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没後400年 特別展「長谷川等伯」 (感想前編) 【東京国立博物館 平成館】

昨日、先週から始まった「長谷川等伯」展を早速観てきました。うっかりしているとすぐに終わってしまいますので、他のネタを保留して先にこの展覧会をご紹介しようと思います。点数は多くないのですが、かなり濃密な内容となっていましたので、久々の前編・後編の2記事に分けようと思います。最近アクセス数もブログランキングも下がってきたので起爆剤になるといいなw

P1110703.jpg


【展覧名】
 没後400年 特別展「長谷川等伯」

【公式サイト】
 http://www.tohaku400th.jp/
 http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=A01&processId=02&event_id=7026

公式サイトではありませんが、今回の展覧に出ている作品が多く解説されているサイト
  http://www.nanao-cci.or.jp/tohaku/index.html (七尾商工会議所観光委員会)

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)
【会期】2010年2月23日(火)~3月22日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
まず気になる混み具合ですが、入場制限は無いのですが結構混んでいました。ロッカーは満員御礼でしばらく空くの待つくらいです。 展覧会の中に入ると1章~2章あたりの掛け軸作品周辺は非常に混んでいますが、3章あたりからは展示スペースも広くてさほど気にならない程度でした。展覧時期が1ヶ月くらいしかないので、会期末は混むのは必至かと思います。興味のある方はお早めにどうぞ。

さて、今回の展示は公式ページで過去最大かつ最上と謳っていますが、まさしくその通りだと思います。初期から晩年にかけて長谷川等伯の一生を振り返りながらその変遷もわかる素晴らしい内容となっていました。生い立ちから順に説明していく構成も分かりやすかったので、今回も気に入った作品を挙げながら章ごとにご紹介しようと思います。いつもどおり解説機を借りたのですが、NHKの「その時歴史が動いた」風に話す松平さんの解説も良かったです。

<第1章 能登の絵仏師・長谷川信春 >
まず、長谷川等伯の生い立ちについてですが、現在の石川県の七尾(当時、京との交易があり文化的にも豊かな土地だった)で生まれ、染物屋の養子になり、最初の頃は信春と名乗っていました。(この「信春」は昭和初期までは等伯の息子だと思われていたようですが、今回の展覧にも出品されているある作品によって、等伯自身の若いころの名前であると分かったようです。) 信春名義の作品は富山や新潟に多く残されているそうで、その多くは仏教絵画であり、最初は絵仏師としてスタートしたのが分かっているようです。ここにはそうした仏教絵画作品が並んでいました。

長谷川等伯(信春) 「十二天像」 ★こちらで観られます
最も早い時期の作品です。東、西、南、北、東南、東北、西南、西北、天、地、日、月の12の方位を守る十二天を描いたもので、4天×3枚となっています。緻密に描かれた十二天はいずれも炎の光背を背負っており、特に老人のような神だけは不動明王のような炎を背負っていました。一気に並んだ壮観な眺めとなっていました。

長谷川等伯(信春) 「釈迦多宝如来像」 ★こちらで観られます
これも初期の作品の1つです。金が輝くような美しさの釈迦仏・多宝仏や六菩薩が左右対称に配置され、真ん中には南無妙法蓮華経の文字、頭上には3つの円(日・月・星辰)が描かれていました。等伯は熱心な法華宗(日蓮宗)の信者だったようで、こうした仏の絵の他に日蓮上人の肖像なども展示されていました。

長谷川等伯(信春) 「鬼子母神十羅刹女像」 ★こちらで観られます
左下に信徒の女性が小さく描かれ、真ん中には赤子を抱く鬼子母神、周りには十羅刹女が並んでいます。女性の大きさと比べると、その存在感が際立っているように思えます。時代の流れで色あせてしまっていますが、この作品は等伯が京都に活動の場を移したのを考察する上で重要な作品らしいです。また、やけに鬼子母神を題材にした作品が多いなと思っていたら、北陸地方では鬼子母神が篤く信仰されていたという解説がありました。隣にも似たような絵が飾られていました。

長谷川等伯(信春) 「仏涅槃図」 ★こちらで観られます
典型的な涅槃図の構図と言えるのではないでしょうか。沙羅双樹に囲まれ横たわる釈迦と、周りで嘆く弟子や菩薩、天龍、鬼、虎や鶏などの動物達、そして頭上から雲に乗ってやってくる摩耶夫人が描かれています。解説によると、「沙羅双樹の輪郭線には後年の等伯特有の鋭い筆線の萌芽が見られる」とのことでした。←全部ぐるっと回った後にもう一度観ると何となく解説の言うことがわかる気がしました。…多分w


<第2章 転機のとき―上洛、等伯の誕生―>
七尾で活動していた等伯ですが、その活動の拠点を京都に移していきます、千利休が施主となった大徳寺三門の天井画の製作を要請され、51歳で等伯の画号を使い始めます。ここではそうした信春時代から等伯時代にかけての作品が並んでいました。それにしても51歳でようやく名乗り始めたとは意外でした。

長谷川等伯(信春) 「十六羅漢図」 ★こちらで観られます
1章で観てきた画風から一気に雰囲気が変わったように思えた作品。8枚の掛け軸に2人ずつ16人の羅漢が描かれています。輪郭線が太く、親しみのある表情を浮かべていました。力強いようで緩やかな感じを受けました。

長谷川等伯(信春) 「牧馬図屏風」
屏風です。野生の馬を捕らえて手なずけようとしている様子が描かれていて、右隻は藤などの花や柳を背景にスピード感を感じる馬が描かれています。左隻は背景にもみじや菊が描かれ、捕らえた馬を皆で縄を引っ張っているのが目を引きます。題材が面白く、どこか素朴さとのんびりした雰囲気を感じる作品に思いました。 なお、等伯は一時期消息が辿れないらしく、狩野派などに学んでいたのでは?と考えられているようです。

長谷川等伯(信春) 「恵比須大黒・花鳥図」
3幅の掛け軸です。右は白い芍薬の花と蝶、左は赤い花と、枝にとまって飛んでいる虫を狙う小鳥が描かれています。そして何と言っても面白いのが真ん中で、酒に酔った恵比寿が大黒天の髭をひっぱっている様子が描かれています。これは些細なきっかけで仲たがいをした2神を布袋が仲直りするという民間説話を元にした作品で、ユーモアを感じる顔をしていて親しみやすかったです。釣竿や鯛、米俵など、彼らならではのアイテムも転がっていましたw なお、後ろに描かれた大きな白い梅は大和絵風だと解説されていました。

長谷川等伯(信春) 「達磨図」 ★こちらで観られます 
実に堂々とした達磨の肖像です。顔は毛まで細かく描かれていますが、服などは太い線で大胆な感じをうけました。等伯は始めは曾我派に学んだらしく、この絵も曾我派の達磨図を参考にして描かれているそうです。

長谷川等伯(信春) 「陳希夷睡図」 ★こちらで観られます 
故事を題材にした作品で、木の下で気持ち良さそうに眠る中国の仙人が描かれています。頭巾や衣服のうちこみに目立つ短い線描は狩野派風だという解説がありました。狩野派に入門していた裏づけになるとのことですが、流石に私にはわかりませんでしたw それにしても気持ち良さそうに眠っています。

確かこの辺の作品だったと思いますが(追記。5章でしたw)、等伯は自分で雪舟から5代目の絵師であると自称していたようです。影響を受けているのを自認しているのだと思いますが、自分が正当な絵師であることを示そうとしていたという解説もありました。

長谷川等伯(信春)「山水図」「寒江渡舟図」
元は一連の作品ではないかと思われている作品です。特に「山水図」は好みでした。霧がかるような中、大きくとられた空白と背景の山など、幽玄と絵の中の世界の大きさを感じる水墨画でした。

長谷川等伯 「山水図襖」 ★こちらで観られます
襖絵なのですが、これには面白いエピソードがあります。等伯はかねてから大徳寺の襖に絵を描きたいと申し出ていたのですが断られていて、ある日、住職がいない時にあがりこみ、周りが止めるのも聞かずに勝手に描いたのがこの作品らしいです。一気に描き上げたようで、状況証拠からこの話は恐らく事実と推定されるのだとか。・・・結構無茶しますねw 湾曲した岩山を背景に家々や木々が描かれ、雄大な中にのんびりとした仙境のような雰囲気が出ていました。左はじのほうに小さく人も描かれていました。


<第3章 等伯をめぐる人々―肖像画―>
京都に上洛して活動を始めた頃、等伯は法華宗の僧侶の肖像画を描いていたようで、微細な筆で細かい描写の作品がこのコーナーに並んでいました。その後、等伯は僧侶以外に武将、町衆などにも交流の幅を広げて作品を作っていったようです。このコーナーの冒頭には大徳寺の三門壁画の写真も飾って有りました。

長谷川等伯(信春) 「日堯上人像」 ★こちらで観られます
この作品は京都での作品1作目らしいです。上人の1周期法要の際に描いたもので、この作品の署名に書いてある年齢のお陰で「信春」は等伯本人であると分かったという非常に重要な作品です。(描いた時の年齢と上人の亡くなった時期を照らし合わせて判明) 前述したように昭和までは「信春」は息子の名前だと思われていたようです。 さて、絵自体ですが、細かく描かれていて特に袈裟や机上の布の部分が緻密で鮮やかに思いました。

長谷川等伯 筆 春屋宗園 賛 「千利休像」 ★こちらで観られます
頭巾を被った全身黒っぽい衣で、手には白い扇子を持った利休の肖像です。よく知られた利休っぽい雰囲気に思います。悟ったような顔だちで人柄までも伝わってきそうな肖像でした。なお、この肖像は利休が没してから4年後に描かれた作品らしいですが、生前に交流があったようで、その頃に描いたスケッチを元に描いていると思われるそうです。


<第4章 桃山謳歌―金碧画―>
さて、京都で着々と力をつけた等伯は、ついに狩野派をも脅かす存在にまでなっていきました。狩野永徳一門が御所の障壁画を手がけた際、等伯はそこに割り込みを謀ったそうです。結局、永徳らに阻止されたようですが、それほどまでになっているのを印象付ける事件となりました。 このコーナーでは煌くような金碧画が並び、その栄華を感じることができました。

長谷川等伯 「波濤図」 ★こちらで観られます
壁画のような大きな6枚セットの掛け軸です。岩場に打ち寄せる波が荒々しく豪快に描かれているのですが、その周りには金雲が立ち込めています。金色と水墨画が見事な調和を見せていて素晴らしい作品でした。こうした岩場に金雲というのは等伯が初めて描いた作風のようです。

長谷川等伯(信春) 「花鳥図屏風」 ★こちらで観られます
まだ信春の時代の作品で、等伯が初めて手がけた金碧画です。(この展覧会のための調査で初の金碧画と分かったそうです。) 金地に色濃い川と松や藤などの木々が描かれ、金雲も立ち込めています。ジグザグな松や鳥から春信時代の特徴が見られるとの解説もありました。また、次に紹介する智積院での作品を作る前に金碧画の実績を積んでいたことを示す作品とのことです。
なお、こうした実績を元に等伯は長谷川派を旗揚げし、狩野派に挑戦していくのですが、結構、野心家だったことを伺わせるエピソードが多いのも今回の展覧会で印象に残りました。

長谷川等伯 「楓図壁貼付」 ★こちらで観られます
豊臣秀吉の子供(鶴松)の菩提を弔うために建立された祥雲寺(現在の智積院)に描かれた障壁画です。狩野派ではなく長谷川一門に依頼されたもので、解説機では「その時歴史が動いた」と松平定知さん(元NHKアナウンサー)が解説してくれましたw 中央に大きな木の幹、周りには草花がが描かれています。非常にどっしりとした風格があり、金地に映える緑色が目に鮮やかです。その一方で細やかな自然を描く叙情性を持っていて、狩野派との赴きの違いを感じさせる作品でした。

長谷川等伯 「松に秋草図屏風」 ★こちらで観られます
これも智積院の作品で、これは今回の展覧会の中でもマイベスト3の1枚に挙げたい作品です。大きな松とともに、白い花、ススキ、芙蓉などが描かれています。解説によると水平、垂直を基本にした画面構成となっているそうで、曲線的な草葉や斜めに大きく伸びる松なども幾何学的なモチーフとなっているように見えました。伸び行く植物の生命力や、装飾性を感じる作風が実に美しく、極楽浄土を思わせる雰囲気は依頼の趣旨にあっているように思えました。素晴らしいです!

長谷川等伯 「柳橋水車図屏風」 ★こちらで観られます
マイベスト3を挙げるとしたら、これもその1つに挙げたいw 1双の金屏風で、右隻から左隻にかけて、どーんと橋が大胆に描かれています。装飾的にデフォルメされた柳の緑が金がよくあい(金地に緑はよく映えます) 風情があります。そして橋の下の水の流れや水車もデフォルメされているのですが、波は細かい線が沢山描かれ文様のようになっていました。この波や柳を観てかなり気に入ったので、絵葉書も買いました^^


ということで今日はここまでです。4章までで前半の第1会場となります。
これほど詳しく等伯を知る機会だとは思いもせず、しかも初期の作品から観ることができたのは本当に嬉しいです。

次回は展覧の目玉とも言うべき作品もあった後編をご紹介しようと思います。お楽しみに…。

→後編はこちら


追記です。

どうやらテレビで取り上げられたらしく、3/12時点で昼間は60~90分くらいの入場制限があるそうです。
私自身も3/12の夕方18時頃に再度行ってきたのですが、その時は入場規制はありませんでした。
3/12に20時ぎりぎりまで粘っていたら、皇后様が会場にきてびっくりw
 参考ニュース 皇后さま:「長谷川等伯展」鑑賞 東京国立博物館
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東京国立博物館で開催中の 没後400年 特別展「長谷川等伯」に行って来ました。 没後400年 特別展 長谷川等伯 東京展(東京国立博物館):2010年2月23日(火)~3月22日(月・休) ・東京展公式サイト 京都展(京都国立博物館):2010年4月10日(土)~5月9日
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