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上村松園展 【東京国立近代美術館】

先週の日曜日に竹橋の東京国立近代美術館で「上村松園展」を観てきました。 この展覧会は前期・後期に分かれていて、私が行ったのは前期の展示でした。

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【展覧名】
 上村松園展

【公式サイト】
 http://shoen.exhn.jp/
 http://www.momat.go.jp/Honkan/uemura_shoen_2010/index.html

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】
  前期:2010年09月07日(火)~09月26日(日)
  後期:2010年09月28日(火)~10月17日(日)
   ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日 時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
始まって1週間も経たないうちに行ったのですが会場は早くも混みあっていて、場所によっては列を組んでいる感じの混み具合でした。
この展覧会は上村松園の初期から晩年まで揃い、非常に充実した内容となっていました。 元々、上村松園が好きなので今年観た展示の中でも指折りの満足度かも。 展示作品も結構多いのですが、冒頭にも書きましたとおり展示期間が限られている作品が多いので、お目当ての作品がある場合は公式サイトで作品リストを確認することをお勧めします。詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、似たような作品名が多いので、作品番号を付記しておきます。

 参考リンク:
  作品リスト(東近美)
  作品リスト(特設サイト)


<第1章 画風の模索、対象へのあたたかな眼差し>
まず最初は初期のコーナーでした。松園は幼い頃から絵が好きで、京都府画学校に通っていたようですが、それに物足りずに鈴木松年の画塾にも通っていたそうです。また、それ以外にも幸野楳嶺や竹内栖鳳にも師事していました。この頃の特徴としては、幅白い題材で浮世絵などからの影響も観られるようです。ここにはそうした初期の作品が並んでいました。

03 上村松園 「義貞勾当内侍を視る」
大和絵風の作品で、貴族の屋敷の中を描いています。細やかで松の緑や着物の色が鮮やかです。これは20歳の作品らしいですが、既に独特の優美さが出ているように思いました。近くには17歳の時の作品もありましたが、それも17歳とは思えない絵でした。

05 上村松園 「人生の花」 ★こちらで観られます
06 上村松園 「人生の花」
これは2点並んで展示されていましたが、非常によく似ている作品です。どちらも黒い羽二重を着た花嫁と、その前を行く母が大きく描かれ、少しうつむいた花嫁の恥ずかしげな顔が初々しい感じです。2枚の違いは着物の柄が少し違うくらいかな? この作品は何枚か同じような作品を描いたそうです。

12 上村松園 「四季美人図」
これはつい最近ご紹介したかな。前期の展示では四季のうち春と夏の2枚が展示されていて、桜の下で緑の着物を翻す女性の絵と、屋形船の上で透けるうちわの女性の絵が並んでいました。まだ暑かったので涼しげな美人が季節にぴったりかも
 参考記事:日本美術のヴィーナス -浮世絵と近代美人画- (出光美術館)

20 上村松園 「花見」
松の下に集まっている5人の美女が描かれた作品で、画面の下のほうには青い傘がいくつか折り重なるようにならんでします。その人物の配置や傘が流れるように並んでいてリズミカルでした。何とも華やかな1枚です。

17 上村松園 「長夜」
灯りの下で本を読む女性と、灯りに手をかざしている女性を描いた作品です。灯りの周りの障子ごしに見える女性の手の表現などが巧みに思いました。女性達ののんびりした表情も中々良かったです。
この他にもこのコーナーは「人形つかい」なども好みでした。


<第2章 情念の表出、方向性の転換へ>
松園は文展に第一回の頃から出品し、出す度に受賞を重ねて画家としての地位はますます確実になっていったそうです。そして、この頃から感情表現を研究するようになり、謡曲や物語を題材にすることが多くなったようです。このコーナーにはそうした感情豊かで怖いくらいの情念を持った作品が並んでいました。

31 上村松園 「花がたみ」
これは今回の展示作品の中でも強く心に残る作品の1つじゃないかなw モミジが舞う中、少し狂気をはらんだ笑顔で花籠を持って歩く女性像です。着物は乱れ、壊れた扇子が足元に落ちていることなど一向にお構いなしで歩く姿は、少し怖さすら感じます。解説によると、これは世阿弥の謡曲「花形見」を題材にした作品で、この花籠をくれた天皇との悲恋の末に心を病んでしまったようです。 松園はこの作品を描くために精神病院に通い、心を病んだ人を観察して能面に似ていると感じたそうです。確かにこの作品の女性は能面のような顔で微笑んでいました。

33 上村松園 「焰」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、源氏物語の六条の御息所が嫉妬の生霊となって現れた姿を描いています。蜘蛛の巣と藤の模様の着物を着て長い黒髪を翻し、寂しいような恨めしいような顔でうつむいています。よく見ると自分の髪を噛んでいるのかな? 足元は幽霊のようにぼんやりしていました。 解説によると、これは能面の嫉妬の美人を参考に描かれたそうです。六条の御息所のイメージぴったりと言うか、なんとも業を感じさせる作品でした。

36 上村松園 「楚蓮香之図」
中国の伝説の美女「楚蓮香(それんこう)」を描いた作品で、透けるうちわのようなものを持ち、彼女の周りを飛ぶ蝶を見ている様子です。解説によると、この楚蓮香は歩くと良い香りがして蝶が寄ってきたそうで、これはその伝説をモチーフにしているようです。 軽やかさを感じるポーズをしていて優美さがありましたした。
近くには他にも楚蓮香の作品や楊貴妃を題材にした作品などもありました。


<附章 写生に見る松園芸術のエッセンス>
ここは写生や素描のコーナーでした。女性の顔や手元、足元、能面、老人などこれまで見た作品とも関連のありそうな写生が並んでいました。輪郭だけの作品とかもありました。松園がどのように絵を描こうとしていたのかが伝わるような内容でした。


<第3章 円熟と深化>
最後の3章は大きく3つの章に分かれていました。昭和に入ると松園は円熟期を向かえ、余分なものをそぎ落とした表現となったようです。また、前章のように感情表現を前面に出すのではなく、静かな画面の中に潜むような表現となっているそうです。この章ではそうした円熟期から晩年までの作品が並んでいました。

[3章-1 古典に学び、古典を超える]
3章の1つめのコーナーは古典関連の作品を集めたコーナーです。松園は浮世絵などの古画や謡曲などの古典をさらに深く理解し、その品格も作品に取り込もうとしていたそうです。

39 上村松園 「伊勢大輔」
三十六歌仙の1人、伊勢大輔(いせのたいふ)を描いた作品です。八重桜の句を詠んだ時を描いているらしく、十二単の女性が、蒔絵の台の上に乗せられた八重桜の枝を見ています。十二単の色は淡くて美しく、桜を見る表情には気品がありました。 華やかな感じがしますが、ちょっと緊張感もあったかな。

44 上村松園 「春宵」
薄い緑の着物の女性が、赤い着物の女性に何か耳打ちしている様子が描かれています。赤い服の女性の表情は澄まして何かを想像しているように見えました。周りには桜も舞っていてこれまた華やかな雰囲気ですが、単にそれだけではなく物語性を感じる作品でした。

47 上村松園 「草紙洗小町」 ★こちらで観られます
しゃがんで左手で本を開き、右手で金の扇子を持った小野小町を描いた作品です。本は白紙に見えましたが、これは万葉集からの盗作の疑惑がかけられた時に潔白を示している姿だそうです。小野小町はちょっと能面のような顔ですが、どこか自信がありそうな表情をしていました。


[3章-2 日々のくらし、母子の情愛]
続いてのコーナーは日々の暮らしと母子を題材にしたコーナーでした。松園は女性のまげへの興味や、失われ行く古きよき京都の町並みを作品に反映しているようで、このコーナーではそうした面を見ることができました。

57 上村松園 「新蛍」
黒い着物の女性と、緑の着物の女の子が、蛍の入った虫かごを袖で覆っている様子が描かれた作品です。 かすかに黄色く光る蛍を見ている姿が何とも可愛らしいです。 背景には墨の濃淡で描かれた草があるだけで、人物が際立って見えるように思いました。また、失われつつある昔の古き良き風情を慈しんでいるようでした。

56 上村松園 「虹を見る」
2曲1双の屏風です。右隻には右上にうっすらと虹が描かれ、それを見ている子供を抱いた女性が描かれています。 左隻にも座って団扇を持って虹を見ている女性が描かれ、みんなで虹を楽しんでいる優雅な雰囲気がありました。

59 上村松園 「母子」 ★こちらで観られます
子供を抱いて慈愛の目を向ける女性を描いた作品です。眉が薄っすらと青くなっていて、これは明治時代の子持ち女性の風習のようです。解説によると、この作品を描いた数ヶ月前に松園の母が亡くなったそうで、母は眉が青く美しい女性だったそうです。この作品には亡き母への思いが込められているようでした。

69 上村松園 「櫛」
櫛を両手でも持ちじっくりと眺めている女性を描いた作品で、優美な雰囲気が漂います。解説によると、歌麿の作品にもこういう構図の浮世絵があるようですが、松園の作品はそれとは違い生活感を出さないようにしているようでした。 そのせいかどこか気品を感じる作品でした。

73 上村松園 「牡丹雪」
雪の積もった傘を持つ、緑の着物の女性と、青い着物の女性を描いた作品です。うっすらと積もった雪が清らかな雰囲気を出しています。また、絵の上部が大きく開いていてしんしんと雪が降っているのも静けさを感じました、

62 上村松園 「秋の粧」
金の扇子を持った青い着物の女性と、それに話しかけるような緑の傘を持った女性が描かれた作品です。瑞瑞しく艶やかな色彩と仕草がかなり好みでした。赤と金、薄い青に赤など、色の取り合わせも上品です。


[3章-3 静止した時間、内面への眼差し]
最後は描かれた女性たちの視線などに注目したコーナーでした。何か物思いに耽っているように遠くを見つめるような美人たちが並んでいて、以前ご紹介した「新蛍」や最晩年の作品も観られました。
 参考記事:没後60年記念上村松園/美人画の粋(すい) (山種美術館)

88 上村松園 「初夏の夕」
これは松園の最後の作品だそうです。夏草模様の団扇を持つ薄い青緑の着物を着た女性が、左に飛んでいる蛍を見ています。慈しむような目が印象的で、蛍の淡い光も綺麗でした。

79 上村松園 「鼓の音」 ★こちらで観られます
80 上村松園 「鼓の音」
ほぼ同じような構図で色違いの作品が2枚並んでいます。包みを持ってたたこうとしている女性を描いていて、79の方は青い着物に赤い帯、80の方は赤い着物に青い帯となっていて、いずれもどこか遠くを見るような目をしつつも、凛とした雰囲気で気品を感じました。80の方が艶やかで79よりやや好みかな。ただ、80の方は艶やかさを強調しているような感じもしますので、79の方がバランスは良いかもw


ということで、私にとっては非常に楽しめる内容でした。これだけの機会は中々ないと思いますので図録も買いました。 上村松園の絵は、美術にあまり詳しくない方にとっても魅力的だと思いますので、まだまだ人気が出ると思います。こんなに良い展覧会なのに会期が短いのは勿体無い気が…。本当にすぐに終わってしまいますので、ご興味ある方はお早めにどうぞ。
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