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江戸の人物画―姿の美、力、奇 (後期)【府中市美術館】

つい今日のことですが、府中市美術館へ行って「江戸の人物画―姿の美、力、奇」の後期展示を観てきました。以前、前期展示をご紹介しましたが、大変の作品が入れ替わっていました。
 参考記事:
  江戸の人物画―姿の美、力、奇 前期 感想前編(府中市美術館)
  江戸の人物画―姿の美、力、奇 前期 感想後編(府中市美術館)

P1180689.jpg P1180694.jpg

【展覧名】
 江戸の人物画―姿の美、力、奇

【公式サイト】
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/jinbutsu/index.html

【会場】府中市美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など


【会期】
  前期 2011年03月25日(金)~04月17日(日)
  後期 2011年04月19日(火)~05月08日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日12時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
さすがに以前行った時(震災後に再開したての頃)よりはお客さんは増えてましたが、ゴールデンウィークでもそんなに混むことはなく、じっくりと作品を観ることができました。

さて、展覧会についてですが、各章の趣旨などは前期の記事でご紹介しましたので、今回は気に入った作品のご紹介だけしていこうと思います。後期は前期にも増して好みの作品が多かったです。

<冒頭>
まずは入口のハイライト的な作品です。

曾我蕭白 「寒山拾得図」 ★こちらで観られます
2幅対の大きな掛け軸です。左幅は巻物を持って座る寒山、右幅は箒を持って横を観ている拾得が描かれています。墨の濃淡で表現され、飛び散るような勢いを感じる部分と、繊細な筆遣いの両方を使い分けられています。ちょっと妖怪みたいな雰囲気は流石かなw 寒山は白主体、拾得は黒主体になっているのが対になっているようにも見えました。


<美の百様>
続いては美人画のコーナーです。

勝川春章 「見立江口君図」
これは前期に観た志村榛斎の作品と同名のタイトルで、同じ伝説に基づいた作品でした。白い煙の上に牙の生えた象が立ち、その上に巻物を読む着物を着た遊女が腰掛けています。遊女は色気もありますが知的な雰囲気で、普賢菩薩の化身であることを表現しているようでした。象はちょっと伝説上の生き物のようだったかな。

葛飾応為 「河畔美人図」
簪?を手に持って振り返る中国風の美女を描いた作品で、傍らにはそれを見上げながら透き通る団扇を持った侍女らしき人物もいます。美女はすらっとした出で立ちで、透けるような着物の表現となっていて清涼感がありました。

田口盧谷 「紅毛人夫婦散策図」
掛け軸の作品ですが、西洋風の服装をした男女が腕を組んで歩いている様子が描かれていて、見た目は西洋画のような作品です。この絵師は長崎の人だったそうですが、長崎でも流石にこんな光景は見られなかったと考えられるそうで、何か元になった絵があるのではないかとのことでした。鎖国の時代にもこういう作品があることに驚きます。


<「迫真」のゆくえ>
こちらは西洋風の写実性の高い作品のコーナーです。

宇田川榕庵 「ヒポクラテス像」
禿頭で口髭を生やした男性の横向きの肖像です。これは古代ギリシアの医聖ヒポクラテスの肖像らしく、細密に描かれていました。西洋風なところもあるけど、どこか日本や中国の要素も残っているかな。西洋作品が日本にも伝わっていたことがよく分かる品です。
この辺にはヒポクラテスを描いた作品がこれを含めて3点ならんでいました。


<聖の絵姿>
続いては儒教の聖人などを描いた作品のコーナーです。

狩野山雪 「歴聖大儒像」
6幅セットの大作で、湯島聖堂に並んでいたもののようです。いずれも中国風の服装をした人物の立ち姿で、朱子、張子、程伯子、周子、程叔子、邵子の6人が描かれています。聖人として描かれているので、気品が感じられるのですが、私にはどこか生身の人間のような雰囲気があるようにも思いました。


<ポーズ考>
ここから逆側の部屋に移動します。ここはモデルのポーズが考察されている作品のコーナーです。

司馬江漢 「円窓唐美人図」
掛け軸の作品で、円形の窓の脇で座って花をつまんで持っている中国風の美人が描かれ、窓の外には山や川の風景が広がっています。腰掛けるポーズと椅子の曲線、窓枠の円などが呼応するようで、構図が面白く感じられました。色も鮮やかで日本の作品とは思えないような異国の雰囲気があります。

司馬江漢 「蘭人図」
こちらも掛け軸で、水墨の白黒で帽子を被ったオランダ人を描いています。周りは空白なのですが、前方やや下方向を指さしていて、その先には何も描かれていません。 このポーズのせいでその先に何かがあるように思えるけど、見えないのがもどかしいw 解説によると、作者はこのポーズが気に入ってこうした絵を何枚も描いたそうです。気になるポーズですw

葛飾北斎 「花和尚図」
北斎の肉筆の掛け軸で、鉄パイプのような棒を振り上げる坊主頭の人物像です。右手で棒を持ち、左手を添えるようにして、右足を曲げて1本足で立っているという奇妙なポーズをしています。しかし全体的に見るとバランスが取れているように見えてるのが面白い。また、筋肉は隆々としていてちょっと異様な雰囲気もありました。解説によると、これは水滸伝の魯智深(ろちしん)という人物だそうで、刺青があったことから花和尚と呼ばれたそうです(と言ってもこの絵では刺青は描かれていません。)


<海の向こうの不思議とロマン>
ここは中国の仙人などの作品が並ぶコーナーです。このコーナーから最後まで素晴らしい作品が怒涛のごとく押し寄せてきましたw

曾我蕭白 「中国人物図押絵貼屏風」
墨の濃淡で描かれた6曲1隻の屏風です。1扇ごとに1人の人物が描かれていて、右から順に
・飛び跳ねるガマ蛙と、のけぞるようなポーズの蝦蟇仙人
・口から飛沫と小さな自分の分身を噴き出している鉄拐仙人
・花瓶の花の前に座る団扇を持った人(何かの仙人?)
・つばの大きな帽子を被り、下駄を履いた人(何かの仙人?)
・小舟に乗って、水面の月に手を伸ばす布袋
・衝立にもたれて眠る荘子
が描かれていました。いずれも生き生きとした表情をしていて、比較的おとなしめなタッチですが楽しそうな雰囲気が伝わってきました。かなり好みの作品です。

ここから先は曾我蕭白の作品が高頻度で出てきます!

曾我蕭白 「仙人図」
水墨で手に亀を持った仙人を描いた掛け軸です。仙人の目はやや怖いですが、舌を出して笑っているような感じで、ちょっと悪戯っ子みたいなw 背景の滝や木々はダイナミックに描かれているのも面白かったです。

狩野栄信 「劉備・孔明・五虎将図」
真ん中に、赤い衣をまとった三国志で有名な劉備?が描かれ、皇帝のように野外の椅子に座っています。その傍らには白い着物を着て団扇をもつ孔明らしき人物、劉備の前には5人の猛将たちの姿があります。(恐らく関羽や張飛と思われる風貌をしていました) 非常に緻密に描かれ、背景は茶色っぽいのですが人物は色が濃く描かれているので存在感がありました。重厚な雰囲気がある作品です。

曾我蕭白 「琴高仙人図」
水墨の掛け軸で、跳ね上がる巨大な鯉に乗っている巻物を持った仙人を描いた作品です。サーファーのようにちょっと前かがみになっているところや、飛沫があがる様子などは今まさに跳ねたような感じが出ています。鯉は写実的に描かれているので、奇妙な光景でもリアリティがあるように思いました。これも好みの作品です。

佐竹曙山 「蝦蟇仙人図」 ★こちらで観られます
これは秋田派の絵師の作品で、西洋風とも中国風とも言えないような画風の掛け軸です。 松の木の下で肩に大きなガマを乗せる蝦蟇仙人が描かれていて、仙人は青みがかった肌の色をしています。しかし、人体やガマの肌などは精密に描かれていて、異様な雰囲気がありました。仙人の表情が私には何故か得意げに見えますw

伊藤若冲 「蘆葉達磨図」
小さな葉っぱに乗って川を下っている達磨を描いた水墨画の掛け軸です。結構簡素な感じに見えますが、しっかりとした表現となっていて、服のヒダは若冲得意の筋目描きの技法を使って描かれていました。達磨の表情はちょっと怪訝そうに見えましたが、解説によると決意や志が現れているとのことでした。
 参考記事;
  伊藤若冲 アナザーワールド (千葉市美術館)
  伊藤若冲 アナザーワールド 2回目(千葉市美術館)


<人という営み>
ここは風俗画的な要素のある作品のコーナーです。

長春印 「久米仙人図」
これは前期の展示にもあった久米仙人の物語を題材にした掛け軸でした。下の方には白く美しい脚を露にして柄杓を持って川で洗濯をしている女性が描かれ、上部にはそれを見て神通力を失った仙人が真っ逆さまに落ちてくる様子が描かれています。悟りが美女の脚に負けた瞬間といった感じで、人間臭くて面白いですw

狩野栄信 「月下擣衣図」
こちらも掛け軸で、上部には大きな月、下部には座って布に砧(きぬた)を打っている着物の女性の後姿が描かれています。月と女性以外には何も無く、非常にぽつんとした雰囲気で、前期の同じ場所に展示されていた応挙の作品を彷彿しました。 解説によると、これは調布の玉川に関する絵だそうで、拾遺和歌集の歌が賛として書かれていました。

仙義梵 「髑髏図」
水墨の掛け軸で、野ざらしになった頭蓋骨と木の枝(花?)が描かれ、その上には三日月が浮かんでいます。賛には「武蔵野の月 見るてもなけれ 見ぬてなし」と書かれていて、髑髏は月を見ているとも見ていないとも言うわけではない という意味なのかもしれません。非常に簡略化されて一見落書きのようですが、奥深さのある作品でした。

白隠慧鶴 「福布袋図」
水墨の横長の掛け軸です。布袋が長い袋を両手で持ち、その袋には福寿と大きく書かれています。非常に伸びやかで広がっていくような感じがあり、福が広がる縁起の良さがあるように思いました。


<かわいい>
最後はかわいらしさをテーマにしたコーナーです。

仙義梵 「指月布袋図」
水墨の掛け軸で、ニコニコした布袋が空を指差し、「あの月が落ちたら誰にやろうか」と言っています。その周りには2人の子供が手を挙げて喜んでいるようで、楽しげな雰囲気があります。非常に簡略化されていて、脱力系のゆるキャラのような画風なのも面白い作品でした。

伊藤若冲 「付喪神図」 ★こちらで観られます
黒を背景にした掛け軸で、臼や杵、茶釜、器、鼓、琵琶などなど、様々な形をした付喪神(九十九神 つくもかみ)を描いた奇想の作品です。それぞれが縦に並んでいるのですが、解説によるとみんな下の方を向いていて、その先に光があるそうでした。ちょっと妖怪のような雰囲気もありますが、面白い作品です。

狩野探幽 「唐子遊戯図屏風」
一番最後に展示されていた6曲1双の金屏風です。子供(唐子)たちが動物と遊んだり、花を摘んだり、団扇を持って蝶を追ったり、笛を吹いたり、獅子舞をしたりと、楽しそうな光景が並んでいます。唐子だけど日本の春の様子を描いているのかな。驚いたのが獅子舞で、狩野永徳の唐獅子を彷彿するような力強さのある面をつけて踊っていました。周りが細かいタッチなので非常に異彩を放っているかも。これもかなりの収穫となりました。
 参考記事:皇室の名宝―日本美の華 <1期> 感想前編 (東京国立博物館 平成館)


ということで、前期よりも後期の方が満足度が高い内容となっていました。蕭白の作品が沢山あるというだけでも私には嬉しいw もうすぐ終わってしまいますが、この連休でお勧めしたい展覧会です。


おまけ:
この日、府中市美術館の後に府中競馬場に青葉賞を観にいってきました。(このレースは毎年観にいっていますw)
 参考記事:
  青葉賞2010 (東京競馬場の案内)
  青葉賞 (東京競馬場の案内)
P1180751.jpg
去年はこのレースを今年は馬券も当たらず、勝ち馬も微妙でしたw
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