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ルオーと風景 【パナソニック電工 汐留ミュージアム】

前回ご紹介したお店で休憩する前に、パナソニック電工 汐留ミュージアムで「ルオーと風景」を観てきました。(ここ3回は逆行するコースでご紹介しています)

P1190211.jpg

【展覧名】
 ルオーと風景

【公式サイト】
 http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/exhibition/11/110423/index.html

【会場】
 パナソニック電工 汐留ミュージアム  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店

【最寄】JR/東京メトロ 新橋駅  都営大江戸線汐留駅


【会期】2011年4月23日(土)~2011年7月3日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていてゆっくり観ることが出来ました。

さて、この美術館はジョルジュ・ルオーのコレクションが目玉となっているところですが、今回はまさにルオーを主題にした展示で、風景画を中心とした内容となっています。震災の影響で7点ほどフランスからの出品が中止されたようですが、ジョルジュ・ルオー財団などの協力のおかげで大半の作品を展示することが出来たようです。

ルオーは便宜上フォーヴィスムに分類される画家で、非常に分厚いマチエールでキリストやピエロ、版画などを描いていたイメージがあるので、ルオーの風景画と聞くとちょっとピンとこない感じです。しかし、実際にはルオーは初期から晩年まで風景を絶えず描いていたそうで、生まれ育ったパリ郊外や父親の故郷のブルターニュ、一時期家族と暮らしたヴェルサイユなどを描いた作品が多いようです。 展覧会は時期や主題によって章が分かれていましたので、いつも通り気に入った作品を通してご紹介しようと思います。
 参考リンク:ジョルジュ・ルオーのwikipedia
 参考記事 :ユビュ 知られざるルオーの素顔 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)


<第1章 巨匠に倣いて -古典主義的風景画>
まずは初期のコーナーです。ルオーは国立美術学校でギュスターヴ・モローに師事したのですが、学校では古典主義的風景画の描き方を指導していたそうです。初期はプッサンやクロード・ロランへの傾倒を見せていたようで、概念形成した作品だけでなく実写したものまであったそうです。学生時代にはレンブラントの再来とまで称されていたというエピソードもありました。
 参考記事:
  レンブラント 光の探求/闇の誘惑 (国立西洋美術館)
  森と芸術 (東京都庭園美術館)

ジョルジュ・ルオー 「人物のいる風景」 ★こちらで観られます
この辺はほとんど小品ですがこれは大きめのパステル画で、今回のポスターにもなっている作品です。月光の下に森と水辺が描かれ、川にはニンフの姿もあります。解説ではレオナルド風とのことでしたが、淡くて少しぼんやりしているのはコローのような雰囲気もあるかな。柔らかい空気感です。
この近くには先生のモローの影響を思わせる作品もありました。
 参考記事:ダ・ヴィンチ ~モナ・リザ25の秘密~ (日比谷公園ダ・ヴィンチミュージアム)


<第2章 生きた芸術へ -自然・田園の風景>
ルオーはローマ賞に落選した後、学校を退学してアカデミックな描き方から独自の風景表現を模索するようになったそうです。観たものをそのまま描くのではなく、自分に取り込んでから自分の経験や内面を交えて表現するようになったらしく、解説では、貧民など人間の苦悩を描いた「悲劇性」と「自然の美」という2つの特徴が挙げられていました。

ジョルジュ・ルオー 「ブルターニュの風景」 ★こちらで観られます
海を背景にした丘に建つ家々を描いた作品です。画風が1章から一変していて、平面的でぺったりした色彩となっています。段々とよく知るルオーの画風っぽくなってきたかなw 深い青の海、簡略化された家々などフォーヴ的な要素がありました。

この辺にはルオー関連のフランスの地図も展示されていて、実際のどの辺なのかわかるようになっていました。ここから先はあまり時期順ではなく主題ベースで年代が交錯する感じです。

ジョルジュ・ルオー 「風景 乗馬」 ★こちらで観られます
キャンバスに楕円形を描き、その中に風景が広がっている作品です。馬に乗る人や周りの人々が描かれ、背景には山や空も見えます。太い輪郭が多く使われ、非常に力強くステンドグラスのような印象を受ける作品でした。具象性が低くなってきたかな。

ジョルジュ・ルオー 「古きヴェルサイユ(表)/花(裏)」
もはや彫刻作品ではないか?というほど立体的な作品で、両面に絵が描かれ(というか塗り込められ)ています。楕円形の凹型のくぼみがつけられていて、そこに月の浮かぶ山と、2人の人物らしき姿があるのはわかるのですが、抽象的でちょっと難しい絵です。それにしてもマチエールがすごくて、ざらざらした質感がします。 裏面は凸型盛り上がりがあり、そこには花が描かれていました。留め金のようなものもむき出しになっていて、やはり彫刻といって良いのでは…w ルオーならではの作品でした。


<第3章 古びた町外れ-パリの郊外>
ルオーはパリの郊外で生まれましたが、そこには町工場があり、工場労働者や低所得者、売春などの渦巻く場末だったそうです。ルオーはこうした風景や貧者をたびたび描いていたようで、ここにはそうした風景が並んでいました。

ジョルジュ・ルオー 「エクソドゥス ミセレーレ」
太い輪郭線で簡略化されていて、まるで水墨画のような作品です。背を曲げてとぼとぼ歩いている人が3人描かれ、親子のように見えます。1人は座り込んでいてその姿勢から絶望や苦悩を感じました。

この辺は白黒の版画が置かれいました。また、映像で当時の写真なども流していて様子が分かりやすくなっていました。

ジョルジュ・ルオー 「冬、降誕祭」
これは雪の降り積もった街を描いた油彩作品です。中央に高い教会のような建物があり、家々は簡略化されていて、ちょっとセザンヌのような感じがするかな。空は暗くて、1人も歩いておらず全体的に寂しい裏びれた雰囲気がありました。

この辺には近くにあるブリヂストン美術館の作品もありました。


<第4章 「伝説的風景」へ-版画集『ユビュおやじの再生』から『受難』まで>
ルオーは詩画集「伝説的風景」で自分の宗教的眼差しを直接反映した聖書風景に取り組んだそうで、それは「受難」で確かなものとなったようです。ここでは「伝説的風景」や「受難」、「ユビュおやじの再生」「ミセレーレ」といった代表的な版画集に描かれた風景が並んでいました。

ジョルジュ・ルオー 「渇きと恐れの国では(『ミセレーレ』)」
川で小舟のマストに触って作業をしている男を描いた版画で、背景には岸の風景が見えています。男の周りは少し明るいものの全体的に暗く、寂しい感じがします。解説によると、このタイトルは日々の苦しみで喜びや楽しみを感じることが出来ない男の人生を指しているそうです。 まさにミセレーレ(ラテン語で「憐れみたまえ」)ですね…。

ジョルジュ・ルオー 「ヨルダンの川辺で(伝説的風景)」
木の下に立つ人と、それに向かって正座のように膝まづく人を描いた作品で、背景には町並みが見えています。これは洗礼者ヨハネがキリストに洗礼を施す場面の伝統に従っているそうで、私はそのシーンかと思いました。
この他にも「伝説的風景」の版画は数点あり、日本語訳された詩が一緒に展示されていました。

ジョルジュ・ルオー 「街はずれのキリスト(『受難』)」
白い服の人と、その周りで話すような2人くらいの人が描かれ、背景には4本の煙突と近代的な建物が描かれています。恐らく白い服の人はキリストだと思うのですが、背景と時代があっておらず、何故だろうと思いましたが、ルオーの時代の人々もキリストに救われているシーンのようでした。(思い返してみると近代の風景に描かれたキリストの絵を他でも観た記憶があります。意味深ですね)


<第5章 歓喜のヴィジョン-聖書風景>
続いても聖書関連のコーナーです。1930年以降は宗教的題材がメインとなっていて、この頃の風景画はどこの地域か特定できない創作の景色となっているようです。この章は油彩画が中心となっていました。

ジョルジュ・ルオー 「夕暮れ」 ★こちらで観られます
月の浮かぶ夕暮れを背景に、丘に建つ赤い屋根の塔のような建物が2つ見えます。手前でには木の側でキリストのような人が立っていて、その周りに人々が集まっていました。意外と幸せな雰囲気があり、夕暮れの神秘さと相まってちょっと懐かしいような感じを受けたかな。

ここには12点の色紙くらいの小さな「アトリエ作品」が並んでいました。これは未完成の作品で、主に聖書のシーンを描いています。小さくてもルオーの個性が詰まった作品郡となっていて面白いです。

ジョルジュ・ルオー 「…悩みの果てぬ古き場末で…」
縦長で中央に柱が大きく描かれた作品です。下の方は子供を抱く母親や、背に光を背負ったようなキリストらしき人が描かれています。背景には塔、空には太陽が光り、そのためか全体的に黄色やオレンジが多く使われ明るい印象の作品となっていました。


<ルオーの王国>
最後は子供向けの部屋となっていて、やけに低い位置に展示されているコーナーとなっていました。キリストやサーカス、ユビュおやじ関連の作品など、この美術館の常設作品が並んでいて、内容は決して子供だけのものではありませんw なかなか面白い趣向でした。


ということで、ルオーの新たな側面を観られた展覧会でした。ルオーが好きという人には特に面白いんじゃないかな。この時期に外国の作品が観られるのは本当に有難いことですね。会期はまだ充分にありますので、気になる方は足を運んでみてください。
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