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旧古河庭園 内部見学

前回の外装写真の記事に引き続き、旧古河庭園についてです。今日は内部観覧で見聞きしたことをご紹介します。

DSC_9059.jpg


まずはおさらいです。
前回の記事:旧古河庭園 外観の写真

【公式サイト】
 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index034.html

【施設名】旧古河庭園
【最寄】JR京浜東北線 上中里駅/東京メトロ 南北線 西ヶ原駅/JR山手線 駒込駅



 ※営業時間・休館日などは公式サイトでご確認下さい。


【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 庭園 0時間30分程度 + 内部見学 1時間00分程度
  ※内部見学は時期によってハガキによる事前予約が必要となります。


内部観覧は冬と夏は空いていて、特に平日の昼間は人が少ないようですが、バラの時期はハガキでの応募で定員になってしまうそうです。今回、私は運良く応募なしの先着順の申し込みで入ることができました。内部は写真NGですので、すべて文字説明となります。わかりづらかったり間違っていたらすみません。

まずは食堂らしきところで少し待った後、玄関先のホールで建物の概要を聞きました。

<概要>
この建物は大正6年に古河財閥の3代目である古河虎之助男爵(当時30歳くらい)がジョサイア・コンドルの設計で建てたものです。(古河財閥は足尾銅山などで財を成した財閥だそうです。) 古河虎之助は約9年ほどこの邸宅で生活しましたが、牛込に引越した後は古河財閥の迎賓館として使われていました。 その後、太平洋戦争の後に進駐軍に接収され比較的高い身分の将校達に使われた後、30年ほど無人の時期がありました。 この30年の間に屋敷は荒れ放題に荒れて、近所からはお化け屋敷とまで言われるようになりましたが、ジョサイア・コンドルの集大成とも言えるこの建物の価値は高く、1982年から7年かけて修復され、その後一般公開されるに至っています。

と、こんな感じです。玄関には家紋がありました。また、シャンデリアとガラスも当時のものがそのまま使われている(一部はスペアや現代のもの)という説明もありました。雰囲気としては同じジョサイア・コンドルの建物である岩崎邸に近からずとも遠からずという感じかな。むしろ庭園美術館の2Fとかに似た雰囲気かも。

さて、玄関ホールで概要で聞いた後は実際に部屋を周りながらの説明となりました。

<ビリヤード室>
玄関から左手に入ったビリヤードをするための部屋です。今はビリヤード台はありませんが、台の足を置く8つの場所に大理石が置かれていました。 この大理石は床の下にレンガを積み上げてあるらしく、重さで沈み込んでビリヤード台が傾くことがないように設計されているそうです。また、壁紙や床には緑色が使われ、ビリヤード台の色と呼応するようになっているのだとか。 ちなみに現代のビリヤード台は6本脚らしいです。2本多い分重かったのかな。

<サンルーム>
前回の写真で写っていた内部です。書斎からもビリヤード室からも来られるようになっていました。

<書斎>
楢材でできた立派な書棚がある部屋です。ドアと扉には全く釘が使われず、木を組み合わせて作られた驚異の職人技が見られます。 また、この部屋だけではありませんが、マントルピース(暖炉)の高い位置に鏡があるのですが、これは部屋全体を写すことでより広い部屋に見せるための工夫なのだとか。

<応接室>
書斎の隣の部屋です。 ここは喫茶店もやっている部屋で、ここだけは内部観覧ツアーじゃなくても入れるようです。ここのシャンデリアは天井に光を反射していて、まるで雪の結晶のような模様を天井に映し出していました。 また、青いバラの壁紙は「袋張り」という日本の襖の技法を用いて張られているそうです。コンドルは日本の技法を取り入れて設計していたようで、日本好きの彼ならではと言った感じです。コンドルは河鍋暁斎に弟子入りして日本画を学んだことなども解説されていました。

<小食堂・ダイニングルーム>
最初に待たされた部屋と、その隣の40畳くらいある大きなダイニングルームです。天井には見事なフルーツの彫刻が施されています。これは職人が3ヶ月かけて彫ったもので、その間ずっと上を向きながら彫り続けたようです。相当キツイ作業だったと想像できますが、細かい表現力に驚きます。
また、この部屋では最大20人くらいの晩餐会などが開かれたようですが、テーブルの端から端まで結構な距離があるので、話し声が届かないという事態になることを最初から想定していたようです。壁には立った時の頭の高さまで楢材が張られ、部屋の音がよく響くようになっています。(この音響効果を利用して時には音楽コンサートも開かれるようです。) さらに、楢材の壁を見ていると、壁板1枚分の正方形の穴が空いていることに気づきます。 これは隣の部屋と繋がっている配膳用の穴で、ここを通して食事を部屋に運びます。(調理室はにおいや音がこの部屋に届かないように離れた場所にあります) そしてここで驚くのが、その穴でわかる壁の厚さです。隣の部屋との壁の厚さが50cmくらいあります! どうやら他の部屋もこれくらい壁が厚いようで、関東大震災の際もこの建物は何も問題なかったそうです。
もう1つ気になっていたのがマントルピースの浮き彫りの彫刻で、これは沈んでみえる方を削って彫刻を浮き上がらせているという説明を受けました。 かなり深いところで真っ平らになっているのはひたすら平坦に彫ったためだとか。昔の職人の極みっぷりは尋常じゃないですw

以上で1階は終了。次にこの建物の特徴である2階へ移動します。ここで館内で唯一触ることのできる階段の手すりに触って、当時からの楢材の感触を確かめてきました。…硬いw
2階にあがると広々とした廊下があり、洋風のドアが並んでいます。しかし、この洋風のドアからは想像できない部屋が中にあります。

<仏間>
階段から一番近いドアを開けると、靴(館内はスリッパですけど)を脱ぐ1~2畳くらいの小さな玄関?のようになっていて、その奥に5畳の畳の控えの間、さらに奥に3畳の仏間があります。この小さなスペースを挟んで完全に和と洋が分かれていて、和洋折衷ではなく和と洋をあえて原色のまま残した感じになっているのが、この建物の特徴になっているようです。また、周りの壁には和紙に金箔・金砂子の壁紙を使い、障子で窓外の洋風の外観を隠していました。

<ゲストルーム>
こちらは洋室の寝室となります。外から観ると、ここにはバルコニーがあるように観えますが、ここから観るとバルコニーではなく屋根であることがわかります。 また、壁にはピンクのバラの壁紙が張られていました。さすがバラの名所ですね。

<本間・次の間>
洋室の隣には15畳の本間と12畳の次の間があります。和室には「真・行・草」という格式がありますが、ここは最も格式高い「真」の様式の部屋となっています。特徴としては屋久島の杉を使用した市松模様になっている壁板(縦の木目、横の木目で市松模様だったと記憶しています)や「長押(なげし)」と呼ばれる水平の板が3本あることが挙げられます。長押は天井のすぐ下、そのちょっと下、襖の上にありました。これが「真」で、「行」になると長押は2本になります。
 参考:長押のwiki
また筬欄間(おさらんま)という今では作れる職人もほとんどいない、細かい幾何学的な欄間も見所でした。
そして、この部屋の一番の特徴が奥にある襖です。この襖は実際には使われなかったようですが、その襖を開けると、小さなスペースを挟んで洋風のドアがあり、そこを開けると階段前の通路に出ることが出来ます。何故使いもしないのにこうしたドアがあるかというと、階段通路の正面奥が壁であると閉塞感がありますが、通路奥に扉があると通路が広く感じるためだそうです、 確かに、壁だと殺風景だし息詰まるかも!と現場で見ると腑に落ちるものがありました。

<家族の部屋>
ここも和室で、ここからは家族の居住スペースとなっています。 ここは「行」の格式を持った部屋で長押は2本となっています。家族に「行」の部屋を割り当てるのは日本的とのことですが、英国人であるジョサイア・コンドルがそこまで知っていたのには恐れ入ります。(日本人でも私は真・行・草の違いなんて知りませんでしたw) さらに言うと、ここは邸内でも日当たりが良い部屋で、それを家族に割り当てるのはイギリス人らしいとのことです。そうした解説を聞くと、この部屋はコンドルの生い立ちや人生までもが縮図になっているかのように思えました。
また、天井は少し低めで質素な日本人に向いたつくりとなっています。収納があるのも今までの客間と違っている点で、生活感を感じました。

<子供部屋>
家族の部屋の隣にある2つの6畳間です。この記事の冒頭の写真だと、真正面の中央の2Fあたりだと思います。部屋の中は殺風景で結構狭いw こんなに広い屋敷なのに子供部屋は6畳なのかと逆に驚きました。

<夫妻の寝室>
一番奥の邸内で最も眺めの良い部屋です。コンドルが考案した和洋調和の庭が一望できるようになっています。ここには夫妻の写真が飾ってあったのですが、若いのに威厳がある風貌の夫妻でした。ちなみに、奥さんは西郷隆盛の姪にあたる人なのだとか。

<おめしかえの部屋>
夫妻の部屋の奥にあるクローゼット的な着替え部屋。着替え部屋なのに10畳もありますw これまでの部屋は和と洋を分けた上で共生していましたが、ここだけは和洋折衷の様式で、基本的には洋室なのですが、畳ばりとなっています。というのも、奥さんが着物に着替えるときは畳の上でないと不都合だったようで、畳になったそうです。

<トイレと浴室>
最後に、階段脇のトイレと浴室にも入ることができました。お風呂は意外と狭くて、円形の深いお風呂でした。元々は楕円形の普通の深さのお風呂を設計していたみたいですが、家人が足を伸ばしてお風呂に入る風習に慣れず、日本式のお風呂を望んだようです。
なお、蛇口をひねるとお湯が出る仕組みだそうで、当時は珍しかったんじゃないかな。ボイラー室は地下にあって、お湯を汲み上げるようです。

<地下>
地下は見学コースになく入れませんが、金庫、食料室、ボイラー室などがあるそうです。

と、こんな感じで1時間のツアーでしたが相当濃い説明を受けることが出来ました。この記事に書けたのは半分くらいかなw また、案内してくださった館員さんの親切な受け答えも好印象でした。
館員さんの言葉を借りると、コンドルは日本で80件あまりの設計を行い、そのうち40件は富豪だそうですが、この古河邸は集大成といえる存在だそうです。近代洋風に和室を取り入れたのが最大の特徴であるとも言ってました。(確かに2Fは驚きがあります) 外観の写真も撮れたし、貴重な建築作品に触れることができて大満足でした。


最後にクイズです。古河氏は夫妻と子供の3人家族だったようですが、使用人は何人いたでしょうか? (答えは、追記に書いておきます。)

答え:50人程度!
 料理人、車夫、運転手、庭師、書生などなどで50人もいたそうです。富豪は桁が違いますねw
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Comment
質問ですが…
旧古河庭園文章だけでも素敵そうなところですね。[絵文字:e-75
そのうち行ってみたいです。
ありがとうございました。

二十年前以上ですが
ブリヂストンでマイヨールのテラコッタの
(女性の)首をみました。

いつまでも心に残っている作品です。
いつ行っても見れるのですか?
(調べてもよくわかりませんでした。
常設展だと思いましたが?)

ご存知だったらおしえてください。v-421

]
Re: 質問ですが…
> ブリヂストンでマイヨールのテラコッタの
> (女性の)首をみました。

こんばんは。ブリヂストンにはちょくちょく行きますが心当たりがないですね。(気づいていないだけかもしれませんが) マイヨールは階段のところにブロンズの作品がある(男が裸婦に襲い掛かるようなやつ)のは思い出せますが…。お役に立たずすみません。 また近いうちにいくと思うので、そのときにでも探してみようかと思います。
No title
3人に使用人が50人なんて!!!
読んでいたらあたしも中を見学したくなりました

自分の部屋は6帖でいいけど、着替え部屋の10帖が欲しいなあ☆
Re: No title
広い部屋が多いので10畳くらいだと普通に見えてくるのが恐ろしいw 10畳の着替え部屋は贅沢そうです。 戦前の財閥は桁が違いますねw

多分、今の時期は予約なしで入れるんじゃないかな。暖かくなったら予約なしはキツイかもしれないですが…。 ちなみに館員さんいわく、平日はお客さんが来ない日もあるそうで、カフェでのんびりできるみたいですよ。
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