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香り かぐわしき名宝 【東京藝術大学大学美術館】

前回ご紹介した旧東京音楽学校奏楽堂を観た後、東京藝術大学大学美術館にハシゴして「香り かぐわしき名宝」を観てきました。

P1180395.jpg

【展覧名】
 香り かぐわしき名宝

【公式サイト】
 http://kaori.exhn.jp/top.html
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2011/kaori/kaori_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)など


【会期】2011年4月7日(木)~ 5月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
そこそこ混んでいて、小さい作品などは鑑賞者が集まっているような感じでしたが、少し待てば自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展覧会は「香り」をテーマにした内容で、「香りの日本文化」「香道と香りの道具」 「絵画の香り」という3つを柱として香道の道具から絵画・彫刻など実に様々な品が並んでいました。展示室は地下と3階に分かれていて、1~3章は香りの文化についての展示、4章は絵画の中に描かれた香りという感じです。詳しくは各章ごとに気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。


<序 香りの源>
最初は今回の展覧会のテーマとなっている香りの文化そのものの起源についてのコーナーです。日本の香りの文化は、推古3年に(595年)に淡路島に「沈水」という香木が漂着したのが発端らしく、6世紀に仏教伝来と共に香木を炊くことを知ったとも解説されていました。沈水香と栴檀系という香りをはじめ動物系の麝香や貝を原料とする甲香など、様々な香りがあるそうで、この展覧会でもあちこちで香りを楽しむコーナーもありました。

「蘭奢待」
1cm×3cmくらいの小さな香木の木片です。これは特に名高い品らしく、織田信長や明治天皇なども切り取って使ったそうです。ちなみに蘭奢待(らんじゃたい)というのは東大寺のことを雅に言う言葉のようです。まあ、観るだけだとただの木片なんですけどねw
この辺には大きな香木の置物や香木を模写したものなども展示されていました。


<第1章 香りの日本文化1 聖徳太子から王朝貴族へ>
前述の通り、香は仏教と一緒に伝来したのですが、供養の基本は香・花・灯の3つだそうです。(仏教発祥の地インドの天竺は暑かったので体臭対策として香を塗っていたのが伝わったみたいです。) ここには仏教と香りに関わりを感じさせる品々が並んでいました。

「聖徳太子孝養像」
聖徳太子の像で、両手で金の香炉を持って立っています。これは父の平癒を祈っている姿だそうで、結構よく観る主題かも。今までこの主題を香りという視点で観たことは無かったですが、すでにこの頃から香りの文化があったことを感じさせました。 ちなみに聖徳太子自身も常に良い香りがしていたそうです。

この辺には香炉や金銅一面器といった香りに関する道具も展示されていました。仏画もあって、絵の中にも香炉や花が描かれています。

「南部鶴丸紋散蒔絵香枕」
引き出しのついた網のような面を持つ蒔絵の香炉です。枕らしいけど結構硬そうで位置も高いw しかし枕から良い香りがするのはお洒落な感じかも。香りを生活にも取り入れていたことをうかがわせました。

この部屋には白檀木という香木があって、触ったり嗅いだりすることもできました。お線香みたいな香りかな。(むしろその香りをお線香が再現しているんでしょうけどw)

「十一面観音立像」
これは白檀の香木で出来た仏像です。1本の木で出来ているらしく、香りを出すために金箔や彩色は施されていません。唐時代の作品だそうで、体の彫りは柔らかく、装飾品は細やかな感じを受けました。ちょっと黒ずんでいますが昔は良い香りがする仏だったんでしょうね。

「十一面観音立像」 ★こちらで観られます
こちらも香木で作られた十一面観音立像です。こうした香木の仏像を「檀像」と呼ぶそうで、木が硬いことから精密な彫りが出来るそうです。この作品も特に頭の部分の彫が非常に細やかでした。

このコーナーには土佐光吉の源氏絵などもありました。何故、源氏絵?と思いましたが後で理由もわかりました。


<第2章 香道と香りの道具>
続いては香道についての章です。香道は室町時代の東山文化の中で、茶道・華道と共に成立しました。三條西実隆という人が礎を築き、足利義政に命じられた志野宗信という人が体系付けを行ったそうです。香木の種類や焚く作法を定め、香合わせや組香といったものも成立させたそうで、ここにはそれにまつわる品が並んでいました。

「志野宗信像」 ★こちらで観られます
香炉を前に座っている志野宗信の肖像で、上には賛があります。 茶道、歌道にも通じていたそうで、見た目も理知的で静かな印象を受けました。隣には向き合うように三條西実隆の像も並んでいました。

この辺にはどうやって包んだのか分からない香を包んだ袋などもありました。7枚重ねて折っているそうですが、かなり複雑そうでした。また、この辺から会場のあちこちに「香り体験BOX」というのがありました。ここのは香りが強くて鼻をつくような感じでしたw

野々村仁清 「色絵雌雉香炉」 ★こちらで観られます
後ろを振り返る雌キジの姿をした香炉です。尾っぽが長く、全身の羽は銀で覆われています。ちょっと渋いくらいの色合いが上品で、意匠も面白い作品でした。解説によると、これには対となる極彩色の雄キジがいるそうです。

「花笠香」
升目のついた台の上に、木や花をかたどった置物が将棋の駒のように並んでいる作品です。これは江戸中期に流行った遊びらしく、どうやって遊んだかはわかりませんが、香りをゲーム化していたことを伺わせました。
この他にも相撲の土俵みたいなものや、10羽の闘鶏が並んだもの、馬に乗った2人の武士など様々な香を使った遊びの道具が並んでいました。武士のは香を当てた数だけ進めるスゴロクみたいなゲームのようです。

伊東深水 「聞香」
これは東京国立近代美術館の常設にある作品です。着物を着た女性2人の間に赤い服と白いスカートの女性が座り、器を持ち上げて鼻に近づけている様子が描かれています。これは香を聞いている(香道では香を嗅ぐことを聞くと言う)ところで、左の人も同じように聞いているようでした。独特の緊張感と深水らしい爽やかさのある作品でした。

他には織部の香炉や唐獅子の形の香炉もありました。
ここで地下の展示は一旦終わりで、隣の部屋はコレクション展となっています。こちらについては次回ご紹介しようとおもいます。


<第3章 香りの日本文化2 武家から庶民へ>
ここからは3階の展示です。香は茶道の場で親しまれたり、江戸時代には遊興として使われるなど様々な発展を遂げました。このコーナーからは主に絵画作品が展示され、当時の様子が分かるような内容となっていました。

3階の入口付近にMやIを組み合わせたような記号がたくさんあり、これは源氏物語になぞらえて香を当てる札の一覧のようでした。源氏物語と香の関わりの謎が解けましたw

「女房お里」
青い暖簾を押して家から出てくる美人を描いた作品です。これのどこが香りかと思ったら、暖簾の青地に白で描かれた模様(源氏のやつ)があり、これが香木を表しているようでした。ここまで来ると知識が無いと絶対に気づきませんねw 香が広く庶民にも伝わっていることがわかる作品でした。

「八代目市川団十郎死絵」
顔が青みがかった役者(自殺した八代目市川団十郎)の姿などを描いた絵で、死んだ年や戒名なども書かれた「死絵」というジャンルとなります。画中画の掛け軸に描かれた市川団十郎を見上げる人の前には香炉が置かれていて、これは反魂香の伝説と関係があるようでした。

この辺は死絵が何点かありました。また、部屋の中央には香道具が並び、鹿の形や柿の形、蟹の形などの香合も展示されていました。 心なしか会場内に良い香りがしていますw

「邸内遊楽図(士女遊楽図)屏風」
6曲1双の大和絵の屏風です。屋敷の中で香を炊き込んだり、庭で円を組んで踊っている様子が描かれています。他にも部屋の中で巻物を書く人、矢を打つ人など宴会の様子が描かれていました。みんな生き生きしていて日常的に香が楽しまれていた様子がよくわかりました。

この辺には伽羅の香りを体験できるコーナーもありました。
奥の展示室には志野流香席の再現があり、10畳くらいの部屋となっています。正客、次客、三客~七客、末客の8人と、執筆・香元で10人分の座る位置が示されていました。この辺りも良い香りで、大きな香木が置かれていたせいかも??


<第4章 絵画の香り>
最後は香りを感じさせるも絵画のコーナーです。江戸時代から近代あたりまでの日本画を中心に素晴らしい作品が並んでいました。

源 「富貴佳境・貴妃文楽図」
2幅対の掛け軸です。左はピンクの牡丹?をじっと眺める中国風の女性、右は岩のテーブルに頬杖をついて筆を持って思案している中国風女性が描かれています。どちらも気品があり、静かで賢明そうな顔つきでした。私には花の香りよりも女性が気になりますw

この辺には最近、山種美術館で観た喜多川歌麿の「四季遊花之色香」も並んでいました。
 参考記事:ボストン美術館 浮世絵名品展 (山種美術館)

池大雅 「風図」
蘭の一種の花を描いた水墨画です。草はすらっと描いたような曲線で非常に優美な雰囲気があります。花も風になびいているような感じで風流な作風でした。花の香りが風に流れてきそうです。
池大雅は巻物などもありました。仙の描いた蘭も良かった…。

小林古径 「極楽井」
白い花が満開の木蓮の下、着物姿の少女達が柄杓で井戸から水を汲んでいます。赤や白、水色など淡く爽やかな着物を着ていて、子供の目は仏のように静かな感じがしました。これはかなり好みの作品でした。

上村松園 「楚蓮香之図」 ★こちらで観られます
これは去年の上村松園展にも出品されていた作品です。透き通る緑の団扇を持って、足元に目を向ける中国風の女性を描いたもので、周りには蝶が飛んでいます。伝説によるとこの女性は良い香りを漂わせていたらしく、清純な雰囲気がありました。
 参考記事:上村松園展 (東京国立近代美術館)

鏑木清方 「薫風」
橋の上の着物の女性を描いた作品で、背景にはアジサイがあります。淡いピンクの着物と背景の緑が引き合って色も綺麗です。清方らしい初々しさと少々の物憂げな雰囲気がありました。

速水御舟 「夜梅」 ★こちらで観られます
今回のポスターになっている作品で、満月の下の梅を描いた絵です。ぼんやりした暗闇に浮かぶように描かれていて、神秘的な雰囲気があります。 月光の下、揺れる木々の合間からほのかに漂う香りを「暗黒疎影」というそうですが、それが絵になったような作品でした。これも東京国立近代美術館の常設でたまに見かけます。

小茂田青樹 「春の夜」 ★こちらで観られます
暗闇の中の梅の木を描いた作品で、枝に乗るフクロウや木の下には何かをくわえた猫の姿もあります。どちらも素朴で可愛らしい^^ 周りは暗闇でも梅や猫は明るく描かれていて幻想的な雰囲気がありました。

出口の辺りには香道の席の映像がありました。

と言うことで、日本の香り文化に触れることの出来る、面白い趣向の展覧会でした。香りの体験BOXがあったりするのも実感が湧いて良かったです。素晴らしい絵画作品もあるので、目も鼻も楽しめると思います。

次回は地下の半分を占めていたコレクション展のほうもご紹介しようと思います。
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Comment
No title
こんにちは、いつもご丁寧なご案内ありがとうございます。
今日の「香り展」の記事は興味津々でした。
貴重な香木をあつかう香道の奥ゆかしさ。

地震後は東京まで出かけるのが何となく、、、、、で21世紀さんの記事でせめて文化の香りだけでも楽しませていただいてます。
ありがとうございました。
No title
こんばんわ!
先週の日曜日なら私もこの展覧会に行きました。
去年まで近くに住んでいたので小林古径の「極楽井」が一番良かったです。
Re: No title
>白秋マダムさん
コメントありがとうございます^^
こちらの展示はご婦人が多く来場されていて、関心を集めているようですね。
私には香木の違いはまったくわかりませんが、こういう文化が1000年以上も続いていることがよく分かる展示でしたよ^^

いつ地震が来るかと思うと遠出が難しいですよね…。私も歩いて帰れる地点を越えるのは躊躇うものがあります。 早いところ収束して欲しいものです。
Re: No title
>だまけんさん
コメントありがとうございます。
同じ日に行ってたとは奇遇ですね^^ もしかしたらどこかで会っているかもしれませんね??

極楽井は小石川のあたりにあったんですね。私もこの絵はかなり好きです。
http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=104939
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