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屏風の世界 ―その変遷と展開― 【出光美術館】

ここ何日か新橋・銀座周辺をご紹介していますが、その前に有楽町の出光美術館で「日本の美・発見IV 屏風の世界 ―その変遷と展開―」も観てきました。

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【展覧名】
 日本の美・発見IV 屏風の世界 ―その変遷と展開―

【公式サイト】
 http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html

【会場】出光美術館
【最寄】JR・東京メトロ 有楽町駅/都営地下鉄・東京メトロ 日比谷駅

【会期】
   前期:2010年06月12日~07月04日
   後期:2010年07月06日~07月25日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展覧会は前期・後期に分かれているようで、私が行ったのは前期でした。(前期・後期では3章が入れ替わるようです。) 結構多くの人で賑わっていましたが、屏風は大きくて一気に何人も見られるのでそんなに混雑感はありませんでした。点数はあまり多くないですが、質の高い内容となっています。

そもそも屏風は「風をさえぎるもの」であり、中国で風除けの調度品として生まれました。7~8世紀に日本に伝わり、室町時代には紙製の蝶番(ちょうつがい)が発明されると、画面が連続する日本式屏風が創案されたそうです。今回の展示ではそうした日本らしい屏風が比較的初期から展示されていました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。

<Ⅰ "日本式"屏風の誕生>
屏風は平安時代には寝殿造りの間仕切りや、密教の儀礼の際に使われる道具だったそうです。室町時代に床や棚のある書院造となると、屏風は座敷飾りとして大画面となりました。先述のように蝶番が紙になったことで自由に折り曲げることが可能となり、水墨や金箔を使った表現が使われるようになったそうです。このコーナーではそうした屏風の変遷を見ることもできました。

「日月四季花鳥図屏風」 ★こちらで観られます
室町時代の大和絵風の作品では最古のもので、六曲一双ですが一隻ごとに完結する「日月形式」となっているそうです。右隻は桜の木とその下にいる雉?が描かれ、空には太陽が昇っています。これは春と夏の季節のようです。左隻には松、紅葉、菊、鹿が描かれ、空には銀の細い月がありました。こちらは秋冬かな。また、左右に繋がるように銀の雲が流れているのも風情がありました。 結構ボロボロになっていますが、見事で歴史的にも貴重なもののようでした。

伝 土佐光信 「四季花木図屏風」
こちらもやまと絵風の六曲一双の屏風です。右隻には梅、松、甘草、アジサイなどが描かれ、左隻には竹、紅葉などが描かれています。また、下の方には図案化された波が漂っていました。解説によると、これは左右を入れ替えれも連続するように描かれているようです。これも少し古びていますが見応えがありました。

能阿弥 「四季花鳥図屏風」
これは四曲一双の水墨の屏風です。右隻には燕やサギ?、山鳥などが自由に飛んだり休んでいる様子が描かれています。左隻にも雁のような鳥が飛んでいて、どうやらこれも四季の流れを表しているようでした。鳥が可愛らしく自由な感じがしました。

伝 雪舟等楊 「四季花鳥図屏風」
雪舟の作と伝わる作品で、元は一双だったのですがこの右隻のみが残っているようです。竹と松が描かれ、松の枝は水に潜ってからまた昇ってくる「水くくり」の枝となっています。、また、右端にはピンクの牡丹、空には鳥も描かれ背景は霧に消えていくようなうっすらした景色が広がります。カクカクとした青い松などは確かに雪舟ぽいかも。本人の作かはわかりませんが、解説によると中国の呂紀から学んだ影響が観られるとのことでした。

狩野元信 「西湖図屏風」
これは階段部分になっているところに展示されていた作品です。中国の名勝地である西湖を描いたもので、手前に横一直線に走る道が描かれ、奥には多くの舟の浮かぶ湖が見えます。また、所々に半円形の橋が架かり、人々がわたっているのも見えました。とにかく大画面で、雄大な景色が目の前に広がっているかのように見える迫力がありました。屏風の前にはソファもあるので、ゆっくりと座りながら観られたのも良かったです。


<Ⅱ 物語絵の名場面>
2章は物語の名場面を主題にした作品が並んでいました。お馴染みの源氏物語や伊勢物語といったものから、様々な物語が並んでいました。

「天神縁起尊意参内図屏風」 ★こちらで観られます
六曲一隻のみの屏風です。これは学問の神で有名な北野天神の縁起を描いた作品で、菅原道真の怨念で荒れ狂う加茂川を渡る僧が描かれています。周り中から押し寄せてくる波の中、黒い牛が頭を下げて走る姿勢で牛車を引き、周りのお供もダッシュで逃げている様子が観られます。色数は少ないですが、波や牛などから緊張感が伝わってくる素晴らしい作品でした。
解説によると、絵巻の1場面を取り上げて描くというのは室町時代には見られたそうです。

伝 俵屋宗雪 「業平東下り図屏風」
こちらも六曲一隻のみです。金地にどーんとそびえる富士山が描かれ、富士の裾野のあたりに馬に乗った業平とその一行が描かれています、業平は振り返って富士山を見ているようです。富士山と金の迫力があるので、心情よりもそっちに眼が行ってしまいそうでしたが、面白い作品でした。

「宇治橋柴舟図屏風」
金地に橋と水車、柳が描かれた作品。側は細い線で1本1本描かれていて装飾的でした。これは何度か似たような作品を観たことがあるように思います。
 参考記事:東京国立博物館の案内 (2009年08月)

伝 岩佐又兵衛 「蟻通・貨狄造船図屏風 (ありどおし・かてき)」
和漢の有名な故事が描かれた六曲一双の作品です。左隻には紀貫之が明神に詩を捧げたら自分の馬の病気が治ったという話が描かれています。コミカルな感じの馬が可愛いw 人々の顔も誇張されて何を言っているのか伝わってきそうです。 右隻には巨大な鳥と龍の頭の彫刻をつけた舟が描かれ、凄い迫力です。まるで妖怪みたい…。中々に遊び心を感じる作品でした。

伝 岩佐又兵衛 「三十六歌仙図屏風」
三十六歌仙、平家物語、伊勢物語などが描かれている六曲一双の作品です。画面の上部に横一直線に座る三十六歌仙がかかれ、その頭の上に和歌が書かれています。下には金雲に囲まれた川のようなところに楕円の枠がいくつも浮かび、円の中には物語の名場面が描かれていました。走馬灯のように物語が流れていく感じがして煌びやかな作品でした。

岩佐勝友 「源氏物語図屏風」
源氏物語の54帖の名場面を一気にならべた作品です。金雲が立ち込める中、屋根を透視するように屋敷を俯瞰した図となっています。「野分」などタイトルも入り、雲で場面を区切られているような感じでした。色鮮やかで繊細に描かれ、絢爛な作品でした。

なお、この部屋あたりから蒔絵や色絵の大皿もありましたが、今回の展覧会の趣旨は屏風なのでご紹介は割愛します。


<Ⅲ 風俗画の熱気と景観図の大空間>
最後のコーナーは前期・後期で入れ替えがあるみたいですが、私が観たのは風俗画のコーナーでした。

「祇園祭礼図屏風」
六曲一双で金雲が立ち込める街を俯瞰した構図で描かれています。タイトルの通り、祇園祭りが練り歩く様子が描かれ、行列する人々、山車、神輿、傘、扇など、祭りの賑わいを伝えてきます。しかし、全体的に落ち着いた雰囲気があり、解説によると祭りの厳かさに主眼が置かれているということでした。当時の様子がよく分かる作品でした。

「江戸名所図屏風」 ★こちらで観られます
あまり見かけない八曲一双のかなり横長の屏風で、超細密に上野~品川までの江戸の名所を描いています。よく観ると遠近感や建物と人の大きさがおかしな感じですが、ぎっしり描かれた町並みからその賑わいを感じます。また、屋根などが幾何学的に描かれていてリズム感を感じるところもありました。

「世界地図・万国人物図屏風」 ★こちらで観られます
六曲一双の世界地図の屏風です。右端の第1~2扇と左端の第5~6扇は民族衣装を着た各国の男女が描かれ、真ん中に大きな地図が描かれていました。ちょっと大雑把な世界地図ですが、江戸時代にこうした作品があるのは面白いです。両端に民族衣装を着た人が描かれているのはこういう世界地図を描いた作品では多いのかな??
 参考記事:皇室の名宝―日本美の華 <1期> 感想前編 (東京国立博物館 平成館)
 

このコーナーには今回のポスターにもなっている南蛮屏風もあり、折りたたんで展示されている意味についてなどの説明もありました。

<屏風の構造と作り方>
出口の近くに屏風の作り方を説明したコーナーもありました。1扇ごとに工程が進む感じで作られていてわかりやすいです。簡単にまとめると、
 1 骨木地面:格子状の木枠を作る
 2 骨しばり:下地が歪まないように強靭な美濃紙を貼る
 3 胴貼り :下地や木の脂を吸収して透けてくるのを防ぐために、泥土を混入した紙を練る
 4 みの掛け:美濃紙を重ね合わせるようにずらして貼っていく
以上の1~4の工程で屏風の画面をつくるようでした。こういうのを知っておくと、今後の鑑賞にも役に立つので嬉しいです。


ということで、だいぶ楽しめる展覧会でした。やはり屏風は日本美術の中でも特に華のある作品だと思います。知っていそうで意外と知らない屏風そのものについても知ることができたのも良かったです。 もうすぐ終わってしまいますが、これもお勧めできる展覧会でした。
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