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オルセー美術館展2010 ポスト印象派 (感想後編) 【国立新美術館】

前回の記事に続き、オルセー美術館の感想となります。混み具合などについては前編に書いていますので、読んでいない方は前編から読んで頂けれると嬉しいです。
 前編:オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想前編 (国立新美術館)

今日は後半の5章~10章をご紹介しようと思います。まずは概要のおさらいです。

P1120904.jpg

【展覧名】
オルセー美術館展2010 ポスト印象派

【公式サイト】
 http://orsay.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2010/orsay/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2010年5月26日(水)~8月16日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前半も素晴らしい展示でしたが、後半も煌星の如く名画揃いの内容でした。特にナビ派関連の作品が多かったように思います(私はゴーギャンやナビ派は苦手だったりするのですが、これだけの内容を魅せられたら感嘆と驚きしか出なかったですw) 歴史的なターニングポイントも目の当たりにできる内容でした。詳しくは気に入った作品を通してご紹介しようと思います。

<第5章 ゴッホとゴーギャン>
一時期、アルルで共同生活をしていたゴッホとゴーギャンですが、ゴッホが自分の耳を切り落とすという事件でその生活は破綻しました。ここではその2人を取り上げています。2人とも代表作と言える作品もありました。

まずはゴーギャンから観ました。ゴーギャンも印象派展に参加していた画家ですが、単純で力強い画風へと変化していきました。
 参考記事:ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)

ポール・ゴーギャン 「レ・ザリスカン」
紅葉した木々と、背景に見える建物に向かう道が描かれ、道には3人の人たちがこちらに歩いてくるようです。人々の上にある木の色がゴーギャンらしい明るいオレンジ色で、色彩の力強さを感じました。

ポール・ゴーギャン 「《黄色いキリスト》のある自画像」 ★こちらで観られます
これはタヒチに向かう数ヶ月前に描かれた作品で、左側に目を向ける自画像です。背景には自らの作品である「黄色いキリスト」(左側)と「グロテスクな頭の形をした壷」(右側)が描かれています。この2つの絵は自分自身の中の天使と悪魔を象徴しているようで、文明社会との決別への決意も込められているそうです。心なしか自身の顔は厳しい表情に見え、意思の強さを感じました。

ポール・ゴーギャン 「タヒチの女たち」 ★こちらで観られます
これはかなり有名な作品かな。砂浜で座る2人の女性が描かれています。左は片手をついて足を伸ばす赤と白のパレオ(スカートみたいな民族衣装)の女性で、目をつぶって波の音でも聞いていそうな感じです。右はピンク色のワンピースの女性で、手で何かを編みながらチラっと右の方をみています。解説によると、左の女性の曲線と、右の女性の丸みが響き合っていて、背景の水平線が効果的とのことでした。 色の鮮やかさと素朴な雰囲気が生命感を感じさせるように思いました。

続いてゴッホです。西洋画にあまり詳しくない方でも知っている画家だと思いますが、日本ではモネなどに比べて観る機会が多くないので、これだけの作品が一気に観られるのは貴重でした。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ」
通りにあるレストランを描いた作品です。薄い色合いでまだ強烈な色彩は見られません。 印象派っぽい雰囲気があり、影響を感じさせる作品でした。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「アルルのゴッホの寝室」
この作品は3年前くらいのオルセー展(都美)で観たものと同じじゃないかな? 似た絵が複数あり、これは3つ目のバージョンらしいです。強調された遠近法で描かれたゴッホの寝室で、その表現には浮世絵からの影響が観られるそうです。青い壁や黄色い家具などから、非常に明るく伸びやかな印象を受ける作品に思います。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「自画像」 ★こちらで観られます
暗い青地を背景に、明るい色彩で描かれた自画像です。顔の所々に緑などが使われ影を表現しているのかな。塗り重ねられた絵の具が非常に力強く、筆跡がよく分かりました。ゴッホのエネルギーが伝わってきそうです。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「星降る夜」 ★こちらで観られます
今回の展示で特に気に入った作品の1つです。夜の街と川、そしてその上に光る星が描かれています。星は柄杓の形で、大熊座の北斗七星であることがはっきりわかります。また、川には街の灯が反射して縦に長く伸びていて、手前には男女が寄り添っている様子も描かれていました。 ぼや~っと光る星と恋人達が何ともロマンチックです。静かで温かみがあり、ほっとする風景でした。これは心を掴まれました。

<第6章 ポン=タヴェン派>
ポン=タヴェンというのはブルターニュ地方の地名です。ポン=タヴェン派って何だっけ?と思いましたが、ゴーギャンとベルナール、そして後のナビ派への流れのことのようです。(綜合主義と同じかな?) 解説によると平坦な色面に強い輪郭線を持った「クロワゾニスム」という手法が特徴のようでした。

エミール・ベルナール 「日傘を持つブルターニュの女たち」
水辺で日傘を差して座っている女性と、周りにいる人々を描いた作品です。解説によると装飾的で平面的に描かれ、ステンドグラスのように色が区切られているようです。しかし、私としてはそんなことよりも目が行ってしまうのは、後ろで赤い傘を差している青い顔の女性で、顔の前にある傘の柄より左側の顔は描かれておらず、心霊写真みたいな感じでした。ちょっと違った意味で記憶に残るw (それについての解説は特に無かったです)

エミール・ベルナール 「愛の森のマドレーヌ(画家の妹)」 ★こちらで観られます
森の中で横たわっているベルナールの妹の姿です。青い服を着て、夢見るような顔をして眠っているように見えます。背景に描かれた木々と比べると妹は巨人のように大きく描かれていて、そのせいか彼女が特別な存在のように感じられ、大らかで優美な雰囲気に思いました。3年前にも観ましたが、何度観ても不思議な感覚になる作品です。


<第7章 ナビ派>
続いて、ナビ派のコーナーです。解説によると「ナビ」というのはヘブライ語で預言者を意味する言葉で、象徴主義的な精神を持っていたようです。また、平坦な色面を多用した装飾的な画面が特徴であるとも説明されていました。

ポール・セリュジエ 「護符(タリスマン)、愛の森を流れるアヴェン川」
観た感じ、力強い色で描かれた抽象画のように見えますが、これは歴史的な1枚です。作者のセリュジエはポン=タヴェンでゴーギャンに指導を受けてこの絵を描き上げました。黄色、赤、青などの色の面で描かれた風景画で、この絵がきっかけで自然の色の束縛から脱したそうです。「護符」といタイトルは、この作品によって結成されたナビ派のお守りという意味が込められているようです。この1枚がナビ派を作った・・・ そう考えると正に歴史的名画です。

モーリス・ドニ 「ミューズたち」
これはナビ派が苦手な私でも流石に感動した1枚です。木の下で椅子に座る3人の女性、左の木の背後に隠れた2人の女性、右に4人の女性、背景にわずかに見える1人の女性、というように合計10人の女性(女神の化身)が描かれています。解説によると装飾的でアラベスクを成す曲線があるとのことで、左下の方は絨毯の模様のようになっていました。神秘的な雰囲気と装飾性がマッチして素晴らしかったです。しかもこれは23歳の頃の作品と知って驚きました。

ピエール・ボナール 「白い猫」
これはある意味驚きの作品w タイトルの通り白い猫が描かれているのですが、足が異様に長く首が寸詰まりになっていますw ちょっと見た目は怖いですが、すらっとした印象も受ける作品でした。

ピエール・ボナール 「格子柄のブラウス(20歳のクロード・テラス夫人)」 ★こちらで観られます
白い猫を抱きながら食事をする女性の像です。女性は赤い格子柄の服を着ていますが、皺などは簡略化され平面的に見えます。解説によるとこうした遠近法の喪失は日本美術からの影響だそうで、「日本かぶれのナビ」と呼ばれたボナールらしい作風かもしてません。

フェリックス・ヴァロットン 「ボール 《ボールで遊ぶ子供のいる公園》」 ★こちらで観られます
画面の真ん中あたりで茶色と緑に大きく色が分かれ、日と影も強く表現された作品です。手前でボールで遊ぶ子には光があたり、背景の2人の人たちは影の向こうの緑の中に浮かぶように立っていました。幻想的な雰囲気すら感じました。


<第8章 内面への眼差し>
このコーナーはナビ派と象徴主義の混じったコーナーで、画風は様々です。何故かクノップフやハンマースホイなど別の流れの作品もありました(内面への興味関心という意味で象徴主義との類似が見られるようです)

オディロン・ルドン 「目を閉じて」
ルドンが黒の時代から色彩の時代に移る頃に描かれた薄い色彩の作品で、水面から首だけ浮かんでいるように見える肖像です。目を閉じて静かな表情を浮かべている人物ですが、どこか神秘的な雰囲気を持っていました。

ギュスターヴ・モロー 「オルフェウス」 ★こちらで観られます
八つ裂きにされ川に流されたオルフェウスのその後のストーリーを創作して描いた作品だそうで、女性が頭と竪琴を拾い上げ、抱えている様子が描かれています。女性は非常に精密に描かれた服を着ていて、目を閉じているように見えますがオルフェウスの方に顔を向けています。恋人を見るような感じにも見え、細かく描かれているのに幻想的な風景となっていました。モローは大好きな画家ですが、この流れで出てくるとは思わなかったw

エミール・ベルナール 「象徴的な自画像(幻視)」
少し後ろを気にしているような自画像で、背景には赤で描かれた無数の裸体の男女が描かれています。背景の真ん中には女性の顔が浮いていてちょっと怖いw 誘惑と戦ってるのかな?と勝手に想像してみたり。


<第9章 アンリ・ルソー>
ここはルソーだけのコーナーでした。2点しかありませんが、今回の展覧会の中で特に注目すべき作品もありました。 独学で学んだ素朴派のルソーもポスト印象派に含まれるのかな??

アンリ・ルソー 「戦争」 ★こちらで観られます
結構大きな作品です。空を駆ける黒い馬にまたがる白い服を着た戦いの女神が描かれ、手に剣と煙を吐くたいまつを握っています。馬の乗り方や物の持ち方がちょっと妙な感じw その下の地面には無数の戦死者が描かれ、カラスに食べられている者もいます。ちょっと残酷な感じもしますが、作風と背景の茜色の空のせいか、童話の中の世界のようにも思えました。 不思議な雰囲気を持った作品でした。

アンリ・ルソー 「蛇使いの女」 ★こちらで観られます
今回の展覧会は素晴らしい作品ばかりですが、その中でもこれは目玉作品と言えると思います。左半分には白い月の下の湖畔で笛を吹く黒い女性、右半分にはうっそうとしたジャングルが描かれ、笛に誘われた蛇が木の枝に巻きつきながら女性の方へ顔を向けています。大きな画面からは音が伝わってきそうなくらいオーラが出ていて、神秘性と幻想性を感じました。また、細かく描かれた植物からは彼の植物への愛着が伺えました。


<第10章 装飾の勝利>
最後の章はナビ派による室内装飾、主に壁画のように大きな室内装飾画のコーナーでした。部屋中を囲まれた風景は圧巻です。

ケル=グザヴィエ・ルーセル 「人生の季節」
緑の山を背景に4人の女性が描かれた作品です。右の2人は若そうで、右から2番目の白いドレスの女性は特に目を引きます。 それに対して左の2人は年をとっていて、一番左は白髪の老婆で腰掛けています。タイトルから察するに人生の盛衰を描いたものかな? 背景の山のせいか、どこか現実離れした象徴的な風景に思えました。

エドゥアール・ヴュイヤール 「公園 子守、会話、赤い日傘」 「公園 戯れる少女たち」「公園 質問」 ★こちらで観られます
これは食堂に飾るために作られた5枚セットの壁画のような作品です。(元は9枚だそうです)  右の3枚は公園の様子が描かれ、子供たちが遊んだり、女性達がおしゃべりしたり、赤い日傘の女性が木陰で休んでいる様子が描かれています。奥に見える緑の柵によって連続した繋がりであることがわかります。 そして左の2枚は、子供が遊んでいるのを親が面倒を見ているような絵でした。 装飾的で華やかな雰囲気が漂っていて、この作品も日本美術の影響を受けているようでした。
ナビ派はこうした室内装飾にも積極的に取り組み、注文に応じて制作していたようです。


ということで、近代美術の大まかな流れが分かる上、質・量ともに圧倒的な内容でした。そのため観るのにたっぷり2時間半ほどかかりましたw 私の観るのが遅いというのもありますが、会場は混んでいますので、今後行かれる方は焦らず観られるだけの時間を確保しておくことをお勧めします。 これだけの展覧会は滅多にないと思いますので、準備万端で挑みたいものです。
これからTVや雑誌で取り上げられるとさらに混むと思われますので、気になる方はお早めにどうぞ。私はリピート確定ですw

なお、5/31~6/6の間にオルセー美術館展、ボストン美術館展、マネ展の3つを周るスタンプラリーがあるようで、期間中に全部回ると特製のエコバックがもらえるそうです。(他にもその期間中には様々なイベントもあるようです。)
 参考記事:
  マネとモダン・パリ (三菱一号館美術館)
  ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 感想前編 (森アーツセンターギャラリー)
  ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 感想後編 (森アーツセンターギャラリー)
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