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日本赤十字社所蔵美術展 -人道と平和への想い-【千葉県立美術館】

前回ご紹介した千葉県立美術館の所蔵品展を観た後、そのまま「日本赤十字社所蔵美術展」も観てきました。(同じチケットで観られました) この日本赤十字社所蔵美術展は既に終了してしまいましたが、中々素晴らしかったので一応ご紹介しておこうと思います。

P1120830.jpg

【展覧名】
赤十字思想誕生150周年記念
日本赤十字社所蔵美術展 -人道と平和への想い-
 ~あなたに届けたい、「人道」への想い~

【公式サイト】
 http://www.chiba-muse.or.jp/ART/special/100501red_cross/index.html
 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/houdou/100416_2.pdf (pdf)

【会場】千葉県立美術館
【最寄】JR京葉線・モノレール 千葉みなと駅
 

【会期】2010年05月01日~05月30日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間45分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展示も空いている中でじっくり鑑賞することができました。展示室も広く、2部屋に分けて展示されていました。

サブタイトルにある通り、今年は赤十字の思想が生まれて150周年となります。赤十字は、イタリア統一戦争の際、激戦だったソルフェリーノの戦いの中でアンリ・デュナンによって考えられたもので、戦地で敵味方関係なく救助していた彼に何故か?と問うと「人類はみな兄弟」と答えたそうです。そして、そうした彼の行動と思想が赤十字誕生のきっかけとなっていきました。 (後に第1回ノーベル平和賞を受賞しています)
 参考:アンリ・デュナンのwiki

今回の展覧は、そうしたアンリ・デュナンや赤十字の「人道」の思想に共感した芸術家からの寄贈作品によって構成されていました。中には赤十字に直接関係のある作品もあったので、詳しくは気に入った作品ごとご紹介しようと思います。

<第8室>
東郷青児 「ナース像」 ★こちらで観られます(PDF)
黒めの服に黒帽子で、白地に赤十字の腕章やワッペンをつけ、背中に荷物を背負ったナースの肖像です。東郷青児が得意とする美少女と同じように柔らかい表現で描かれています。しかし、このナースの目はきりっとしていて決意を秘めているような表情でした。

東郷青児 「ソルフェリーノの啓示」
こちらも赤十字に相応しい作品です。先述の通り、ソルフェリーノはイタリア統一戦争の激戦地で、アンリ・デュナンが赤十字の思想を生んだ地です。 この絵は、無数に折り重なるように倒れている兵士の中で、アンリ・デュナンが兵士たちを抱きかかれて救助している様子を描いていて、アンリ・デュナンは一際大きく描かれています。また、画面の左側には大きな3体の天使(女神?)が手を差し出して流麗な体の曲線を描いていました。兵士などはリアルに描かれているのですが、天使やアンリ・デュナンは東郷らしいデフォルメされた画風となっていて、2つの画風が共存しているのが面白かったです。 ・・・というか、この作品はちょっと怖いくらいの迫力とオーラがありました。これまで観た東郷青児の作品の中でもかなり気に入りました。

パブロ・ピカソ 「アトリエの画家」
これはピカソの晩年の作品です。椅子に腰掛けて絵を描く画家と、モデルらしきものが描かれています。かなり簡略化されていますが、ピカソのこの時期にしてはわかりやすいかもw。青い人物や、緑のキャンバス、ピンクの背景など、色彩が豊かでした。

足立真一郎 「白馬風景」
非常に明るい緑の森が描かれた絵で、背景に雪の積もった白馬も見えます。絵の具が厚塗りされているようで、色の爽やかさに加えて軽快な感じも受けました。

荻須高徳 「僧院の回廊」
曲線を描く柱が並ぶ僧院の回廊を描いた作品です。規則性がありそうで、リズミカルな印象を受けます。外に面しているのか、意外と明るめの雰囲気でした。それにしても、荻須高徳の作品だいぶ久々に観た気がします。結構好きなので、思いがけず観られて嬉しいです。

小磯良平 「集い」 ★こちらで観られます
楽器を持った人など7人の人たちが部屋に集まっている様子が描かれた作品です。特に、背を向けて立ち帽子を背負っている女性が目立ちます。丁度この人を中心に、左右の壁の色に明暗が出来ているのが面白かったです。皆で演奏会でもしてたのかな? ちょっと楽しげな雰囲気も感じました。

鈴木信太郎 「椅子にのる人形」 ★こちらで観られます
椅子の上に置かれた4体の西洋人形を描いた作品です。画面に大きく描かれた椅子が、人形達のステージのように見えます。また、背景や絨毯の幾何学的な模様(アラベスク模様?)の色彩が響きあい、アンリ・マティスの作風に通じるものを感じました。

藤田嗣治 「佛印メコンの廣野」
一見、藤田と分からず驚いた作品。広野と暗めの青い空が写実的に描かれ、手前から伸びる道を2人の人が歩いている様子も見えます。広々とした感じがするけど、ちょっと寂しげな感じもしたかな。1944年の作らしいので、従軍画家の頃の戦争記録画かな?

増田誠 「オンフルール」 ★こちらで観られます(PDF)
港湾の船の上から港町を見たような視点の絵です。周りにヨットが停泊していて、背景には背の高い家々がひしめいています。水面に写った建物など、細かく緻密に描かれているようで、適度に簡略化しているようにも思えます。題材のせいかもしれませんが、都会的な印象を受ける作品でした。 結構、幾何学的な要素も多かったかな。

この部屋の中央には陶器のコーナーもありました。陶器は少なかったのでご紹介は割愛w

<第3室>
ヒロ・ヤマガタ 「獣医さん」
直線的でデフォルメされた町並みを、非常に多彩で明るい色で描いた作品です。人々がごったがえし、看板もあちこちに描かれています。絵の下の方では、沢山の犬や猫が道を走っていて、白衣の人(獣医さん)が追いかけているようです。上部には飛行船のついた自転車を漕いでいる人がいたりして、町はお祭りのような賑わいを見せています。また、右端の方では警官達が水着の女性のおしりのポスターに見とれているなど、ちょっと笑えるシーンもありました。 見るところが多く、玩具箱をひっくり返したような町の様子が微笑ましい作品でした。

南城一夫 「釣り人(「南城一夫石版画集」所収)」
この辺には岡田三郎助の弟子である南城一夫の作品が数点並んでいて、これはその1枚です。凍った水面の上で、マフラーをした男性が氷に穴を開けて釣りをしている様子を淡い色彩で簡素に描いています。釣糸の先には水中の様子が見え、群がる魚達も描かれていました。実際にはありえない視点ですが、ちょっと漫画みたいで面白かったです。

東山魁夷 「晴れゆく朝霧」 ★こちらで観られます
山の森に白いもやが立ち込める様子を描いた作品です。もやの表現は流石で、手前の木と奥の山の間に流れるもやは、本物のような浮遊感を感じました。また、右下には白い滝の流れも見え、静かな中に滝音まで聞こえてきそうでした。

この辺にも陶器のコーナーが少しありました。

<併催企画 写真展『OUR WORLD AT WAR~」「戦い」を生き抜く人々~』(グループⅦ )>
最後は写真のコーナーでした。これは2001年にニューヨークで7人の写真家によって結成された「Ⅶ」というグループの写真展で、戦争の被害を受けた地域の写真が展示されていました。片足を無くした人々が松葉杖を付いて砂地でサッカーをする写真、無力感に打ちひしがれている老女の写真など、結構胸に来るものがありました。

休憩室には赤十字の活動の様子が7~8分の映像で紹介されていました。こういう人たちのお陰で我々は安心して暮らせるんですね。本当にありがたいことです。


ということで、そんなに点数は多くありませんでしたが中々満足できる内容でした。立派なパンフレットも貰えたのですが、そこには今回の展覧に出ていた画家の略歴などが描かれていたのも嬉しかったです(作品に関する説明はほぼ無し) コレクション展やこの美術館自体の建築も良かったし、千葉県も侮れないものです。コレクション展と特別展以外にも、無料で観られる「第55回二科会千葉支部展」(既に終了)という一般の方の展示も観てきましたが、そちらに関しては感想は割愛します。

そして、この後に千葉市美術館にハシゴして以前ご紹介した「伊藤若冲 アナザーワールド」を観てきました。 ・・・行った順とご紹介の順が完全に逆になってますw

 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
これはまた見応えのある美術展ですね。
気になる陶芸家の多いこと・・・。
終わってしまって残念です。
Re: No title
>きぼう丸さん
会期末ぎりぎりに行ったので、終わってからのご紹介となってしまいました。
そんなに期待していなかったのですが意外や意外、面白い作品が結構ありました。

検索にかけると、3月くらいに銀座のミキモトホールでもやってたようですので、関東辺りを巡回してるのかもしれません。
http://www.ginzanews.com/headline/5809/

赤十字のサイトにもどこを周るとか載っていないので今後も巡回するかは不明です…。
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