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近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 【岩手県立美術館】

ここ数日、岩手旅行の記事をご紹介しておりますが、お盆に岩手県立美術館で「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を観てきました。もう終了してしまいましたが、参考になる展示でしたのでご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展

【公式サイト】
 http://www.ima.or.jp/exhibition/past/2010/temporary05.html

【会場】岩手県立美術館
【最寄】盛岡駅


【会期】2010年7月17日(土)~8月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間15分程度

【混み具合・混雑状況(平日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この日は東北地方に台風が迫ってきていたので、駅からはタクシーで美術館に向かいました。平日の嵐の中だったせいか、お客さんはまばらで、自分のペースでじっくりと観ることができました。

この展覧会は、油彩だけでなく素描を含んだ160点程度の内容で、上野にある黒田記念館のコレクションを紹介する展示でした。
 参考リンク:黒田記念館
私は黒田の作品が好きですが、黒田記念館に行ったことはありませんw というか、黒田記念館は観られるのが木曜・土曜の13時~16時という限られた時間しかないので、タイミングが合わないのです。なので、わざわざ岩手の地で観ることにも特に違和感無く存分に楽しむことができました。詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうかと思います。


<第1章 パリ留学、そして転進>
黒田清輝は、東京美術学校の教授や帝国美術院院長などを歴任した明治における美術界の最重要人物の1人で、鹿児島の薩摩藩に生まれました。 叔父の養子となり、絵の手ほどきを受けていたようですが、最初は法律家になりたいと考えていたようで、フランスに留学したのも法律を学ぶためだったようです。しかし、パリで出会った林忠正(美術商)や山本芳翠らと交流したことで、絵心を掻き立てられたようで、フランス留学2年目に画家になる決意をしました。 その後、ラファエル・コランに師事し、アカデミックな画風と印象派などから影響を併せ持つ画風になっていったようです。 このコーナーには学習のために描いたデッサンなどがありました。

黒田清輝 「女の顔(模写)」 ★こちらで観られます
モナリザのようなポーズの女性像で、これはルーブル美術館の絵画を模写したもののようです。解説によると、この頃から形の捉え方に硬いところが少ないとのことで、早くから才能を見せていたようでした。
この辺には素描がずらりと並んでいます。

黒田清輝 「裸体習作」 ★こちらで観られます
人に身振りで説明しているようなポーズをしている男性の裸体像です。きりっとした表情や、陰影で強調された筋肉に生気を感じました。先ほどの作品よりだいぶ生き生きしてる気がします。
この辺には写生帖5点くらいと書簡が3点くらいも展示されていました。

黒田清輝 「田舎家」 ★こちらで観られます
これは現存する最初期の油彩画です。田舎の農家らしき家と、その隣に詰まれた藁、そしてその周りにいる鶏たちが描かれています。家のドアは開いていて、中で人が何か作業をしているようでした。ちょっと色が暗めですが、のんびりとした農家の日常を感じる作品です。 解説によると、この頃、バルビゾン派に関心があったそうで、この作品からはバルビゾン派への傾倒も見られるようです。(農家を主題にしてる点とかもそうなのかも)
 参考記事:農村(田園)へのまなざし (東京国立博物館 本館18室)

黒田清輝 「自画像(トルコ帽)」 ★こちらで観られます
赤い帽子を被った横顔の自画像です。穏やかな顔で、晩年の面影もあるように思います。下の方には塗り残しみたいなところもあるのが気になる…。この頃は画家になって自分の道を模索し始めた頃なので、期待と不安が表情のようにも見えるようです
この辺りには肖像画が何枚かありました。


<第2章 パリからグレー=シュル=ロワンへ>
黒田清輝はフランスには9年間いたのですが、1888年にフォンテーヌ・ブローの南端にあるグレー=シュル=ロワンという村を初めて訪れ、その2年後からそこを拠点として活動しました。(当時、この村はフランス外の画家が集まるコロニーとなっていたそうです。) ここで黒田清輝はマリア・ビヨーという農家の女性と出会いました。この女性は黒田清輝の作品によく出てくる女性で、彼女をモデルにした「読書」はサロンで入選したそうです。 残念ながら、「読書」は今回の展覧会では展示されていませんでしたが、このコーナーではマリア・ビヨーを描いた作品をはじめ、この時代に描かれた作品を観ることが出来ました。
 参考記事:黒田清輝のフランス留学 (東京国立博物館)

黒田清輝 「少女の顔」 ★こちらで観られます
金髪の女性の顔を描いた肖像です。背景には森が見えますが、下のほうはまだ描きかけの絵のようです。先生であるコランの作風に近いように思いました。

黒田清輝 「原」 ★こちらで観られます
淡い色彩で描かれた油彩画です。水彩のように透明感のある爽やかな色使いで草原が描かれ、黒田らしい柔らかい印象を受けました。

黒田清輝 「編物をする女」 ★こちらで観られます
木炭で描かれた作品で、マリア・ビヨーが編み物をしている姿を描いています。じっと手元を見つめ集中している様子で、静けさと親密さを感じました。 最初のコーナーの素描よりも内面的なものを感じるように思います。

黒田清輝 「編物」 ★こちらで観られます
これもマリア・ビヨーが編み物をしている様子を描いた作品で、こちらは油彩画です。窓辺でうつむいて座っている傍ら、窓からは少し光が差し、窓の脇には花が飾られています。この光の表現などは印象派からの影響かな? 何度観ても素晴らしい作品です。

この辺には「夏図」という作品のための画稿が12点ほどありました。また、写生帖も4点くらいありました。


<第3章 白馬会の時代>
フランスからの帰国後、黒田清輝は「明治美術会」という洋風美術団体で作品を発表していきました。その頃、日本には脂派(やには)と呼ばれる暗めの明暗表現の作風があったようですが、それに対して黒田清輝が持ち込んだ明るい外光描写は「紫派」と呼ばれ、日本の西洋画に新しい風を吹き込みました。(何故、「紫派」かというと、影を紫で表現したりしたためのようです。)
1896年には東京美術学校に迎えられ、その翌月に「白馬会」を結成しました。この頃、黒田はアカデミックな西洋美術の手法を正しく伝えようと考えていたようです。 このコーナーにはこの時期の作品が並んでいて、特に充実したコーナーとなっていました。

まず、「昔語り」という戦災で焼失した作品に関する小コーナーがありました。オリジナルの写真パネルの他、多数の素描や下書きが並び、製作過程を窺い知ることができました。

黒田清輝 「昔語り下絵(構図Ⅰ)」 ★こちらで観られます
かなりぼんやり描かれた下絵。何人の人が立っているのは分かるのですが、人々のポジションが完成作とは違い、この下絵の後に推敲を重ねたことを伺わせました。

黒田清輝 「昔語り図画稿(構図)」 ★こちらで観られます
黒田清輝 「昔語り下絵(構図Ⅱ)」 ★こちらで観られます
この2枚は完成作とほぼ同じ構図かな。身振りをして昔話をする僧、手を繋いで話に聞き入る舞妓と若者、周りで聞き入る女性達や農作業の帰りにふと足をとめたような女性などドラマを感じさせる風景です。この完成作が失われてしまったのは非常に勿体無い話です…。この他にも、足だけ描いた下絵などもあり、非常に入念に描かれた作品であったことを偲ばせます。

この辺には「朝妝図」に関する展示もありました。こちらも焼失してしまい白黒のコピーのみです。この作品は鏡の前の裸婦の後姿を描いたので、国内では女性の裸体を描いたことを批判され物議をかもしたようですが、フランスのサロンに入選したほどの名画だったようです。これまた惜しい…。

黒田清輝 「日清役二龍山砲台突撃図」
山で戦闘している兵士達を描いた作品で、サーベルや銃剣のようなものを持って戦っているようです。解説によると黒田清輝は1894年11月~1895年2月まで日清戦争に従軍していたようで、これはその頃の作品のようです。しかし、実際には戦闘を目にしていなかったらしく、こうした作品は不得手だったのだとか。 作品としてはそんなに魅力を感じませんでしたが、意外な一面を知ることが出来ました。
近くには「林政文肖像」という日清戦争で一緒に従軍した新聞記者の肖像もありました。どちらも特別展示ということで貴重な作品のようでした。

黒田清輝 「大磯」 ★こちらで観られます
夏の砂浜を描いた油彩です。青空に雲、砂浜でのんびりする人々などが描かれ爽やかな雰囲気です。細部は曖昧な感じで、印象派みたいな光に思えました。

黒田清輝 「湖畔」 ★こちらで観られます
芦ノ湖の湖畔で団扇を持ち涼んでいるような女性を描いた作品です。青に白い線の入った浴衣を着ていて、背景には水色の湖と薄い緑の山など、全体的に透明感を感じます。爽やかで瑞々しく、かなり好みの作品です。どこかをじっと見る目も気になります。

黒田清輝 「智・感・情のうち智」 「智・感・情のうち感」 「智・感・情のうち情」 ★こちらで観られます
右から智・感・情の順で並んだ3枚セットの作品です。いずれも「朝妝図」と同じく女性の裸体を描いていて、これを載せた雑誌は発禁になってしまったそうです。
右の「智」は右手で頭を触って、左手でお腹を触るポーズをしています。真ん中の「感」は両ひじを曲げて顔の横に出したポーズです。そして左の「情」は右手で髪を押さえ、左手は股間あたりを隠すポーズをしていました。 ・・・右から順にシェーのポーズ、ナハナハのポーズ、マイケルのポーズなどと考えてしまいますw ポーズの意味はわかりませんが意味深で、いずれも等身大で三尊像のような神秘性がありました。
解説によると、智は「理想主義」、感は「印象主義」、情は「写実主義」をあらわしたもので、日本人女性をモデルに日本人が描いた最初の油彩裸婦とも紹介されていました。


<第4章 文展・帝展時代>
最後は文展・帝展に関する展示でした。文展は「文部省美術展覧会」の略で、サロンを手本にしたもので、黒田は文展の設立に大きく関与しました。また、自身も初の「帝室技芸員」(今で言う人間国宝のようなもの)にもなるなど、公人としての活動が多くなっていきました。後には貴族院議員にもなるなど後半生は公人として忙しかったようで、寸暇を惜しんで描かれたのは、身近な眺めを描いた小品が多いようです。このコーナーにはそうした身の回りを題材にした作品が並んでいました。

この章の最初の方には記録写真(14歳の頃からの写真)やびっしりと書かれた日記などもありました。

黒田清輝 「花野」 ★こちらで観られます
野原で寝そべったり座っている3人の裸婦を描いた油彩です。淡い色彩で描かれていて、この時期にしては大きめの作品です。アカデミックと印象派の中間のような画風で、コランの画風によく似ているように思います。これもどういう意味が込められているか分かりませんが、清楚な感じで爽やかでした。この作品の右にはほぼ同じような小さな下図(中央の女性が腰掛けているものが少し違う)や下絵などもありました。

黒田清輝 「木村翁肖像」 ★こちらで観られます
ここら辺には肖像の小コーナーもありました。これは右手に葉巻を持った紳士を描いた絵で、生き生きとした目をしています。誰かと話しているような親しげな表情で、温厚そうな顔でした。描かれた人の性格まで伝わってきそうです。

黒田清輝 「自画像」 ★こちらで観られます
正面を向いた自画像です。歳を取って髪が薄くなり、口髭を生やしています。心なしか少し疲れたような顔に見えたかな。
この辺には遺品のイーゼルや絵の具なども展示されていました。

黒田清輝 「案山子」 ★こちらで観られます
夕暮れを背景に畑に立つカカシを描いた作品で、以前観た時に、このカカシは自分で立てたと解説されていたと記憶しております。簡略化が進み、美しい風景が郷愁を誘います。 それにしても、このカカシが無ければ何てこと無い風景になってしまったかも??
 参考記事:農村(田園)へのまなざし (東京国立博物館 本館18室)

この辺には小さ目の風景画も並んでいました。


ということで、黒田清輝の足跡を一気に辿れる充実の内容でした。ここまで揃えたなら東博の「読書」なども持ってきてあげれば良かったのに…とは思いますが、今まで漠然としか知らなかった黒田清輝のことを詳しく知ることが出来て良かったです。(早いとこ上野の黒田記念館に行っておきたいところですw)

この後、岩手県立美術館の常設も観てきました。写真を撮ることもできましたので、次回は常設展のご紹介をしようと思います。

 参考記事:
 2010年
  毛越寺の写真 (番外編 岩手)
  ゆめやかた(夢館奥州藤原歴史館)の案内 (番外編 岩手)
  中尊寺の写真 (番外編 岩手)
  鹿踊りと花巻周辺の写真 (番外編 岩手)
  岩手県立美術館の案内 (番外編 岩手)
  東屋 (盛岡界隈のお店)

 2011年
  猊鼻渓(げいびけい)の写真 (番外編 岩手)
  藤原の郷(ふじわらのさと)の写真 (番外編 岩手)
  遠野の写真 (番外編 岩手)
  萬鉄五郎記念美術館の案内 (番外編 岩手)
  盛岡の写真 (番外編 岩手)
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