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柴田是真の漆×絵 【三井記念美術館】

もう終わってしまった展覧会で申し訳ないのですが、展覧会の最終日に三井記念美術館の「特別展 江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆×絵」を観てきました。素晴らしい内容だったので、ご紹介しておきたいと思います。

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【展覧名】
 特別展 江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆×絵

【公式サイト】
 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition_end/091205.html

【会場】三井記念美術館
【最寄】銀座線三越前/新日本橋駅/東京駅/神田駅
【会期】2009年12月05日(土)~2010年02月07日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間40分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
最終日だったこともあり、結構込み合っていました。内容も良かったから評判だったのかも。
この展覧会は大半が「エドソンコレクション」となっていて、エドソン夫妻の願いで祖国である日本に里帰りし、柴田是真の個展として開催されていました。柴田是真は幕末から明治にかけて漆職人と絵師の両方で活躍したまさに漆の芸術家と呼べる存在で、その巧みな技術と洒脱なセンスで作られたクオリティの高い作品が展示されていました。また、様々な技法についても学ぶことのできる、三井記念美術館らしい濃い内容となっていました。(作品リストの他に用語説明のパンフレットまでくれる心意気。美術展の鏡です^^) 
今回も気に入った作品を通してその作風をご紹介しようかと思います。なお、作品ナンバーが「e-」で始まるのはエドソンコレクションです。(jで始まるのは日本にある作品) その豊富で質の高いコレクションに驚きながら観てきました。


e-04 「宝尽文料紙箱」
青銅塗りと呼ばれる技法で作られた用紙箱です。木炭などを使ってまるで金属で作られているように見えますが、実際には漆器です。表面にはかさや鍵、横側には蓑や分銅、掛け軸などが描かれていて、緑に輝く七宝も綺麗でした。漆の作品には金や銀が多く使われますが、それだけではなく黒でこれだけ魅せるのは凄い技術と美意識です。

e-38 「円窓雛人形印籠」
円形の窓のなかに3段飾の雛人形のいる印籠です。金色で華やかな印象で、その意匠も面白いです。 柴田是真は木炭や紫檀の質感を出したり、新品を古く見せたり、重そうに見せて軽かったりと、様々な技術で人を驚かせたようです。

e-16 「砂張漆盆」
砂張というのは銅と錫と鉛の合金のことで、この皿のようなお盆は鈍い反射がありどう見ても金属製に見えます。しかし、実際は漆器で出来ている騙し漆器で、実際に手に取るとその軽さに驚くのだとか。確かにこれが漆器と言われても驚くばかりです。きっと柴田是真は洒落のきいた人で皆が驚くのが好きだったんだろうなあw

e-13 「柳に水車文重箱」
川の流れと水車が描かれた黒い5段の重箱です。水車の羽は1枚1枚違うデザインとなっています。また、この展覧会でよく出てくる技法の1つに「青海波塗り」という技法がありのですが、この作品もその技法で作られています。これは変塗の1種で波の文様を表すもので、この作品にぴったりの技法でした。

第4室くらいからは絵画作品が登場してきました。

e-54 「松に藤小禽図」
松の木の上に小鳥がとまり、下に向けるその視線の先には松から垂れた藤が水に浸かり、先端はさらにくねって再度水から出てきている様子が描かれています。これは昔からある梅の構図を藤に置き換えたそうで、知的な雰囲気を感じる作品でした。なお、柴田是真は円山応挙に影響を受けた四条派に入門し、絵画を学んだそうです。

e-58 「四睡図」
豊干禅師、寒山、拾得、虎の3人と1匹が眠る図です。このモチーフは他でも観た記憶があるので、定番なのかも。 虎の上に禅師が乗って寝て、他の2人は硯や箒を持って顔をふせて寝ています。 そんな時に寝るなwと突っ込みたくなりましたが安らかな印象を受けました。

e-61 「瀑布に小雀図」
描表装の掛け軸なのかな? 真下を向いて滝の崖に止まる小鳥が描かれています。掛け軸の外まで紅葉が描かれ、開放的な感じでした。
 描表装の参考記事:奇想の王国 だまし絵展 (2回目 感想後編) (Bunkamuraザ・ミュージアム)

e-63 「瀑布に鷹図」
2枚セットの掛け軸です。左は滝の前の崖にとまる親子の鷹が描かれています。子供は親を仰ぎ見て、親は右の掛け軸のほうをしげしげと見つめています。その視線の先の右の掛け軸には、滝に親鷹の顔がぼやーっと反射して写っていました。つまり親鷹は滝に写った自分の顔を眺めていたわけです。こうしたユーモアを感じるのが柴田是真の魅力の1つだと思います。
ちなみに、この作品がきっかけでエドソン夫妻は是真の作品を集め始めたのだとか。漆器ではなく絵から入ったというのも是真の幅広さを感じる面白い出会いです。


ここからは絵師としても漆職人としても成功した柴田是真の集大成とも思える漆絵が展示されていました。


e-41 「面相描図漆絵」
和紙に漆を塗って描いた絵です。硯、筆、水滴、沢山の人形の首 などが描かれている様子から人形の顔を描いている作業場のようです。描きかけた顔や完成したものも並んでいて、普通なら不気味に見えそうですが、愛らしい雰囲気の作品になっていました。漆で絵を描くこと自体も大変らしいのに驚きのセンスです。

e-43 「南瓜に飛蝗図漆絵」
黄色いカボチャの花にとまるバッタが描かれています。緻密に描かれた花はグラデーションが繊細で漆絵ということを忘れるくらいです。花の奥を覗き込めそうな立体感や色使いの巧みな葉っぱも素晴らしかったです。

e-46 「霊芝に蝙蝠図漆絵」
蝙蝠と霊芝(こんもりとボリュームのあるキノコ)が描かれています。どちらも中国では吉祥のモチーフらしく、お目出度い漆絵です。特に霊芝はボリューム感があり存在感がありました。色の微妙な表現も素晴らしいです。漆絵というのは5色くらいしか色を出せないそうですが、是真はこうしたグラデーションなどでそれをカバーしているのが目の当たりにできました。
また、解説の逸話によると漆絵は巻物には不向きである(巻いたら剥がれるから)と言われた是真は、数日で巻いても大丈夫な漆絵を作成したのだとか。天才過ぎですねw

e-10 「紫檀塗波兎図木刀」
これは30cmくらいの木刀です。紫檀塗りと呼ばれる技法でつくられ、まるで高級木材の紫檀のような質感で艶やかさがあります。そこに走る兎と青海波塗りの波が描かれていました。小さな作品でもそのデザインセンスと高い技術の融合が素晴らしい。

e-50 「宝貝尽図漆絵」
漆で描かれた貝の静物画です。絵の貝に、貝を細かく砕いたものが貼り付けてあり、青い輝きを放っていました。掛け軸(巻き物)に貼り付けていくのは大変な技術だと思われます。普通なら巻いたらぽろぽろと剥がれそうなのに、どうやっているのか不思議でした。

e-52 「漆絵画帖」
横に20枚くらいの小さな絵が並んだ画帖です。花鳥風月やお目出度いものが描かれ、華やかなものから粋なものまで様々なものがありました。漆であるのに細かく描かれていて驚きます。漆絵は一方向にしか筆を運べないという制限があるのに、闊達な筆を見せるのは、漆を知り尽くし絵でも成功した是真ならではかもしれません。

e-17 「波に千鳥角盆」
黒い四角いお盆です。よく観るとグラデーションやマチエールの違いで波を表現しています。青海波塗りの波のうねりの中に銀色の千鳥も見えました。派手さは無いものの素晴らしい技術を感じる作品でした。

e-34 「蚊帳を覗く幽霊図印籠」
印籠・とんこつ(煙草入れ)を集めた部屋がありました。(ここは狭い部屋なのでメチャクチャ混んでました。)
この作品は、蚊帳の上から覗く幽霊が描かれた印籠です。怖い顔をしていて黒地に溶け込みそうなほど暗くうっすら描かれていました。逆側には蚊帳の内側が描かれていました。 面白い題材です。

最後は日本国内の作品の部屋となっていましった。

j-01 「闇夜桜扇面蒔絵書棚」
金の扇子と螺鈿の桜が目を引く作品。大きく黒い漆の空間が取られているのも印象的です。扇子には青海波塗りの海や千鳥など細部まで細かい細工があります。
画家としても成功し、下絵も描ける蒔絵師となった是真は、職人から総合的な芸術家となった貴重な存在と言えそうです。

j-10 「稲菊蒔絵鶴卵盃」
鶴の卵の殻に金を塗って盃にしたもの。内側にはマットな質感で金が塗られています。外側には植物の模様がかかれ、卵の殻とは思えないくらい華麗です。こうした卵の入れ物はヨーロッパで人気だったそうです。

j-20 「漆絵画帖<墨林筆哥>」
いくつかの絵からなる画帖です。ひょうたんから馬が出てきている絵(瓢箪から駒?w)や5重の塔と虹、葉っぱとカブトムシ、草団子など身近なものから諺を題材にした漆絵が描かれていました。遊び心を感じる自由闊達な画帖です。

j-15 「花瓶梅図漆絵」
紫檀の板に蒔絵が施されているように見えますが、これはすべて漆絵で出来た騙し絵のようなもので、額縁の木目のようなものも描かれているのが面白いです。紫檀塗りをはじめ、青磁の花瓶や梅も漆で描かれていて、その質感表現に驚きっぱなしでした。

j-11 「富士田子浦蒔絵額」
雄大な富士山、青海波塗りの海、田子の浦の浜で塩作りする人々、そして金砂子の朝焼けが描かれた華やかな作品。西洋絵画のように額に納められているのですが、その額には様々な貝が描かれているのも可愛らしかったです。

j-30 「猫鼠を覗う図」
台から落ちた柘榴を食べる鼠と、屏風の裏から鼠を覗う猫が描かれています。猫は身を屈め今にも飛び出してきそうな緊迫感がありますが可愛かったw 面白い構図です。

j-03 「烏鷺蒔絵菓子器」
銀白色のサギと真っ黒なカラスがびっしり描かれた箱です。箱の形は2つの箱が合体したような変わった形をしてました。それぞれにサギとカラスが描かれ、これは御伽草子の鴉鷺合戦物語(あろがっせん)を題材にしているそうです。カラスは真っ黒に見えますが、よく観ると微妙な色の違いが細かく描かれていて驚愕でしたw


ということで、だいぶ楽して驚きの多い内容でした。こんなに面白いならもっと早く行って2回くらい行けば良かった…。様々な手法も知ることが出来、今後の鑑賞にも役立ちそうです。
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