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阿蘭陀とNIPPON ~レンブラントからシーボルトまで~ 【たばこと塩の博物館】

ご紹介が遅くなりましたが、10日くらい前に渋谷へ行って、たばこと塩の博物館で日蘭通商400周年記念展「阿蘭陀とNIPPON ~レンブラントからシーボルトまで~」を観てきました。前期・後期で入れ替えがあるようで、私が行ったのは前期展示でした。

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【展覧名】
 日蘭通商400周年記念展「阿蘭陀とNIPPON ~レンブラントからシーボルトまで~」

【公式サイト】
 http://www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/1004_event/index.html

【会場】たばこと塩の博物館
【最寄】渋谷駅


【会期】
 前期:2010年4月24日~5月28日
 後期:2010年5月29日~7月2日

 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間10分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらの展覧会は、空いている上に予想以上の内容となっていました。展示作品は多岐に渡りますが興味深い品や素晴らしい作品が多く、こんなのもあるんだ!?と驚くものもありました。展覧会の構成も小テーマで分かれていて、すっきりした流れとなっていました。詳しくは章ごとに気に入った作品を通してご紹介しようと思います。

<プロローグ:南蛮の時代>
日蘭通商400周年記念ということですが、日本とオランダの国交は、西暦1600年にリーフデ号が日本に漂着した際、乗組員を救助したのがきっかけとなりました。その後、1609年に通商関係となり、平戸にVOC(オランダ東インド会社)が置かれました。やがて長崎の出島に移動しますが、VOCは2世紀に渡って西洋に開かれた唯一の窓口となりました。
この章では西洋が「南蛮」と呼ばれた頃の作品が並び、この展覧会のプロローグとなっていました。
 参考リンク:リーフデ号のwiki

「南蛮人来朝之図」
桃山時代~江戸初期に描かれた6曲1双の屏風です。南蛮人が来航した際の様子を伝えるもので、左隻には大きな船、岸には宣教師や船員も描かれています。人種も白人だけではなく黒人も描かれていました。当時の港の様子がよくわかる貴重な作品のようでした。

「桔梗・鳥・霊獣螺鈿蒔絵洋櫃」
ドーム状の宝箱(ファンタジーとか海賊映画で出てくるような宝箱)のような箱です。螺鈿の蒔絵で作られていて、少し褪せていますが七色に光る螺鈿が美しいです。これは輸出用の櫃なのだとか。以前、サントリー美術館で観た蒔絵展にも同じようなのを観たのを思い出しました。(まだブログをやっていなかった頃なので参考記事はありません…)

この辺に東京駅の八重洲口周辺から出土したロザリオなどが展示されていました。八重洲にはリーフデ号に乗っていたヤン・ヨーステンの屋敷があったそうで、そこから「八重洲」という地名が名づけられたそうです。(これはマメ知識になりそうですw) ヤン・ヨーステンは江戸幕府の顧問として仕えた人でした。


<第1章 VOCによる通商> ※詳細紹介ページ
徳川家康の朱印状によってVOC(オランダ東インド会社)と通商関係になった頃のコーナーです。VOCの活動や暮らしぶりが伺える作品が並んでいました。

「VOC紋芙蓉手染付皿」 ★こちらで観られます
輸出用の「VOC」のマークの入った染付皿で、部屋の装飾に使われていたそうです。草花などが描かれ、日本の肥前製と解説されていました。この頃の輸出品と言えば、こうした陶磁器などだったのかな。
 参考記事:日本磁器ヨーロッパ輸出350周年記念 パリに咲いた古伊万里の華 (東京都庭園美術館)

「VOC船タイルパネル」 ★こちらで観られます
こちらは縦6枚×横5枚で合計30枚のタイルで出来た船の絵です。VOCの旗を掲げ、ダイナミックな波を越えてくる様子が描かれています。こちらはデルフト焼で、良い色の染付けでした。

この辺にはガラス玉や陶片、レンガ、お金、朱印状の複製など、当時の資料的な作品が並んでいました。

「出島図」 ★こちらで観られます
出島の全景を俯瞰した感じの絵です。扇の形の島の内部が精密に描かれ、所々に描かれた人の大きさからそんなに広くなかったのが分かります。建物、庭、畑なども見えました。こんな狭いところが世界を知る唯一の場所だったとは・・・。

「蘭船図」
この作品は掛け軸で、鮮やかな色彩のオランダの旗が目立つオランダ船を描いています。よく見ると帆柱や旗に寸法が書いてあって、これによって大きさがわかるそうです。オランダ船を研究していたのかな??

「長崎丸山阿蘭陀人遊興の図」
長崎の遊郭で遊ぶオランダ人が描かれた絵です。オランダ人のために三味線を弾く男と遊女達に混じって、褐色の肌の男が半裸で踊っているようでした(これも外国人だと思います。) 基本的には商館の人達は出島の外に出ることが出来ず、出島は「国立の監獄」と言われていたようですが、たまに外に出てこのように遊んでいたそうです。確かにあれだけの世界じゃ監獄みたいで羽目を外したくなるかも。

「阿蘭陀風説図」
こちらは書簡です。オランダ船は幕府に最新の海外情報を知らせる義務があったそうで、これはイギリスとオランダの戦争がインドまで及んで来ていることを書いているそうです。 後ろの方には通訳たちの署名もありました。 これは江戸東京博物館の所蔵品のようですが、歴史上重要なものなのでは?? ちょっと驚きでした。

「VOC慶長小判」
これは現存するのは世界で5枚しかないという小判で、VOCがバタヴィア(現在のインドネシアのジャカルタ)などで流通させたものだそうです。真ん中にマーク(ライオン?)があり、偽物防止をしているようでした。

<第2章 交流と影響> ※詳細紹介ページ
続いて2章は、交易が進みお互いの国に及ぼした影響を紹介するコーナーとなっていました。日蘭の交流などによって、ヨーロッパでは喫茶の文化や漆器・陶磁器がブームとなったそうです。また、日本においてはオランダ趣味の広がりや、西洋風の遠近法を用いた浮世絵や洋風画が登場しました。他にも金唐革やガラス工芸が人気となり、蘭学が最先端の学問として学ばれるなどの影響もありました。 この章ではそうした影響を垣間見ることができる作品が並んでいました。

伝 荒木如元 「平安福寿図」
荒木如元は長崎派と呼ばれる江戸時代の洋画家です。この絵は赤い竪琴を弾く老人と、洋服を着て木に寄りかかる女性が描かれていて、西洋風の作風となっていました。しかし、どこか東洋風を感じさせ、両方の要素が感じられました。秋田派とも違った感じかな。

この辺にはたばこの博物館らしく、きせるのコーナーがありました。また、ワインボトルや徳利、有田焼やデルフト焼などのティーカップなども展示されていました。

レンブラント・ファン・レイン 「サーベルをあげた自画像」 ★こちらで観られます
この展覧会のサブタイトルになっているように、レンブラントの作品(版画)が何点か出品されていて、1部屋にまとまっていました。これは帽子を被ってサーベルを持った姿の自画像で、白黒の対比を使った細かい表現が素晴らしかったです。

レンブラント・ファン・レイン 「L.W.ファン・コベルノ肖像(和紙刷り)」
何故レンブラントがこのコーナーにあるのか?というと、その素材に日蘭の交易の影響が観られるためでした。これは物書きをしていた人が横を振り向いた感じの肖像で、白黒の銅板画です。解説によると、ドライポイントで描かれた作品だそうで、レンブラントはドライポイントの作品を摺る時に和紙を用いて、端麗な摺りの効果を狙っていたそうです。 絵も良かったですが、まさかそんなところに日本の影響があったとは驚きでした。こういう背景を知ると今後の見方も深くなりそうで面白いです。
この他にも数点、レンブラントの版画がありました。

「色絵金彩傘人物紋皿(日本)」 「色絵金彩傘人物紋皿(中国)」
続いて陶器のコーナーです。当時のヨーロッパでは磁器は作れず、非常に高価でした。やがてオランダでもデルフト焼などが作られますが、日本や中国にそっくりに作られたのだとか。日本や中国は注文に応じて陶磁器を作っていたそうで、この作品などが注文されて作られたものになります。
この作品は、コルネリス・プロンクという人によって描かれた(向こうの人が想像する)アジア風の美女のデザインを陶磁器に描いた作品です。同じ図の日本と中国の作品を見比べられる展示となっていて、日本の方は、着物の遊女と和傘を差す禿?が描かれています。一方、中国の方は構図は同じですが洋風の傘を差しているなど、日本のものと雰囲気がちょっとずつ違いました。(実は中国の方がデザインに忠実らしいです。) どちらも場面自体は似ているのに違いがわかり面白い展示方法でした。

「金蒔絵芙蓉紋短筒」 ★こちらで観られます
葵の紋と唐草模様の蒔絵が入った短銃です。非常に豪華かつ優美で、これだけの蒔絵が観られるとは予想以上でした。これは将軍からの贈答品と考えられているそうです。
近くには金蒔絵のキャビネットなどもあり、キラキラのお宝好きの私としてはテンションのあがるコーナーですw

「青貝細工キャビネット」
洋風のキャビネットです。青貝による美しい青の螺鈿細工が施され、描かれた花の葉っぱがキラキラ光ります。こちらも煌びやかで気品のある作品でした。素晴らしい!

「金唐革屏風」
4曲の金唐革の屏風です。金唐革というのは子牛のなめし革に金箔を貼ってニスを塗り、模様をプレスして手で彩色したものです。これは花と花瓶の模様がパターン化されていました。 今回の展示にはありませんが、日本人はこれを元に金唐紙などを作っていたので、相当憧れていたのではないかなと思いながら観ていました。

「硝子色違蓋茶碗」
ガラス製の可愛いらしい蓋付きの茶碗です。青、赤、緑、黄色の色ガラスで見た目も涼しげで綺麗でした。
この近くにはつい最近にサントリー美術館で観たビードロの手拭いかけに似たものなどもあり、ちょっと内容がリンクしている部分がありました。
 参考記事:和ガラス -粋なうつわ、遊びのかたち- (サントリー美術館)

「フリーメイソンシンボル入り文箱」
これは軽く仰天した作品で、秘密結社で名高いフリーメイソンのマークが入った蒔絵の文箱です。(秘密結社なのに有名でいいの?という突っ込みをしないでくださいw) 光る目、コンパス、羽の生えた砂時計など意味ありげなシンボルが散らされ、螺鈿が施されていました。この作品の隣にもフリーメイソンの小箱があり、いくつか作られていたのかもしれません。こんな所にも日蘭交易の影響があったとは驚きでした。

この章の最後の辺りにはオランダ語の日本地図や、日本語の世界地図などがありました。世界地図はかなり詳細で興味深いです。他には、人の生首の詳細な解剖図や、海の怪物(想像上の生き物)を紹介した本、有名な「解体新書」、天球儀、当時最大級の天体望遠鏡、エレキテル?など様々な学問に関する展示がありました。ここも素晴らしい充実ぶりです。


<第3章 シーボルトと川原慶賀> ※詳細紹介ページ
この辺で私のメモ帳が切れたので、感想はごく簡単になります。3章はシーボルトを題材にした品々と、川原慶賀の絵が並んだコーナーとなっていました。

「?血手術図」
ちょっと作品名の漢字が難しくて読みも分かりませんでした…。これは椅子に座っている人、ナイフを持って手術をする人、患者を押さえつけている人の3人が描かれた絵です。リアルな西洋画で顔をしかめている表情から、当時の手術のつらさが伝わるようでした。
この辺にはシーボルトの肖像画やサーベル、ナイフとフォークなどが展示されていました。ちょっと面白かったのが、禁制の品を持ち出して国外追放になった際の犯科帳までありましたw 

川原慶賀 「人の一生(出会い)」
長崎の絵師、最後は川原慶賀のコーナーでした。「人の一生」というシリーズの絵が何枚か並んでいたのですが、特に気に入ったのがこの絵です。これは桜の木の下の茶屋で、将来の夫婦となる二人が出会うシーンを描いたもので、娘は袖で顔を隠して恥ずかしそうにしていました。ドラマチックで初々しい感じがよく出ているように思います。


<エピローグ:出島の終焉~商館長から領事へ~>
エピローグはちょこっとだけでしたが、開国によって出島の役目も終わったことについて説明されていました。ここは資料っぽいものばかりだったかな。


ということで、予想以上に充実した内容で驚きでした。特に中盤は豪華な作品などもありテンションがあがりました。これだけ良い展示ならもうちょっと宣伝したら良いのにw  私が行った前期はもうすぐ終わりますが、これなら後期も期待できると思います。存分に楽しめました。
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No title
ご紹介ありがとうございます・・って(汗)
詳しい解説すごいです。
Re: No title
>σ(^○^) さん
コメントありがとうございます。300円でここまでとは驚きの内容でした^^
展覧会を快適に見ることができました。ありがとうございます。
No title
すばらしいご紹介ありがとうございます。後期も東京ではあまり見る機会のない資料が出ていますので、楽しんでいただけるのではと思います。機会があれば、是非ごらんください。
Re: No title
>hiraokaryujiさん
初めまして。コメントありがとうございます。
この展覧は素晴らしかったです! あまり知られていないようなので、もっと広まっていけば良いなあと思います。
後期も面白そうですね^^
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たばこと塩の博物館で開催中の 日蘭通商400周年記念展「阿蘭陀とNIPPON」展に行って来ました。 「日蘭通商400周年記念展」=徳川幕府がオランダに貿易許可書としての「朱印状」をはじめて発行してから401年目にあたるのが今年2010年なのだそうです。 今から10
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