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能の雅(エレガンス) 狂言の妙(エスプリ) 【サントリー美術館】

先週の金曜日、会社の帰りにサントリー美術館で「能の雅(エレガンス) 狂言の妙(エスプリ)」を観てきました。ご紹介を後回しにしていたらもう残り2日になってしまった^^;

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【展覧名】
 開場25周年記念 国立能楽堂コレクション展「能の雅(エレガンス) 狂言の妙(エスプリ)」

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/10vol02/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2010年6月12日(土)~7月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(金曜日18時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
もうすぐ会期末ですが、さほど混んでおらず自分のペースで観ることが出来ました。
今回の展示は国立能楽堂の25周年記念で行われたようで、文化庁の所蔵品が多く並ぶ展覧会でした。私は能も狂言も観たことが無いのですが、今年の冬にも大倉集古館で能面・能装束展を観て面白かったので、こちらの展示にも興味を持ちました。(サントリー美術館の年間会員なので行かないと損というのもありますがw) 展示は能面や能装束といった道具ごとに分かれていましたので、章に沿って気になったものなどをご紹介しようと思います。

 参考リンク:国立能楽堂
 参考記事 :新春を仰ぐ 大倉コレクション 能面・能装束展 (大倉集古館)


<特別展示 桃山時代の能装束>
まず、導入部は特別展示でした。能は奈良時代に伝わった中国の散楽という舞から始まり、平安時代の日本風の猿楽などを経て室町期に観阿弥・世阿弥らによって確立された伝統芸能です。 最初のコーナーでは、ハイライト的に煌びやかな桃山時代の3点の装束が並んでいました。

「茶地籠目柳模様縫箔」 ★こちらで観られます
茶色の地に斜め格子の籠目模様が描かれ、その上には金や緑の柳の刺繍が施された能装束です。これは女性や子供、高貴な男性の役に使われたものだそうで、金と銀の格子模様が絢爛な印象を与えました。茶色の地もあってか重厚な雰囲気もあったかな。


<能面>
このコーナーはずらっと能面が並んだコーナーでした。能面は色々な分類方法があるようですが、大きく分けて「男」「女」「尉(=老人)」「鬼」「怨霊」という5つとなるそうです。また、「面」と1字だけで書いたものは「おもて」と読むそうですので、これから先の「面」は心の中で「おもて」と読んでください^^ 私は能関連では面が一番好きです。

「白色尉」 ★こちらで観られます
目じりが下がって、にこやかな顔をした老人の面です。円形の綿を貼った眉や顔の皺、長い顎鬚なども特徴で、人が良さそうな雰囲気がにじみでています。口の下のあごの部分が切られていて、紐で繋がっており、役者が口を開くと面の口も開くという造りとなっていました。また、解説によるとこの面は天下泰平、国土安穏を祈る舞を踊る時に使うそうです。確かに幸せを呼びそうな表情をしていました。

「霊怪士」
これは武将の怨念の霊の役に使われる面です。目をむき出しにして、白目のところが金色になっています。大きな鼻、むき出しになった歯など、怨念の迫力が出ているように思いました。(しかし、解説では品格があるとのことでした。) その目を観ている時に、大倉集古館の展示で得た知識で、鬼や怨霊の目は金銅環を施しているのが多いということを思い出しました。

「赤般若」
若干、赤みのある般若の面です。角が生え、眉をひそめて口を開けている表情は正に般若そのものです。子供の頃に祖父の家にあった般若の面を観て泣き出した想い出が沸々と…w この面だけでも恐ろしいですが、隣にはもう少し古い面もありました。そちらはこの作品とほぼ同じ寸法のようですが、わずかな厚みの違いで2つの表情に違いが出ているように見えるのが面白かったです。

この辺は他にも鬼や尉などの恐ろしくも面白い面が沢山並んでいました。面によっては強い生気を感じるのがちょっと不気味な感じもしますw 笛の音のBGMも流れていて中々良い雰囲気でした。


<能装束>
続いて能装束のコーナーです。能に使われる能装束は、応仁の乱の後に美しいものになっていったようですが、当初は形状や地質、技法、意匠などは通常の服装と共通していた点が多いそうです。室町~桃山時代は武家の礼服である「狩衣」が元になっていたそうで、役者は通常の装束を舞台で着ていたこともあったようです。また、舞を観ている上流武士から褒美として装束を脱ぎ与えられたりするなど、普段の服との境界はまだ緩かったようです。それに対し、江戸時代からは幕府によって形式の遵守が重んじられ、一般の服とはかけ離れていったようです。 このコーナーではそうした能装束の変遷を見ることができました。

「紫地鳳凰模様袷狩衣」
紫の地に金色で鳳凰たちが舞う姿と桐唐草模様の装束です。色あいもあってか、気品のある装束でした。

「水浅葱地縷水衣」
水色で薄くて向こうが透けるような装束です。これは、身分の低い役に使われる装束らしく、「水衣」という割烹着のようなものだそうです。涼しげで良いなーと思ったのですが割烹着だったとはw 他にも紫の水衣などもありました。紫とか高級そうに見えるんですけどね…。

「紅地桐鳳凰模様舞衣」
朱色地で金で鳳凰と桐の模様が描かれた袖の大きな装束です。これは舞衣というもので、女神役などが着て舞ったらしく、それに似つかわしい艶やかさがありました。これも薄くて透ける感じでした。

「紅白段花筏模様唐織」
これは非常に目立って美しかった装束です。朱色と白の段違いの地に、丸太のイカダと花の模様が無数に入っていて、華やかです。この唐織は女役が着るそうで、花筏(はないかだ)とは、花が散って川を流れる様子のことなのだとか。かなり好みの服でした。


「白地花筏模様縫箔」
「縫箔(ぬいはく)」というのは刺繍に金や銀の箔を使ったもので、これも花筏の描かれた装束でした。上部は花とイカダ?が描かれ、簡略化されて装飾的な流れが見られます。中間部分には何も無く、下の裾の辺りでまた花やイカダが描かれていました。全体的に派手な感じで、ちょっと痛んで下絵が出ている葉っぱの部分には「金」という指示が書かれていたのが面白かったです。


この辺には「謡本」のコーナーもありました。本に書かれた字の右に点がついていて、これは節付けの為のものだとのことでした。(私には全部同じような点に見えましたw) 中々興味深かったです。


<特別展示 加賀前田家伝来の能装束>
江戸時代には各大名もこぞって能役者を囲って能を行ったそうです。ここでは加賀前田家に伝わる装束が数点展示されていました。(このコーナーは小さいけど全部好みの装束だったです。)

「紅濃茶萌黄段八橋模様唐織」
じぐざくの木の橋と、その橋の脇の杜若が刺繍された唐織です。多分モチーフは東下りかな? 赤、オレンジ、緑、茶色など色とりどりで、いくつかのブロックに分かれてパターン化されてリズミカルでした。華美で素晴らしいです。

なお、江戸時代の能装束はこうした織物や刺繍など独特の進化を遂げていって、一般の服とはだいぶ離れていったようです。(この時代の一般の服は友禅染など)


この辺で下の階に移動します。階段のあたりには能の舞台が置かれ、装束、面、刀、烏帽子、などが並べられていました。だいたい現代のものでしたが19世紀のもあったかな。 さらにその先には鐘、桜の立木、カゴ、団扇、包丁、まな板などの「作り物」という小道具が並んでいました。能は簡素な造りで最大限の効果を狙うそうで、あまりセットにごてごてしたものは使わないようです。(そのためか、昔は作り物を毎回作り直してしたようです。) しかし、演目「道成寺」で使う鐘は例外的に80kgもある本格的なものでした。この大きな鐘に飛び入るらしいので、いずれ生で観てみたいものです。


<狂言面>
下の階は「狂言」が主なテーマとなっていました。狂言は猿楽や田楽の持っていた、物まねや秀句の「おかしみ」や風刺を寸劇化したもので、仮面をつけない時も多いそうです。 そのため、狂言面は能面に比べて種類が少なく、残っているのも少ないのだとか。 ここではそうした貴重な狂言面を観ることが出来ました。

「祖父」
左目がずるっと下がって崩れた老人の顔の面です。皺だらけで歯並びも悪くてちょっとリアルかも。解説によると、顔は崩れているけれど骨格はしっかり正確に捉えられているそうで、作者の力量が伺えるとのことでした。 能面にはこういう面は無かったように思いました。

「狐」
釣狐という演目で使われる面です。歯をむき出しにして、少し口を開けている狐そのものの顔で、下あごは金具で繋いでいるようです。そのため、演者が吼えると面の顔も動くそうです。ちょっと犬っぽい感じもしましたがリアルに狐っぽさがあり、立体的な面でした。


<狂言装束>
続いて狂言の装束です。能は刺繍などが多かったですが、狂言は麻や平絹といった平面的な生地に染で模様を平面的に表現したものが主流のようでした。このコーナーではそうした装束が並んでいました。

「浅葱地月不如帰模様肩衣」
薄い生地で透けるくらいの装束です。青地に白く大きな満月と、その前を横切る ほととぎすが描かれています。これは「月に雁」ではなく「月にほととぎす」となてしまっているという洒落っ気があるそうです。パロディ的なものかな? 装束からも能と狂言のスタンスの大きな違いを感じます。

「紅地龍丸模様唐人衣裳」
中国風で茶色っぽい地に龍の刺繍が施された装束です。これは唐人役が着るそうで、中国風の服を着た大勢の人々が、架空の中国語を話す演目で使われるとのことでした。確かに「物まね」の要素を感じますw 架空の中国語ってどんなだろ?w


<能の楽器>
ここは小さなコーナーだったかな。鼓などがいくつか置いてあったと記憶しています。特に気に入ったのも無いのでパスw


<能楽の絵画・文献>
最後は能楽に関する絵画や文献のコーナーでした。絵画は能の教材とされたようですが、豪華な画帖や画巻は美術価値が高く調度としても珍重されたようです。ここではそうした美術価値の高そうなものも展示されていました。

狩野栄信 「翁・三番三・千歳」
これは3枚セットの掛け軸です。真ん中に扇子を持って踊る翁が描かれ、右幅には水色の装束の子供、左幅には烏帽子と黄土色の装束の子供が描かれていました。三人セットで踊っているのかな? 翁の表情が特に豊かでした。

「宝生流能装束付」
小さな画帖です。花とか能太鼓などの道具が細かく描かれていました。この作品の近くには作り物の細かい絵の本などもあり、絵を通じた能のマニュアルのような感じで面白かったです。

「能楽図帖」
演目「道成寺」で白拍子が鐘から出て鬼女に変身するところを描いた絵です。鐘の周り法力を使っている僧たちが描かれ、ドラマチックな様子でした。また、この作品周りにも煌びやかな能絵が何点か展示されていました。

「百万絵巻」 ★こちらで観られます
この作品は特別展示でした。これは生き別れた子供と、母の百万が再会する「百万」という演目のクライマックスを描いた絵巻です。百万が狂乱のうちに踊る様子や、再会した際に、何故もっと早くに名乗りでなかったのか?と話すシーンなどが描かれています。周りに書かれている書は謡かな? ラストは花の咲く木の下で演奏会をしているような絵でした。 絵でストーリーが分かるのは非常に分かりやすくて面白いです。しかもこの作品は色鮮やかで綺麗でした。
この近くにはこれ以外にも百万を本にした作品などもありました。


ということで、今回の能の展示も中々に参考になりました。実際に能を見るのはいつのことになるかわかりませんが、色々と知識が増える内容でした。 能を知らない私でも楽しめたので、元々好きな人にはたまらない展示かと思います。もう今週で終わってしまいますが、気になる方はこの週末にお出かけください…。
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No title
こんにちは!私も先日行ってきました。能をみたことは無かったのですが、とても興味を持ちましたので見に行ってみようと思っています。
Re: No title
>プチ・ソレイユさん
先日の記事を拝見いたしました!
能というのは日本の美意識を凝縮したような文化のようですね。
行かれたら感想を聞かせて頂きたいです^^
狂言
昔、娘の小学校に〇〇チョップ!の狂言師が来たことがあります。
言葉が何を言っているのかわからないのですが
子供達は笑うのですよ~!e-317

大人は聞き取ろうとしますが
子供は自然に受け入れちゃうんですね。
ちょっと驚きました。
Re: 狂言
>パンピーさん
小学校でそういう活動をやっているのですね。私も小学校の時に落語を観た記憶が…。
独特の節回しとかで笑っちゃうんですかね? 狂言も一度は見ておきたいものです。
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