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ゴッホ展 こうして私はゴッホになった (感想前編)【国立新美術館】

つい昨日の土曜日に、国立新美術館で「没後120年 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった」を観てきました。今年の展覧会の中でも非常に注目度の高い展覧会ですので、前編・後編に分けて、詳しくご紹介しようと思います。

P1140956.jpg

【展覧名】
 没後120年 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった

【公式サイト】
 http://www.gogh-ten.jp/tokyo/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2010/gogh/index.html

【会場】国立新美術館
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2010年10月1日(金)~12月20日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
まだ始まったばかりですが、早速混み合っていました。鑑賞者が列を作っていて、絵によっては人だかりができることもあります。しかし、ちょっと待っていればじっくり観ることもできるくらいなので、まだマシな方かもしれません。 今のところ入場制限はありませんが、今後は混んでいくと思われますので、気になる方はお早めにどうぞ。 ちなみに、会場の毎日の混み具合は公式サイトで確認できます。
 参考リンク:ゴッホ展の混み具合(東京会場)

没後120年を記念した今回の展示は、主にファン・ゴッホ美術館とクレラー=ミュラー美術館の所蔵品を中心とした全123点で構成されていて、ゴッホの油彩は36点、版画・素描は32点、その他は影響を受けた画家たちとなっていました。意外と素描が多いなと思いましたが、「こうして私はゴッホになった」というキャッチコピーが似合う内容となっていて、初期から晩年まで影響を受けた画家と共に作風の変化を追っていました。 詳しくはいつもどおり気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、ゴッホ以外も結構良い作品が多いのですが、今回はゴッホ中心に感想を書いていきます。


<第1章 伝統-ファン・ゴッホに対する最初期の影響>
まず最初は画家を志した頃の作品です。ゴッホは画商や牧師など様々な職業を転々とした後、27歳の頃に画家を志しました。若い頃からバルビゾン派やフランスの写実主義、オランダのハーグ派などに影響を受けていたようで、彼らの画題や画風を真似ただけでなく、屋外で描くことも倣ったそうです。 ここにはそうした影響を受けた画家の作品と共にゴッホの作品2点が並んでいました。
 ハーグ派の参考記事:第15回秘蔵の名品アートコレクション展 ~日蘭通商400周年記念 栄光のオランダ絵画展~ (ホテルオークラ アスコットホール)

フィンセント・ファン・ゴッホ 「秋のポプラ並木」 ★こちらで観られます
紅葉で黄色く染まるポプラ並木を描いた縦長の作品です。ちょっと暗めな色遣いに思えますが、垂直の線が多くすっきりした印象を受けました。私にはゴッホの作品と言われなければわからないと思うw 丁寧で落ち着いた作品でした。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「曇り空の下の積み藁」 ★こちらで観られます
ポプラ並木の作品と並べて比較するように飾られていましたが、これは晩年の作品です。池のほとり?にある黄色い積み藁を描いた作品で、勢いよく短い線(点描を線にしたような)の筆跡が多々残っています。厚塗りされた絵の具もゴッホの特徴で、先ほどのポプラ並木に比べて自由で感じたままに描いている印象を受けました。バルビゾン派などを手本にしていた頃からだいぶ作風が変わって行ったのが比較できるのが面白い趣向でした。(晩年と言っても初期の6年後くらいですが…) この他にも冒頭に後年の自画像もありました。

ヨゼフ・イスラエルス 「夕暮れ」
この人はゴッホが影響を受けたハーグ派の画家です。全体的に暗い感じで、広い野(畑?)を背景に、子を背負って家に帰る農婦の後姿が描かれています。少し寂しい雰囲気がして、郷愁を誘われました。 解説によるとゴッホは彼の絵を魂を表現できると尊敬していたそうです。
この辺にはバルビゾン派のミレーやT・ルソー、ドービニー、写実主義のクールベなどもありました。


<第2章 若き芸術家の誕生>
続いて2章はゴッホの素描を中心とした章でした。ゴッホはほとんど独学の画家なのですが、著名な巨匠たちの版画や技法書の素描などを模写して素描力をつけていたそうです。特に人物の素描に没頭し、強い表現力を得るために試行錯誤していたようで、このコーナーではそうした作品を観ることが出来ます。 また、1881年~1882年にはハーグ派で親戚のアントン・モーヴの指導を受けたこともあったらしく、その頃の作品も並んでいました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦藁帽子のある静物」 ★こちらで観られます
これは油彩で最も早い時期の作品で、モーヴの下にいた頃に描かれたそうです。テーブルの上に置かれた麦わら帽子や、瓶、壺などが描かれた静物画で、木炭でスケッチした後に絵の具を塗っています。後の作風とはだいぶ違うように見えますが、壺のてかりや陰影など光の表現が面白く、これはこれで見事な静物に思いました。この作品はモーヴにも誉められたようで、ゴッホは自信をつけたそうです。(この辺にはモーヴの作品も2点ありました。)

パースペクティヴ・フレーム(レプリカ)
これは遠近感を計るための四角いフレームです。ゴッホはこのフレームを使って作品を描いていたそうで、弟へのテオに「これを使って長時間練習すると電光石火のスピードで素描が描けるようになる」と書いていたそうです。

ジャン=フランソワ。ミレー 「掘る人」
フィンセント・ファン・ゴッホ 「掘る人(ミレーによる)」
2人の人物がシャベルで穴を掘っている様子が描かれたミレーの素描と、それを模写したゴッホの素描です。ミレーの作品と比べると所々にチョークでアクセントをつけているそうです。
この辺には「掘る人」の素描が沢山ありました。掘るのはアダムの最初の仕事という意味が込められているらしく、ゴッホも思い入れがあったようです。また、ミレーの農民を描く姿勢に共感を持っていたそうで、他にも「種まく人」の模写などもありました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「杖を持つ老人」
杖を持った老人描いたほぼ同じ構図の素描が2枚並んでいました。先ほどのパースペクティヴ・フレームのレプリカにはこの絵のコピーが飾ってあったので、これを使って描いたのかもしれません。2枚は制作時期が2ヶ月くらいしか違いがないのですが、少し後の方が陰影が強くて描写が力強いように見えたかな。表現の試行錯誤が伺えました。

この辺には他にも写実的な素描作品が何枚か並んでいました。また、細かい版画の挿絵が入った本も何点かあり、こうした素描を自分の作品に取り入れていったようです。


<第3章 色彩理論と人体の研究-ニューネン>
1883年の暮れになるとゴッホはニューネンという地に移り住みました。この頃には既にゴッホも一人前の素描家となっていたそうで、この頃から次第に油彩の作品も増えていったようです。また、1884年になるとドラクロワの色彩理論を学んでいたそうで、今後の作品にもドラクロワの影響が観られます。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「白い帽子を被った女の頭部(ホルディーナ・デ・フロート)」 ★こちらで観られます
大きな白い帽子を被った女性の肖像画です。明暗のコントラストが強く、素朴な女性がじっと何かを見ているのが力づよい印象を受けました。背景が暗いせいかも。
この辺にはじゃがいもやジョッキを描いた静物などもありました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「じゃがいもを食べる人々」 ★こちらで観られます
狭い室内の灯りの下、テーブルを囲んでじゃがいもを食べる5人の農民達を描いた素描です。あまり裕福な感じはしませんが、どこか静かで厳粛な雰囲気を感じました。解説によると、人物配置や構図はそれまでに温めてきたもので、これはその集大成のようです。また、弟のテオへの手紙によると、「大地を掘ったことを強調して、手の労働を語っている」とのことで、この作品の出来にはかなり自信と思い入れがあったらしく、リトグラフにして知人に見せたそうです。しかし、その反応は良くなく、特にアントン・ファン・ラッパルトという画家は否定的だったそうです。これにはゴッホは落胆しましたが、人物を描く上での素描の大切さを強く思い知ったそうです。

この辺にはこの絵を否定していたアントン・ファン・ラッパルトの作品も何点かありました。また、「刈る人」や木こりの素描、水彩なども並んでいました。

続いて次の章に移る前に、映像のコーナーがありました。この展覧会の出品策を通じてゴッホの人生をざっと振り返る内容で、短い時間で簡潔にまとまっています。ゴッホは「100年後の人々に生きているように見える肖像画を描いてみたい」と語っていたそうで、それがまさに現実になっているように思いました。


ということで、この辺で大体半分くらいです。前半はあまり油彩は無いかもw (後半には結構油彩があります) しかし、今まであまり知らなかった初期の作品から観られるのは貴重な体験に思いました。 次回は後半の晩年までの作品をご紹介しようと思います。ここからがテンションの上がる内容ですw



 ⇒後編はこちら



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No title
いつもご来訪に感謝しております。

小生、体調不良のまま続けてまいりましたが、
年齢には勝てません。

10日ほど休業しますのでご来訪なきよう願います。
体調が戻り次第お伺い致します。

有難う御座いました。
Re: No title
>流木作品さん
ご丁寧にありがとうございます。
体調に気をつけてくださいね^^
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