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ルノワール-伝統と革新 (感想前編) 【国立新美術館】

ラ・リングア・オチアイでランチした後、国立新美術館へ楽しみにしていた「ルノワール-伝統と革新」を観に行ってきました。85点程度と点数は少なめですが、素晴らしい作品が揃っていました。この展示は詳しく紹介したいと思いますので、久々に前編・後編の2記事にしたいと思います。

P1100937.jpg

【展覧名】
 ルノワール-伝統と革新

【公式サイト】
 http://renoir2010.com/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2009/03/renoir2010.html

【会場】国立新美術館
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2010年1月20日(水)~4月5日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適 (入場規制はありませんでした)

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
まず、気になる混み具合ですが、まだ始まったばかりというのに結構な混み具合でした。作品数が少ないのでスペースに余裕ある展示をしていますが、それでも各絵に少なくても2~3人はついていて混雑感がありました。

ルノワール展はしょっちゅうやっているイメージがありますが、これくらいの規模の展覧会は2年前に観たbunkamuraのルノワール+ルノワール展以来かも?? 今回の展示でも国内の絵は観たことがある作品が多かったですが、ポーラ美術館所蔵の作品などは、これを借りてきちゃったんだ!?とちょっと驚きがあり、ルノワールの傑作が揃っている見逃せない内容となっていました。

若干わかりづらい構成となっていますが、今回も章ごとにいくつか作品をご紹介しようかと思います。

<第1章 ルノワールへの旅>  ★公式ページ
 1章はルノワールの画風の変遷などが分かる章となっていました。
まず冒頭で、その生い立ちなどが説明されています。メモを取ってきたのでそのまま説明すると、ピエール=オーギュスト・ルノワールは仕立て屋の息子としてフランスのリモージュに生まれ、3歳でパリに家族と共に移り住みました。13歳の頃から磁器の絵付け職人の工房で働き、19歳で画家を目指し、グレールの画塾に入ります。その後は、
 19歳~38歳:グレール画塾の修行時代。1874年から始まる印象主義への参加
 39歳~50歳:印象派展から離れサロンでの成功を経て、アルジェリアやイタリアへ旅行を経験。そこで得たものから模索と試作の時期
 51歳~78歳:様式を集大成した時期
というように解説されていました。今回の展示でもこの経歴がわかると理解しやすい部分がありますので、最初に読んでおくと良いかと思います。


「アンリオ夫人」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、淡い水色の背景に胸前の開いた白いドレスを着た女性の肖像です。こちらを見て微笑んでいるような、目力のある端整な顔立ちです。既に印象派らしい画風で、背景に溶け込むような感じに描かれているように思います。水色と白が多く爽やかなのが気に入ったので、絵葉書を買いました。

 「新聞を読む、クロード・モネ」
同じ印象派の画家であり親友のモネの肖像です。モネとはグレールの画塾で知り合いました。 黒い山高帽を被りパイプをくわえ、椅子に腰掛けて新聞を読んでいる姿です。パイプから出る煙の表現が印象派らしい光を捉えたような感じに仕上がっていました。

この辺で印象派展とは何か?というような話も解説されていました。

「団扇を持つ若い女」 ★こちらで観られます
これも今回の展示のポスターになっている作品です。緑のストライプの壁紙と花束を背景に日本風の団扇を持ち帽子をかぶった女性が描かれています。この女性は当時人気女優であったジャンヌ・サマリーだそうで、彼女いわく、ルノワールは「絵に描く女性みんなと結婚してしまう。その筆で」と言われたそうです。確かに絵から客体への溢れる愛情を感じますね。団扇や菊を思わせる花はジャポニスムの影響のようです。

なお、ルノワールは印象派展への出品をやめた後、サロンに出品し話題を集めたのがきっかけで、上流階級の注文が増えていったようです。

「シャトゥーのセーヌ河」
川沿いの草の生い茂った道を描いた作品。背景には山や川が見え、道の向こうから女性が歩いて来るようです。画面の左を埋めている木に咲いた花は点々で表され、水や草は素早いタッチで描かれています。全体的に色鮮やかで光が溢れるような感じなのですが、これはアルジェリア旅行の影響なのだとか。
なお、この絵を描いた年にはラファエロの絵が観たくてイタリアにも旅行に行き、輪郭のはっきりした古典的な手法に回帰していくのですが、それはまた次の章でご紹介します。

「ブージヴァルのダンス」 ★こちらで観られます
「都会のダンス」「田舎のダンス」「ブージヴァルのダンス」とあるダンスシリーズの1枚です。(そういえば2年前のbunkamuraの展示には「田舎のダンス」がありました。) 木の下で抱き合うように踊る2人の男女を描いています。白っぽいドレスで赤い帽子をつけた女性は、エコールドパリを代表する画家ユトリロの母であり、自身も画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドンです。(ロートレックの恋人だったり、この人も色んなとこで出てきますねw) 恥ずかしそうに目をそむける仕草をして照れているのでしょうか。初々しいです。 解説によると、足元に落ちているすみれの花束やマッチは開放感や危うさを表しているのだとか。そこまで深読みできませんでしたが楽しそうな雰囲気でした。

「エッソワの風景、早朝」
白土の並木道が描かれ手前から奥にかけて下り坂になっている風景画です。背景には教会のような建物や待ちが見えます。並木の木々が落とす影や空気感が印象派らしい感じです。全体的に薄くピンクがかっていて、穏やかで幸せな雰囲気漂う作品でした。

「ジュリー・マネの肖像」
若い女性の肖像で、モデルは女流画家ベルト・モリゾとマネの弟の間に生まれた娘ジュリー・マネです。黒い服にレースの胸飾をしていて、横を向きうっすらと口を開けているようにも見えます。頬はバラ色をしていて可憐なのですが、目はどこか悲しげな印象を受けました。彼女は16歳で親を亡くし孤児になったようですが、ルノワールは彼女を気遣い、家族旅行にも連れて行くなど親密な付き合いがあったようです。
余談ですが、今年の三菱一号館美術館のマネ展ではモリゾの肖像がまた日本にやってくるようで楽しみです。モリゾ自身の作品も素晴らしいので、またどこかで展覧会をやってくれないものか…。

「クロード・ルノワールの肖像」 ★こちらで観られます
「ココ」という愛称のあるルノワールの三男の幼児時代の肖像です。川村記念美術館の所蔵品かな。横向きで白い服を着て、あどけなく可愛らしい表情を浮かべています。耳や頬の微妙な赤みが子供らしい生気溢れる雰囲気を出していました。
ちなみに、3人の息子達は長男ピエール・ルノワール(俳優)、次男ジャン・ルノワール(映画監督)、三男クロード・ルノワール<通称ココ>(陶芸家)と、芸術一家になってます。

ピエール=オーギュスト・ルノワールとリシャール・ギノとの共作 「母と子」
これはブロンズ像で、妻アリーヌが死んで1年後の作品です。帽子を被った母が子供に乳を飲ませている像でルノワールらしい主題となっています。幸せな雰囲気が漂い、妻の死を偲び幸せを永遠に留め様としたのでは?という解説がありました。ルノワールは晩年には彫刻作品をいくつか残していて、この展覧会の中盤あたりにもいくつかありました。

「自筆書簡」
これはプライベートな自筆の手紙です。第一次世界大戦で長男ピエールと次男ジャンが負傷した様子や、不幸の時代を招いた戦争を嘆く内容となっていました。作品だけ観ているとルノワールは幸せな人生だったように思えますが、こういう悲しい時代もあったのが分かります。

これで1章は終わりですが、2章に入る前の休憩室には映像のコーナーがあります。 …ここがもの凄い混んでる(><) 上映時間は9分くらいで、中身は名作(今回の展覧会に出ていない作品等)を解説しながらルノワールの生涯を伝えるものです。ルノワールは「絵は楽しくて美しいものでなければならない」という考えをもっていたそうで、印象派として有名な画家ですが、その後印象派に行き詰まりを感じたようです。そして、イタリアでラファエロの聖母子を見て以来、抑えた色合いでハッキリした輪郭線を描く伝統的手法に立ち戻っていきます。次の2章ではその流れを見ることができました。

<第2章 身体表現>  ★公式ページ
ルノワールは身体表現は芸術の本質的な形式の1つであると語っていたそうです。初期の頃は神話をモチーフにした作品、印象派時代には生活習慣や物語性の無い戸外風景の中の作品、1880年代には「アングル様式」という古典主義への回帰が特徴となっているようです。

「岩の上に座る浴女」
右足を上に足を組み、右手で頬杖する目をつぶった裸婦の絵です。イタリアから帰って迷いのある頃の作品で、輪郭はぼやけていて印象派風の特徴が残っていますが、背景から浮かびあがるように描き、人物のフォルムを描く意思が見られるようです。この後、輪郭やボリュームを描く伝統的名手法に進んでいくのだとか。今まであまり気づきませんでしたが、確かにこの章を観ていると変遷しているのがわかるのが面白かったです。

「水浴する女」
この絵は以前、川村記念美術館の記事の時にもご紹介した作品です。(こちら
こうして他のルノワール作品と並んで解説を受けると、また違って見えるのが不思議w  女性の存在感が浮き上がるように見えました。まだ輪郭がぼやけているかな。

「泉」
髪をかきあげる裸婦です。背後にはの彫刻から落ちる水が描かれています。バラ色の頬や豊満な体からは生命力を感じました。また、この絵の隣には「泉による女」というこの絵と同じような絵がありました。並べて見てみると、構図は同じようですが、女性の髪の長さや肉体の張り、手の躍動感などに違いがあり、「泉」のほうが好みでした。背景の彫刻も「泉」しかなかったかな。


この辺にはブリヂストン美術館や損保ジャパンの常設にある作品も並んでいました。いつも都内で見られる作品も結構あるかもw


「麦わら帽子の少女」 ★こちらで観られます
これはちょっと驚いた作品。その名の通り帽子を被った少女の像なのですが、周りの作品と比べても作風が違う感じです。これがラファエロの影響を受けて輪郭を重視した作品のようです。こういう技法の工夫や進化が目で観てわかるのが個展の面白いところですね。

ということで、これで大体半分です。会期も長いのでもう一度行こうと思っていますが、全部紹介したいくらい良い作品が揃っています(よく観るのも結構ありますがw) 会期末は大変な混雑になりそうな予感がするので、興味がある方はお早めにどうぞ

次回は残りの3章と4章についてご紹介しようと思います。


 → 後編はこちら


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Comment
トラックバックありがとうございました!
いつも読ませて頂いてます。
TBして頂き、ありがとうございました。
ルノワールだけの大規模な展覧会で、とても見ごたえがありましたよね^^
展示の仕方(章立て)もわかりやすかったですし。
私も「麦わら帽子の少女」には驚きました。
ここまで作風が違う絵を描いていたとは…です。
(私もTBさせて頂きました。)
Re: トラックバックありがとうございました!
>なつさん
こちらこそTBありがとうございます^^
ルノワール展は結構頻繁にやっているような気がしますが、
今回の展示は科学的な分析とかがあるのが面白いですね。
実験過程の作品も観られますしね。

また機会があったらTBなどよろしくお願いします。
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六本木の国立新美術館で開催中のルノワール展を見に行った。 展示されているのは、国内外の美術館から集めた約80点のルノワールの作品。 ...
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