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生誕120年 奥村土牛 【山種美術館】

先週の土曜日に山種美術館へ行って、会期終了直前だった「生誕120年 奥村土牛」を観てきました。もう終わってしまいましたが、良い展覧会で今後の参考にもなりそうですので、ご紹介しておこうと思います。

P1120764.jpg


【展覧名】
 開館記念特別展Ⅳ 生誕120年 奥村土牛展

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.or.jp/doc/outline_100403_japanese.pdf

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅
【会期】2010年4月3日(土)~5月23日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日10時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会期末だったというのもあってか、結構混んでいました。これだけ良い内容だとクチコミでお客さんが来たのかな。この展示は約70点の作品が展示され、奥村土牛(おくむら とぎゅう)の生涯に渡る作品を観ることの出来る貴重な機会となっていました。

簡単に奥村土牛の経歴をご説明しますと、奥村土牛(本名:義三)は東京の京橋にあった出版社の息子として生まれ、16歳で梶田半古の弟子となりました。梶田半古が亡くなると先輩であった小林古径に師事しますが、中々世の中に認められることはなく、38歳まで院展に入選することはありませんでした。 しかし、入選後は奥村土牛は後に大器晩成と言われるに相応しい活躍を見せていきます。土牛という画号は父が寒山詩の一節「土牛石田を耕す」という言葉から名づけたそうで、その名の通り石のころがる田畑を耕すような精進を続けた人でした。(土牛は丑年生まれで牛好きなので、そこもピッタリな名前かも) 
展覧会の最初には、院展に初めて入選して少し後の初期の作品から展示されていました。ここからは章ごとに気に入った作品を通してご紹介しようと思います。


<第1章 土牛のあゆみ - 大いなる未完成>
土牛は38歳の時、「胡瓜畑」という作品で初めて院展に入選すると、その後続々と入選して、やがて日本美術院の同人に推挙されるまでになっていきます。土牛の作品は彼の人柄が偲ばれそうな優しく清らかな作風が特徴のように思いますが、この章を観ていると色々な作風を研究しながら辿りついているようでした。101歳で亡くなる直前まで描き続けたそうですが、まだまだ自分は若造で、芸術に完成は無いと考えていたようです。

奥村土牛 「枇杷と少女」
これは院展に初めて入選して3年後くらいの作品で、日本美術院の同人に推挙されるきっかけとなった作品だそうです。薄いオレンジのビワが沢山なっている木と、左下に白い服の少女が描かれています。抑制された色彩で描かれていて、落ち着いた雰囲気でした。少女の位置が面白かったです。

奥村土牛 「雨趣」
先ほどの作品より2年前くらいの作品で、赤坂付近の風景を描いたものです。少し高いところから家々の屋根を見下ろし描かれ、上半分は薄暗い灰色の空に覆われています。そこに白い線の雨が降っていて静かな雰囲気を湛えていました。 解説によると、この年 土牛は小林古径の紹介で速水御舟と知り合ったそうで、雨を1本1本描いているこの絵には御舟の写実の影響が観られるとのことでした。
 参考記事:速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)

奥村土牛 「雪の山」
これは先ほどの作品からだいぶ時を経て57歳の頃の作品です。直線が多く幾何学的な雰囲気の雪山が描かれ、所々に木や赤い土のようなものも見えます。ぱっと観た時に、セザンヌみたい!?と思ったら、実際にセザンヌの影響を受けているようです(まんざら私の目も節穴じゃなくて良かったw)
この作品を描いた頃の私生活についても解説されていて、1944年に土牛は東京美術学校の教師となったようですが、太平洋戦争が悪化し、防空壕の中で土牛の母が死ぬという悲しい出来事がありました。そして疎開先の長野に向かう途中に観た菅平がこの絵の題材になっているそうです。 土牛の優しい絵を観ていると忘れてしまいそうですが、相次ぐ戦争の時代を生きた画家であると再認識したエピソードでした。

この辺にはいくつかのテーマのコーナーがありました。

まず、後期印象派やルネサンスの画集が並んでいました。古径がよく買っていたそうで、土牛はセザンヌの画集を貰って気に入ったのだとか。他にもゴーギャンやジョットについてもコメントが書かれていました。

次に、歌舞伎と相撲についてのコーナーがありました。同じ芸道としての歌舞伎や、人生の縮図が見られると考えていた相撲をこよなく愛していたそうです。後のほうには相撲取の絵も展示されていました。

さらに写生や素描のコーナーがありました。きゅうり、ざくろ、バラ、鯉、城などのスケッチなどがあり、後の方に展示されている作品と関係がありそうなものもありました。土牛は描かれるものの気持ちを捉えることに努めたそうで、外観よりも気持ちを重視したと解説されていました。

奥村土牛 「兎」
この作品の辺りは動物のコーナーでした。これは2曲の屏風で、アンゴラウサギと言う珍しい兎が3匹描かれています。(わざわざ世田谷で飼っている人の家に訪ねて描いてきたそうです) 兎たちは伏せていて、赤い目と大きな耳を持ち、真っ白な毛です。その毛のふわふわした表現が素晴らしく、よく観ると毛が1本1本描かれていたのが驚きでした。その毛のおかげでより可愛いく観えました。 なお、この絵の隣にも兎の絵がありましたがそちらは簡略化された姿で、この絵とは異なる表現に思いました。

奥村土牛 「聖牛」
インドから長野のお寺に贈られた白い牛の親子を描いた作品です。横向きで少し上を見上げる母牛と伏せている子牛が、はっきりした輪郭線で描かれています。背景は無く、胡粉を塗り重ねて立体感をだしているそうです。そのせいか、微妙な色の違いがあり落ち着きと気品を感じる牛でした。なお、土牛は丑年生まれのせいか、牛には愛着があったようでよく描いていたそうです。

奥村土牛 「那智」
中央に白い那智の滝が真っ直ぐに下に落ちていく様子が描かれた作品です。解説によると周りのゴツゴツした岩はセザンヌ構成力の影響だそうで、色の数を絞った表現となっています。 力強く荘厳な雰囲気を感じる作品でした。
なお、この絵を描いた年に横山大観が亡くなったそうです。土牛は横山大観に色々お世話になっていたようで、ある時大観に呼ばれてご馳走された時、「絵を描くなら山水でも花鳥でも宇宙を描かないと駄目」と言われたそうです。鳥なら鳴き声が聴こえるようにと教えられたそうで、これが土牛の気持ちを重視した絵に繋がっているようでした。

奥村土牛 「鳴門」 ★こちらで観られます(PDF)
鳴門の渦潮と、背景に金色の島を描いた絵です。薄く少ない色でダイナミックに描かれたように見えますが、実は微妙な色彩の違いを持って細かく渦を描いていました。下絵は作らずに描いたそうです。

この辺りには人物画がありました。舞妓、バレリーナ、姪などで、感情まで表現されていそうでした。

奥村土牛 「浄心」
これは敬愛する師の古径が亡くなった後に中尊寺に行って、祈りをこめて仏像の絵を描いた作品です。印を組んで座る姿で、静かにどこかを観て、見通すような目をした仏が描かれていました。師の死を相当に悲しんだそうです…。

奥村土牛 「茶室」
これは遠近感がぺったりした感じで茶室の内部を描いた作品です。障子の格子など幾何学的な構成の中に、柱の曲線がアクセントになっているようでした。

この辺りには花の絵や相撲取りの絵もありました。

奥村土牛 「輪島の夕照」
オレンジに染まる夕陽が描かれ、岩山の下には家々が並んでいる作品。郷愁を誘われる雰囲気を持った絵でした。

奥村土牛 「水蓮」
オレンジ色の鯉が描かれた白い陶器に水を張り、ピンクっぽい赤色の睡蓮が入れられています。その色彩が綺麗で、水面の透明感の表現が凄かったです。背景は何も描かれていませんが、オレンジがかっていて明るい雰囲気がありました。

奥村土牛 「門」
姫路城の門を描いた作品です(姫路城そのものの絵も少し前に展示されていました) これは木の門の中に見える白壁が描かれているのですが、その壁には長方形の鉄砲穴が開いています。四角の中に四角があって、その中に四角があるという入れ子みたいな構図が面白かったです。実際にこれを写生している様子の写真もあり、確かにこの構図でした。

奥村土牛 「吉野」 ★こちらで観られます(PDF)
今回の目玉作品の1つかな。吉野の桜と背景にそびえる山々を描いた作品で、桜の木は右下に1本描かれているだけです。しかし、緑や青の山にピンク色の雲が流れているような表現で吉野の桜の頃が描かれていました。桃源郷のような雰囲気で柔らかく優しい絵でした。

この辺りには干支をモチーフにした扇子が飾られていました。かなり簡略化されて淡い色彩の十二支で、特に猿が気に入りました。

奥村土牛 「富士宮の富士」
富士山の山頂を描いた作品です。白くなった山に霞むような雲?がかかったように見えます。山の表面には水が垂れたような、うねった線がいくつも描かれ、単に綺麗なだけではなく厳しそうな表情を見せていました。


<第2章 土牛のまなざし - 醍醐の桜と四季折々の草花>
続いて第二会場(と言ってもあまり広くない1部屋です)は草花の傑作がならぶコーナーでした。

奥村土牛 「花菖蒲」「罌粟(ケシ)」
どちらも掛け軸で、並んで展示されていました。「花菖蒲」は少し曲がって伸びる葉っぱと、紫と白の花に気品がありました。「罌粟」の方は少し赤黒い花が力強くも可憐でした。
こうした草花の絵は人を描くように愛しんで描かれたそうです。周りには木蓮や柘榴などの小さめの作品もありました。

奥村土牛 「醍醐」 ★こちらで観られます(PDF)
今回のポスターにもなっていた傑作です。醍醐寺の樹齢150年の枝垂桜を描いた作品で、明るい雰囲気の中、真ん中に桜、背景に白い壁が描かれています。手法はよくわかりませんが、大きな桜の花に色を重ねてぼやかしているような感じなのかな。花が薫るような見事な作品でした。


ということで、色々な作風・手法を観ることのできる内容でした。若い頃には苦労をしながらも精進を続け、巨匠となったその生き様も感じられて素晴らしかったです。この先、土牛の作品への見方もまた違ってくるように思いました。
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Comment
No title
ポスターになっている桜の絵v-252
去年、桜の絵ばかり集めた展覧会で見ました。
この絵が一番印象に残りました。

うっ…その美術館の名前がでてきません…。e-282
Re: No title
パンピーさん
コメントありがとうございます。この桜の絵、素晴らしいですよね。私も以前観た気がするのですが、感動しました。

> 去年、桜の絵ばかり集めた展覧会で見ました。
私はいけなかったのですが、移転する前の千鳥が淵時代の山種美術館の「桜さくらサクラ」展じゃないでしょうか?
正解!
移転前の山種美術館でしたね~。e-68

最寄り駅が恵比寿になっていたので
あれ?あの桜展はどこだった?と
混乱したのでした。

同じ並びに美味しいパスタ店がありましたよ。
店名また忘れています。…e-78
No title
こんにちは
昨日まで現場入ってました(謎)
次は浮世絵です。
Re: 正解!
>パンピーさん
やはり山種でしたか。色んな意味で移転で変わりましたね。
桜展は毎年やっていたのに今年は無かったので、もうやらないのかな。桜のロケーションじゃなくなったのは残念です。

恵比寿も美味しいお店が沢山ありそうですね。私も開拓していこうと思います^^
Re: No title
>σ(^○^) さん
次の浮世絵展も観にいこうと思っています。浮世絵の美味しいところを見られそうで楽しみにしています(><)
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