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植田正治写真展 写真とボク 【埼玉県立近代美術館】

先日、北浦和の埼玉県立近代美術館で「植田正治写真展 写真とボク」を観てきました。この展示は結構前から楽しみにしていました。

P1170001.jpg

【展覧名】
 植田正治写真展 写真とボク

【公式サイト】
 http://www.momas.jp/003kikaku/k2010/k2010.12/k2010.12.htm

【会場】埼玉県立近代美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】北浦和駅
【会期】2010年12月18日~2011年01月23日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
行ったのが年の瀬ということもあり、かなり空いていて自分のペースで観て周ることができました。

さて、今回の展示は植田正治という写真家の個展となっています。私はほとんど写真家を知らないのですが、たまたま以前にこの人の写真展を観て以来、その作風が好きになり様々な展覧会で見かけていることを認識するようになりました。(不思議なもので、認識しだすと記憶に残りやすいみたいです) 今回はきっちりとその足跡を知ることができる展覧会だったので、私にとって貴重な機会となっていました。
 参考記事:日本の心 富士山展~写真:大山行男~ 【FUJIFILM SQUARE】 (同時開催「うえだ好き―写真家・植田正治に捧げるオマージュ」)

内容は初期から作品が並び、10章構成となっています。5章以降はシリーズ作となっていましたので、1~4章は気に入った作品、5~10章は大まかな章全体の雰囲気をそれぞれご紹介していこうと思います。


<第1章 初期作品>
1913年に鳥取県に生まれた植田正治は15歳の頃には写真を始めていたようで、18歳の時に『カメラ』誌に投稿した「浜の少年」が初入選しました。その後もいくつかの雑誌に投稿して入選を繰り返していたそうで、その作風は当時のアマチュア写真家たちが傾倒した絵画的芸術写真の影響から出発したそうです。また、続いて盛んになった「新興写真」のモダニズムに惹かれ、そこから「演出」の手法を見出して行ったそうです。ここにはそうした初期の作品が並んでいました。

植田正治 「浜の少年」
これが初入選の作品で、屈託の無い笑顔をした坊主頭の少年が、干してある網の間に立っている写真です。無邪気そうな雰囲気がよく伝わってきました。特に絵画的というわけではなく人間性が出ている作風に思えました。

植田正治 「題名不詳」
「パンヒノマル」というお店の屋根と月のようなものを撮った作品で、背景は真っ暗で写真というよりは絵のような感じすらします。神秘的でちょっと怖い感じも受けました。

この辺には他に、ソラリゼーションの技法を使った作品や、風景、静物を撮った作品もありました。
 ソラリゼーションの参考記事:マン・レイ展 知られざる創作の秘密 (国立新美術館)

植田正治 「コンポジション」 ★こちらで観られます
砂漠のような所(砂丘?砂浜?)にマネキンや骨だけの傘、椅子などが転がり、いくつかの帽子が飛んだり置かれていたりしています。背景の空が大きくとられていることもあり、シュルレアリスムのマグリットやダリのような雰囲気を感じる作品でした。

植田正治 「村の駐在さん」
田んぼのようなところで立っている駐在さんを撮った作品です。背景は田園風景となっているのですが、やけに駐在さんが大きく見えるのが不思議な感じで、アンリ・ルソーの「フリュマンス・ビッシュの肖像」を彷彿しました。
この辺には村の人々の写真が並んでいました。

植田正治 「少女四態」 ★こちらで観られます
空を背景に4人の少女が横に並んでいる様子が撮られた作品です。変わっているのはそのポーズと配置で、左から順に、右を見て直立する少女、左腕に右手を当てて遠くを見るような少女、右を向いて膝を立てて座る制服の少女、背を向けて額に左手を当てて遠くを見るポーズの少女 となっています。絵画的というか、彫刻を並べたような不思議な感覚になる作品でした。解説によると、これは自宅の近くで配置やポーズを指示して撮ったらしく、独特の間(ま)とユーモアをたたえた風変わりな空間構成とのことでした。


<第2章 砂丘劇場>
植田正治は砂丘を舞台にした傑作を多く残していますが、このコーナーでは砂丘に関する作品が展示されています。戦後、砂丘作品に本格的に取り組んだそうで、1949年に土門拳、石津良助、緑川洋一らと共に鳥取砂丘で撮影会を行ったことで一層関心を深めたそうです。解説によると、光と影のコントラストがもたらす効果や、遠くのものが近くに見える砂丘独特の遠近感などを利用することで、非日常的なイメージを打ち出しているとのことでした。
 参考記事:土門拳 作品展「室生寺」(FUJIFILM SQUARE フジフイルム スクエア)

植田正治 「少女たち(B)」
浜辺でポーズをとる4人の少女たちを撮った写真です。ロボット的というか、Perfumeの踊りみたいなポーズをしているかなw 何とも奇妙だけどスタイリッシュな感じがする作品で、背景が浜辺であることがそれを強めているように思いました。

植田正治 「モデルとゲイジュツ写真家たち(Ⅰ)」
砂丘に椅子を置いて、黒いドレスの女性達がポーズをとり、それを写真家達が撮っているというシリーズ作品です。場所と物・人物の組み合わせが面白く、それ自体がシュルレアリスム的な雰囲気でした。
砂丘に関する作品は後のほうにも出てきますが、このコーナーも独特の感性で非常に面白かったです。


<特別展示 僕のアルバム>
このコーナーは没後に見つかった未整理のネガを元にしたコーナーです。(2007年に『僕のアルバム』という写真集が出ているらしい) 主に家族の写真が並んでいて、これらは1935年~1950年に撮影したものと考えられているそうです。
砂丘で正座する和服の女性(奥さん)や、子供と奥さんを撮った写真などがあり、4分くらいの8ミリも観ることができます。運動会の様子と浜辺での様子が撮られ、どちらも一家の幸せを感じるような内容でした。


<第3章 家族>
続いての章は植田正治本人とその家族を撮った作品が中心で、こうした家族の作品は「植田調(Ueda-cho)」と呼ばれて国際的に評価が高いそうです。やはり砂丘や砂浜が背景のが多いのですが、そこに家族をオブジェのように配置することで、非日常的でありながらも普遍的な家族像を印象深く表出させているとのことでした。

植田正治 「カコとミミの世界(2点)」
砂の上に立つおめかしした少女、学生帽の男の子が撮られた写真です。大きな風船みたいなものを咥えていて周りに3つの日の丸があるなど、意味はよく分かりませんが夢の中のような不思議な風景となっていました。
この辺は家族が砂丘に配置された不思議な光景の作品が多いです。

植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」
これは恵比寿の写美に大きな複写が飾られているので観たことがある方も多いかな??
↓参考写真:恵比寿の写美にある複写
P1090090.jpg
海と雲を背景に砂丘に立つ4人の人物が撮られた写真です。ぽつんぽつんと配置され、伸びる影が何とも超現実的な雰囲気を感じさせます。以前もこの作品などを見て、植田正治が好きになりました。こんな発想が持てるのが凄いです。

植田正治 「本を持つボク」
今回のポスターになっている作品です。蝙蝠傘をさす帽子を被った黒衣の男性(本人)の後姿で、左手で本を持っているのですが読んでいるわけでも無さそうです。背景の空まで作り物のような雰囲気がありましたw やや左側に寄っているのも計算なのかな。
この辺には自分を撮った写真も何点かありました。「ジャンプするボク」という作品も面白かったです。

植田正治 「小狐登場」
砂丘の上で狐の面をした子供がジャンプしている様子を撮ったものです。飛んでいる瞬間を撮っているので宙に浮いているような感じで、狐の面からちょっと怖い感じもしますw これは以前にも観たのですが強烈に覚えていました。


<第4章 風景、「かたち」…1950年代の作品より>
続いては風景や物を撮った作品が並んだコーナーでした。植田正治はほぼ毎日写真を撮っていたそうで、何かしら心を動かされた瞬間を撮り続けました。ここにはそうした日常の中で撮られた作品が並んでいました。

植田正治 「湖(3点)」
よく見ると水面を撮った写真のようですが、抽象画かと思いましたw この辺は言われてみれば水面だとか杭だとかわかるのですが、実際の風景が抽象画のように見えるのが面白い作品が並んでいました。

植田正治 「足跡」
海の見える真っ白な砂丘に、対角線上に登っていく足跡が点々と続いている写真です。ただそれだけですが、無人の砂丘にある足跡が非常に印象的でした。
この辺には傘や手網、貝など珍しくもないものが異世界のもののように感じられる作品が多かったように思います。結構、幾何学的な要素も感じたかな。


<第5章 童暦>
ここからはシリーズ作品の展示です。これは新進気鋭の写真家と並んで作られた「映像の現代」のうちの1冊(全10冊)で、当時の写真界を席巻していた「絶対非演出の絶対スナップ」というリアリズムとは距離を置きつつも、「ふわっと前へ行って撮ってきただけ」という独自のリアリズムがあるそうです。
古い町並みを撮った写真が並び、演出は無いようですが独特の感性で人々の営みを撮っているようでした。見ていて、暖かみや人々の喜び、楽しさを感じるものが多く、生き生きとした雰囲気が漂うコーナーでした。


<第6章 風景の光景>
こちらは1970年~1980年頃に撮影されたシリーズです。植田は「被写体に対する感情」や「被写体との語り合い」をとても大事にしていたそうで、このシリーズでは何気ない事象と丁寧に向き合っているそうです。
波、雲や空、影などを撮った写真が並び、絵画的な印象をうけるものもありましたが、超現実的な側面を感じる作品が多かったように思いました。


<第7章 小さい伝記>
こちらは1974年~1985年に『カメラ毎日』で連載したシリーズです。テーマは多岐に渡り、植田の構図の巧みさがよく表れたシリーズだそうです。また、連載の文章からは「アマチュア写真家」を自認する姿勢が随所に見られるようで、このシリーズは写真家自身のつつましやかな自伝でもある と解説されていました。
展示されていた写真は、海辺の風景や、堤防で遊ぶ子、海に飛び込む瞬間、海に向かって開かれた楽譜?など、海に関する作品が多いように思いました。生き生きとしながらもどこか非現実的な感じを受けるのは流石でした。


<第8章 音のない記憶>
これは1972年にアサヒカメラの海外撮影ツアーに同行して南欧を訪れた際のシリーズで、旅行中に聞いたはずの様々な音を覚えていないということで、このタイトルになったようです。南欧の晩秋はどれもこれも写真になるといって夢中になって取り捲ったようで、こんなに写真を撮って楽しい事は無かったと語ったそうです。
ピサの斜塔の写真からただの路上などを撮っている写真まであり、異国情緒を感じます。その一方で今まで見てきた山陰の写真とはちょっと毛色が違うようにも感じました。(単に映っているものが洋風だからかもしれませんがw)


<第9章 オブジェなど>
この章は70歳を過ぎた1980年代半ばの3つのシリーズから成っていました。いずれもオブジェと現実風景の組み合わせには脈絡がなく、騙し絵のようなおかしみをかもし出しているとのことで、被写体の選択は若々しい鋭敏な感性がなせるわざであると解説されていました。
作品は、シュルレアリスムの絵に見えるものや、浜辺での結婚写真?、絵に描いた家族を撮ったものなど、様々な作品がありました。年と感性は関係ないのかなと思ったりw

少し進むと撮影に使ったオブジェなども展示されていて、さらにその先には撮影に使っていたカメラもありました。また、最後の小部屋に移る前の出口付近には45分の映像コーナーもありました。


<第10章 砂丘モード>
最後は砂丘で撮られた4つのシリーズから成る章でした。いずれも1983年以降の作品で、長年得意としてきた演出写真をさらに洗練・徹底したシリーズのようです。ここもかなり好みの作品が並んでいました。(ここは以前観たのが多かったかな)
作品は、トランプを飛ばしている山高帽の男、帽子が真上に飛んでいる異形の男、玩具の人形のような人々が傘を刺したりドレスを着て踊っているような光景など、現実と幻想の間のような作品が多くて面白かったです。


ということで、私としてはかなり楽しめる展示でした。写真というのは何か?と考えさせられると同時に、発想の面白さや感性の鋭さに驚かされる内容でした。写真を撮るのが好きな人にお勧めしたい展覧会です。写真集も買おうかと思いましたが、もう置き場が無いので断念w 
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No title
あけましておめでとうございます。
この展覧会は行こうか迷っているので参考になりました。
やはり展示作品数は多いようですね。
私は鳥取の植田正治写真美術館も行った程、植田の
写真に当初はまりました。
童暦シリーズ大好きです。
Re: No title
>memeさん
今年もよろしくお願いいたします^^
植田正治がお好きなんですね! 多分、ご存知の作品が多いかとは思いますが、
この展覧会は約200点あるようで、点数に関しても良い揃えだと思います。
鳥取の植田正治写真美術館は今回の展覧会にも協力していますので、お好きな作品に再会できるかも??
http://www.japro.com/ueda/

砂丘モードのような作品ばかりでなく、童暦や音のない記憶といった作品も知ることが出来て収穫でした。植田作品は本当に面白いですね^^
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前回の続き。 宇都宮美術館を後にして、帰りは大宮経由北浦和で下車。埼玉県立近代美術館で1月23日まで開催中の「植田正治写真展 写真とボク」に行って来ました。 この展覧会は行こうか迷っていたが...
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