脚杯」
こちらはアール・ヌーヴォーの中でも特に名高いガレによるもので、花のような形に見える杯です。オレンジ色になっていて、足の部分は螺旋状の文様が施されています。もはや絵付けだけでなく形状までも花鳥のデザインを取り入れて、一層にデザイン性に磨きがかかっているのが伺えました。

この辺には他にもガレの作品がありました。


<3章 アール・ヌーヴォーの精華 - ジャポニスムを源流として‒ ② 表面の輝き>
続いては表面の輝きがテーマのコーナーです。日本の蒔絵や中東のラスター彩に影響を受けた金属的な質感の作品が並んでいました。

86 ルイス・カンフォート・ティファニー 「花器」
こちらは小さい小瓶で、側面は深い臙脂色のような黄色のような緑色のような混じり合った色となっています。その不可思議な色合いながらも気品があり、格調高い雰囲気となっていました。

92 ルイス・カンフォート・ティファニー 「変色ラスター彩飾瓶」
こちらは大きめの瓶で、緑っぽい金属的な光を放っています。しかし所々にピンク~紫に見えるところもあり、光の当たり具合で赤にも見えてかな。その名の通り見方によって変色するするのが美しい品でした。

これだけ金属的な作品を多く観るのは中々無いので、ブダペスト国立工芸美術館のコレクションの特徴なのかも?と思いながら観ていました。


<3章 アール・ヌーヴォーの精華 - ジャポニスムを源流として‒ ③ 伝統的な装飾モチーフ>
続いては日本の葉っぱや花といった植物文様を受け継いだデザインのコーナーです。

95 ジョルナイ陶磁器製造所 「花煙帯文花器」
こちらは金属的な表面に波や花のような文様がかなり細かく描かれています。流麗で驚くほど緻密で、自然をよく観察しているのも伺えました。

この辺は割とパターン化されたデザインがあるように思えました。


<3章 アール・ヌーヴォーの精華 - ジャポニスムを源流として‒ ④ 鳥と動物>
続いては浮世絵や根付から着想を得た鳥・動物がモチーフの作品のコーナーです。

124 ルイス・カンフォート・ティファニー 「孔雀文花器」 ★こちらで観られます
こちらはコバルトブルーのガラス器で、金属的な輝きの孔雀の羽根の文様がついています。金属的と言っても静かで落ち着きや気品が感じる色合いとなっていて、燃え立つような羽の文様と相まって まさに名品中の名品となっていました。

112 エミール・ガレ 「蜻蛉文花器」
こちらはトンボが上から下へと飛んでいる様子が大きく描かれた花器です。紫がかった地に青で蓮の花が咲いている様子なども表されています。トンボは武士のシンボルでもあるので、ガレは特に好んでモチーフに用いましたが、この作品にもそのこだわりぶりが発揮されていました。

129 デザイン:アルマリック・ワルター 「ツグミ」
こちらはツグミがちょこんと木に止まっている姿を青いガラスで表した作品です。じっと様子を伺っているようで、可愛らしくも凛々しい雰囲気となっていました。用途は分からないけどこれ欲しいw

133 「ヨークシャー豚像」
こちらは真っ赤な中国の牛血紅を思わせる釉薬が全身に塗られた豚の像です。やや身を捻っていて動きが感じられます。解説によると19世紀末のヨーロッパでは赤色の釉薬の研究が流行したとのことで、これは特に鮮やかな赤色となっていました。

136 シャーンドル・アパーティ・アブト 「狩りをする雌ライオン像」
こちらはモスグリーンのエオシン彩の金属的な輝きを放つメスのライオン像です、2頭並んで獲物を狙っているようで、滑らかな筋肉がしなる感じが優美で、同時に緊張感がありました。


<4章 建築の中の装飾陶板 -1900年パリ万博のビゴ・パビリオン>
続いては装飾陶板のコーナーです。1900年のパリ万国博覧会で、建築家のジュール・ラヴィロットが設計し建設された「ビゴ・パビリオン」はグランプリを受賞しました。その装飾陶板をブダペスト国立工芸美術館の館長が買い上げてコレクションになったようで、ここにはその一部が並んでいました。

139 デザイン:ピエール・ロシュ 「自転車に乗る人物図フリーズタイル(ビゴ・パビリオンの一部)」
こちらは自転車に乗って前傾姿勢をした人物が表されたタイルです。同じデザインが3つ並んで連続するようになっていて、焼き上がりの違いなどで微妙に違って見えるのが面白い。他にも同様の発想の「鬼ごっこ」という作品(こっちは鬼ごっこには見えないけどw)もあり、デザインセンスが感じられました。

この辺には当時の会場の写真などもありました。

140 デザイン:ピエール・ロシュ 「渦の中を泳ぐ女性図フリーズ装飾陶版(ビゴ・パビリオンの一部)」
こちらは陶器というか彫刻のような装飾陶板です。裸婦が泳ぐようなデザインで、流麗な印象を受けます。これは確かに一時的な建物として壊すにはもったいなさすぎるw


<5章 もうひとつのアール・ヌーヴォー - ユーゲントシュティール>
続いてはドイツ語圏でのアール・ヌーヴォーについてのコーナーです。ドイツ語圏では特に幾何学的な側面のアール・ヌーヴォーが流行し、ユーゲント・シュティール(青春様式)と呼ばれました。

149 「植物文花器」 ★こちらで観られます
こちらは乳白色の肌の陶器の側面に、花が孔雀の羽根のように規則的に並んで表されています。繊細で整ったデザインとなっていで、曲線も多用されているものの素地を生かした幾何学性やパターン性が美しく感じられました。

156 「洋蘭文ティーセット」
こちらは蓋付ティーポット、蓋付砂糖壺、生クリーム入れ、 ティーカップ、受け皿から成るティーセットです。白地に紫の蘭の花が描かれた文様が共通して使われているのですが、飽きのこないパターンで一見すると別々の絵柄に思えるような感じです。統一感がありつつ多様に思えるって相反した感覚を受けたのが面白い。


<6章 アール・デコとジャポニスム>
最後はアール・ヌーヴォーの次の時代のアール・デコのコーナーです。ここは点数少なめ。

158 ルネ・ラリック 「ナーイアス図飾皿」
こちらは円形のオパルセントグラス(乳白色のオパールのようなガラス)の中央に髪をかきあげる裸婦が表された皿です。これはギリシア神話に登場する妖精のナイアスで、髪は水流と一体化するようなデザインとなっています。割と見慣れた作品ではありますが、やはりラリックのデザインは普遍的なものがあるので何度観ても美しく感じられますね。

163 ドーム兄弟 「多層間金箔封入小鉢」 ★こちらで観られます
こちらは茶碗のような小鉢で、側面に金箔や緑の帯状の部分があります。まるで日本の椀や蒔絵のようでありつつ抽象絵画のような趣きもあり、色彩感覚や不規則な文様が日本人の好みそのものでした。これは特に名品だと思います。


ということで、レベルの高いコレクションを観ることが出来ました。ジャポニスムをテーマにしているので日本人の琴線に触れる作品も多いのではないかと思います。この記事を書いている時点で最終日となってしまいましたが、工芸好きの方は要チェックの展示だと思います。
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