関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然 【国立西洋美術館】

先週、台風が去った直後の日曜日に、国立西洋美術館で「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」を観てきました。

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【展覧名】
 アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/current.html#mainClm

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)
【会期】2010年10月26日(火)~2011年1月16日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間40分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この日、お客さんは多いというほどでも無かったのですが、近づいて観ないと分からない細かい作品が多いので、混雑しているように感じました。(1枚の作品に1~2人くらい) ちょっと待てば自分のペースで観ることもできるかな。

この展示はルネサンス期ドイツの巨匠、アルブレヒト・デューラーの素描を集めた展覧で、メルボルン国立ヴィクトリア美術館の貴重のコレクション105点、西洋美術館版画49点、ベルリン国立版画素描館から3点と、合計157点もの作品が並んでいました。また、この展示と共に、東京藝術大学大学美術館でもデューラー関連の展示が開催されていて、2つの展覧会でデューラーの素描・版画をクローズアップしています。
 参考リンク:東京藝術大学大学美術館 「黙示録―デューラー/ルドン」

今日ご紹介する西洋美術館での展示は、デューラーの「絵画論」に書かれた言葉に従い「宗教」「肖像」「自然」の3つに分かれていました。詳しくは気に入った作品と共に章ごとにご紹介しようとおもいます。


<第1章 宗教>
1章は宗教画に関するコーナーです。この時代の絵画は主に宗教を題材していることもあり、他の章でも宗教画があったりしますが、この章ではキリストの受難に関する連作など本領発揮といった趣きでした。デューラーは「絵画芸術とは教会に奉仕するものであり、それゆえキリストの受難を描くものである」と言っていたそうで、宗教画に力を入れていたようです。 当時のドイツではヨハネス・グーテンベルクによって確立された活版印刷の技術が広まり、デューラーは版画という当時最新のメディアを用いることで、教会でしか見られなかった宗教画を人々が手元で鑑賞できる身近なものとしたようでした。

アルブレヒト・デューラー 「天使に冠を授けられる聖母」
反転したような左右対称の作品が2枚並んでいて、1つは銅板、もう1つはそのためのペン素描です。どちらもキリストを抱くマリアと、その頭の上に輪(冠)を載せようとしている天使が描かれています。頭上から光が出ているのですが、素描ではその光を表現する線がまばらです。それに対して版画の線は密集して描かれていました。版画の肌理細やかさとどっしりとした風格がよく分かる面白い比較でした。

この辺りには「聖母伝」という木版画の連作がありました。遠近法が積極的に用いられている特長があり、当時の聖母崇拝の気運も高まりも制作背景にあるようでした。

アルブレヒト・デューラー 「ヨアキムと天使」
空から飛んでくる天使と、それを迎えるように仰ぎ見るヨアキム?が描かれた作品です。左半分の背後には森が描かれ、右半分には遠くの港湾の風景が広がっています。そうした構図のせいか明暗や遠近感があり、それが線の密集などで表現されているのがよくわかりました。

アルブレヒト・デューラー 「金門の出会い」
アーチの中で男女が抱き合っているのがまず目に入ってきて、その周りで人々が話している様子なども描かれています。背景の建物に奥行きを感じるかな。
この作品を観ていて思い出したのですが、デューラーの作品の多くにはイニシャルの「A」と「D」を組み合わせたモノグラムが描かれています。これはデューラーの作であることを証明するためのサインみたいなもので、確かデューラーが最初に始めたものだったと記憶しています(うろおぼえですがw) この作品にも木札のようなものが転がっていて、そこにモノグラムが描かれていました。この連作にはどこかしらにあるようです。 それにしても、近くで浜崎あゆみのマークみたいと言ってるお客さんがいて、ちょっと面白かったw 

続いて、「大受難」という連作のコーナーがあります。前述の通りデューラーはキリストの受難を描くのが絵画と考えていたためか、生涯で受難に関する連作を6つも手がけたそうで、その中でもこの「大受難」は初めて発表した木版連作のようです。 解説によると、当時のドイツ人は強調され情緒的な絵を好んだらしく、この連作ではそうしたドイツ固有の表現方法が観られるとのことでした。

アルブレヒト・デューラー 「十字架を担うキリスト」
膝をつき、背中に十字架を背負わされているキリストが描かれている作品で、大受難の1枚です。周りには沢山の人(処刑人?)や見守る人などが細かく描かれています。キリストの表情は何を思っているのか読み取れませんでしたが、処刑される前の様子がドラマチックな雰囲気で描かれていました。

この辺には他にも「ゲッセマネ」や「最後の晩餐」といった西洋画でよく描かれる場面の作品もありました。

アルブレヒト・デューラー 「キリストの復活」
十字架の旗を持ち、堂々と立っているキリストを描いた作品です。背中に十字状に光が輝き、周りには倒れているような兵士の姿も描かれていました。復活した時の神々しさがよく表現されている作品でした。

続いて、「銅板の受難伝」という連作がありました。これは受難伝の中でも最後の連作だそうで、より密度が高い形態や陰影表現ができる「エングレーヴィング」の手法で描かれているようです。この連作はかなり細かいので、接近しないとよく観えないかも。
 参考リンク:「エングレービング」のwikipedia

アルブレヒト・デューラー 「荊冠を受けるキリスト」
荊の冠を被らされているキリストが、非常に細かくミリ以下の線で精密に描かれています。先ほどの大受難に比べて、一層明暗や立体感に厚みが増したような気がします。これはなかなか驚きの連作でした。

アルブレヒト・デューラー 「哀悼」
十字架から下ろされたキリストと、悲しむ弟子や聖女たち?が描かれています。動きや感情の表現が以前よりも更にドラマチックになっていました。

この他にも「小受難」という連作もありました。 この辺は木版、エッチング、ドライポイントなど異なる手法が使われていて、手法が違うと受ける印象もだいぶ違いました。

1章が終わると階段を降りて、次の2章は下の階から始まります。


<第2章 肖像>
デューラーは後半生に当時の著名人を銅版画や木版画で表したそうです。そうした制作活動からは「人の顔を死後の世にも残す」という古代の墓碑肖像に通じる思想や、知的階層・政治指導者との関わりが伺えると解説されていました。この章では、そうした肖像画や人物を描いた作品(一部は宗教関連?)などが並び、今回の展覧会の目玉と言える作品もありました。

アルブレヒト・デューラー 「ある女性の肖像(マルガレータ・デューラー?)」
木炭で描かれたやや横向きの女性の肖像です。右目をつぶっていて、どうやらこの女性は隻眼のようです。(モデルは妻かその妹、もしくは自分の妹とのことです) 明暗がつき、人の内面まで伝わってきそうな表情でした。

アルブレヒト・デューラー 「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門」
何故このコーナーにあるのかは分かりませんが、今回の目玉作品は間違いなくこの作品だと思います。190の版木を用いて49の紙に刷られた(約3m四方!)、門が描かれた版画です。かなり巨大で、この部屋に入った瞬間に驚きましたが、近づいて観るとこれだけ大きな版画なのにミリ単位でびっしりと、紋章や物語、人物などが描かれていて、さらに驚きました。圧巻としか言いようがありませんが、上の方は肉眼では観えませんw。その為、近くには拡大コピーと解説も展示されていて助かりました。(この日、愛用の観賞用スコープを忘れてしまったw) 解説によると、この作品は初代神聖ローマ皇帝のマクシミリアン1世が、帝国のイメージを流布させるために携帯可能な版画という媒体で作らせたもので、デューラーだけでなく多くの学者などが作成に参加しているようです。 門の下部には碑文が刻まれていて、それによってこの門が7つのブロックに分かれていることがわかります。その7つとは、
 1:巨大な3つの門。中央は名誉と権力の門、左は賞賛の門、右は高貴の門。
 2:中央門上部 塔にあるハプスブルク家の系図と紋章
 3:左右門上部 マクシミリアン1世の偉業と幸運の生涯を巡る歴史(24ブロック)
 4:右門の歴史画上部 神に選ばれた国民に愛される皇帝や王達
 5:左門の歴史画上部 皇帝の親戚、友人、および姻戚
 6:凱旋門の両脇に建つ円塔 マクシミリアンの青春時代
 7:凱旋門全体の装飾
となっています。とにかくマクシミリアン1世は凄いんだ!ってのを描いているようですね。今でもその威光がよく分かる作品でした。どれだけじっくり観てもみきれないw

この辺にはマクシミリアン1世を描いた肖像や、パトロン、法律家、宗教改革に取り組んだ人物などの肖像もありました。

アルブレヒト・デューラー 「不釣合いなカップル」
ここから再び上の階に戻ってきます。これは若い女性と年老いた男性のカップルが座っているところを描いています。2人は手を握っているのかな?と思ったら、お金の受け渡しをしているらしい…。さらに、解説によると右に描かれた馬は性欲の象徴なのだとか。肖像というよりは寓話的な作品なのかな? 教訓めいていますが、こういうブラックさは結構好きですw

この辺には他にも寓話的な作品がいくつかありました。夫の鰻を食べちゃった妻と、それを告げ口する鳥を描いた作品なんかも面白かったですw

アルブレヒト・デューラー 「バグパイプ奏者」
年老いた男性が木に寄りかかって、バグパイプを吹いている様子が非常に細かく描かれています。貧しそうでお世辞にも見た目が麗しいわけではありませんが、素晴らしい描写で驚きました。よく観察して描いていたのかな。


<第3章 自然>
デューラーは「大地、水面および星辰の測定は絵画の提示によるのが理解されやすくなる」と言って自然の研究は芸術に欠かせないと考えていたようです。そうした研究成果は宗教画にも生かされ、鑑賞者が物語を受け入れやすくなるとして、自然描写と宗教画の融合を図っていたとのことでした。この章では自然物を描いたものや、宗教画に描かれた自然物をテーマにした作品が並んでいました。

アルブレヒト・デューラー 「バッタのいる聖家族」
戸外で座る聖母子を描いた作品です。マリアの足元の意思や草は非常に写実的に描かれていて、これらは自然研究の成果とのことです。右下の方にはバッタのような虫がいるのですが、背中には蝶の羽のようなものがありました(これも写実なのかな??) また、解説によるとこの作品で初めてモノグラムを使い始めたそうです。他の作品と違い、Aの下のDがdとなっている特長がありました。

アルブレヒト・デューラー 「聖エウスタキウス」
これも基本的に宗教画かな。山の中で多くの動物に囲まれ、ひざをついて馬を観ている聖人を描いた作品です。背景に見える木々や馬、犬などの描写は精密で質感までも感じました。

アルブレヒト・デューラー 「犀」
今回のポスターの1つになっている作品です。画面いっぱいに描かれた横向きのサイの絵で、なぜか首から背中にかけて第2の角が描かれています。実はデューラーは実際にサイを観たことが無いそうで、リスボンの画家のスケッチを写してこれを描いたようです。第2の角は古代の作家の記述に倣ったとも解説されていました。とは言え、第2の角以外は結構写実的で、観たことが無いとは思えませんでした。特にこのボリューム感は本物っぽく思えます。 そのせいか、長い間ヨーロッパではこれはサイの写実と考えられていたそうです。

この辺には魔女や悪魔の誘惑に関する作品などもありました。

アルブレヒト・デューラー 「北星天図」
北半球の星座を描いた作品です。星と共に星座の形に線が引かれていて、星には番号も振られています。四隅には四人の天文学者が天球儀を持っているのも面白いです。この作品の隣には南半球の星座を描いた作品もあったのですが、そちらはだいぶ星座が少なくなっていました。当時既に見つかっていた星もあるようですが、何故か反映されていないようでした。

アルブレヒト・デューラー 「アダムとイヴ」
デューラーによる男女の理想的プロポーションの集大成と言える作品です。アダムに林檎を見せているイブが描かれ、その林檎を木から首を出した蛇が食べているように見えます。また、アダムは手に枝を持ち、そこには鳥が留まっていました。 蛇や鳥も精密ですが、やはり均整の取れた2人の表現が見事でした。

アルブレヒト・デューラー 「岐路に立つヘラクレス」
これも今回のポスターの1つになっている作品で、2人の女性と後姿のヘラクレスが描かれています。この2人の女性のうち、棍棒を振り上げているのが「美徳」の象徴で、裸体で手を挙げて防ごうとしているのが「快楽」の象徴だそうです。最後には快楽が美徳に従うそうですが、このシーンでは2人の女性に挟まれたヘラクレスがどちらを選ぶかためらっているようでした。漫画でよくある心の中の善悪の戦いみたいな感じかなw これまた人体表現が秀逸な作品でした。

この近くにはデューラーの3大銅版画と言われる「メレンコリアⅠ」「書斎の聖ヒエロニムス」「騎士と死と悪魔」がありました。

アルブレヒト・デューラー 「騎士と死と悪魔」
3つとも良かったのですが、私が特に気に入ったのはこれです。長い槍を持ち馬に乗った騎士が描かれ、奥には鼻が欠けて砂時計をもった「死」の擬人や、豚鼻で奇妙な顔の悪魔なども描かれています。砂時計は残りの寿命を表し、悪魔は岸に手を伸ばし、馬の足元には骸骨が転がっているなど、不吉な要素満点といった絵でした。そんな中で馬はピンと立ち理想的な姿で美しく思えました。


ということで、版画・素描だけでしたが、驚きの作品もあり予想以上に楽しめました。特に絵を志す方には特に良い刺激になるのではないかと思います。近いうちに芸大の展示にも行こうと思います。
この後、常設も観てきました。常設も芸大の展示と関連性がありそうな内容でしたので、次回ご紹介しようと思います。
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