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五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信 (感想前編)【江戸東京博物館】

この土曜日に両国の江戸東京博物館へ行って「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。
なお、この展覧会は震災の影響で開催日が変更されていますのでご注意ください。

P1190415.jpg

【展覧名】
 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信

【公式サイト】
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/special/index.html

【会場】江戸東京博物館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR両国駅/大江戸線両国駅
【会期】2011年4月29日(金・祝)~2011年7月3日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
館内は結構人が多くて、1つの作品に4~5人くらい付く感じでしたが、作品自体が大きめなので、混雑感はさほどでもありませんでした。

さて、今回は狩野一信と言う絵師の描いた100幅の五百羅漢がテーマとなっています。狩野一信と聞いてすぐにピンとくる人は相当な美術好きだと思うのですが、近年まであまり知られていない忘れられた存在だったようで、今回のように100幅揃って見られる展示は初の試みとなります。

まず中国画や日本画でよく題材にされる「羅漢」についてですが、彼らは釈迦の弟子で、悟りに達した聖人です。色々な神通力を持っていたりするのですが、それは後々ご紹介します。 古くは中国の南宋時代(12世紀)の作品を倣って南北朝時代から日本でも羅漢が描かれていたようで、どちらかというと著名な十六羅漢の方をよく目にします。
江戸時代には羅漢信仰がブームとなった時期があったらしく、江戸には五百羅漢寺というテーマパーク的なお寺があったそうです。そして、そこの木彫りの像を見ていた当時30代半ばの狩野一信は100幅の五百羅漢図を描くことを決意しました。約10年に渡って製作を続け、96幅のところまできてあとちょっとというところで、今で言うノイローゼのようになって亡くなってしまいました。しかし、残りの4幅を妻や弟子たちが完成させて、港区芝の増上寺に寄進されました。 その後、太平洋戦争の折には空襲で増上寺は燃えてしまいましたが、五百羅漢図は別の建物に移されていたので難を逃れたそうです。

展覧会は1幅から100幅までをずらりと並べ、それに加えて資料的なものや同時期の作品なども展示されていました。100図はいくつかのテーマに区切られているようでしたので、テーマごとに気に入った作品をご紹介して威光と思います。


<第1~10幅 羅漢の日常の暮らしぶりを表す場面>
まずは羅漢たちの生活ぶりから始まります。100図で500羅漢なので、平均すると1幅に5人という計算になりますが、4人だったり6人だったり人数は絵に沿って可変していきます。 1幅づつが大きく、結構2幅対の作品も多いので大画面の迫力ある作品となっていました。

狩野一信 「五百羅漢図 第1幅、第2幅 名相」
1~8幅は「名相」という羅漢たちの日常生活のタイトルがつけられています。トップバッターを務める第1幅には、羅漢同士で話し合ったり、手前で子供たちが薬草をすり潰している様子が描かれています。この子供の姿勢は中世の羅漢図に倣ったものだそうで、伝統も取り入れていることがわかります。 狩野一信は名前の通り狩野派に学んだこともある(独学の割合が高いけど)ので、そうした伝統も感じる一方で、やや中国風な感じもうけました。色彩が濃くかなり緻密に描かれ、羅漢たちの頭の後ろに光輪が描かれているのは100図に共通しているようでした。西洋の聖人画みたいな感じもするかも。

狩野一信 「五百羅漢図 第9幅、第10幅 浴室」
2幅対の作品です。童子の太鼓を鳴らす合図で羅漢たちが簾の向こうの浴室に入って身を清めているようです。手前にはお風呂上りの羅漢たちが髭をそったり爪を切ったりしていました。 …やけに楽しそうで普通の人間くさい羅漢たちですw 解説によるとこれも修行の1つで作法もあるとのことでしたが、風呂上りのお茶まで準備していて遊んでいるように見えましたw 


<第11~20幅 自ら懺悔し、出家者や異教徒を教化する場面>
続いては教義を討議したり異教徒を説き伏せて仏の道に導くシーンです。

狩野一信 「五百羅漢図 第15幅、第16幅 論議」
円になって論議をしている10人の羅漢たちを描いた2幅対の作品です。喧々諤々と議論している真剣な羅漢もいれば、肘を突いて聴いている羅漢、余裕の顔をした羅漢などもいて、中には鼻をかんでいる羅漢もいましたw 何だか思った以上に羅漢たちはゆるいのかも?? 手前では若い僧が筆記している感じでこちらのほうが真面目そうに見えてしまいました。中々憎めない羅漢たちですw また、背景には南国風の棕櫚の木などが描かれ異国情緒がありました。

この辺には髑髏の首飾りをつけた邪教の教徒たちを仏教に導く羅漢たちの絵もありました。ここにもちょっとサボってる羅漢がいたりしますw


<第21~40幅 生前の罪により巡る地獄など六道から救済する場面>
続いては人間が死んだ後に分かれて進むとされる6つの道「六道」をテーマにした作品です。六道とは即ち、地獄、餓鬼(鬼趣)、畜生、修羅、人、天の6つで、それぞれの道の光景が生々しく描写されていました。

狩野一信 「五百羅漢図 第21幅、第22幅 六道 地獄」 ★こちらで観られます
まさに地獄絵図といった2幅対の作品です。右の21幅では地獄に雲に乗った5人の羅漢たちが現れ、1人の羅漢が長い錫杖で雲の下の罪人を助けている様子が描かれています。罪人たちは釜茹でにされ、体に無数の目がある赤鬼に見張られています。背景にも火に追われる亡者達が鬼に捕まって髪を引っ張られて持ち上げられている様子などが描かれていました。こんなものを見せられたら当時の人は恐ろしかったのでは??
対して左の22幅では、雲の上の羅漢が扇子で大風を巻き起こし、業火が煽られて消されそうになっている様子が描かれています。物凄い勢いの線で描れ、風の強さと迫力を感じました。亡者たちの手を合わせて助けを乞う様子がちょっと哀れ。

狩野一信 「五百羅漢図 第23幅、第24幅 六道 地獄」 ★こちらで観られます
第23幅も地獄ですが、先ほどと対照的に寒地獄が描かれた2幅対です。亡者たちは氷の池に埋まり、氷が刺さって全身血だらけになっています。そこに雲の上から羅漢が現れ、レーザーのような光線を発射して氷を解かしています。脇では従者が帯のようなものを垂らして亡者に差し伸べ、皆で縋り付く様子が描かれていました。
また、第24幅では牛や馬の頭の鬼に襲われる亡者が描かれています。こちらも羅漢の垂らした紐にすがっているのですが、「蜘蛛の糸」を彷彿するように我先にと飛びついていました。・・・しかし中には助からなかった亡者もいて、頭から真逆さまに血の池?に落ちていく亡者もいました。中々恐ろしいです。

ちなみに、今後も23幅に出てきた光線は頻出します。展覧会の解説では「羅漢ビーム」と言っていましたw 語呂が面白いので今後はこの記事でも羅漢ビームと呼びます^^;

狩野一信 「五百羅漢図 第25幅、第26幅 六道 鬼趣」
こちらは生前に食べ物を粗末にしたり、必要以上に貪った者が落ちる餓鬼道を描いた2幅対の作品です。右は壇上のようなところに立つ5人の羅漢が描かれ、米?らしきものを持って施餓鬼しているようです。餓鬼たちはそれを仰ぎ見て手を伸ばし、食べ物を乞っています。手前にはもう食べ物を貰った餓鬼もいるのですが、口に入れようとした瞬間に火に変ってしまい食べられない様子が描かれています。川の水を直飲みしようとしている餓鬼もいるのですが、水も口の前で火に変っていました。 …絶対に餓鬼道には落ちたくないですね。むごすぎます。 それに対して左側は配られた饅頭のようなものを必死で争っている餓鬼たちが描かれていました。これも恐ろしい図です。食べ物は大事にしよう・・・。

狩野一信 「五百羅漢図 第29幅、第30幅 六道 畜生」
29幅は、鳥や動物と戯れている羅漢たちが描かれた作品です。オウム、亀、鶴などが描かれ、鶴は羅漢ビームで呼びよされているような感じでした。これは遊んでいるわけではなく、畜生道の動物達に六道から早く抜けられるように教えている様子だそうで、30幅では猿や鹿などに話かけている様子が描かれています。ちょっと変った羅漢もいて、お腹の中に仏像を納めている羅漢や、口から仏が出てくる羅漢など、一風変った超能力を見せていました。

狩野一信 「五百羅漢図 第31幅、第32幅 六道 修羅」
こちらは修羅道を描いた2幅対で、左右で向き合うように戦争をしている様子が描かれています。右幅には真っ赤な肌で日と月のようなものをもつ多面多脾の阿修羅の姿も見えます。その上空に羅漢たちが雲に乗って現れるわけですが、今回は救う様子もなく、明らかに見物を決めこんでいるような羅漢もいます。こいつらどうしようもねーなーと言いたげですw 下の修羅の一部は羅漢に手を合わせているのでこいつらは助けてあげれば良いのにw 他は戦っていて迫力と躍動感がありました。

狩野一信 「五百羅漢図 第33幅、第34幅 六道 人」
我々人間の人道の様子を描いた作品です。どちらも太鼓橋を行列している羅漢と迎えの人々?が描かれ、背景には中国風の背景と宮殿が見えています。 王侯貴族が羅漢を迎え入れているのかな? 右幅は向こうからやってくる感じの視点で、左幅は逆に後ろから観るような視点となっていました。この辺りはこうした対になる視点で描かれた作品が何点かあり面白い試みです。

狩野一信 「五百羅漢図 第37幅、第38幅 六道 天」
37幅は天へ向かう羅漢、38幅は天から帰ってきた羅漢が描かれた2幅対です。雲の上を行列していて、沢山の美しい天女たちが迎えてくれています。色とりどりの衣装が美しく、鳥のようにふわ~っと浮いている天女も流麗な雰囲気がありました。
39、40も同じ天を描いた作品で、こちらには四天王の姿などもありました。


ということで、今日はこの辺までにしようと思います。私としては20~40幅の六道シリーズが非常に面白くて、ここが一番の見所であるように思います。とは言え、後半にも「神通」などユーモラスな作品もありますので、次回の後半もご期待ください。


  ⇒後編はこちら

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No title
こんばんわ!!
 ついに行かれましたね~
 五百羅漢のユーモラスさ、人間臭さで笑いがこみ上げきました。もう一回いってもいいなと思っています。
 
Re: No title
>だまけんさん
コメントありがとうございます^^
晴れた日を狙って、ついでに旧安田庭園に行こうと考えていたのですが、
土日は雨ばかりで行くのが遅くなりました。
その上、晴れたのに結局は庭園に行かなかったというオチでしてw

五百羅漢面白かったですね。これで本当に悟りを開いているの?というゆるさもありでw
六道シリーズは特に好みでした。
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