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マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- (感想後編)【三菱一号館美術館】

今日は前回の記事に引き続き、三菱一号館美術館の「マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。
 前編はこちら

P1170715.jpg

【展覧名】
 マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち-

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/vigee/index.html

【会場】三菱一号館美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅
【会期】2011年3月1日(火)~5月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
昨日ご紹介した前半(1~6章)にはルブランの作品は無かったように思いますが、7章からはルブランとその周りの画家達の作品が一気に増えます。

<7 ラビーユ=ギアールとヴィジェ・ルブラン>
1783年に王立絵画彫刻アカデミーはラビーユ=ギアールとヴィジェ・ルブランという2人の女性画家を同時に会員としました。その際、ルブランの夫は画商だったので、会規上で問題があったそうですが、マリー・アントワネットの後押しで特例となったそうです。会員となっても結局ルブランは歴史画を受注することはできなかったようですが、マリー・アントワネットの肖像を多く残すことができました。それに対して、ライバルのギアールはルイ16世の叔母の肖像や、1章にあった歴史画(本画が燃やされたやつ)などを残したようです。また、ギアールは女性画家の教育に力を注ぎ、マリー=ガブリエル・カペなどの弟子がいたようです。ルブランの方はあまり教育に乗り気では無かったようですが、マリー=ギエルミーヌ・ブノワなどの弟子がいます。この章ではこの2人の作品と、その弟子の作品などが並んでいました。

マリー=ガブリエル・カペ 「自画像」
ギアールの弟子のカペの作品で、これは見覚えがある人も多いかも? いつもは上野の国立西洋美術館の常設にいる青いドレスの女性像です。
 参考記事:国立西洋美術館の案内 (常設)
22歳の頃の姿を描いた作品で、青いリボンをつけた何とも愛らしい顔をした女性です。髪や服の質感が何とも見事で、写実的かつ繊細な雰囲気があります。自信に満ちた表情も輝かんばかりです。ちょっと高めの位置に飾られていたのが面白い趣向でした。
ここから先はこうした若い女性の肖像が多いので、男性諸君には一層楽しい展覧会となってくるかとw

アデライード・ラビーユ=ギアール 「フランソワ=アンドレ・ヴァンサン」 ★こちらで観られます
超精密に描かれた丸眼鏡の男性の肖像で、この人はギアールの先生であり夫である人物です。全体的に写実的で、パレットに乗った銀や、椅子の質感などは特にリアルに見えます。この男性は少し気が弱そうな感じも受けますが、優しそうな眼差しをしていました。口元が少し開いていて、話しかけているようにも見えました。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「エチエンヌ・ヴィジェ、画家の弟」 ★こちらで観られます ※ローテーションの一部
まるで女性のような顔をしたルブランの弟の肖像です。横向きで本とペンを持って、こちらを見て微笑んでいます。明暗がしっかりしていて瑞瑞しい雰囲気があり、優しい目が印象的でした。ルブランは美人画家ですが、弟もかなりのイケメンですw

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「フランス王妃、マリー=アントワネット」 ★こちらで観られます ※ローテーションの一部
今回のポスターにもなっている作品です。これはマリーアントワネットの肖像で、母のマリア・テレジアに贈るためにルブランに描かせたものの複製(画家本人による複製)となります。 元になった絵は白いドレスを着た姿だったそうですが、この絵は上半身のみの姿となっています。羽帽子を被って横を見ていて、美しさと言うよりは威厳のようなものを感じました。
なお、解説機ではマリー・アントワネットが作った音楽を聴くことができました。ルブランとは同じ歳で、お互い音楽好きだったこともあり一緒に歌を歌うこともあったそうです。マリー・アントワネットとは友人でもあったようですね。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「ポリニャック公爵夫人、ガブリエル・ヨランド・クロード・マルティヌ・ド・ポラストロン」
白いドレスに黒い衣、黄色い麦藁帽子を被った貴族風の女性の肖像です。繊細にかかれ、可憐で華やかな雰囲気があります。解説によると、麦藁帽子を被っているのはルーベンスの作品からの影響でもあるようです。単に田舎娘に扮したお嬢様かと思いましたw

この辺りに来ると、画中の美人の華やかさに押し切られる感じでしたw 満足度が高めなのもそこに要因があったりします^^; とりあえず、この辺りで下の階へ移動です。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「クリュソル男爵夫人、アンヌ=マリー・ジョゼフィーヌ・ガブリエル・ベルナール」 ★こちらで観られます ※ローテーションの一部
上品な赤と黒のドレスを着て帽子を被った女性を描いた作品です。楽譜を手に持ち、声をかけられて振り返ったような姿勢をして、親しげな微笑みを浮かべています。 着ているドレスの光沢や髪の毛の表現はまるで本物のような写実性でした。姿勢から動きも感じるし、これは今回の展覧会でも特に気に入った作品の1つとなりました。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「オルレアン公爵夫人、ルイーズ・マリー・アデライード・ド・ブルボン=パンチエーヴル」 ★こちらで観られます ※ローテーションの一部
頬杖をついている白いドレスの女性像です。少し首を傾げてこちらを興味深そうに見ているように思えます。頬杖というとメランコリーな感じで描かれることが多いと思いますが、これはまったくそんな気配は無く、ちょっと小悪魔的な魅力を感じる女性でした。
この部屋はは貴族の女性や家族の肖像画が何点かありましたが、良い作品ばかりでした。


<8 フランス革命とヴィジェ・ルブランの亡命>
1789年にフランス革命が起きると、宮廷画家(しかも王妃の友人)だったルブランも一気にその身に危険が迫り、危険を察知した彼女はルネサンス美術の研修旅行と言ってイタリアに亡命することとなりました。その後、オーストリア・ロシアにも渡り12年間もの亡命生活をしていたようですが、各国で歓迎を受けたそうです。革命から落ち着きを取り戻す頃になると、本国で250人もの芸術家達によってルブランの帰国の嘆願書が書かれ、その甲斐があってか再びフランスに戻ることができたそうです。
それに対してライバルのギアールはフランスに留まり、国民議会の議員の肖像を描くなどして賛辞を得ていたようです。2人とも自らの芸術のおかげで助かったと言って良いかもしれません。 この章ではそうした革命後の波乱の時期の作品が並んでいました。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「自画像」 ★こちらで観られます ※ローテーションの一部
これは損保ジャパン美術館で観たウフィツィ美術館の自画像か??と思いましたが、別バージョンの作品のようです。(ウフィツィ美術館のが好評でいくつも描いているらしい)  キャンバスに向かった色白の女性がこちらを見て手を止めている姿が描かれています。画家自身の美しさがよく分かり、楽しげで自信に溢れた顔に見えました。よく観ると、ウフィツィ美術館の作品ではキャンバスの画中画はマリー・アントワネットだったのに対して、こちらは愛娘の肖像に差し替えられていました。
 参考記事:ウフィツィ美術館自画像コレクション (損保ジャパン東郷青児美術館)

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「ルイーズ・マリー・テレーズ・ヴィクトワール・ド・フランス、通称マダム・ヴィクトワール」
少し身を横にしていて、光沢のある服を着た女性の肖像です。この作品も精密に描かれています。解説によると、モデルの人物はライバルのギアールがよく描いていたルイ15世の娘だそうです。(…と言っても結構なお年に見えますがw) ルブランとこの女性はフランス革命でローマに逃れた際に再会したそうで、その時にこの作品を描くように命じられたのだとか。なお、イタリアではルブランは「ヴァン・ダイクの再来」とまで呼ばれるほどの歓迎ぶりだったそうです。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「アンナ・セルゲイエワ・ストロガノワ男爵夫人と息子のニコライ」
子供を抱く母親を描いた作品です。解説で聖母子像みたいと言われていましたが、確かにそのとおりに思えます。2人とも右の画面端を見ていて、楽しく幸せそうな眼をしていました。視線の先に夫でもいるのかな? ここまで見てきたルブランらしい作風で、精密かつ表情豊かな表現でした。 なお、これはウィーンで描いた作品で、モデルはロシアの貴族だそうです。この作品の隣にはその夫の肖像もありました。

エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 「ユスーポフ公爵夫人、タチアナ・ワシリエワ」
木の下で、白と赤の古代風の服に身を包み、頭と手には花飾りを持った女性を描いた作品です。どこか神話的な要素を感じます。この辺には小説や神話を模した肖像画が並んでいたので、そういう表現をしていた時期があったのかもしれません。


<9 新しい時代>
革命でルブランが亡命している間、フランス画壇にも大きな動きがありました。それまでサロンへの出品はアカデミーの会員だけだったのが自由化され、新しい世代の活躍が見られたそうです。ここにはそうした新しい時代の画家の作品が並んでいました。

マリー=アデライード・デュヴュまたはデュリュ、旧姓ランドラジン 「自画像」
サロンの自由化で名を残した女性画家の自画像です。スケッチブックを持ってこちらをじっと観ていて、その目は意思が強そうで自信に満ちています。写実的な表現で明暗もくっきりしていて、前時代の作風に似ているようにも思いました。

マリー=ギエルミーヌ・ブノワ、旧姓ルルー=ドラヴィル 「ジャン=ドミニク・ラレイ」
この画家はルブランの弟子ですが、彼女以外にも新古典主義の巨匠ダヴィッドにも師事していたそうで、画業としてはナポレオン一家の寵愛を受けた人です。この絵は、軍服?を着て脚を組みこちらを見る男性の肖像で、精悍な顔つきをしていて威厳があります。また、ルブランの作品に通じるような精密さ・写実性・気品などを感じることが出来ました。


ということで、たっぷりじっくりと観てきました。これまで全然知らなかった女性画家の世界を知ることが出来て非常に参考になりました。こういう知られざる世界を紹介する展覧会は今後も続けて欲しいものです。 震災で開催日時にも影響が出ているようですので、今後お出かけになられる方は公式ページで事前にご確認することをお勧めします。
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はじまして
最近、私のブログに御訪問いただき、それから立ち寄らせていただいています。
昔から、絵画は好きで、地方へ出かけると美術館へも出かけることはよくありました。でも、仕事の忙しさに、そんな気持ちも忘れかけていました・・・・・・
最近はBS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」(知っていますか?)に触発されて、素晴らしい絵を見え楽しむ気持ちが甦りつつあります。
私の趣味の観劇では帝劇周辺に出没機会が多いので、出光美術館が近すぎる場所にあります。銀座の画廊の凄さも最近になって気付かされました。
今回のヴィジェ・ルブランは、ウフィツィ美術館の自画像展の回で初めて知り、見たかったものですが、見逃してしまったので、こんな企画展示が行われているなら、是非行かなくては!と思い立ちました。
これからも楽しく訪問させていただきます。
No title
こんばんわ。だまけんです。
 私もこの展覧会行きましたが、 冒頭の夜景の写真、荘厳でいい感じです。
 
Re: はじまして
>Dantessさん
初めまして^^
「ぶらぶら美術・博物館」という番組は存じておりませんが、最近は美術系の番組も多いみたいで文化的な世の中になってきましたね。絵を観ることは歴史や文化を知ることにもなるので、非常に面白いです^^
帝劇と出光はお隣だからハシゴできそうですね。三菱も近いし結構遅くまでやっているのでハシゴできると思いますよ^^

今回の展覧会は私も知らない画家ばかりで、非常に参考になりました。日本では印象派以降の近代西洋画ばかりが注目されますがこういう展示は増えて欲しいですね。良い内容でした。

これからも行った展覧会はご紹介して行こうと思いますので、今後ともよろしくお願いします^^
Re: No title
>だまけんさん
いつもありがとうございます^^
だまけんさんも早いうちに行かれたのですね。震災後はしばらく休館してたので、早めに行っておいて正解でした。

お褒め頂いて恐縮です^^; タイトル画像用にコンデジで適当に撮ったんですが、元々の建物がカッコいいですからねw
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「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
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