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ルーシー・リー展 【国立新美術館】

ゴールデンウィークの谷間の金曜日に有給休暇を取って、国立心美術館でルーシー・リー展を観てきました。予想以上に好みの作品が多い内容となっていました。

P1120442.jpg

【展覧名】
 ルーシー・リー展

【公式サイト】
 http://www.lucie-rie.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2010/lucie/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室1E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2010年4月28日(水)~6月21日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(平日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
以前も何度かこのブログでも名前が挙がったルーシー・リーですが、今回の展示は彼女の初期の作品から円熟期まで、様々な作品が並んだ充実の展覧会となっていました。(似たような名前の作品が多いので、念のためご紹介は作品リストの番号つきでご紹介しようと思います。)
 参考記事:
  アートフェア東京2010 (東京国際フォーラム)
  U-Tsu-Wa (21_21 DESIGN SIGHT)

まず、生い立ちなどについての説明がありました。※詳しくは公式サイトでも観られます。
ルーシー・リーは1902年に裕福なウィーンのユダヤ人の家で生まれました。子供の頃に祖母の持っていた古代の焼き物などに興味を持っていたようです。また、この頃ウィーンの街は華やかな芸術の街で、ウィーン分離派などが活躍した時代でした。彼女はそうした芸術の街から少なからず影響を受けているようです。
 参考記事:ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)

やがて成長し、二十歳でウィーン工業美術学校に学びました。最初は絵画を学んでいたようですが、ろくろに魅せられ陶芸を志しました。学校を卒業した後には結婚し、建築家に家をデザインして貰ったりしています(これも展示内容で出てきます) その後、国際的な展覧会などで数々の賞を集めたようですが、時悪く戦争となったために1938年にロンドンに亡命します。ちなみに彼女はユダヤ人だったので、ナチスの迫害の対象だったようです。 まず1章ではそうしたロンドン亡命までの作品が並んでいました。

<Ⅰ.初期-ウィーン時代 1921年~38年>
前述の通り、美術学校に入って勉強していたのですが、陶芸科のミヒャエル・ポヴォルニー教授は素材と技法に精通していて、ルーシーに刺激を与えたと説明されていました。このコーナーには大学の履修登録や修了証、写真アルバムなどルーシーの学生時代の様子を伺わせる品々も並んでいます。
また、ウィーン時代を「ウィーン工房タイプ」「前溶岩釉タイプ」「バウハウスタイプ」の3つに分類し紹介していました。

[ウィーン工房タイプ]
3~5 ルーシー・リー 「鉢」 ★こちらで観られます
こちらはヨーゼフ・ホフマンの影響を受けたウィーン工房タイプの作品です。輪花型器という、上から見ると葉っぱみたいな形をした器で、側面には原色に近い華やかな色彩が施されていました。装飾的な雰囲気があり、深くてたっぷりとした容量ある形も魅力でした。

[前溶岩釉タイプ]
11,7 ルーシー・リー 「花器」「植木鉢」
茶色と水色で複雑な斑模様を作っている力強いタイプの作品です。「溶岩釉」は後の時代にも出てきますが、ざらついた感じの質感が素朴に感じられ、模様が面白かったです。

[バウハウスタイプ]
12 ルーシー・リー 「カップとソーサー」 ★こちらで観られます
赤茶色一色で器が薄く、平べったいカップです。これはドイツのバウハウスのデザインに通じるものがあると解説されていました。ルーシー・リーはこの頃、若い建築家エルンスト・プリシュケに自宅の内装と家具のデザインを依頼していて、その後彼とは仲良くなったそうですが、エルンスト・プリシュケの作風もシンプルで実用的なデザインなのだとか。こうした人脈を通じてシンプルなデザインの影響を受けていたようでした。

この辺には釉薬ノートや自身のポートレート、手紙、エルンスト・プリシュケがデザインしたルーシー・リーの自宅の映像なども展示されていました。


<Ⅱ.形成期-ロンドン時代>
2章はロンドンに亡命して来た時代の作品です、当時のロンドンの陶芸は、東洋に範を置くバーナード・リーチらが主流となっていて、新しい建築様式に触発されたルーシー・リーの作品は相容れず、正当な評価を受けることができませんでした。しかし、ルーシー・リーは新しい技術や様式に目をむけ、研究を続けていたようです。戦時中にはボタン制作の仕事を行い、そこに後の大陶芸家となるハンス・コパーが入ってくるなどの出会いもありました。

R-3 不明 「白磁大壷」
これは朝鮮白磁の壷で、バーナード・リーチがルーシー・リーに贈った壷です。真っ白で大きな壷で、優美さがあります。当時、ルーシー・リーはすでに有名だったバーナード・リーチの元へ仕事を貰いに尋ねて行きました。バーナード・リーチはルーシー・リーの作品を薄くて飾りすぎた高台と批判していたようですが、作品の見解の違いはあったものの2人は非常に懇意となり、この壷も友情の証として贈られたもののようです。ルーシー・リーはこの壷をずっと大事にしたのだとか。お互いの人格が偲ばれるエピソードのつまった壷でした。
この辺には2人のやりとりの手紙なども展示されていました。

24 ルーシー・リー 「白釉蓋付大壷」
先ほどの朝鮮の壷と似た質感の白い大きな壷です。台形の形で優美さがありました。

このへんはずらっと様々なタイプの作品があり、「掻き落しの系譜」「器形のヴァリエーション」「釉薬の変貌」という3つの切り口で展示されていました。

26 ルーシー・リー 「斑文大鉢・小鉢」
円形の器の一部を引っ張ったような歪んだフォルムの器です。中と外には白い肌に縦に伸びた斑点が多々見られます。これは着色剤がにじんだ斑らしく、普通は素焼きしてから釉薬を塗る工程になるのですが、急いで大量の注文をさばいた際に素焼きの工程を飛ばしたところ、釉薬と素地が混じったようなこうした作風が生まれたのだとか。確かに素地と一体化した斑となっていてそれが新しい味わいになっているのが面白かったです。


[掻き落しの系譜]
1950年頃から青銅器時代の土器に着想を得て、「掻き落し」という技法に取り組んだようです。不規則に器の表面の土を削り、素朴な線を生み出す技法で、格子状に引っ掻いたような跡を残したり、手書きで温かみのある作品などが並んでいました。

51 ルーシー・リー 「斜線文鉢」
茶色い鉢に細く白い線が無数に入っている掻き落しの技法が使われた作品です。繊細かつ力強い雰囲気で土器っぽさも感じました。 この辺にはそうした作品がいくつも並んでいました。

[ルーシー・リーのボタン] ★こちらで観られます
1940年に依頼を受けて、戦争中はボタンの制作などをしていたようです。以前のutuwa展でも観たことがありますが、この人のボタンは陶器の研究の成果が現れているように思います。 主に高級衣装店に卸されていたボタンは実に様々で、1部屋まるごとボタンのコーナーとなっていました。陶器やガラスでできたボタンは宝石のような輝きがあり、花や幾何学模様、歪んだフォルム、貝のような形など豊富なデザインとなっています。鏡やブレスレット、チョーカーなどもあって非常に華やかなコーナーとなっていました。見所の多いコーナーだと思います。

[ハンス・コパーとの合作]
ルーシー・リーが44歳の時、工房に26歳のハンス・コパーがボタン作りのアシスタントとして入ってきました。彫刻家志望のユダヤ人の彼は、後に大陶芸家として名を馳せますが、入ってきた頃からどんどん技術を習得していったようです。当時はルーシー・リーの評価は高くありませんでしたが、ハンス・コパーはルーシー・リーを励まし、それによって彼女は元気付けられていたそうです。お互いに影響を与えつつ13年間一緒に作った後、彼は独立していったようですが、ここでは貴重な合作なども観ることができました。
ちなみに、6月末からパナソニック電工 汐留ミュージアムでハンス・コパー展も始まるようですので、そちらも行ってみたいところです。こちらでもルーシー・リーの作品も観られそうです。
 参考リンク:パナソニック電工 汐留ミュージアム ハンス・コパー展 -20世紀陶芸の革新

R-14 ルーシー・リー/ハンス・コパー 「水差しとカップ」
白黒のツートンカラーの水差とカップです。どちらも非常にシンプルな形をしていて、口の部分が白くなっています。この水差しとカップは使いやすいと評判になったそうです。シンプルながらもスタイリッシュで使いやすいという非常に優れた作品のようでした。
この辺にはコパーによるルーシーの頭部の彫像などもありました。


[器形のヴァリエーション]
この頃、器の各パーツを個別に成型し、組み合わせて1つのフォルムを作り出す「コンビネーションポット」の手法を使うようになったようです。これによってより複雑な形で大型の制作が可能となったそうで、ここにはそうした作品が並んでいました。

119 ルーシー・リー 「白釉花器」
広い口に細い首、すらっとした胴といった感じで、ちょっと変わった形をしている花器です。乳白色の色も美しさと色気のようなものを醸し出していました。
この作品の隣には口が少し歪んだものや、近くにはおちょこのような可愛らしい器など、様々な形の器が並んでいて楽しさがあります。


[ウェッジ・ウッドのためのプロトタイプ]
1963年にウェッジ・ウッドから依頼を受けて作成された、大量生産品のプロトタイプが展示されていました。残念ながら採用されることは無かったようですが、作られていたらかなり欲しいと思わせる作品でした。

71 ルーシー・リー 「ブレックファースト・セット」 ★こちらで観られます
空色と白の横縞模様のマットな感じのカップがならんでいました。これがプロトタイプのようです。 凄くシンプルな色と形をしていますが、格調高さを感じさせ、爽やかな印象を受ける器でした。素人目で観ても人気が出そうな感じなんですけどね。何で採用されなかったんだろ??

[釉薬の変貌] ★こちらで観られます
1960年代に泡立った釉薬「溶岩釉」の作品が現れたようです。初期にも似たような作品もあったように思いますが、こちらのほうがクレーターのような穴がぼこぼこ開いてる気がします。他にも様々な釉薬の研究を行っていたようで、釉薬ノートなども展示されていました。

105 ルーシー・リー 「スパイラル文円筒花器」
皿のような広い口を持った花器で、茶色が渦をまくような縞模様を描いている作品です。この作品以外にもスパイラルの鉢や捻りこまれたような器がいくつかありました。素材と技法が合わさらなければこんな模様はできないのでは?と驚きながら観ていました。

108 ルーシー・リー 「溶岩釉鉢」
ぼこぼこと無数の穴が開き、岩石に苔でも生えてるのか??という質感を感じる溶岩釉の作品です。これは焼くときにガスが発生することによって、クレーターのようなものが無数にできるという手法のようです。この質感は力強いだけでなく落ち着きを感じます。ルーシー・リーはこの頃から学校で焼き物を教えることもあったようですが、こうした技術なども惜しげなく教えていたそうです。

この先に映像のコーナーもありました。既に老齢に差し掛かった頃の制作風景を映像に撮ったものです(もしかしたら21_21で観たかも??) 制作の様子だけでなく、彼女の人柄も伝わってくるような内容で、今回の展覧会をよく理解できる内容になっていました。

<Ⅲ.円熟期> ★こちらで観られます
最後のコーナーはどど~んと円熟期の作品がならんだコーナーとなっていました。1967年の回顧展で国内外で高い評価を受け、広まっていったようです。80歳を過ぎた後でも、1990年に病に倒れこの世を去るまで実験と創作を繰り返していたようです。 ここはあらゆるタイプの作品がある凄いコーナーでした。

175 ルーシー・リー 「ピンク線文鉢」
濃い目のピンクの器です。ふちは茶色かな。非常に華やかで縦に走った細い線も美しかったです。この他にも薄いピンクの鉢もいくつかあり、いずれも可愛らしく女性らしい感性を感じることができました。 ★こちらで観られます

159 ルーシー・リー 「青釉鉢」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている鮮やかなコバルトブルーの器です。ふちの部分だけ茶色いのも味わいを感じます。細くなった高台やすらっとした印象など、彼女の作品の特徴が色々と詰まっているように思います。その色の鮮やかだけでもどれだけ釉薬に通じていたのか想像されます。

151 ルーシー・リー 「スパイラル文花器」 ★こちらで観られます
これもスパイラルの縞模様が美しい花器です。首から胴の部分が見事に縞になっていて、製法を聞いても不思議に思えてしまうくらいの出来栄えでした。なお、解説によると、もしルーシー・リーは「美こそ全て」という哲学を持っていたそうです。人と違うことを目指すとか、芸術論などは彼女にとっては無意味で、ひたすら美を求めていたようです。だからこそ、どれを観ても素直に美しいと感じられるのかなと思いました。嫌味が無いまっすぐな美しさのように思います。


ということで、思った以上に面白い展覧でした。製法や彼女の人生についても知ることのできる良い構成だったのも良かったです。焼き物音痴の私でも楽しめましたので、焼き物好きの方ならもっと楽しめる展示だと思います。お勧めです。
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