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生誕120年 小野竹喬展 【東京国立近代美術館】

ご紹介が遅れてもう会期末になってしまいましたが、先週の金曜日に有給休暇を取って、東京国立近代美術館へ「生誕120年 小野竹喬展」を観に行ってきました。竹橋へ竹橋(竹喬)を観に行ってきた!とちょっと駄洒落みたいなことになってますw

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【展覧名】
 生誕120年 小野竹喬展

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/Honkan/ono_chikkyo/index.html

【会場】東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅
【会期】2010年3月2日(火)~4月11日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(平日13時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
小野竹喬(おのちっきょう)の作品はたまに観ることがありましたが、これだけまとまって観たのは初めてでした。今回の展示は2章構成となっていて、1939年を転機と捕らえ、その前後で章が分かれていました。今回も気に入った作品をご紹介しつつ章ごとに振り返ろうと思います。

<第1章 写実表現と日本画の問題>
まずは生い立ちから1939年までの章です。小野竹喬は岡山の出身で14歳で京都に出て、竹内栖鳳に師事しました。
 参考記事:大観と栖鳳-東西の日本画 (山種美術館)
当時の栖鳳は写生とコローの写実を融合する技法を試していたようで、竹喬にもその影響が観られるようです。他にも竹喬はセザンヌや富岡鉄斎の南画の影響も受けていて、1章にはそれを感じさせる作品が並んでいます。 また、竹喬は目指す写実が日本画の素材では十分に達成できないということに悩み 渡欧しました。その結果、東洋画の線の表現を再認識し、江戸時代の南画を改めて学び、池大雅を意識した作品なども作っていったようです。 と、この章の概要はこんな感じです。

小野竹喬 「野之道(蕉翁句意)」
これは竹喬の現存する作品のもので最も早い時期の作品で、栖鳳に入門して3年目に描かれた作品です。「馬ぽくぽく 我をゑに見る 夏野哉」という芭蕉の俳句を主題にしていて、栖鳳から出されたお題によって、この芭蕉の句を題材にしました。白い馬に横向きで座る芭蕉と、傘と蓑を身にまとい馬を引く馬子が描かれています。馬子は背を向けていますが少し上を向いていて、空にはぼんやりとした月が浮かんでいました。全体的にのんびりとした雰囲気が漂っているように思います。また、背景に描かれた木々はコローの絵に出てくる木のような表現で師を介しての影響を感じました。

小野竹喬 「花の山」
桜の花が鮮やかな、街道沿いの崖のようなところを描いた絵です。木の根元に物売りらしき人の姿も観られました。桜の花が小さな点で描かれリズミカルな感じでした。

小野竹喬 「島二作(早春・冬の丘)」 ★こちらで観られます
非常に鮮やかな色合いの2幅セットの作品。左は手前から奥にかけて丘が続き、縞模様のような畑や半円状の丘などが見えます。 右は右上がりの縞模様を描く畑や家、少し斜めに立つ木々など何重もの構成になっているようです。幾何学的で練られた構成にセザンヌの影響を感じるかな。リズム感がありました。

小野竹喬 「波切村」
島の村を描いた4曲1双の屏風です。左隻は港湾と崖、家々、木々などが描かれていて、家の形はセザンヌの絵に出てきそうな感じで、全体的に単純化の雰囲気が漂っています。 右隻は半島のような場所を描いた絵で、奥の海には船の姿が見え、手前の陸地には曲がりくねった階段があり、所々に青い服の人たちが籠や藁のようなものを運んでいる様子が描かれています。その人々が流れを感じさせました。また、傾いだ木々など右上に向かって線がいくつも描かれてたかな。構成が緻密かつ複雑な絵でした。

小野竹喬 「はぐくまるる朝」
これは特集展示Ⅰの後にあったので2章かも。アンリ・ルソーの影響を感じる作品です。海辺で農作業をする人々の様子が描かれ木々の曲線や色がルソーっぽさを感じるのかな。平面的な感じも受けました。

小野竹喬 「冬日帖」 ★こちらで観られます
6枚セットの淡い色彩の風景画です。題材は畑や丘陵と、以前の作品と同じようですが、雰囲気はだいぶ違います。繊細で写実的な表現になっていて、冬景色なのに柔らかい雰囲気すら感じます。これは故郷の笠岡を書いた作品で、当初は池大雅の太い描線を目指したようですが、自身の生来の才能である細かい線に帰結したようです。

<特集展示Ⅰ 竹喬の渡欧>
先述の通り、近代西洋美術と日本画の相容れない部分を解消したいと考えていた竹喬は渡欧し、イタリア、スペイン、イギリスなどを周りました。その際、ヨーロッパ絵画の古典に目を移し、フレスコ画などの表現に日本との共通点を見つけたようです。また、素朴派のアンリ・ルソーを知り影響を受けました。

このコーナーにはコロッセオやピサの町、ボルゲーゼの庭など結構写実的なスケッチがありました。また、同じ栖鳳の弟子で共に渡欧した土田麦僊の作品もいくつかあり、ルノワールの家の絵などもありました。
 参考記事:ボルゲーゼ美術館展 (東京都美術館)

<第2章 自然と私との素直な対話>
ここからは1939年以降の作品です。これまでの南画や西洋画の影響を受けた作品から、大和絵風の作品へと変わっていきます。この頃、身近な人たちの死が相次ぐなど私生活では苦しい時期だったようです。

小野竹喬 「秋陽(新冬)」
54歳の頃の作品です、母、師匠の竹内栖鳳、息子、娘、仲間など相次いで身近な人を失った頃だったようで、相当悲しい思いをしていたのではないでしょうか。この絵は中禅寺湖から日光駅に下る坂道の展望を描いた絵で、血管のように枝が広がる枯れ木が手前を覆い、その向こうにはピンク色に染まった山、薄黄色の山、白に近い薄い紫の空などが見えます。この枯れ木は当時の内面を象徴しているという解説がありましたが、背景の色合いは少し爽やかに感じたかな。

小野竹喬 「奥入瀬の渓流」
単純化・デフォルメされた川の絵です。横に倒れた木が横切る構図で、線で描かれた水などは大和絵風の装飾性を感じさせました。しかし、色合いは薄めなので独特の雰囲気がありました。

小野竹喬 「雨の海」 ★こちらで観られます
横一直線に浮かぶ島と、その前の海が描かれ、海には白っぽい油が浮かんでいます。また、空からは縦に白い線が降り注ぎ、雨が降っているようです。海を微妙な色加減で描き分けていて叙情的な作品でした。

小野竹喬 「夕空」
丸い柿?のなる木と、空を描いた絵です、薄い桃色と水色が混じる空には1つ星が輝いています。タイトルの通り夕暮れ時の風景らしく、郷愁を誘われました。 この辺りには自然描写の作品が多く、若い頃よりもシンプルに単純化された作品が多いように思いました。

小野竹喬 「残照」 ★こちらで観られます
真ん中に栗の木が立ち、背景には燃えるような赤い空がみえます。その赤は仏画の不動明王の光背を髣髴するような色形に思いました。青や緑に染まる空も描かれ、自然への畏怖が込められているとの解説でした。

小野竹喬 「白雨来る」
傾いだ緑豊かな木と力強い白雲、縦に走る線などから夏のお天気雨の様子を描いた作品のようです。風の強さと雨音まで感じられそうな描写で、爽やかです。この辺には木の上部が手前に大きく描かれ、背景には空だけが描かれているという作品が多かったです。

小野竹喬 「池」
水面と水の中に生える水草のみを描いた作品です。波は少しうねり、草は左に揺れているのがわかります。単純化され装飾的な感じで、柔らかく静かな雰囲気をたたえていました。

小野竹喬 「日本の四季 春の湖面」
4枚セットの作品です。それぞれ日本の春夏秋冬の喜びを描いた作品となっていました。まずこちらの作品は、緑とピンクに染まった湖面と、波のような魚群が描かれていました。幻想的な感じです。

小野竹喬 「日本の四季 京の灯」
手前は黒い山で、京都の夕暮れ時の街の景色を描いた作品です。灯りがともり始めた様子が何とも風情があります。4枚のなかで一番好みでした。

小野竹喬 「日本の四季 朝靄」
手前には刈り取られた稲が並び、その奥には藁葺きの家がみえます。背景には靄がかかった山の森が描かれていました。どこか寂しく冬が近づいてきているのを感じる作品でした。

小野竹喬 「日本の四季 川の辺り」
枯れ木と枯れ草、雪、奥を流れる川などが描かれています。まだ寒そうな感じですが緑も少し見られ、春の訪れを待っている様子が伺えました。

小野竹喬 「彩雪」
こちらは最晩年89歳の作品です。この作品を描く25年前に俵屋宗達の水墨画に感銘を受け、水墨画への憧れを抱き、まずは墨彩画(墨絵に淡い色をつけている)で描いた作品です。題材はやはり木と背景の空が描かれ、墨の濃淡で葉っぱなどを表現しています。そこに真っ白で雪も描かれていました。 この作品の後には墨だけの作品を描こうと思っていたようです。 描きたいと思ってもその時点では自分が描くべき絵を描き、25年経ってからやりたかった水墨画にチャレンジしたというのも凄いですが、89歳でまだ新しいことにチャレンジする姿勢は偉大ですね…。

<特集展示Ⅱ 奥の細道句抄絵>
最後のコーナーは松尾芭蕉の「奥の細道」を題材にしたコーナーでした。竹喬の兄弟が松岡子規の孫弟子のようで、竹喬自身も俳句に造詣があったようです。特に芭蕉が好きで、このシリーズを手がけたようです。わざわざ実際に現地まで様子を見に行って描いているようでした(行った時期が俳句に詠まれた季節とズレてたりしたようですが)

小野竹喬 「奥の細道句抄絵 田一枚植えて立ち去る柳かな」 ★こちらで観られます
今回の展覧会のポスターにもなっていた作品です。まず、この俳句の解説ですが、芭蕉が西行の歌に出てくる柳の木を見つけ、それを観ている間に、目の前の田んぼで田植えが1枚分終わっていた という句です。これはそれにちなんだ絵で、青い空と雲が反射する田んぼに植えたばかりの苗が描かれ、画面の右には鮮やかな柳が立っています。水色と黄緑が主体でとても爽やかで、日本の美しい風景の代表のように思いました。

小野竹喬 「奥の細道句抄絵 五月雨をあつめて早し最上川」
奥の細道で一番馴染みがある句も題材になっていました。この作品には最上川の波しか描かれていません。実際にこの絵を描いたのは9月でその時期は水は少ないようですが、波紋などを観てインスピレーションを得て描いたようです。デフォルメされた波がうねり、流れの早さを感じさせる作品でした。


ということで、今更遅いよ!と言われそうですが良い展覧会でした。特に後半の作風は心休まり日本の原風景を感じさせてくれました。国近美の展示もハズレがないですね。

この後、いつもどおり常設展にも行ってきました。
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Comment
No title
:21世紀さんは、やっぱ詳しいですね~。
小野竹喬も知りませんでしたw
ここに出てくる人物などは、ほぼ全部といっていいほど私はしりません^^;なので、いつも貴ブログで勉強させてもらってます♪
Re: No title
青い海さん
コメントありがとうございます^^
> 小野竹喬も知りませんでしたw
そうですねー知らない画家や芸術家ってのは私も数多くいます。
竹喬もこの展覧を観るまであまり知りませんでしたし。
音楽もそうですが、発掘する楽しみがあります^^
またご興味がある記事があったら参考にして頂けると嬉しいです。
No title
「竹橋へ竹橋(竹喬)を観に行ってきた!」に
思わず、パチパチと拍手ですー^^

この画家の画業を俯瞰できて、作品もたっぷり楽しめるいい展覧会でしたよね。21世紀のxxx者さんも書いておられるように、89歳で新しいことにチャレンジできるって本当にすごいなあと思いました。
Re: No title
ちょっと駄洒落みたいですみません^^; 東博に等伯とか、語呂合わせが良い展示が続きましたw
これだけ一気に観られる機会はそうそう無さそうですよね。チャレンジし続ける様子が分かったのもよかったです。
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竹橋の東京国立近代美術館で「生誕120年 小野竹喬展」が開催されている。 1999年に行われた生誕110年、没後20年記念展以来10年ぶりの大回顧展...
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