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フランク・ブラングィン展 【国立西洋美術館】

2週間ほど前になりますが、国立西洋美術館へ始まったばかりの「フランク・ブラングィン展」を観に行ってきました。

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【展覧名】
 国立西洋美術館開館50周年記念事業
 フランク・ブラングィン展

【公式サイト】
 http://www.fb2010.jp/main/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/current.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)
【会期】2010年2月23日(火)~5月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間40分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
メジャーどころの展覧会が多いイメージの国立西洋美術館ですが、たまに隠れた実力派の個展もやってくれるのも嬉しいところです。あまり知られていないためか、お客さんが少なめで快適に観ることができました。しかし、このフランク・ブラングィンという人は、運が無かった為にあまり名前が知られなかったと言えるかもしれません。実際に観てみると多才な人で驚く作品が結構ありました。

簡単に略歴をご紹介すると、フランク・ブラングィンは英国人で、アーツ・アンド・クラフツ運動で有名なウィリアム・モリスの工房の職人として働いていました。その後、アーツ・アンド・クラフツ運動 → アール・ヌーヴォー → アール・デコという時代の流れを背景に、油彩画だけでなく壁画や版画、陶器、家具のデザインなど幅広いジャンルで活躍しました。また、この国立西洋美術館とも非常に縁の深い存在で、この美術館の根幹となった松方幸次郎のコレクションは、ブラングィンにアドバイスを貰いながら集めていたようです。やがて2人は「共楽美術館」という美術館を夢見て、ブラングィンはその設計を行いました。 しかし、世界大恐慌や関東大震災によってスポンサーである松方幸次郎の川崎造船所は破綻し、共楽美術館の計画は頓挫しました。また、ロンドンに保管していた松方コレクションの倉庫が火災で燃えてしまい、ブラングィンの作品も燃えたようです。こうした不運が災いしてブラングィンは人々から忘れられていきました…。しかし、没後50年で再び脚光を浴び、また、共楽美術館の夢の後継者と言える国立西洋美術館が50年を迎えるこのタイミングで、松方幸次郎との関係を軸に今一度回顧する機会が設けられたようです。
と、予備知識はこんな感じです。より詳しくは、いつもどおり章ごとに気に入った作品と通してご紹介しようと思います。

<第1部:松方と出会うまでのフランク・ブラングィン>
まずは活動を始めてから松方と出会うまでの足跡を辿るコーナーからです。ブラングィンはゴシック復興をになう建築家を父に持ち、その始まりはウィリアム・モリスの元でカーペットの図案を写す仕事から始まりました。その後,
サミュエル・ビングの「アール・ヌーヴォー」という名の店(アール・ヌーヴォー様式の語源となった店です)で装飾を手がけ、ウィーン分離派などにも参加したそうです。 このコーナーにはそうしたモリスの工房時代の作品も並び、絵だけでなくランプシェードのデザイン、メタルプレート、椅子など様々なものがありました。

フランク・ブラングィンのデザイン 「版画 キャビネット」 ★こちらで観られます
キャビネットです。自分が使うためにデザインしたものだったかな。異国風の風景の中、捧げ物をする様子が描かれています。よくみると引き出しの取っ手のようなところが日本刀の鍔をイメージした感じでした。隣には椅子も展示されていました。

フランク・ブラングィン 「音楽」 ★こちらで観られます
パリにオープンしたサミュエル・ビングの店「アール・ヌーヴォー」に飾られた絵画作品で、これと共に「ダンス」という作品もあったようです。また、現在は残っていませんが外壁の壁画も手がけていたそうです。
この作品には、南の島のようなところで笛を吹く2人の裸同然の男性が描かれ、子供?が背に手をかけている様子も見られます。単純化され平面的な感じで、装飾性の強い絵に思いました。また、アール・ヌーヴォーらしい植物の表現も優美でした。

この作品の近くにはアール・ヌーヴォーの店の外観写真も飾られていて、外壁のデザインも厚紙で作られていました。優美な曲線と単純化されたデザインが特徴的です。(★こちらで観られます) それ以外にもティファニーのステンドグラスの原画も描いたり、カーペットの作品(★こちらで観られます)なども残したようです。


その後、ブラングィンはモリスの工房を離れて生活のために船員として働きながら、スケッチをする生活をしていました。そしてこの経験が元になり、穏やかな色調が特徴の油彩画を描いていき、フランスのサロンで3等賞をとったそうです。それに対して、その2年後のサロンでは今度は強い赤や青の色彩を打ち出しました。最初は自国の英国では批判されたようですが、やがて英国でも評判が上がり、ついに日本にもその名が届くようになりました。夏目漱石の「それから」にもブラングィンの絵について書かれているそうです。(「それから」は読んでいないので私は分かりませんがw)


フランク・ブラングィン 「海の葬送」 ★こちらで観られます
船の上での葬送を題材に、抑えられた色彩で描かれた作品です。甲板の上で布に包まれ、板のようなものに載った遺体を皆で持ち上げています。手前では仲間がじっと見守っているようです。私は暗く静かな雰囲気に思いましたが、解説によると、悲しみより傍観者の視線で淡々としているそうです。

フランク・ブラングィン 「海賊バカニーア」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品です。小舟で港を航行する海賊が持っている旗が、大きく深い赤で描かれ、遠くから観ても目を引きます。海は深い群青色で描かれているのが対照的です、背景の町は明るく淡い感じかな。全体的に強い光が当たっているかのように色が鮮やかでした。イギリスではケバケバしいと不評だったそうですが、フランスでは大人気で、展覧した場所の絨毯が摺りきれるくらい人が集まったのだとか。カンディンスキーなどの芸術家にも感銘を与えたそうです。

フランク・ブラングィン 「造船」
大きな2艘の船を作る人々が描かれています。木で船の骨組みを作っているところかな。小さく見える人々から、その船の大きさが想像できます。この作品も光が当たったような鮮やかな色彩が美しいです。
もうお気づきかもしれませんが、ブラングィンの作品には船や労働者がよく出てきます。もちろんそれは自身が船乗りをやっていた影響で、人々との交流で船の知識を蓄えていきました。そして、そうした彼の作風を、川崎造船所の社長である松方幸次郎も気に入ったのではないか?と考えられるようです。

フランク・ブラングィン 「りんご搾り」 ★こちらで観られます
沢山のりんごが転がっている秋の田園にいる4人の子供と3人の女性が描かれています。りんごを持っている裸の子供はキューピッドのような雰囲気に思えました。この作品も豊かな色彩で、彼の代表作とも言えるそうです。

<第2部:ブラングィンと松方幸次郎>
川崎造船所の初代社長である松方幸次郎とブラングィンは1916年に出会い、松方はブラングィンの才能に惚れ込んで、コレクションのアドバイザーにもなってもらったそうです。やがてコレクションを「共楽美術館」として展示し、日本の画家たちに本物の西洋画を見せることを夢見たようですが、金融危機と関東大震災で事業が破綻し実現しませんでした。もう場所も建物の設計(ブラングィン設計)も出来ていたようなので、かなり実現に近かったのでは…。 このコーナーでは2人の夢であった共楽美術館に関する展示もありました。

フランク・ブラングィン 「戦時広告ポスター:復讐の誓い」
一部、リトグラフのコーナーがありました。これは戦争のポスターで、泣いている子供や倒れている女性、立って手を挙げる男や飛行船などが描かれています。単に勇ましいだけではなく、社会情勢を描いていると解説されていました。また、海外滞在時にこうした戦争ポスターを観たのが松方が収集を始めたきっかけだったそうです。

この作品以外にも、ガスマスクをした人々の作品や、キリストの十字架を背負う姿の絵に、第一次世界大戦の兵士が紛れているような絵など、戦争関連の絵が並んでいました。ちょっと暗い気分になりますが、貴重な歴史の生き証人に思えました。


リトグラフのコーナーを抜けると、設計を元につくられた共楽美術館のCG映像がありました。西洋のお城のような立派な美術館で、これが出来ていたら今の西洋美術館は無かったのかもw ちょっと複雑な気分です。 ★外観をこちらで観られます
そして、この隣の部屋は共楽美術館のイメージに沿って作られていました。これにはちょっと驚きでした。


フランク・ブラングィン 「松方幸次郎の肖像」
パイプをくわえたスーツ姿の松方幸次郎が描かれ、背後には装飾的な紫のチューリップが描かれています。この作品は1時間くらいで描かれたらしく、素早い筆致で描かれているようでした。

この部屋には磁器の作品などもありました。磁器にはアーツ・アンド・クラフツの思想が見られるようです。他にも装飾パネルやテーブル、椅子などの作品もあり、デザインを再現した椅子に座って休むこともできました。

フランク・ブラングィン 「蹄鉄工」
1918年のヴェネツィア・ビエンナーレ(国際博覧会)が行われた際、ブラングィンは展示室のデザインを手がけました。そして、そこに飾られた1枚がこの作品です。大きなハンマーを持った人々が働いている姿が描れ、影と明るいところの色などが対比的に感じました。また、労働を賛歌しているように思いました。(労働賛歌を感じる絵は多々ありました。)

フランク・ブラングィン 「白鳥」 ★こちらで観られます
森の中、水色の影?が白い羽に落ちている2羽の白鳥が描かれています。周りにはオレンジ色の花をはじめ様々な草花が描かれ、色鮮やかな作品です。装飾的で華やかな雰囲気を持っていました。これはかなりの見所だと思います。

フランク・ブラングィン 「パナマ=太平洋国際博覧会出品<火:原始の火>のための習作」 ★こちらで観られます
フランク・ブラングィン 「パナマ=太平洋国際博覧会出品<空気:風車>のための習作」
フランク・ブラングィン 「パナマ=太平洋国際博覧会出品<空気:狩人たち>のための習作」
フランク・ブラングィン 「パナマ=太平洋国際博覧会出品<水:魚網>のための習作」
4枚の壁画のための習作作品です。元々は8枚あったそうですが、残りの4枚は行方不明になっています。4大元素をテーマにしているようで、
<火:原始の火> 地平線と焚き火をする人々
<空気:風車> 風車と人々
<空気:狩人たち> 狩人と木々
<水:魚網> 網を引っ張る人々
が描かれていました。実際の壁画はどのようなものだったのでしょうか。ブラングィンは冒頭に書いたとおり、火災で多くの作品が失われてしまい、正当な評価を受けずに埋もれていったそうです…。

フランク・ブラングィン 「ヴェネツィアの朝市」
明るいオレンジがかった絵で、川の市場で人々が買い物している様子を描いています。これも色鮮やかで華やかさと活気を感じました。

<第3部:版画、壁面装飾、その多様な展開>
今まで観てきたとおり、ブラングィンは色々手がけていますが、中心となるのは壁画だったようで、アメリカやカナダでも作品を作成したそうです。映像でイギリスの壁画を見ることもできました。また、版画についても本格的に取り組んだようで、私が特に驚いたのも版画作品でした。

フランク・ブラングィン 「帆桁の向こうに見えるサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア」 ★こちらで観られます
聖堂を背景に手前に船が横切る構図のエッチングで、歴史と工業が交錯する様子が描かれています。その瞬間を捉えるセンスも凄いです…。なお、この作品はヴェネツィア・ビエンナーレで金賞をとったそうで、版画家としても名声を高めて行ったようです。

フランク・ブラングィン 「ハンニバル号の解体」
船を解体する様子が描かれたエッチングです。解体が進み内部が見え始めています。かなり大きな船ですが、滅び行くような雰囲気で、まさに最期を迎えているように思えました。
他にも橋を描いた作品や、日本的なモチーフの作品などもありました。私は版画作品は地味なものが多いと思いがちですが、この人の作品はドラマチックで面白いです。

フランク・ブラングィン原画・漆原由次郎彫り、摺り「ブリュージュのベギン会修道院」 ★こちらで観られます
まったく同じ版画を色を変えて摺った2枚の作品。日本人の彫りと摺りで作られています。左にあった作品は夜の家のようです。灯りが漏れていてほっとする雰囲気がありました。それに対して右にあった作品は、朝もやの中の家のように見えました。色が違うだけでこれだけ雰囲気が違うとは驚きです。漆原由次郎との合作は何点かありましたが、特に夜のは好みで驚嘆しました。


ということで、非常にマルチな才能を持った作家でした。この展覧会を観るだけでも、当時かなりの有力作家であったことが伺えました。火災さえなければ、今日でも有名になっていたのではないかと思います。せめて共楽美術館が出来ていれば…。うーん残念。
ちなみに公式ページでは謎の職業診断がありますw 試してみるのも一興じゃないかな。
この後、「すいれん」でお茶してから常設も観てきました。
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Comment
こんばんは
わたしは、「海の葬送」が好きです。
単純なパースや目線の高さ、背景の中身のなさ?等から、なんか客観的な感じが直に伝わってきました
「海賊バカニーア」は、写真にハイライトを利かせて、彩度をあげたらこんな感じになりそうですね。。
いろいろ勉強になりました、ありがとうございますm(_ _)m
Re: こんばんは
コメントありがとうございます。さすが、デザインされている方は観る目が違いますね^^
海賊の方は実際に目の前で見るとその色彩に、おおお~!と感嘆するくらいでした。公式ページの写真のはちょっと印象が違うかもw
埋もれていった作家を知ることができて有意義な展覧会です^^
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国立西洋美術館で開催中の「フランク・ブラングィン展」(伝説の英国人画家 松方コレクション誕生の物語)会場内に「もうひとつの美術館」が現出! その美術館の名前は「共楽美術館」 現在の西洋美術館の基礎となっている松方コレクション。1910年代後半から20年代
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