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ザ・コレクション・ヴィンタートゥール (感想前編)【世田谷美術館】

先週の土曜日に、用賀にある世田谷美術館で「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール スイス発-知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂-」を観てきました。今回はメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 ザ・コレクション・ヴィンタートゥール スイス発-知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂-

【公式サイト】
 http://www.collection-winter.jp/
 http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】世田谷美術館
【最寄】東急田園都市線 用賀駅


【会期】2010年08月07日(土)~10月11日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
まずは気になる混雑具合ですが、この日はかなり暑かったのにも関わらず、めげずにやってきた人たちで賑わっていました。1枚の絵に1~3人が鑑賞している程度の混み具合で、狭くなっているところは結構混んでる感じもしましたが、それ以外の所はそれほど気にせず観る事が出来ました。(今後人気が出て混みそうな気もしますので、気になる方はお早めにどうぞ…)

この美術館へはいつも歩いて行っているのですが、この暑さでどうしたものか…と思ったら、用賀駅から臨時の直行バスが運行されていました。もちろん、帰りもバスが出ています。(この写真は帰りのバスです。)
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20分に1本くらいだったかな(うろおぼえ) 通常のバスも走っているので、結構便利です。

さらに美術館の前にはウォーターサーバーが置かれていました。暑い中歩いてきた人にはありがたいサービスです。
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さて、肝心の内容についてですが、今回の展示はスイスの北部にあるヴィンタートゥール美術館の所蔵展となっています。ヴィンタートゥールは10万人程度の小さい町だそうですが、資産家が多く、1848年のヴィンタートゥール美術協会の設立以来、美術愛好家や美術家の寄付によってコレクションを形成し、1916年に美術館が作られたそうです。展示品には、フランスの有名画家からスイスの画家、ドイツの画家など、近代ヨーロッパ絵画を幅広く揃えていて、有名どころを押さえつつもスイスらしい内容となっていました。(しかも90点すべてが日本初公開!) 詳しくは章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。今回の展示は8章構成となっているので、前編は1~4章までにしようと思います。


<第1章 フランス近代Ⅰ:ドラクロワから印象派まで>
最初の章はロマン派~印象派のコーナーでした。特に印象派が中心となっていて、各画家1点という感じでしたが、ルノワールだけは数点ありました。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「グレーハウンド犬を伴うアルジェの女」
ソファに腰掛ける女性とその脇の犬とマンドリンを描いた作品です。ぼや~っとした感じの画面で、気だるい魅力を感じる作品でした。これは北アフリカに旅行した時の様子を描いたもののようです。

ウジェーヌ・ブーダン 「ラレ=ヴェルトの運河、ブリュッセル」
少し曇った空の下、運河に浮かぶ船が何艘かいる様子を描いた作品です。空の微妙な空気感が素晴らしく、ブーダンらしい落ち着いた雰囲気かな。この辺にはコローの良い作品もあったのですが、コローはブーダンを「空の王者」と呼んだそうです。(コローの空気感も負けてはいないとは思いますが。)

クロード・モネ 「乗り上げた船、フェカンの干潮」 ★こちらで観られます
縦長の絵で、潮が引いて陸に上がった船が少し傾いている様子が描かれています。船も目を引きますが、ブーダンとはまた違った薄曇の空の表現が面白かったです。最近この作品に似たモネの絵を観た記憶があるのですが、度忘れしていつだったか思い出せず…。

アルフレッド・シスレー 「朝日を浴びるモレ教会」 ★こちらで観られます
白い壁の教会を見上げるように大きく描いた作品です。教会は堂々とした風格があり、太陽の光が強く当たっています。その明暗が細やかで、移り行く光を捉えようとしていた印象派らしい作品だと思います。空が青々として、朝の清清しさを感じました。

この辺にはピサロやドガ(馬のブロンズ像)、ドーミエ(ブロンズ像)などもありました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「水浴の後」 ★こちらで観られます
これはルノワールの晩年の作で、緑の中で水浴する裸婦たちを描いた作品です。手前で振り返っている裸婦が大きく描かれ、バラ色の顔や豊満な体が目を引きました。右手を挙げて左手で押さえるポーズに動きを感じるかも。
ルノワールはこれ以外にも静物、風景画、ブロンズ像などもありました。


<第2章 フランス近代Ⅱ:印象派以後の時代>
続いて2章は印象派の次の時代でした。特に目玉は今回のポスターにもなっているゴッホかな。他にはルドンの良い作品が何点かありました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「郵便配達人 ジョゼフ・ルーラン」 ★こちらで観られます
鮮やかな黄色を背景に、郵便配達人を描いた肖像画です。この人物はゴッホの世話をしてくれたルーラン夫妻の夫であるジョゼフ・ルーランで、濃い青の制服と立派な長い髭が特徴的です。この黄色と青の対比が強烈で、筆にも力強さがありました(それほど厚塗りではありません)。 これだけパワーがあるのに親密さが溢れていたのも流石です。
近くにはゴーギャンの作品もありました。

オディロン・ルドン 「アルザス または読書する修道僧」 ★こちらで観られます
朱色の服を着て、朱色の本を読む修道僧が描かれています。背景には黄土色や緑などの混じった青空が描かれ、少し古びた絵のような感じすらします。じっと本を読む修道僧の姿や、全体の色合いなどから神秘的で静かな雰囲気を感じました。
ルドンはこの他にも比較的写実的な風景画や、花瓶を描いた作品などもありました。花瓶の絵もかなり良かったです。


<第3章 ドイツとスイスの近代絵画>
3章はスイスならではのコレクションのコーナーとなっていました。アンカーやホードラーといったスイスの代表的な画家や、彫刻家のジャコメッティの父親の作品なども並んでいて、中々観られない画家が多かったように思います。

ヴィルヘルム・トリューブナー 「ゼーオンにて」
川とその周りの風景を描いた作品です。最初は印象派のように明るい色彩だと思いましたが、輪郭線は明確で、印象派より平坦な筆遣いかも。ぺったりした感じの作風でした。

アルベルト・アンカー 「コーヒーとコニャック」
アカデミックなしっかりした雰囲気を持った静物画で、テーブルの上にカップや水差、砂糖?などが並んでいます。解説によると器の位置関係が絶妙で、器同士が重なり合いそうで重ならないように描かれているそうです。色も器の白や黒、背景の暗い赤というように対比的に使っているようでした。 この画家はスイスの国民的画家なのですが、3年くらい前にbunkamuraで個展を観て大好きになったので、久々に観られて嬉しいです。できれば人物画も観たかったw

フェルディナント・ホードラー 「自画像」
この人もアンカーと並ぶスイスの国民的画家です。これはこちらを向いている自画像で、様々な色彩を駆使して緻密な色使いで描かれ、力強い印象があります。私見ですが、明るいシーレという印象を受けましたw

ジョヴァンニ・ジャコメッティ 「アネッタ」
有名な彫刻家ジャコメッティ! …のお父さんの作品です。(有名な息子はアルベルト・ジャコメッティ。後の章で彼の作品も出てきます)
横向きで椅子に手をかけて座っている女性が描かれていて、これは画家の妻のようです。模様のついた白い服が、背景の強い黄色によく映えています。解説によると、彼女の視線の先(画面外)には子供のアルベルトがいるそうで、どこか幸せそうな印象を受けました。また、この作品の隣にはにこやかな自画像もありました。こちらも強い色彩で心に残りました。

この辺にはナビ派を思わせるような画家の作品もありました。また、リストでは2章に入っていますが、この辺にあるマイヨールの女性像なども好みでした。


<第4章 ナビ派から20世紀へ>
4章はナビ派やフォーヴィスムが中心のコーナーでした。(何故かユトリロもこのコーナーにありました。)

ピエール・ボナール 「婦人帽子屋」
女性が椅子に腰掛けて赤い帽子をつくろっていて、背面には鏡らしきものが描かれています。女性は静かに一生懸命帽子を作っているようです…。 解説ではボナールらがこうした何気ない室内画を描いたので「アンティミスト(親密派)」と呼ばれたことについて説明していました。

ピエール・ボナール 「ヒナゲシとキンポウゲ」
白い花瓶に入った朱色の花が描かれています。平面的ですが、色鮮やかで生き生きとしていました。
この作品の隣も梨のようなものを描いた静物で、この辺はボナールがずらっと並んでいました。(リストによると6点)

エドゥアール・ヴュイヤール 「室内、夜の効果」
赤いタンスの左横の影の中でこちらを向いている黒い服の女性(母親?)と、右側の逆光の中にいる黒い服を着た妹を描いた作品です。ぼんやり描かれていて薄暗く、静かな印象です。解説によると、平面的な表現がそれを強めているとのでした。また、2人は目をあわしていないとも説明されていました。

モーリス・ド・ヴラマンク 「野菜農園の道」
緑や赤などの大きめの点で描かれた畑と、ぺったり描かれた背景が強烈な印象の作品です。これはヴラマンクらがフォーヴ(野獣)と呼ばれ始めた年の作品らしく、後年とは違った荒々しさがありました。

アルベール・マルケ 「ラ・ヴァレンヌ=サン=ティレール」
川の畔を描いた風景画で、左側の道には黒い人影も見えます。ぺったりしつつも柔らかい色調で、穏やかな印象を受けました。明るく爽やかな作品です。

モーリス・ユトリロ 「ボントワーズのノートル=ダム教会」
これはユトリロの作品の中でも評価の高い「白の時代」の作品です。中央に白い壁の教会が描かれ、微妙な色の変化と質感があり、豊かな表現となっています。空は少しどんよりして、人は一人もおらず、教会はぽつんと建っているように見えました。ちょっと寂しい雰囲気かも。
 参考記事:モーリス・ユトリロ展 -パリを愛した孤独な画家- (損保ジャパン東郷青児美術館)


ということで、この辺で半分くらいです。前半は先日終了したオルセー展に出ていた画家とも被る所が多かったと思います。特に2章が見所だったかな。ゴッホとルドンは特に良かったです。
明日は表現主義、キュビスム、素朴派などのコーナーについてご紹介しようと思います。


  ⇒後編はこちら

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Comment
こんにちは
展覧会に先日いってきました。
私は特にモーリス・ユトリロのポントワーズのノートル=ダム教会とオディロン・ルドンの野の花に魅かれました。
その後、写真に載せられていたレストランでランチとケーキをいただきました。
美味しいですね。
Re: こんにちは
>レイアさん
コメントありがとうございます^^
この美術館のコレクションは充実していますよね。おっしゃるとおり、ルドンなどは私もおおっ!と嬉しくなるような作品でした。

レストランのランチはまだ食べたことがない(お茶ばかり)のですが、やはり美味しいんですね。いずれ食べてみたいと思います! ここは雰囲気も良いし、素晴らしいです。
No title
こんにちは。とても楽しいブログを見つけました。5段階評価されてるのもわかりやすくて参考になります。また遊びにきます。

クロード・モネ 「乗り上げた船、フェカンの干潮」に似た絵って東京富士美術館の《海辺の船》ではないですか?違うかな。
Re: No title
>ちゃんさん
はじめまして! お褒めの言葉を頂きありがとうございます!
モネの作品はあちこちで観るので、どこだったか忘れてしまったのですが、
確かに最近、東京富士美術館にも行っているので、そうかも知れません。
(東京富士美術館はメモを忘れたので記事にしていませんがw)

のんびり頑張っていこうと思いますので、また気になる展覧があったら覗いてみてください^^
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