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日本画と洋画のはざまで 【山種美術館】

先日から恵比寿の記事が続いているので、今日も恵比寿です^^; 昨日、山種美術館へ行って「開館1周年記念特別展:日本画と洋画のはざまで」を観てきました。

P1150448.jpg

【展覧名】
 開館1周年記念特別展:日本画と洋画のはざまで

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.or.jp/exh_current.html

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅
【会期】2010年9月11月(土)~11月7日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
雨が降っていたせいか、お客さんもそんなに多くなく、ゆっくり鑑賞することができました。今回の展示は日本画と日本の洋画の関わりをテーマにした内容で、山種美術館の名品を中心に、日本の近代絵画の傑作が多々並んでいました。…私は今回は特にテーマは気にせず観ていたのですが、章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。


<第1章 近代化の中の日本画>
このコーナーは近代の日本画をテーマになっていました。西洋の陰影を使った立体表現や、遠近法による空間表現、鮮明な色彩などに刺激を受け、それを取り入れていった頃の様子が伺える内容でした。

山元春挙 「火口の水」
この人は円山応挙などの四条派の流れを汲む画家です。雄大な崖の下の池?で2頭の鹿が水を飲んでいる姿が描かれています。鹿の大きさと比べると崖の大きさがよくわかり、自然への畏敬のようなものを感じました。解説によると、この作品は写真をもとに描かれているらしく、西洋の写実表現に影響を受けているようでした。

菱田春草 「雨後」
ぼんやりとした霧に包まれた山々と、手前に流れる川などが描かれた作品で、名前の通り雨の後のような情感が漂っています。こうした空気感は当時は「朦朧体」と揶揄されたそうですが、私は好みです。よく見ると沢山の鳥が飛んでいるのも美しかった。

速水御舟 「灰燼」
これは以前ご紹介した作品かな。関東大震災で崩れたレンガや壊れた建物が描かれ、空は薄暗く、無人の廃墟がガランとした死をイメージさせました。また、瓦礫や建物は三角や四角の単純化があるようで、キュビスムの影響のように思いました。
 参考記事:速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)

荒木寛畝 「鶏《迎賓館七宝額下絵帖》」
これは旧赤坂離宮に飾る七宝のための下絵です。2羽の鶏が向き合っている姿が精密かつ写実的に描かれていました。色も強いせいか、鶏は実に堂々とした印象を受けました。 しかし、この作品ではなく、渡辺省亭の作品の方が西洋建築の離宮によくあうということで、そちらが採用されたのだとか。渡辺省亭の作品も隣に並んでいました。

渡辺省亭 「雪中群鶏」
これは前述の七宝の作品とは違うのですが、今回の展覧会の中でも非常に良かった作品の1つです。傾いた大八車に7~8羽くらいの鶏が乗って群がっていて、車輪などには雪が積もり、荷台の下にも2~3羽くらいの鶏が描かれています。上に乗っかっている鶏は三角形の形に群がり、車輪の円、荷台の斜め格子など、幾何学的な要素も多々ありました。解説によると、雪は地を塗り残し、鶏は胡粉を使うなど同じ白でも拘りを持って描いているようです。また、この作品はシカゴ万博に出品したものの受賞することができず、それに不満を持った渡辺省亭はこれ以降大きな賞に出品することは無かったそうです。

小村大雲 「東へ」
6曲1双の屏風です。馬車や荷物を背負う人たちが左右に渡って行列を作っています。淡く透明感を感じる色彩で細やかに描かれ、特に馬や豹柄の毛皮や扇などのふさふさした表現が良かったです。


<第2章 ヨーロッパからの感化>
2章はヨーロッパからの影響を感じるコーナーでした。白樺派などを通じて紹介された幅広いヨーロッパの美術に刺激を受けて描かれた作品が並んでいました。

加山又造 「冬山」
雄大にそびえる白い冬山と、そこに生える葉を散らした木々を描いた作品です。雪の積もる地肌や木々の枝などにリアルさを感じるように思いましたが、解説によるとこれは写実というよりは心象風景とのことでした。また、この作品にはピーテル・ブリューゲルの「雪中の狩人」からの影響が観られるのだとか。…言われて観るとそうかなー?と思いながら観ていましたが、写実的な絵かと思ってしまったw

この辺には奥村土牛の「雪の山」などもありました。
 参考記事:生誕120年 奥村土牛 (山種美術館)

小野竹喬 「沖の灯」
これは小野竹喬の晩年の作品です。濃い青色の海とピンク色の空、茶色の浜?を描いているようで、彼方の海面には星形の光が7つ見えています。この光は漁り火だそうで、かなり目を引きました。解説によると、この光などはゴッホの「星降る夜」を想起させるとのことでしたが、確かに似たものを感じました。
 参考記事:
  オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編 (国立新美術館)
  生誕120年 小野竹喬展 (東京国立近代美術館)

加山又造 「裸婦習作」
黄金の文様(絨毯のような文様)を背景にこちらを見て横たわる裸婦が描かれた作品です。少し口を開けて官能的な雰囲気があるように思います。 輪郭線が細く滑らかな白色は藤田の裸婦みたいな感じがするかも。背景が黄金なので白い肌が映えていました。どことなくクリムト的なものも感じるんだけど、どうかな。

この辺りには村上華岳の「裸婦図」や土田麦僊の「大原女」も展示されていました。
 参考記事:
  没後60年記念上村松園/美人画の粋 (山種美術館)
  大観と栖鳳-東西の日本画 (山種美術館)

落合朗風 「エバ」
6曲1双の屏風です。全体的に緑が覆っていて、大和絵風な鮮やかさがあるのですが、左隻には果実に手を伸ばすエバ(イブ)と、それを見ている蛇が描かれているなど聖書を主題にした作品となっています。また、周りにはオレンジのケシの花、右隻の下には七面鳥など、平面的で装飾的な雰囲気で描かれていました。エバはどことなくゴーギャンの作品にでも出てきそうな感じかも。日本と西洋の融合のようで面白い作品でした。


<第3章 日本画vs. 洋画>
このコーナーは洋画が多目のコーナーでした。主題によって3つに細分化されていました。

[静物]
安井曽太郎 「葡萄とペルシャ大皿」
黄色を背景に、テーブルの上の緑の葡萄と、皿に入った紫の葡萄が描かれた静物です。色数が少なく、平面的でキュビスムからの影響を感じるかな。色の対比も鮮やかでした。この隣には梅原龍三郎の静物も展示されていました。

[風景]
横山操 「アメリカ五題のうちマンハッタン」
高層ビルが立ち並ぶマンハッタンを描いた作品ですが、日本画の岩絵の具というもので描かれているらしく、落ち着いた銀色で石のような冷たさを感じる画面となっています。空があまり描かれていないで、ビルに埋め尽くされているような構図も独特でした。

佐伯祐三 「レストラン(オ・レヴェイユ・マタン)」 ★こちらで観られます
レストランを描いた作品で、2階の真ん中に鶏のマークが描かれています。濃く落ち着きのある佐伯独特の色彩で描かれ、壁などに風格というか日々の営みを感じます。看板やお店の名前などの文字も佐伯らしいかな。近くには共に留学した荻須高徳の作品も展示されていました。

[人物]
小出楢重 「子供立像」
椅子に手を置き、ヒモで釣った球体(まり?)を持った自分の子供を描いた作品です。足を交差して立ち、濃い色彩で描かれた子供は力強い印象を受けました。背景には青いテーブルクロスとその上の花瓶やレモンなどが描かれ、対比的な色使いとなっていました。
また、解説によると、この作品はアンリ・ルソーの「赤ん坊のお祝い」を思わせるとのことでした。…あれほどのインパクトは流石に無いと思いますがw
 参考記事:ザ・コレクション・ヴィンタートゥール 感想後編(世田谷美術館)

この辺には和田英作の「黄衣の少女」や安井曽太郎の「金蓉」などもありました。どちらの作品も凄い好みなんです(><)
 参考記事:
  没後60年記念上村松園/美人画の粋 (山種美術館)
  東京国立近代美術館の案内 (2010年02月)


<第4章 日本画と洋画の交錯>
このコーナーは、海外の万博などで高い評価を受けたり、富国強兵/殖産興業といった国内の情勢を受けて日本画が奨励された時代をテーマにしているようでした。

荒木寛畝 「狸」
夕暮れの畑を背景に、こちらをじっとみる狸が大きく描かれた作品です。非常に写実的で、狸は堂々とした雰囲気がありました。目は可愛らしいかもw 哀愁を感じるようで、気に入りました。

高橋由一 「洋人捕象」
これは水墨画の掛け軸です。崖の斜面を凄い勢いで下って振り返る象と、その視線の先に追われているハンターが描かれています。象の顔は怒りに満ち、ハンターは怯えている様子が伝わってきました。解説によると、この絵には「写」との文字が書かれていて、石版や写真を写したものではないかとのことでした。表現方法と主題の組み合わせが面白いかも。

岸田劉生 「四季の花果図橙柿図(秋)」
これは岸田劉生の掛け軸です。上部には書があり、下部にはオレンジの柿が2つ、磁器に入った白っぽい柿がいくつか描かれています。落ち着いた色彩だけど柿の色は鮮やかに思えるかな。 それにしても久々に岸田劉生の日本画を観ました。2年くらい前にうらわ美術館で観た以来??


<第5章 劉生と御舟>
最後は第二会場の1部屋のコーナーで、速水御舟と岸田劉生にスポットを当てた章となっています。…他の画家の作品もあるんですけどねw

速水御舟 「百舌巣」
これは掛け軸です。巣の上に止まる2羽の雀を描いたもので細かく写実的に見えます。しかし、周りに散らばる羽の白などから装飾的な要素も感じられるように思いました。
この絵も確か御舟展で観た気がします。

速水御舟 「炎舞」 ★こちらで観られます
約1年ぶりにこの作品を拝むこともできました。。蛾は写実のようでも象徴主義のようでもあり、炎は仏画のようであり…。様々な要素が絡み合って神秘的な雰囲気を持っています。何度見ても素晴らしい。
 参考記事:速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)

岸田劉生は「道路と土手と塀(切通之写生)」1枚だけでした。これは東京国立近代美術館でよく見かける作品かな。
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)


ということで、この美術館が誇る傑作を沢山観ることができました。特に炎舞を観られたのは嬉しい限り。それだけで結構満足できる内容でした。
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