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マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- (感想前編)【三菱一号館美術館】

前回ご紹介したお店でお茶した後、三菱一号館美術館で「マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち-」を観てきました。未知の画家が多く、参考になる展示でしたので前編・後編に分けて詳しくご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち-

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/vigee/index.html

【会場】三菱一号館美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅
【会期】2011年3月1日(火)~5月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
開催されて初めての土曜日(震災前)に行ったのですが、意外とゆっくり観ることが出来ました。ただ、この美術館は狭いところがあるので、場所によっては混み合った感じもありました。

さて、今回の展覧は「ヴィジェ・ルブラン」という画家を中心とした内容となっています。去年、損保ジャパンのウフィツィ美術館自画像コレクション展でポスターになっていた絵の作者だったので、覚えている人も多いかと思いますが、マリー・アントワネットの肖像を描いていた宮廷画家です。
 参考記事:ウフィツィ美術館自画像コレクション (損保ジャパン東郷青児美術館)
私はヴィジェ・ルブランを損保ジャパンの展示で初めて知ったのですが、画風が気に入ったので、今回の展覧会は楽しみにしていました。とは言え、この展示はヴィジェ・ルブランだけでなく、その前後の時代の女性画家たちを取り上げていて、当時の女性画家の地位や文化、歴史的な動きも分かる内容で、予想以上の収穫がありました。構成は9章まであり、日本では観る機会が少ないと思われる作品が80点ほど並んでいました。 詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。前編では1~6章、後編ではルブランの作品が多い7~9章をご紹介いたします。


<1 プロローグ>
まずはプロローグのコーナーです。ヴィジェ・ルブランやラビーユ=ギアール(この人も女性画家)などが活躍した18世紀のフランスでは、女性画家は格下と見られていたそうで、描く題材も肖像画、静物画、風俗画に限られていたそうです。しかし、1780年代になると変化の兆しがあり、ルブランは王立アカデミーへの入会資格として寓意画、ギアールは史実を題材にした作品などの依頼を受けるようになりました。その後、18世紀後半には女性芸術家の活躍の場がより上位のジャンル(歴史画など)に広がっていったようです。
…と、こうした大まかな流れを説明した上で、最初のプロローグでは肖像画などが並んでいました。

フランソワーズ・デュパルク 「ハーブティー売り」
こちらを見る白い布を被ったハーブティー売りの肖像です。身なりは庶民的ですが、顔つきは清楚で、慈愛のようなものを感じました。優しい雰囲気があります。解説によると、この人は風俗画を得意とした女性で、当時は著名な画家だったそうです。現存しているのは4点しか無いらしいですが、この展覧会では2点が並んでいました。

アデライード・ラビーユ=ギアール 「ルイ16世の弟殿下による騎士章の授与」
大画面の本画を作る際の小さめの下絵で、本画は革命時に没収され燃やされてしまったそうです。椅子に座る弟殿下とその周りの騎士?たちが描かれています。見た目はよくある歴史画のように思えましたが、歴史画には男の裸体などが多いので、男性モデルのデッサンが許されていなかった女性画家は縁遠いジャンルだったそうです。(この作品には裸体の人間はいませんが) 現代の日本人の感覚だと分からないような苦労がある作品のようでした。

エリザベト=ソフィ・シェロン 「自画像」
ルブランの弟子の女性画家の自画像で、巻かれた手紙のようなものを持ちこちらを見ています。少し微笑んでいて、青い衣をまとって女神のような気品を感じました。解説によると、この女性はヘブライ語などもこなす才女で、芸術一家の娘だったそうです。(この頃の女性画家の多くは芸術一家出身のようです。) この作品でアカデミーの入会を許されたというほどの傑作でした。


<2 貴婦人のたしなみ>
この頃の貴族やブルジョワの若い娘は、教育の1つとして素描も含まれていたようです。しかし、そうした女性貴族たちもやがては革命期に家族をギロチン送りにされるなど困難な時代を迎えていくことになります。
この章ではロザルバ・カリエラやマリアンヌ・ロワールといった王侯貴族を顧客に成功した女性画家を紹介していました。

ロザルバ・カリエラ 「薬剤師アントワーヌ=ルネ・ブーラン」 ★こちらで観られます
この人はかなり成功した画家だったそうです。この絵は、灰色の背景に、灰色の服、灰色の髪の男性薬剤師を描いた作品です。血色が良く上品な顔つきをしていて、目は優しく理知的な雰囲気がありました。パステルで描かれているのも柔らかい印象に繋がっているのかも。

マリアンヌ・ロワール 「アントワーヌ=ヴァンサン=ルイ・バルド・デュプラア(9歳)」
鋤を肩に持ち、花籠を持った少年の肖像画で、繊細な表現で描かれています。どうやら貴族の子供が庭師に扮しているようで、赤い服を着ていて、少し悪戯っぽい顔をしていました。生き生きとした表情で楽しげな雰囲気の作品でした。


<3 フランス王妃、マリー・レクジンスカの「中国風居室」>
続いてはルイ15世の王妃マリー・レクジンスカが描いた作品が並ぶコーナーでした。(★こちらで観られます
王妃はヴェルサイユ宮殿の居室(マリー・アントワネットの図書館になった場所)を飾るために、4人の画家の協力を得て中国風の主題の絵を8枚描いたそうです。ここにはその8枚の巨大な作品が部屋を囲うように並んでいて、当時の雰囲気を出すために少し高いところに飾られていました。中国風の風景、風俗が描かれていますが、色合いは柔らかく西洋的な画風を感じます。庭先で音楽のレッスンや釣り、麻雀、昼食の用意など、のんびりと幸せそうな雰囲気がありました。当時、こうした中国風の画題は「シノワズリ」と呼ばれ流行していたようです。また、王妃はこの作品が完成した時、部屋には漆の家具や東方の磁器が並べられたそうです。画家の助けが会ったとは言え、王妃がこれだけの作品を描いていたとは驚きでした。今回の展覧会の見所の1つだと思います。


<4 「女性の世紀」とその再評価>
続いては大部屋のコーナーです。18世紀後半に人気のあったロココの画家ジャン=オノレ・フラゴナールの妻であるマリー=アンヌ・フラゴナールも画家だったそうで、夫の影に隠れ忘れ去られていたようですが1996年に出版された論文で再評価されるようになったそうです。この章ではそうした再評価されつつある女性画家の作品が並んでいました。
 参考リンク:ジャン・オノレ・フラゴナールのwikipedia

カトリーヌ・リュジュリエ 「画家ジャン=ジェルマン・ドルエ(15歳)」
こちらを見ながらスケッチをしている帽子を被った横向きの少年の肖像です。ちょっと微笑んでいて、女性のような綺麗な顔をしています。この少年はこの画家の親戚の子で、彼も画家だったらしく絵の腕前も相当だったようですが、若くして亡くなってしまったそうです。知性がにじみ出るような表情が印象的な作品でした。

マリー=アンヌ・フラゴナール 「小さな剣士」 ★こちらで観られます
小さな象牙に描かれた子供の肖像(ミニチュアール)です。腰に剣を携えているのですがあどけない顔をしているのが可愛らしいです。解説によると、これは夫の作品と思われていたそうです。


<5 フランスにおける外国人、外国におけるフランス人>
続いての章は女性画家のフランス内外での活躍を伝える内容となっていました。先ほどご紹介したカリエラはヴェネチアを拠点とした画家だったそうで、他にもベルリン生まれのテルブッシュ夫人や、イギリス生まれのキャサリン・リードなど、パリでは外国の女性画家達も活動していたようです。 また、その逆にルブランはフランス革命によって亡命してイタリア・オーストリア・ロシアなどで活動し、各地で歓迎を受けるなど、フランス以外でも女性画家は受け入れられていたようです。ここにはそうしたフランス以外の女性画家の作品が並んでいました。

キャサリン・リード 「アルトワ伯爵、シャルル=フィリップ・ド・フランス」 ★こちらで観られます
キャサリン・リード 「マリー=アデライード・クロチルド・グザヴィエール・ド・フランス、通称マダム・クロチルド」 ★こちらで観られます
対になるように飾られていた2枚のパステルの肖像画です。右は伯爵で、犬を抱くようにこちらを見る男性…というか男の子かな。 左はふくよかな鳩を抱く女性で、こちらも子供みたいに見えます。どちらも柔らかく明るい色彩で描かれ、独特の雰囲気がありました。子供のようでも理知的な顔をしているせいかな。

この辺には、マリー=アンヌ・コローという女性彫刻家の作品も4点並んでいました。人間性までも表現しているような像で、見応えがあります。


<6 王立絵画彫刻アカデミーの女性画家たち>
続いては王立のアカデミーに入った女性画家たちのコーナーです。王立アカデミーは18世紀後半に、女性会員は4名までとしたそうですが、聖ルカ・アカデミーや地方のアカデミーは女性画家を受け入れていたそうです。中にはコステルのように後ろ盾もないのにアカデミーに入る女性が現れるなど、徐々にではありますが女性への門戸が開かれていったようです。

アンヌ・ヴァレイエ=コステル 「青い花瓶の花」 ★こちらで観られます
この人は静物画で有名だったシャルダンという画家に師事したそうです。この絵は青い花瓶に入ったピンクや白、赤、青、黄などの草花が描かれていて、少しぼんやりした感じもしますが、質感の描き分けが良いと解説されていました。 色合いや草花のバランスが面白い作品に思いました。

この作品のあった部屋はコステルの作品しかありませんでした。この人の作品の中ではこの静物が一番好みでした。

アンヌ・ヴァレイエ=コステル 「雄鶏と白い雌鳥」
茶色い雄鶏と白い雌鳥が死んでいて、雄鶏は吊るされている様子が描かれています。ポーズは劇的で、明暗がしっかりしてリアルな感じがあります。白い雌鳥の毛並みも見事で、質感がありました。ここまで観てきた女性画家の作品は似たような画風が多かったですが、これはだいぶ違って見えました。


ということで、今日はこの辺までにしておきます。 未知の画家・作家が並んだ展覧会で、ちょっと似通った画風が多い気もしますが、女性画家の活動をつぶさに知ることができるのが面白いです。巨匠の作品を並べた展示も好きですが、こうした展示も非常に価値のあるものだと思います。後半はさらに満足できる内容となっていましたので、次回はお待ちかねのルブランの作品を中心にご紹介しようと思います。

なお、この展覧会は地震の影響で3/24までは臨時休館となっているようです。その後の予定も変動する恐れがありますので、お出かけの際は事前に営業時間等を確認することをお勧めいたします。


   ⇒後編はこちら

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