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ナポリ・宮廷と美―カポディモンテ美術館展 ルネサンスからバロックまで 【国立西洋美術館】

10日ほど前の土曜日に、国立西洋美術館で「ナポリ・宮廷と美―カポディモンテ美術館展 ルネサンスからバロックまで」を観ました(前々回前回とご紹介した常設はこの後に観てきました。) 

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【展覧名】
 ナポリ・宮廷と美―カポディモンテ美術館展 ルネサンスからバロックまで

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/capo2010/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/current.html#mainClm

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)
【会期】2010年6月26日(土)~9月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
初日に行ったのですが、そんなに混むこともなく自分のペースで観ることができました。展示作品は80点程度で、今回は下の階には行かないルートでした。

内容は、この展覧会はイタリアのナポリにあるカポディモンテ美術館のコレクションを展示したもので、特に揃えの良いルネサンス期からバロック期をテーマにしたものでした。カポディモンテ美術館の始まりは、ファルネーゼ家とブルボン家のコレクションが元になったそうで、その充実ぶりに文豪のゲーテなどもこの美術館に訪れたこともあるそうです。今では国立の美術館となっていますが、当時の王侯貴族が集めた貴重なコレクションを垣間見ることができました。詳しくは気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。

なお、今回の解説機はペンタイプのもので、解説機用のパンフレットにセンサーを当てると聞けるようになるやつでした。小さな写真が30点程度もついてるのがちょっと嬉しいw

<第1章 イタリアのルネサンス・バロック美術>
この章は主にファルネーゼ家が集めたコレクションが中心で、ルネサンス~バロックに入る頃までの作品が並んでいました。(ファルネーゼ家の繁栄や名声、教養の高さを誇示するために美術品が集められたようです。) 解説によるとファルネーゼ家はミケランジェロやティツィアーノ、エル・グレコらと深い繋がりがあったそうで、ティツィアーノとエル・グレコの作品も観ることができました。

グリエルモ・デッラ・ポルタ 「パウルス3世胸像」
カポディモンテ美術館の礎を築いた人の胸像で、この人が教皇の位についたことでファルネーゼ家が栄えたそうです。どうやら未完成らしくノミの跡などが残っていますが、くっきりとした骨や結んだ口から威厳を感じると解説されていました。なお、この作品の作者はミケランジェロの紹介でファルネーゼ家に取り入ったのだとか。

コレッジョ(本名:アントニオ・アッレーグリ) 「聖アントニウス」
少し首を傾げた感じで口をあけている聖アントニウスの肖像です。これはコレッジョの初期の作品らしく、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響が観られるようです。解説では、人物が背景に溶け込む点などが影響として挙げられていました。(今回は特に解説機を借りて良かったw)

ベルナルディーノ・ルイーニ 「聖母子」
これはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品と考えられていた作品です。左手で胸の辺りを押さえて静かな表情を見せるマリアと、マリアの右手に抱かれる裸の赤子のイエスが描かれています。柔らかく陰影がつけられていて、イエスの肉体の表現が優美に感じられました。

ダニエレ・ダ・ヴォルテッラ(本名:ダニエレ・リッチャレッリ) 「若者の肖像」
石板に描かれた若者の姿です。厳格そうな顔でこちらを観ていて、リアルな表現に思いました。それにしても、襟や隅の部分が灰色になっているのは下地かな??(近くで観てもよくわかりませんでした) 

ジョルジョ・ヴァザーリ 「キリストの復活」 ★こちらで観られます
白地に赤の十字の入った旗を持つキリストが走っているような姿で描かれ、画面の下の方では驚いた番兵たちが倒れたり慄いています。走りながらサインを送るキリストが私には目新しかったw 解説によると、この旗は死んで3日後に復活した証だそうです。また、この作品にはヴァザーリの他にフレスコ画家の共同制作者がいたと考えられているそうで、番兵を描いたのはその共同制作者だろうとのことでした。

エル・グレコ(本名:ドメニコス・テオトコプーロス) 「燃え木でロウソクを灯す少年」 ★こちらで観られます
燃えた木に息を吹きかけている少年の像です。背景は真っ暗で、手元から光が出ている様子が見事に表現されていました。光に照らし出された少年の顔から、ふーっと息をかけている感じが伝わってきます。 なお、エル・グレコの名前はスペイン語で「ギリシア人」を意味するそうです。今まで何枚もエル・グレコの作品は見ていますが、そんな意味だとは初めて知りましたw

パルミジャニーノ(本名:フランチェスコ・マッツォーラ) 「貴婦人の肖像(アンテア)」 ★こちらで観られます
名品中の名品と名高い作品で、今回のパンフレットにもなっています。左手でお腹のあたりを押さえて立つ女性の肖像で、頭にはルビーの髪留め、耳には真珠、肩から獣(テン)の毛皮、光沢のある金地に線の入った服などを身にまとっていて、どれも質感豊かに描かれていました。 解説によると、モデルは高級娼婦とも花嫁とも理想化された女性とも言われているようです。 また、ちょっとだけ右肩が前にせり出しているのはルネサンスからマニエリスムに向かっていることを示しているとのことでした。
ルネサンス⇒マニエリスム⇒バロックという流れの始まりかな。この後はどんどん動きや誇張が強くなっていくように思います。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「マグダラのマリア」 ★こちらで観られます
スポットライトが当たったような光の中、上を仰ぎ見て右手を左肩にあてるマグダラのマリアの姿が描かれています。背景は荒野で奥行きがあるのですが、この荒野はマグダラのマリアが30年間の悔悛生活を送ったことに由来しているそうです。また、マグダラのマリアの手前にある本やドクロも内省を示し、香油はキリストの足に香油を塗ったことに由来するようでした(香油はわかったんだけどなあw) 理想化された姿だとは思いますが、どこか実在の女性のような雰囲気も感じました。着ている服の皺や質感は流石でした。

この辺にはイノシシを背負う男性の彫刻や、ファルネーゼ家のマークの入ったお皿、杯や小箱、時計などの調度品も並んでいました。

アゴスティーノ・カラッチ 「毛深いアッリーゴ、狂人ピエトロと小人アモン」 ★こちらで観られます
この作品はお抱え画家であったカラッチ兄弟(の兄)によるものです。カラッチ兄弟はバロック様式の確立に足跡を残した画家であるので、ファルネーゼ家はバロックの立役者とも言えるそうです。
この作品は左から道化師のような男、赤ひげが生えているライオンみたいな顔の男、顔をしかめている男 という3人の男達が並び、その周りには犬や猿、オウムなどの動物が描かれています。解説によると、男達はどこか動物的で、動物達は知能の高い犬などが集まっていることで人間と動物の境界のような感じがあるようでした。・・・確かに中央の男の膝の上でこちらを見ている犬が一番賢そうw ポーズに動きを感じるあたりがバロックに向かっているように思います。

アンニーバレ・カラッチ 「リナルドとアルミーダ」 ★こちらで観られます
こちらもカラッチ兄弟(の弟)の作品です。美しい青衣を着た女性(アルミーダ)と、女性にもたれかかって鏡を持つ男(リナルド)が描かれています。2人のポーズが気だるく官能的に思います。 実はこの女性は魔女で、男は魔女の敵であった騎士のようですが、魔女に魅入られ骨抜きになってしまったそうです。また、その2人の左には、兜を被った2人の兵士がその様子を覗き見ているのが面白く、男を連れ戻しにきたのかな?とストーリーに引き込まれる感じがしました。

バルトロメオ・スケドーニ 「キューピッド」 ★こちらで観られます
夜の川と森を背景に、木に矢筒をかけ、その前で身を横にして休んでいるキューピッドの姿が描かれています。身をよじって口に手を当てて物思いに耽っているような表情を浮かべていました。いつも無邪気なキューピッドをこんな表情で見せるとは面白いです。

グイド・レーニ 「アタランテとヒッポメネス」 ★こちらで観られます
ヒッポメネスという男性が投げた金の林檎を、アタランテという女性が足元から拾おうとしているようすが描かれています。アタランテの手にはもう1つの黄金の林檎があるのですが、これは林檎拾いをしている絵ではありません。命を賭けた徒競走をしている様子が描かれていますw このアタランテは絶世の美女で俊足の持ち主なのですが、求婚者が現れると、競走をして相手が勝ったら結婚、負けたら殺すという過酷な条件を出していたようです。何人ものチャレンジャーが散っていったそうですが、ヒッポメネスはビーナスから秘策として黄金の林檎を3つ貰い、抜かれそうになったらこれを投げて気を逸らせと言われたそうで、今まさに2個目を投げたのがこの絵となっています。アタランテは走っている方向と逆に踏み出して拾ってるところがちょっと可笑しかったです。全力で釣られてますw ヒッポメネスは一生懸命走っているせいか翻る衣やポーズが劇的でした。
・・・それにしても、「3枚のお札」みたいでちょっと怖さもあるストーリーです。林檎を持ってても、スタートした瞬間に抜かれたらどうするんだろw 

<第2章 素描>
このコーナーは素描が14点ほどありました。ルネサンスの頃には素描も芸術作品と見なされていたようです。気に入った作品は特に無かったのでご紹介は割愛。

<第3章 ナポリのバロック絵画>
ナポリのバロックは殺人罪で逃走中だったカラヴァッジョによってもたらされました。劇的な明暗や生々しい自然主義が伝えられ、ナポリはこの後、自然主義を貫いていったようです。また、ローマやヴェネチアの影響も受けてナポリのバロックは多様性を持っていったそうです。このコーナーではそうしたナポリのバロック絵画を観ることが出来ました。

フセペ・デ・リベーラ 「悔悛するマグダラのマリア」
茶色いドクロを持って見つめるマグダラのマリアが描かれています。先ほどもドクロを持ったマグダラのマリアが出てきましたが、このドクロも悔悛・内省の証かな。マグダラのマリアの髪やドクロの質感がよく出ています。
この画家はナポリのバロックの最重要人物だそうで、初期は劇的な明暗で描かれていたようですが、この作品では暗闇に浮かび上がるように描かれていて、これはヴェネチアからの影響とのことでした。

アルテミジア・ジェンティレスキ 「ユディトとホロフェルネス」 ★こちらで観られます
この作品はカラヴァッジョの作とされていたそうですが、今は女性画家のアルテミジア・ジェンティレスキの作と判明しているそうです。
青い服の女性(ユディト)が寝ている敵将ホロフェルネスの首を剣で切っている様子が描かれて、赤い服の侍女もホロフェルネスを押さえています。 ホロフェルネスは目を見開き、既に死んでいるように虚ろです。3人には光が当たっているようで、その辺がカラヴァッジョ風に思えました。 解説によると、平然とした表情で首を切り落としているユディトの表情には画家自身の心情が反映されているそうで、先輩画家から暴行を受けたトラウマからの開放や、復讐の意味があるそうです。 …色々と怖い絵ですw
この主題は結構よくあるようで、今回もこれ以外に1点ありました。最近だとハプスブルク展の時にもいくつか観たかな。
 参考記事;THE ハプスブルク ハプスブルク展 (国立新美術館)

マティアス・ストーメル 「羊飼いの礼拝」
中央に輝く赤子がいて、その周りに礼拝する人々が描かれています。赤子の放つ光が取り囲む人々の顔を照らしていて、その光の効果や人々の顔の皺などの表現が見事でした。

マティアス・ストーメル 「エマオの晩餐」
前述の作品と同じ画家です。これは中央の燭台を囲んで話す4人の人が描かれ、柔らかい火の光が顔を下から照らしていました。実際に暗い部屋で話しているように見え、灯りの表現が好みでした。

パチェッコ・デ・ローザ(本名:ジョヴァン・フランチェスコ・デ・ローザ)
左:「ヴィーナスとマルス」 右:「眠るヴィーナスとサテュロス」

2枚セットで扉の上に飾られていたものだそうです。左は顔を寄せ合って話すヴィーナスとマルスが描かれています。周りにはキューピッド達が囲み、愛し合う2人を祝福している感じです。 右は眠り込むビーナスと、ビーナスのまとう青い衣を剥ぎ取ろうとするサテュロスが描かれています。ビーナスの頭上には艶のある赤い垂れ幕も描かれ、ビーナスの白い肌、青い衣、サテュロスの肌の茶色というように色が分かれていて引き立つようでした。ビーナスの官能的なポーズや表情も良かったです。

ルカ・ジョルダーノ 「眠るヴィーナス、キューピッドとサテュロス」
これも前述の作品と同じ主題です。眠り込むビーナスとそれを覗き込むサテュロスが描かれ、空には目隠しされたキューピッドがいます。(これは恋は盲目という意味かも??) また、背景には宴会をしているバッカス、ビーナスの足元には倒れた盃など、享楽的なイメージも感じる作品でした。ちょっとおぼろげな色彩で幻想的な雰囲気も感じました。


ということで、貴重なコレクションを見ることができました。ルネサンス期の作品はどうも苦手意識がある(バロックの方が好きだったりする)のですが、何点か気に入る作品に出会えて良かったです。気になったのは、過去の同時期を対象にした展覧会と比べると、ルネサンスとバロックの様式についての解説は少なかったかなと。ちょっとその辺は難しいかもしれません。 しかし、美術史の流れを目の当たりにすることができると思いますので、機会があったら観てみるのも良いかと思います。
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