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オルセー美術館展2010 ポスト印象派 (感想前編) 【国立新美術館】

先日、速報として評価テンプレートだけ先にご紹介しましたが、先週の日曜日に国立新美術館で「オルセー美術館展2010 ポスト印象派」を観てきました。「空前絶後の世界巡回展」「ベスト・オブ・オルセー」と呼ぶに相応しい、超充実の内容でしたので、記事を前編・後編に分けてじっくりご紹介したいと思います。全10章のうち、今日は1~4章をご紹介します。

P1120887.jpg

【展覧名】
オルセー美術館展2010 ポスト印象派

【公式サイト】
 http://orsay.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2010/orsay/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2010年5月26日(水)~8月16日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
まず、混み具合ですが、速報で書いた通り早くも混んでいました。最前列は列に並んで観る感じです。2列目以降は比較的自由だったのが救いかな。この日は特に入場規制はありませんでしたが、会期が進んで行くに連れてまだまだ人が増えていく可能性もあります。
さて、内容についてですが絵画作品115点のうち60点が日本初公開という貴重な内容でした。日本初ではない作品も、これをまた観られるなんて!という再会もあり品揃えは文句なしです。3年くらい前にも東京都美術館でオルセー美術館展がありましたが、あの時との大きな違いは「ポスト印象派」という括りが今回のテーマになっているように思います。
その「ポスト印象派」というのは何か?という話ですが、これは公式サイトに詳しく書いてあります。
 参考リンク:みどころ(下のほうに解説されています)
あまり馴染みのない括りですが、新印象主義やナビ派に繋がる流れのようでした。その他の流れもいくつかあったので、詳しくは章ごとに解説しようと思います。


<第1章 1886年-最後の印象派>
まずは印象派のコーナーでした。1874年にモネらが始めた印象派展は1886年の第8回が最後となりました。光や空気の表現に心血を注いだ彼らですが、やがて別の新たな画風を模索していくなど、後年は独自の展開も見せていきます。ここには後のポスト印象派にも影響を与えたであろう作品が並んでいました。

エドガー・ドガ 「階段を上がる踊り子」 ★こちらで観られます
奥に踊り子達が練習をしている様子が描かれと、手前に階段を登る踊り子が描かれています。流れるような動きを捉えたように感じる作品で、解説によると写真への興味も感じられるのだとか。華やかな踊り子たちの舞台裏の日常を観るようで、親近感も感じました。

カミーユ・ピサロ 「ルーアンのボワルデュー橋、夕日、靄のかかった天気」
橋の見える川辺の風景です。明るい色調で描かれ、清々しい雰囲気です。あるとき、マティスがピサロに「最も印象派らしい画家」は誰か?と訊いたら、シスレーの名を挙げたそうです。確かにこの作品も印象派らしい絵でした。

クロード・モネ 「日傘の女性」
花畑で日傘を差す女性の立ち姿を描いた作品。ぼんやりとした感じですが、風があるのかスカーフがなびいているのが分かります。全体的に薄いピンクがかった感じや、白い服が清純な雰囲気で、心温まる作品です。この絵は大好きなんです(><)

クロード・モネ 「睡蓮の池、緑のハーモニー」 ★こちらで観られます
日本風の太鼓橋の下の睡蓮を描いた作品で、睡蓮の連作を描いた中では初期のもののようです。現在、六本木ヒルズの「ボストン美術館展」にも太鼓橋の睡蓮の作品が展示されていますが、オルセーの方はまだ具象的な感じがします。全体的に緑に覆われていて、所々にピンクの花が咲いているのが目を引きました。
 参考記事:ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 感想後編 (森アーツセンターギャラリー)

クロード・モネ 「ロンドン国会議事堂、霧の中に差す陽光」 ★こちらで観られます
こちらはロンドンでの連作の1枚です。川の向こうにロンドンの国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)が見えているのですが、全体的に霧で覆われて輪郭線がぼやけています。高い位置に赤い太陽が描かれ、その光が霧や水面にグラデーションを作っていて幻想的な風景となっていました。光を表現したかったモネのうってつけの題材だったのかもしれません。

アルベール・ベナール 「ロジェ・ジュルダン夫人」
これはこの頃のサロン(官展)の作品で、世の中に認められてきた印象派の自由な表現を取り入れた作風です。白いドレスの女性がポーズを決めて立っている様子が描かれ、艶やかな質感のドレスは右に流れるようです。ポーズも気品に満ちていて、流石はサロンの作品といった格調高さを感じました。
この辺にはこの作品を含めて3点のサロンに出品作(いずれも肖像画)が並んでいました。印象派はついにサロンにも影響を与えていた様子が伺えました。


<第2章 スーラと新印象主義>
続いて、2章は点描による新印象主義のコーナーとなっておりました。やはり主役は点描を開発したスーラとシニャックで、彼らの「理論に基づいて描く」という新しい試みが主題となっていました。軽くスーラの変遷も辿れるくらいの充実ぶりです。

ジョルジュ・スーラ 「青い眼の少年農夫(競馬騎手)」
これはスーラの作品ですが、まだ点描ではありません。青い服を着た競馬の騎手がこちらをじっと見つめている肖像で、筆跡があちこちに力強く残っていました。

この辺はスーラの習作がいくつか並んでいました。スーラは縦15cm×横25cmくらいの習作を「クロクトン」と呼んで沢山描いていたようです。

ジョルジュ・スーラ 「『グランド・ジャット島の日曜日の午後』の習作」
超有名作「グランド・ジャット島の日曜日の午後」の習作も何点か展示されていました。この作品は流石に点描っぽくなっていて、川のほとりで座ったり、横になっている人々を描いていました。光と影の表現が見事に描き分けられていました。

ジョルジュ・スーラ 「正面を向いてポーズする女(《ポーズする女たち》の習作)」
点描で描かれた裸婦像も何点か展示されていました。点描は裸婦に不向きだと言われて描いた作品だそうで、これは少し大きめの点で描かれた裸婦像です。その隣にはもっと細かめの点で描かれた作品も並び、その表現を比べることもできました。よく観ると点の大きさ等も変え、補色関係で表現するなど理論に基づいた奥深さを感じられます。

カミーユ・ピサロ 「白い霜、焚き火をする若い農婦」 ★こちらで観られます
印象派のまとめ役だったピサロも、新しい技法を取り入れて点描で描いていた時期があります。手前で焚き火をする母子?が描かれ、煙が風で右へとなびいています。背景には牧草地で牛が草を食べているようでのんびりした雰囲気です。小さな粒のような点で描かれていますが、ピサロらしさを感じる絵でした。

ポール・シニャック 「レ・ザンドリー(河堤)」
新印象主義のもう一人の大画家シニャックの作品です。河とその側の街の風景が描かれ、近くに腰をかけている男性の姿も見えます。この作品も点描で描かれていますが、彼の作品にしては点が小さめで、色彩も印象派のような雰囲気を受けました。まだ早い時期の作品のようでした。

ジョルジュ・レメン 「ハイストの浜辺」
こちらも点描の作品で、砂浜と夕日に染まる海が描かれています。濃い目の色彩で描かれ、赤やオレンジの空が幻想的な風景となっていました。

ジョルジュ・スーラ 「ポール=アン=ベッサンの外港、満潮」 ★こちらで観られます
港にヨットが泊まっている様子を、俯瞰したような構図で描いています。水平線と2本の防波堤が水平方向に伸び、ヨットのマストが三角形を描くなど、幾何学的な要素も取り入れた計算された構図となっているようです。また、この絵は額縁にも青い点描が施されていて、絵の色を引き立てているようでした。

ポール・シニャック 「マルセイユ港の入り口」 ★こちらで観られます
これぞシニャックという作品じゃないかな。港に船が浮かんでいる様子を、ピンクや薄い紫の大きな点で描いた作品で、タイル画みたいな感じすら受けます。どうやら小さい点では色が弱いと考えて、こうした大きな点を使い始めたようです。


<第3章 セザンヌとセザンヌ主義>
3章は近代絵画の父 セザンヌのコーナーでした。後世への影響度はこの人が一番大きいかもしれません。印象派展にも出品するなど、元々は印象派でしたが、後のキュビスムにも繋がっていくような幾何学的な物の捕らえ方を見出した画家でした。(功績はそれだけではないですが長くなるので割愛w)この章では驚くべき代表作も展示されていました。

ポール・セザンヌ 「サント=ヴィクトワール山」
薄めの色彩で描かれたサント=ヴィクトワール山です。一目でセザンヌとわかる特徴が出ていて、山、家、アーチなど幾何学的な要素も盛り込まれていました。

ポール・セザンヌ 「台所のテーブル(篭の静物)」 ★こちらで観られます
これは有名な代表作で、セザンヌの静物の要素が詰まっている絵です。横向き、正面向きなどにおかれた果実や入れ物が描かれ、セザンヌ独特の簡略化された円や幾何学を思わせる形をしています。右上の方の篭はちょっと実際には出来ないようなバランスのようですが、右端にちょろっと描いてある椅子の足で構図のバランスを取っているそうです。かなり計算された静物なようで、この後の時代への影響を考えると非常に重要な意味があると思います。

ポール・セザンヌ 「水浴の男たち」 ★こちらで観られます
沢山の男達が水浴している様子が描かれた絵です。左端には身をかがめて座る男、右端には頭を抱えられて前かがみの男、中ほどには立っている男が2人描かれています。その立っている男の間には背の高い木が描かれ、ちょっと離れてみると木を中心に、男達のポーズと配置が三角形を描いているのが分かります。独特の色合いで輪郭線もしっかりしてセザンヌの魅力がつまった作品でした。

ポール・セザンヌ 「ギュスターヴ・ジェフロワ」
黒い服を着た厳格そうな批評家の肖像です。書斎の机に向かいひじを張って座っているのですが、頭と腕が三角形を描く構図となっています。よく見ると手前に広がる本や本棚など、幾何学的な要素が多い作品でした。

この辺にはピカソやゴーギャンの静物もありました。どうやらキュビスムはポスト印象派ではないようで、ピカソはこれ1枚です。ゴーギャンは5章の主役となっています。

モーリス・ドニ 「セザンヌ礼拝」 ★こちらで観られます
いきなりナビ派のドニの作品ですが、これはセザンヌの後世への影響を示した絵です。ゴーギャンが所有していたセザンヌの静物画を黒い服の男達が取り囲んでいる様子が描かれています。実はこの人たちはルドン、ヴュイヤール、メルリオン、ヴォラール、ボナール、ドニといった画家や画商などで、セザンヌの絵について語っているようでした。「礼賛」に相応しい敬意を受けていたことを感じさせました。


<第4章 トゥールーズ=ロートレック>
ロートレックもポスト印象派なのかと、思いながら観てきました。ここは3点しかありませんでしたが、流石の品揃えでした。
 参考記事:ロートレック・コネクション (Bunkamuraザ・ミュージアム)

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「黒いボアの女」 ★こちらで観られます
これは詳しい解説が無かったのですが、2年くらい前にサントリー美術館で観た時の記憶によると娼婦を描いた絵だったような気がします。腰に手を当てる黒い服の女性が、きりっとした目でこちらを観ています。自信ありげで迫力すら感じました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「女道化師シャ=ユ=カオ」 ★こちらで観られます
ちょっと歳をとった女性がダンスの衣装を着るところを描いた作品です。老いてたるんだ感じの肌をありのままに描くところにロートレックらしさがあります。解説によると、左上に描かれた男性の肖像が彼女を見ているように見え、男の前で着替えをするというのが欲望の渦巻く現実世界を暗示しているようです。また、壁の青、体の白、衣装の黄色、下半身の青、ソファの赤と色がブロックごとに分かれているようで引き合っていました。


ということで、つい2~3年前に来た作品から初めて観るものまで、いずれも劣らぬ一級品です。前半だけでも相当美味しいところを持ってきた感じですが、後半は絵画の歴史を変えたような作品も登場します。次回は後半の5章~10章をご紹介しようと思います。


  ⇒後編はこちら


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Comment
No title
作品の充実度の判定が高いのが良いですね
Re: No title
>みことみさん
コメントありがとうございます。
この展示の内容は半端じゃないです。今まで観た展覧の中でも最高位の充実ぶりでした。
今日(6/20)行ってきました^^
久々に美術館なんかに出向いて
しっかり魅了されて帰ってきました
もともと専門的な知識も無いので
メジャーな人の名前ぐらいしか知らなかったのですが
とても楽しめました^^
特にモネの絵の水の輝きとスーラの点描画が気に入って
カタログ見ながらネットで絵を捜していたら
このブログを見つけましたヾ(〃^∇^)ノ♪
作品を思い出しながら感想楽しく読ませて貰います

Re: 今日(6/20)行ってきました^^
>みずきさん
コメントありがとうございます^^
この展覧会は日本では滅多に観られないような作品ばかりなので、貴重な経験をされたかと思います。
スーラなどは軽く作品の変遷なども分かるくらいだし、近代美術の流れを一挙に知る良い機会かもしれませんね。
楽しい想い出に浸りながら読んでいただけると私も嬉しいです。私はまた行こうと企んでいますw
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