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上村松園 素描、下絵と本画 【川村記念美術館】

前回ご紹介した川村記念美術館の常設を観た後、特別展の「松伯美術館コレクション 上村松園 素描、下絵と本画」を観てきました。

DSC_16611.jpg

【展覧名】
 松伯美術館コレクション 上村松園 素描、下絵と本画

【公式サイト】
 http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html

【会場】川村記念美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR佐倉駅 または 京成佐倉駅
【会期】2011年2月15日(火)~2011年3月27日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
常設よりも人が多目でしたが、快適に鑑賞することができました。14時から学芸員さんの解説ツアーもあり、沢山の人たちが参加しているようでした。
 参考リンク:ギャラリートークの日時

さて今回の展示は奈良の松伯美術館のコレクションを中心に、上村松園の素描や下絵、そして本画もある内容となっていました。(本画が展示されていない作品もありますが、その場合は小さな写真で完成作が観られます) 昨年、松園の大規模な展覧会がありましたが、この展示ではそこで展示していた作品の作品が多かったように思います。詳しくは気になった作品と共にご紹介しようと思います。
 参考記事:上村松園展 (東京国立近代美術館)

<素描>
最初は素描のコーナーとなっていました。師匠の竹内栖鳳は写生を重視していたそうで、松園も積極的に取り組んでいたようです。

上村松園 「松篁の幼時 1、2」
自分の息子をスケッチした2枚の素描です。1の方はおしゃぶりを咥えている顔などが描かれ、安らかで幸せそうな雰囲気です。色は少なく、線が細く軽やかな感じでした。2の方は立っている姿など少し成長しているようでした。

この辺には草花の素描などもありました。

上村松園 「簪」
精密に描かれたかんざしです。かんざしの隣には「ギン」「ベッコウ」「サンゴ」「金」などの材質の注釈があったり、「七寸」などサイズも書かれていました。この辺にはこうした簪や櫛などの素描が数点並んでいました。


<模写>
続いては模写のコーナーです。松園は師の栖鳳の作品や花鳥画、山水まで熱心に模写を繰り返して研究を重ねていったそうです。博物館や、祇園祭の屏風祭、寺社や売立会場にまで赴いて縮図を作成していたようで、商売の邪魔になると言われたこともあるそうです(ギャラリーで模写するようなものかなw) ここには縮図を見る松園の写真や縮図帖が並んでいました。

上村松園 「鶏 (円山応挙模写)」
応挙の作品を模写したもので、片足で立つ立派な黒い尾を持つ鶏が精密に描かれています。堂々として品格を感じます。鶏の顔の後ろや足の周りには黒く描いた輪郭のようなものがあり、描きながら研究しているような感じでした。応挙の鶏はこれを含めて2点ありました。

上村松園 「合戦図 (竹内栖鳳模写)」
松の木の下で、沢山の武者たちが入り乱れて戦っている様子が描かれた作品です。後ろに描かれている家屋の中は戦いに巻き込まれてメチャクチャになっていて、空には沢山の鳥が逃げるように飛んでいます。 この模写は色が薄めで、所々に注釈が書かれていました。これも研究を重ねている様子を感じさせる1枚でした。


<本画と下絵、素描>
続いては本画になるまでの過程がよく分かるコーナーでした。素描を重ねて下絵を作り、本画になるまで様々な試行錯誤が垣間見れます。本画には「花がたみ」のような強烈な作品もあるので、このコーナーだけでも満足いく内容でした。

上村松園 「人生の花 2」
これは前述の東京国立近代美術館の松園展でご紹介した作品の下絵です。(本画は無し) 嫁入りする娘と連れ添う母親が描かれた白黒の下絵が3点あり、いずれもよく似ています。3点を比べると着物の皺や模様、帯の種類、髪飾りなどに違いがあり、どのような姿が良いか非常に苦心している様子が伺えます。本画も3点の写真があり、こちらも微妙に違っているようでした。

上村松園 「虫の音」
こちらは下絵と2曲の屏風(本画)が並んでいました。室内で三味線を弾く男性と、周りでくつろぐ男達が描かれ、軒先の女達は三味線はお構いなしに庭を見て虫の音を聞いているようです。こちらの下絵は本画とだいたい同じような構図に思いました。

上村松園 「序の舞(下絵)」
これも東京国立近代美術館の松園展に出品されていた作品(後期展示で観にいけなかった!)の下絵で、扇子を持って踊る着物の女性が描かれています。 下絵は3枚あり、大きな下絵は完成作とほぼ同じ構図で、帯とかがまだ描ききれていない感じかな。下絵とは言え、すでに凛とした雰囲気が出ていました。
この近くには髪型を何度も描いた素描があり、入念に下準備していたことをうかがわせました。

上村松園 「人形つかい」
これも東京国立近代美術館の松園展に出品されていた作品で、本図と下絵がセットで展示されていました。本図は襖を開けて部屋の中を覗く女性の後姿が描かれ、中の様子は見えず何とももどかしい感じですw それに対して下絵は2つあり、1つは本図と同じ構図なのですが、もう1つは部屋の中が描かれていて、人形使いが人形を持ち上げ、その後ろでは笛を吹く人も描かれていました。本図では観られない部屋の中がこんな感じだったのか!と、もどかしい気分も解消ですw と言うか、ちゃんと見えない部分まで考えられていたんですね。

上村松園 「花がたみ」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、これも東近美の展示で独特の妖気を漂われていました。本図は、紅葉した葉の散る中、花籠を持って彷徨い歩く十二単の女性が描かれ、服や髪の乱れもお構いなしに、能面のような顔をしています。この作品の下絵や素描は結構な点数があり、本図と同じサイズの下絵ではほぼ同じ構図でしたが、顔の表情は少し違って見えました。本図の方がより狂気を感じるような… 。他にも色々なポーズの下絵があり横向きだったりします。中にはかなり簡略化されているのもありますが、完成に至るまでの経緯がよく分かり面白いコーナーでした。

上村松園 「桜可里」 ★こちらで観られます
こちらは本図のみで、川村記念美術館の所蔵品です。遊女と禿?が花見をしているようで、淡く可憐な紫の着物を着た女性が扇子を持って歩いています。隣の禿は何故か画面外の下の方を見ているのが気になるw 何とも優美で松園らしい女性美を感じる作品です。

上村松園 「雪」
こちらも本図のみです。雪に積もった青い傘を持つ青い着物の女性と、薄い緑の着物の女性が描かれています。青い方の女性は顔が見えず、緑の方の女性は振り返って右下の方に目を向けて少し微笑んでいました。振り返って視線を外に向ける手法は画面に広がりを持たせる効果があるのかな? 雪と女性達が清廉で美しい作品でした。

上村松園 「暮秋」
こちらも本画で、着物を着た女性が竹の枝を肩に担いでふらふらと歩いているように見える作品です。あてどなく彷徨う感じは「花がたみ」に似た狂気を感じます。背景が白いので余計にそれが強調されているように感じました。

上村松園 「鼓の音」 ★こちらで観られます
本図と下絵のセットで、これも東近美にも出ていた作品です。赤い着物の女性が鼓を持ち、叩こうとしている姿で、気品と心地良い緊張を感じます。下絵はほぼ同じ構図かな。

この辺には「晩秋」「砧」「草子洗小町」の下絵などもありました。ほぼ本画と同じ構図じゃないかな。

<遺品>
そして最後は遺品のコーナーで、刷毛や墨、硯、筆、絵皿などの絵を描く道具をはじめ、眼鏡とそのケース、湯のみ、櫛、かんざし、文化勲章などが展示されていました。本人の写真もあったのですが、「人形つかい」を背景に「鼓の音」と同じポーズをしているのが面白かったです。


ということで、松園の試行錯誤が分かる展示でした。松園好きの方や絵を描く方には参考になると思います。昨年の東京国立近代美術館の松園展とリンクする部分も多いので、あの展示を気に入った方には特に面白いんじゃないかと。 会期が短いので気になる方はお早めにどうぞ。
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Comment
No title
こんばんわ。
私も東近美で、「花がたみ」を見たことがあります。
狂気を感じる絵といえば、近々府中市美術館に来る曾我蕭白の「美人図」もいいですよ。
ではまた!!
Re: No title
>だまけんさん
コメントありがとうございます^^
花がたみはこんなに早く再会できるとは思ってませんでした。

府中の展示は楽しみですね。また前期・後期でいかざるを得ない内容のようで…w
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川村記念美術館で開催中の 「松伯美術館コレクション 上村松園 素描、下絵と本画」展に行って来ました。 川村記念美術館が所蔵する「桜可里」を除き、およそ90点近い出典作品の全ては松伯美術館所蔵の作品。大和文華館と同じ近鉄奈良線、学園前駅が最寄駅となる...
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