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フランダースの光 ベルギーの美しき村を描いて 【Bunkamuraザ・ミュージアム】

前回ご紹介した損保ジャパン東郷青児美術館の展示を観た後、渋谷に移動してBunkamuraザ・ミュージアムで「フランダースの光 ベルギーの美しき村を描いて」を観てきました。

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【展覧名】
 フランダースの光 ベルギーの美しき村を描いて

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/10_flanders/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/shosai_10_flanders.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅
【会期】2010年9月4日(土)~ 2010年10月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展覧は結構楽しみにしていたので、混んでいるか?と思ったら意外にも空いていて、じっくり楽しむことができました。

この展示はベルギー北部のフランドル地方の「シント・マルテンス・ラーテム村」(以下「ラーテム村」と表記)という小さな村を主題とした内容となっています。このラーテム村は芸術家が集まったコロニーとなっていたようで、時代と共に様々な画家がここで活動していたようです。(詳しくは各章で気に入った作品をご紹介しようと思います。) 全90点程度の作品を、時代を追って象徴主義、印象主義、表現主義という区切りで展示していました。


<第1章 精神的なものを追い求めて>
1章はラーテム村に集まった最初の世代で、主に象徴主義のコーナーでした。この地にコロニーが生まれたのは、当時すでに名前の売れていた彫刻家のジョルジュ・ミンヌがこの地に移り住んだことがきっかけでした。そこに、元々の住人であったアルベイン・ヴァン・デン・アベールなども参加し、やがてコロニーとして画家が集まってきたようです。

この章には、つい最近オペラシティの展示で観た画家の作品などもあり、オペラシティの展示と両方見るとより楽しめそうです。最近ベルギー関連の展示が活発なので、展覧会を越えて比較できる贅沢ができますw 
 参考記事:
  ベルギー幻想美術館 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  アントワープ王立美術館コレクション展 (東京オペラシティアートギャラリー)

アルベイン・ヴァン・デン・アベール 「春の緑」 ★こちらで観られます
この人は元々この地で活動していた画家で、この作品は森とそこに咲く花などを描いています。うっそうとしながら柔らかくて、神秘的な静けさを感じました。色合いのせいか吸い込まれそうな…。 解説によると、宗教的な瞑想にいざなうとのことで、精神的なものを表現しているようでした。
冒頭にはこの画家の森の作品(人も動物もいない森)が4点くらいありました。

ヴァレリウス・ド・サードレール 「シント・マルテンス・ラーテムのレイエ川」
緩やかに曲がる川(レイエ川)と、その上に浮かぶ雲、川岸にある小舟、向こう岸の家などが描かれています。色が鮮やか過ぎて現実を描いているはずなのに夢の中のような雰囲気に思えました。解説によると、筆跡を残さない滑らかな仕上げの絵となっているそうです。また、この画家はラーテム村に着てから精神性のある象徴主義的な画風になったようで、その前は印象派風の画家だったそうです。画風を変えてからは自分の印象派風の作品を買い戻して破棄していたという逸話もあるので、過去の自分の画風を否定していたのかもしれません。

この章は絵だけでなく、ジョルジュ・ミンヌの彫刻があちこちに置いてあるのも面白い趣向でした。

ヴァレリウス・ド・サードレール 「冬景色(大)」
これはオペラシティで観た作品とよく似た雰囲気の作品でした。雪の中の村を描いた作品で、画面には一人も人がおらず、しんと静まりかえっているように見えます。ぱっと観てピーテル・ブリューゲルの雪原の絵を連想する作風ですが、空がやけに大きく取られているのが特徴となっていました。この絵の他にもこの画家の作品は何点かあるのですが、空を広く取っている作品が多いように思います。また、静まりかえった雰囲気の作が多かったのも心情を伝えているように思いました。

ギュスターヴ・ヴァン・ド・ウーステイヌ 「ミルク粥を食べる人」
赤い服を着た男性が、テーブルの前で左を見るような何とも言えない表情を浮かべています。手前にはパンとミルク粥と玉子が置かれているのですが、何故かミルク粥だけは上から観たような視点で描かれていました。 ちょっと奇妙な感じを受ける面白い画風かも。この人の畑仕事を描いた作品?も面白かったです。

ギュスターヴ・ヴァン・ド・ウーステイヌ 「悪しき種をまく人」 ★こちらで観られます
構図はミレーの「種をまく人」に似ていて、農夫が右手を広げて目をつぶって種をまいています。しかし、その後ろでは沢山のカラスたちがまいた種を食べているようでした。…何と言うかこの画家にはシニカルなものを感じるw また、背景が金色で昔の宗教画のような雰囲気がありました。解説によると、この作品は新約聖書をテーマにしているそうで、「受け入れる土台が無ければ髪の言葉も実を結ばない」という意味が込められているとのことです。
 「種をまく人」の参考記事:山梨県立美術館の常設


<第2章 移ろいゆく光を追い求めて>
続いて2章は印象主義から派生した作風のコーナーでした。1905年くらいから印象主義の画家がラーテム村に移り住んできたそうで、当時はスーラから影響を受けた点描が多くの画家の心を捉えていたようです。 このコーナーではそうした流れを受けて生まれた光輝主義(リュミニスム)などを紹介していました。
また、第2世代と呼ばれる画家たちも紹介されていて、彼らは近くのゲントという町で交流のあった画家たちでした。第1世代とはあまり交流が無かったようで、ブルジョワ的なものを嫌った第1世代とは違い、裸婦や美しい室内画なども描いていたそうです。

エミール・クラウス 「ピクニック風景」 ★こちらで観られます
今回の展覧会で最も収穫だったのはエミール・クラウスの絵が1つのコーナーとなっていたことでした。これは、画面の左右に流れる川の手前で10人くらいの老若男女の農民達が集まっている様子が描かれた作品です。川の向こう岸を見たり、草の上に座り込んだりしていて、人々は光に包まれているかのように明るく描かれています。また、川の向こう岸には日傘を差した女性など都会の人々や船が見え、行楽を楽しんでいるように見えました。(解説によると、手前と向こう岸の人々の階層は異なっていますが、それを強調しているわけではないようです。) 全体的に写実的で、これはエミール・クラウスの初期の作品のようでした。
 参考記事:ベルギー王立美術館コレクション『ベルギー近代絵画のあゆみ』 (損保ジャパン東郷青児美術館)

エミール・クラウス 「野の少女たち」
金色の枯れ草と緑の草の間にある道を、こちらに向かって歩いてくる少女たちを描いた作品です。はだしで手に靴を持っている仕草が可愛いらしいのですが、それ以上に気になるのが光の表現です。 強い逆光の表現が見事で、少女の顔は影で暗くなっていました。 心にまで差し込むような光の強さが流石でした。

エミール・クラウス 「刈草干し」 ★こちらで観られます
今回のポスターになっている作品で、大きな藁束を担いだ女性が描れています。藁の周りは輝き、太陽の日差しを感じました。また、顔にも地面の照り返しが表現されていて、光の中でも光が認識できるような作品に思いました。 背景の家や草の地面にも光が溢れています。
この辺はエミール・クラウスの素晴らしい作品ばかりでテンションが上がりました。近くにあった川と牛たちの絵も良かった…。

エミール・クラウス 「夏の夕暮れ」 ★こちらで観られます
小さな湖の畔で、テーブルを置いてティータイムをしているドレスの女性と家政婦らしき人が描かれた作品です。周りは夕暮れの色合いとなっていますが、暗さは感じず爽やかな空となっていました。 遠くには背の高い並木が見えるなど、何とも優雅な風景です。

アンナ・ド・ウェールト 「6月の私のアトリエ」 ★こちらで観られます
この人はクラウスの弟子で、女性の画家です。一面に咲く薄い紫の花や生い茂る木々が描かれ、背景には白壁の三角屋根の家も見えます。タイトルから察するにこの家は自分のアトリエかな。やはり画面はクラウスのように明るく、印象派的な感じもしました。 穏やかで美しい色使いも好みです。

児島虎次郎 「黒い帽子の女」 ★こちらで観られます
クラウスの弟子の中には2人の日本人画家もいて、1人は児島虎次郎です。これは椅子に座っている大きな帽子を被った女性像で、背景の窓の外には沢山の花が見えます。 女性の帽子や服は流れるように描かれ、ふさっとした感じも出ていました。また、女性の背後の窓枠などには木目(点描?)のようなリズミカルな筆が観られました。色合いの明るさは確かにクラウスからの影響かな。
なお、児島虎次郎は倉敷にある大原美術館の功労者でもあると紹介されていました。詳しくは参考記事をご参照ください。
 参考記事:大原美術館名品展 (宇都宮美術館)

児島虎次郎 「川辺の風景」
太田喜二郎 「川辺の読書」
レイエ川の畔で描かれた2枚の作品です。どちらも川辺で白い服の女性が本を読んでいる姿を描いたものですが、児島虎次郎の作品には太田喜二郎が絵を描いている姿も描かれていて、どうやら2人で同じ時に描いたもののようです。2つ並んで観られるのが面白いです。
なお、解説によるとエミール・クラウスは太田喜二郎に対して、いつも太陽に向かってイーゼルを向けるようにと教えたそうです。これは太陽に絵の具が当たった状態で描くと、光で画面が明るく見えてしまい、絵が暗くなるためのようです。確かにクラウスの作品には逆光の作品が多かった気がします。

太田喜二郎 「樹陰」 ★こちらで観られます
木漏れ日の下、木の根元で座ったり寝そべったりしている3人の少年が点描の技法で描かれていています。よく見ると影も黒ではなく紫などで表現されていて明るい印象を受けました。

レオン・ド・スメット 「窓辺の女性」
室内でお茶を入れている女性と、窓のツツジのような花などが点描で描かれた作品です。女性の服やテーブルクロスなど、白が多く使われ爽やかな雰囲気があります。解説によると、ブルジョワ的な気だるい雰囲気があるのが、ラーテム村の第1世代との違いのようです。

この辺には室内を描いた作品もいくつかありました。

フリッツ・ヴァン・デン・ベルグ 「庭の少女」
印象派のような画風で自宅の庭を描いた作品です。左下の手を挙げて口を開けて何かを叫んでいるような娘がいるのが目を引きます。解説によるとムンクの「叫び」を思い起こすと言われていましたが、確かに似た点があるかも。しかし、恐怖や不安というよりは驚きのような感じに見えました。
この人も何点かあるのですが、次の章ではだいぶ画風が変わっていて驚きます。


<第3章 新たな造形を追い求めて>
第3章は前章の第2世代の画家達のその後の作品のコーナーです。第1次世界大戦の際、ラーテム村の画家たちは疎開していたのですが、疎開先でキュビスムなどの新しい美術の流れに目覚め、以前とは全く違った手法で作品を制作していきました。前章とは画風が激変していて、同じ画家の作品だと言われなければ分からないものばかりでした。

フリッツ・ヴァン・デン・ベルグ 「日曜日の午後」 ★こちらで観られます
この画家は先ほどの「庭の少女」を描いた人ですが、この絵はキュビスムや素朴派、フォーヴィスムのような雰囲気を持った作品です。川の側で並んで座る3人の黒服の男性が単純化され、大きく描かれています。背景の教会なども単純かつ素朴な力強さで描かれていました。
この辺にはこうした単純化された画風の絵が何枚かありました。

フリッツ・ヴァン・デン・ベルグ 「貧しい男」
縦長の絵で、中央を境に左右で雰囲気が異なる作品です。真ん中に右側に踏み出す黒衣の男性と犬が描かれ、右側は寒々とした暗い画面となっています。その一方で、左側の室内で暖かそうな火の光に照らされた子豚に授乳している太った女性が描かれていました。これは社会の不平等への批判を込めているようですが、宗教的な意味もあるのではないかと思いました。

ギュスターヴ・ド・スメット 「恋人同士の散歩」
この画家は前章でご紹介したレオン・ド・スメットの兄弟です(ギュスターヴの印象派風の作品も前章にあります)
キュビスム的な画風の作品です。男女が都会の夜道を歩いている様子が描かれ、色が暗めで印象派の時代とはだいぶ違います。どこかモディリアーニのような細長でアフリカ彫刻のような顔をしているように思いました。


ということで、だいぶ楽しめる内容でした。特に2章のエミール・クラウス関連の作品はかなり好みで、今期の展覧会の中でも満足度が高かったです。印象派が好きな人なら楽しめる展覧会ではないかと思います。

おまけ:
東急のショーウィンドに飾ってあるグッズです
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