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ブリューゲル版画の世界 (感想後編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

今日は、前回ご紹介したBunkamuraザ・ミュージアムの「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」の後編をご紹介します。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

まずは概要のおさらいです。
P1130969.jpg

【展覧名】
 ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/shosai_10_brueghel.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/10_brueghel/index.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅
【会期】2010年7月17日(土)~8月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
今日は4章からご紹介します。前半から奇妙な生き物が沢山出てきましたが、後半は教訓や諺が散りばめられた作品などがありました。

<第4章 人間観察と道徳教訓の世界>
このコーナーも見所の多い内容で、道徳教訓を題材にした作品が並んでいました。

ピーテル・ブリューゲル 「学校でのロバ」 ★こちらで観られます
教室の中で沢山の子供たちが好き勝手にやっている様子で、真ん中には子供に罰を与えようとお尻をまくっている先生?が描かれています。その後ろにはロバが楽譜を蹄で押さえて読んでいるように見えます。絵の下には「ロバがどんなに学んでも馬にはなれない」と書かれているそうです。また、ロバの前にある眼鏡も「眼鏡も使わなければ何も役に立つだろうか」という諺が込められているらしく、どうやら道徳と共に皮肉も込められているようです。騒ぐ子供もロバと一緒で教えても無駄ってことかな??w

ピーテル・ブリューゲル 「痩せた台所」
貧しい家の食卓に置かれた皿に入ったムール貝に5人の人が手を伸ばしていて、手前では痩せこけた母親が子供に角に入れた乳を飲ませています。入口には太った男が、「ここではろくなもてなしも期待できない」と軽蔑した様子で退散しているようです。この絵は貧困は怠惰の結末という意味が込められているそうで、見るからに貧困の悲惨な状況が伝わってきました。こうなりたくなければ一生懸命働けってことでしょうか…。

ピーテル・ブリューゲル 「太った台所」
これは「痩せた台所」とワンセットの作品のようで、「痩せた台所」とは対照的に食べ物で満ちた室内を描いています。肉やソーセージがどっさりあり、壁にも食材が掛けられています。家の中の人々は皆太っていて、犬まで太ってますw これは「大食」の罪を描いているようでした。 また、入口では1曲吹かせて欲しいとやってきた痩せた人を追い出しているようでした。「貪欲」の意味もあるのかな??

ピーテル・ブリューゲル 「誰でも」 ★こちらで観られます
カンテラを持った人たちがあちこちを覗いて何かを探している姿が描かれた作品です。後ろでは布を引っ張り合っている男達が描かれています。いずれの男の服にも「Elck」という文字が書かれ、これは「誰でも」という意味があるそうで、オランダの3つの諺が込められているようです。↑のリンク先に詳しい解説があるのですが、1つの作品の中にいくつもの意味が込められ、奥深い内容となっていました。
この辺には「誰でも」の映像による解説も観ることが出来ました。

ピーテル・ブリューゲル 「阿呆の祭り」
耳のついたフードを被った人々が玉を転がして大騒ぎしている様子が描かれています。これは、丸い玉と男たちの頭はよく似ているという皮肉のようです。また、後ろの方には楽器を弾く人々が描かれ、解説機ではその間の抜けた音を聞くことができました。 (今回は観ただけでは分からない解釈も多いので、解説機を借りるのをお勧めします。) 皮肉が効いていますが、阿呆の連中がちょっと憎めない奴らに思えたかなw

ピーテル・ブリューゲル 「怠け者の天国」
これは油彩にも似たような絵がある版画作品です。木の周りに聖職者、騎士、農民が寝そべっている様子が描かれ、木の上にはいくつもの食料があります。また、隣の家の屋根はお菓子が瓦のようになり、周りには足のついた玉子やナイフを背負った焼き豚などもいて、食べ物で満ちています。口を開くと焼き鳥が飛んでくるシーンなども描かれていて、まさに怠け者の天国でした。怠け者にも程があるだろ!と突っ込みたくなりましたが、これは欲望に満ちた人間を風刺している作品だそうです。


<第5章 諺(ことわざ)を通じて知る「青いマントの世界」>
続いては諺に関する作品のコーナーです。16世紀は諺の黄金期だったそうで、ブリューゲルも作品の中で諺を表象化するのに積極的だったようです。複数の諺を描いた絵画は「青いマント」と呼ばれたらしく、ここではそうした諺が沢山含まれた作品が並んでいました。中には1つの絵で40以上の諺を描いた作品もありました。

ピーテル・ブリューゲル 「大きな魚は小さな魚を食う」 ★こちらで観られます
巨大な魚を銛で突く人と、大きなナイフで腹を裂く人が描かれています。魚の口や腹からは食べた魚(これも結構大きい)が出てきていて、さらにその魚も小さな魚をくわえています。手前ではその姿を観た男が指差して、息子に「大きな魚は小さな魚を食う」ということを教えているようでした。日本語でいうと弱肉強食かな? 大きな魚もインパクトがありましたが、背景で空を飛んでいる奇妙な魚も気になりましたw 

ブリューゲル周辺の画家 「金袋を持つ男とおべっか野郎」
この辺りにはブリューゲル周辺の画家の円形の作品がいくつか並んでいました。 これは巨大な男が後ろ向きにしゃがんでいて、脇に持つ金袋から金を落としている様子が描かれています。この巨人のお尻は四角い穴となっていて、そこに人々が入っていくという奇妙な光景になっていました。これをおべっかというのかな?w その奇妙さとタイトルで記憶に残りました。

ヒエロニムス・ボス(?) 「盲人が盲人を導けば2人とも穴に落ちる」
これは聖書の教えを題材にした作品です。2人の盲人が沼にはまっている様子が描かれていて、盲人はハーディーガーディという楽器を持っていました。これは盲人が弾く楽器だそうで、解説機ではその音色を聞くことが出来ました。 この作品は盲人が盲人を導くという様子が偽預言者に惑わされる民衆を暗喩しているそうです。このコーナーの作品はこうした意味深で興味深いものばかりでした。混んでいて細かい所まで観る余裕が無かったのが残念…。


<第6章 民衆文化や民話への共感>
このコーナーは農民の生活や民話を題材にした作品が並んでいました。これらは皮肉で描かれているのではなく、慎ましく生活する民衆への親近感があったようです。

ピーテル・ブリューゲル 「ホボケンの縁日」 ★こちらで観られます
手を繋いで輪になって踊る人々や大きな旗、教会に向かう人々など村の祭りの賑やかな様子が伝わってくる絵です。清く明るい雰囲気を感じました。

ピーテル・ブリューゲルと周辺画家 「野外の農民の婚礼の踊り」
室内で踊る農民を描いた作品で、同じタイトルの油彩からの引用が多いそうです。人々の格好は微妙に描き分けられ、絵の隣には農婦の頭巾のスリットの違いを解説するボードがありました。観てみると本当に色々と違いがあるのが面白かったです。

ピーテル・ブリューゲル 「アントワープのシント・ヨーリス門前のスケート滑り」
凍った川でスケートする人々が描かれ、滑ったり転んだり、見物したりと楽しそうです。ブリューゲルのスケートの作品というと、危険と隣り合わせという意味を含んだ絵を思い出しますが、これはあまり教訓めいたものは無いように思いました(私が分からないだけで、あるかもしれませんがw)

この辺は他の画家の絵も結構ありました。当時の世相も伝わってきました。


<第7章 四季や月暦表現で綴る市民の祝祭や農民の労働>
最後は四季と12ヶ月の暦別に農民の労働を題材にした作品でした。この辺は若干空いていたかな。

ピーテル・ブリューゲル 「夏」 ★こちらで観られます
背景では多くの人々が農作業に従事していて、手前には大きな鎌で刈り入れをしている農夫と、大きな水がめで水を飲む農夫が大きく描かれています。水を飲む農夫の鎌は画面下の文章の部分まではみ出していて、農夫のポーズと共にダイナミックで力強い雰囲気でした。なお、解説によるとこの作品は夏をテーマにしていますが、このシリーズは元々春と夏しかなかったらしく、後にハンス・ボルが秋と冬を描いたそうです。それもこの近くに展示されていました。

この辺りにはマールテン・デ・ヴォスという人の1~12月(4~6月は無し)を主題にした円形の作品がずらっと並び、伝統行事と農民の様子を描いていました。


<エピローグ>
出口付近にエピローグとして3点程度、ブリューゲルの少し後の時代の作品が並んでいました。

ダヴィット・ヴィンクポーンス 「不釣合いのカップル:死とクピド」
老人と若い女が寄り添っている絵で、背景では若い男が矢に打たれて死んでいます。これは、どうやらキューピッドが矢を取り違えたようで、老人は恋の矢によって恋に狂ってしまい、若い男は死の矢で死んでしまったようです。解説によると、矢を取り違えてしまったのは眠りの欺きが原因とのことで、どうやらこれも教訓めいた内容のようでした。


ということで、内容については非常に面白い展覧会でした。唯一の悩みどころは混雑でゆっくり観る事が難しいことです。興味がある方は、せっかく観るならたっぷり時間を取って、空いている作品からタイミングを計って観るなど、混雑を回避する方法を考えた方が良いかもしれません。まだまだ人気が出そうでした。

おまけ:東急のショーウィンド。
P1130977.jpg
会場には作品をモチーフにしたグッズも沢山ありました。大好きなガチャガチャもあったのですが、小銭が無く出来なかったのが心残り…。
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Comment
はじめまして
年に100回、美術展に行かれるって凄いですね。私は月に1回がせいぜいです。本当はもっと行きたいんですけど・・・。私、東京に行くと必ず美術館巡りをするんですが、Bunkamuraザ・ミュージアムは大好きで必ず行きます。面白い企画が多いですよね。最後に訪れたのは、「アンドリュー・ワイエス展」の時で、だいぶ以前ですが。この「ブリューゲル版画の世界」近かったら、絶対行くのになぁ・・・。

長々とすみません。行くことの出来ない展覧会も、こちらでとても丁寧に紹介されているので、拝見しているだけで楽しいです。また、お邪魔に参ります。
面白い!
歴史的なことはわかりませんが
単純に見ているだけで
面白い作品がいっぱいですね。

ガチャガチャ…
新東京国立美術館(この略はないのですか?)
のガチャガチャ好きです。
石膏像や作曲家のミニミニ!e-453

大人の心をくすぐりますね。
Re: はじめまして
>彩月氷香さん
はじめまして。コメントありがとうございます^^ 月1くらいで美術館に周られているなら、立派な美術館好きですね!

>最後に訪れたのは、「アンドリュー・ワイエス展」
おー!おととしのBunkamuraのワイエスはまだ鮮明に覚えています。水彩なのに力強くもあり静けさもありで素晴らしい展示でしたね。今年も埼玉でワイエスの展示をやるようなので楽しみにしているところです。

私はほとんど関東の展覧しかいかないので、遠い方には歯がゆい記事もあるかと思いますが、中には巡回するものもあるので、参考にして頂ければと思います。
今後ともよろしくお願いします^^
Re: 面白い!
>パンピーさん
そうなんです。深い意味もありつつ、見るだけでも面白いという素晴らしい展示でした。
面白すぎてメチャ混みだったりしますがw

>石膏像や作曲家のミニミニ!
あ、私の携帯のストラップは石膏像のやつです。損保ジャパンで買いました。あそこにはエッシャーのガチャガチャもあったのでやりまくってましたw 展示ごとにこういうの作って欲しいです
素敵なサイトですね
ブリューゲルのキーワードからたどり着き、初めてお邪魔させていただきました。
そして、色々な展覧会の様子、とても参考になりました。
ありがとうございました。

美術展覧会に行くのは大好きなのですが、なかなか沢山でかけることが出来ず、です。
是非また寄らせてくださいね。


Re: 素敵なサイトですね
>Ananasさん
はじめまして!
お褒めの言葉を頂き恐縮です^^;
世の中面白い展覧会は山ほどあるのに、出かける機会は限られているので悩むところですよね。
どこかに行ったらその都度感想を書いていこうと思いますので、また見に来ていただけると嬉しいです。

ブリューゲル版画展は面白かったですね。Ananasさんの記事にあったブリューゲルスペシャルのワッフルパフェも美味しそうです^^
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