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アンフォルメルとは何か?-20世紀フランス絵画の挑戦 【ブリヂストン美術館】

記事が前後しますが、前回ご紹介した東京国立近代美術館フィルムセンターの展示を見る前に、ブリヂストン美術館で「アンフォルメルとは何か?-20世紀フランス絵画の挑戦」を観てきました。

P1190370.jpg

【展覧名】
 アンフォルメルとは何か?-20世紀フランス絵画の挑戦

【公式サイト】
 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibit/index.php?id=83

【会場】ブリヂストン美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・都営浅草線宝町駅
【会期】2011年4月29日~7月6日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度 + 常設20分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、鑑賞するのにはまったく支障はなく自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は「アンフォルメル」とは何か?というストレートなタイトルとなっています。このジャンルで展覧会が開かれることはあまりなく、私も大体こういうものという程度しか知らなかったので、非常に興味深く待っていました。展覧会は3章構成となっていて、アンフォルメル以前から戦後までの美術の流れを紹介していました。詳しくはいつも通り気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<1章 抽象絵画の萌芽と展開>
まずはアンフォルメルよりも前の具象から抽象に向かっていく頃の作品のコーナーです。19世紀末から第一次世界大戦勃発まではベル・エポックの時代と呼ばれ、芸術も発展して行きました。印象派など自然の本質を描いたものや、ピカソやカンディンスキーなど観念的なものを描いたものまで並んでいます。

ギュスターヴ・モロー 「化粧」 ★こちらで観られます
壁の台?に肘を掛けて立つ女神のような女性を描いた作品です。青、赤、黄色といった色の複雑な模様の服で、緻密に描かれています。水彩なのに色の鮮やかさが美しいです。やや物憂げな表情の女性は神秘的で、かなり好みの作品でした。 モローには本当にハズレがありません。

この章には他にもブリヂストン美術館が誇る、ドガ、セザンヌ、モネ、ロートレック、レジェ、ピカソ、クレーといった自慢のコレクションが並んでいます。(ここの常設でよく観ているものなので、ご紹介は割愛しますw)

章の最後のほうには「冷たい抽象」と「熱い抽象」あるいは抒情的抽象という抽象絵画の傾向について解説されていました。これは、色彩の表現力や動感あふれる構図で人間の内面を直載に訴えようとした「熱い抽象」に対して、合理的な幾何学形態と厳格な純粋造詣を求めたものを「冷たい抽象」としているようでした。キュビスムなどは冷たい抽象そのものかな。熱い抽象はフォーヴやクレーのようなものかな??


<2章 「不定形な」絵画の登場-フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルス>
続いては今回の本題となるアンフォルメルの成り立ちについてです。アンフォルメルは第二次大戦後のパリで起こった前衛的絵画運動で、1950年に批評家ミシェル・タピエによって提唱され、フランス語で「非定形なるもの」を意味するそうです。ここではそれより少し前の、ドイツ占領下のパリでギャラリー・ルネ・ドルーアという画廊がオープンした時、新進気鋭の3人の画家の個展を開催したことにフォーカスを当てています。

まずはジャン・フォートリエの作品が並んでします。ジャン・フォートリエはパリ生まれですが、ロンドンに移住しロイヤル・アカデミーとスレイド美術学校で学びました。第一次大戦の後は具象的絵画を描いていたそうですが、次第に抽象へと向かい1920年代には画商のポール・ギヨームと契約して成功を収めました。しかし1930年代は経済的に困窮し、アルプスでスキーの指導やホテル経営などをしていたようで、第二次大戦の頃にはレジスタンスに参加しナチスに追われるなど激動の人生だったようです。その頃に虐殺される人を見て、「人質」シリーズを描いています。その後、これらの作品からミシェル・タピエにアンフォルメルの原型を見出され、アンフォルメルの意味するもの展に出品されました。作風は紙や石膏で画面を盛り上げて描く独特の技法で、ここにはそうした作品が並んでいます。

ジャン・フォートリエ 「人質の頭部」
緑地にゆがんだ茶色の長方形のような盛り上がりがあり、そこに黒で人の顔?のような線が描かれています。非常に盛り上がっていて、ざらざら質感がありました。これは直接観ないとただの長方形に見えるのではw

ジャン・フォートリエ 「人質」 ★こちらで観られます
簡略化された人の顔を描いた?作品です。緑地に白の顔が浮かびちょっと月みたいな感じに思いました。石膏などで凹凸を作ってパステルを染み込ませているらしく、言い知れぬパワーが伝わってきます。色合いのせいか悲しい雰囲気もあったかな。

ジャン・フォートリエ 「無題(四辺画)」
淡い青を背景に四角が描かれ、そこに格子状の線が引かれている作品です。もはや何を描いているのか分かりませんが、四角の質感や線などは見ていて妙にしっくり来るのが不思議でした、

この辺は四角を描いた作品が並んでいました。波打ったりしていて、心情が伝わるようです。

続いてジャン・デュビュッフェのコーナーです。ジャン・デュビュッフェは私立のアカデミージュリアンを退学して独学で絵画制作をした画家で、ユトリロの母のシュザンヌ・ヴァラドンやデュフィとも知己があったそうです。兵役後に技師やワイン売りなどもしていたそうで、筆をとっても家業でしばしば中断しなければならなかったそうです。しかし、1943年ルネ・ドルーアンに紹介されて1944年に最初の個展を開くことができました。その画風は、アスファルトや砂利を混入した厚塗りの画面を引っかくように描くもので、当時の道路技師の名前を取って「マダカム」というシリーズも描かれたそうです。

ジャン・デュビュッフェ 「美しい尾の牝牛」
これはよく見ている西洋美術館の常設作品です。牛が落書きのように描かれていて、表面に無数の引っかき傷のようなものがあります。具象的ともいえますが、その色や表現は非常に独特で強烈です。

ジャン・デュビュッフェ 「暴動」 ★こちらで観られます
きつい赤や青が使われ、幼稚園児の絵のようにグチャグチャに描いたような画風でたくさんの人が描かれています。デュビュッフェは子供が持つ原初的な感情の発露を目指していたらしく、それがよく分かる作品です。色がとにかく強烈で一種の狂気を感じます。一見、楽しそうに見えましたが暴動している人たちなんですね…。

そして3人目はヴォルスです。ヴォルスはパウル・クレーに師事したドイツ人で、バウハウスに通いました。写真家としても活躍していましたが、第二次大戦が始まると敵性外国人として収容所に送られています。(この時、マックス・エルンストにも出会っているいろそうです) 1945年にルネ・ドルーアの目に留まり個展を開き、アンフォルメルの先駆者となり、後進に影響を与えました。…しかし腐った馬肉を食べて38歳の若さで死んでしまったのだとか。
 参考記事:バウハウス・テイスト バウハウス・キッチン展 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)

ヴォルス 「雲……」
白黒の写真作品です。街灯の上部と空に浮かぶ雲が撮られていて、どことなくシュルレアリスムの作品を彷彿しました。

ヴォルス 「作品、または絵画」 ★こちらで観られます
引っかき傷のような線が無数に描かれた作品です。背景に町のようなものが描かれているのはやや具象的な感じもするかな。解説では先生のクレーに通じるものがあるとのことでした。

この部屋を抜けて通路の奥にはピエール・スラージュへの6つの質問という10分の映像がありました。また、通路には印象派からアンフォルメルに繋がる絵画の分岐の図があり、これは中々分かりやすいと思います。


<第3章 戦後フランス絵画の抽象的傾向と「アンフォルメルの芸術」>
続いてはアンフォルメル全盛期のコーナーです。先にもご紹介しましたが、アンフォルメルは不定形の芸術で、正しくはラール・アンフォルメルというそうです。評論家のシャルル・エスティエンヌはこれを「タシスム」(染み)という蔑称をつけたそうで、「アンフォルメル」と「タシスム」はほぼ同じと考えて良さそうです。ここには外国の画家をはじめ、日本の画家の作品もありました。

ハンス・アルトゥング 「T.1963-K.7」 ★こちらで観られます
黒を背景に縦に無数の引っかき傷のような線が描かれた作品です。その下のほうは水色となっていて、まるで暗闇の水辺に立つ樹のように見えました。実際の意味は分かりませんが、色だけでも神秘的な雰囲気が伝わってきます。
この辺には似たような作品もありました。

ピエール・スーラージュ 「絵画」
大きな画面に黒と赤~茶色の色が横に塗られている作品です。筆跡も残っていて、一部は滴るようになっています。解説によると、この画家はこの美術館を訪れたことがあるらしく、日本の漆塗りの技法に興味を持ったそうです。 そう言われてみればこの色艶と質感は漆塗りに共通するものがあるかも??

カレル・アペル 「裸婦」
子供が描くような人間(裸婦)の絵です。腕を広げて横たわっていて、肌は真っ赤でおなかより下の部分は激しい渦を巻いています。厚塗りされた絵の具も迫力があり、色も相まって強烈な印象を受けました。

ニコラ・ド・スタール 「コンポジション」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、初期の作品だそうです。パレットナイフで描かれた長方形が集合体となったような幾何学的な絵で、間近で観るとかなり厚塗りされています。色は落ち着いていますが、うねりのようなものを感じ、リズム感がありました。これも近くで見ないと良さは半減するかな。

ジョルジュ・マチウ 「無題」
黒を背景に黄色、赤、白などがギザギザに波打っている不定形の作品です。直接チューブから画面に絵の具を塗っているらしく、練りだされた感じがそのまま残っているのが分かります。まるで飛び散るようなエネルギーを感じる作品でした。

続いては日本人のコーナーです。

菅井汲 「赤い鬼」
真っ赤な画面に角のようなものが描かれ、鬼を表現しているようです。これもマチエールが半端でなく、色と共に力強い印象がありました。それにしても面白いものを題材に選んだなあ。

今井俊満 「Eclipse」
右上に真っ赤な太陽、その左下にやや黄色い波紋(月光?)、その周りは厚いマチエールの緑の波紋がかかれています。題材から察するに日食を表現しているのだと思いますが、うごめくような雰囲気のある作品でした。

この美術館一押しの画家ザオ・ウーキーのコーナーもありました。この人もこの美術館に来たことがあるそうです。

ザオ・ウーキー 「10.06.75」
明るく薄いオレンジを背景に、黒や濃いオレンジが波しぶきのように交じり合っている作品です。意味はわかりませんが、激しさの反面、不思議と観ていて落ち着く感じがしました。夕焼けのような色だからかな?
この辺にはおなじみの海のそこを思わせる作品もあります。


最後に常設展示もあります。目新しい入れ替えはなかったのでご紹介は割愛します。今回はエジプトのコーナーには入れないようになっていました。


ということで、いつもは「わからない!」の一言で終わらせている抽象画ですが、こうして流れを知ると予想以上に楽しめるものだと新しい発見をした気分になりました。こういう企画はぜひ今後も続けて欲しいです。参考になる面白い展示でした。
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