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五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信 (感想後編)【江戸東京博物館】

今日は前回の記事に引き続き、江戸東京博物館の特別展「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」 の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。
 前編はこちら

P1190410.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信

【公式サイト】
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/special/index.html

【会場】江戸東京博物館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR両国駅/大江戸線両国駅
【会期】2011年4月29日(金・祝)~2011年7月3日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では40幅までご紹介しましたが、今日は残りの60幅をご紹介しようと思います。


<第41~50幅 12の衣食住に関する欲を取り除く修行の場面>
40幅から50幅は修行の場面を描いた作品が並んでいます。その前後に今回の100幅以外の作品も並んでいました。

狩野一信 「五百羅漢図 釈迦文殊普賢四天王十大弟子図」
壁一面に広がった巨大な掛け軸で、元は成田山新勝寺の不動堂の壁画だったものです。1900年に壁面から外されて掛け軸に表装されたようです。釈迦を中心に、右に文殊菩薩、左に普賢菩薩、その周りに四天王、手前に十大弟子の姿が描かれています。墨と金のみで描かれていて、渋い感じもします。照明が明るくなったり暗くなったりするのですが、その明かりの具合によっても違う印象を受けました。作品は大きいのに描写は細かくて驚きます。

狩野一信 「五百羅漢図 第41幅 十二頭陀 阿蘭若」
十二頭陀というのは十二の修行のことで、衣食住に関する欲を捨てる内容のようです。また、阿蘭若(あらんにゃ)というのは修行に適した場所のことで、この絵では阿蘭若で羅漢が修行?している様子が描かれています。柱しかない小屋のような中で、お茶を飲んでる羅漢や、仏像を彫る羅漢など、修行なのか日常生活なのかw 解説によると、この絵には建物に遠視遠近法という西洋の技法が取り入れられているとのことでした。また、托鉢している姿を描いた作品(第45幅)などもあり、そちらでは西洋の陰影法を取り入れているのですが、ちょっとわざとらしくて、不気味なくらいの不自然さがありましたw それでも積極的に西洋の技法を取り込もうとしている様子がわかり面白いです。

ここら辺には、以前に板橋区立美術館で観た「五百羅漢図 第50幅 十二頭陀・露地常坐」も展示されていました。
 参考記事:諸国畸人伝 (板橋区立美術館)

狩野一信 「五百羅漢図 第12幅 六道 地獄(東博版)」
また12幅に戻ったのは展示順が間違っているわけではありません。こちらは参考作品のコーナーにあった作品です。前編でご紹介した六道の地獄がほとんどそのまま描かれているのですが、2幅を1つにまとめて小さくした感じで、試作か没後に描かれた副本ではないかとの説もあるようです。小さめなせいか、やや迫力に欠けるかも。色も薄めに思いました。

この辺には日記や下絵などの資料もあります。西洋画への関心を示していたことも書かれているそうです。


<第51~60幅 神通力を発揮する場面>
続いては羅漢の超能力が炸裂するコーナーです。前編でもいくつか神通力を使っているシーンがありましたが、ここからは羅漢ビームが出まくりですw

狩野一信 「五百羅漢図 第53幅 神通」
木で首を吊った女を淡々と片付ける羅漢を描いた作品で、周りには目を押さえて泣く子や驚いている老人などもいます。鼻水や涎を垂らした死体は妙に生々しく、一信も実際にこういう人を見たのでは?と思わせます。もう1人の羅漢は経文から羅漢ビームを出して、木の上に集まる邪鬼を追い払っているようでした。ちょっと恐ろしい作品です。

狩野一信 「五百羅漢図 第55幅 神通」
羅漢の顔の皮を剥いだら実は菩薩だったというシーンを描いた作品で、手前で手を合わせる人は驚いています。こんなの観たら驚くのが普通だと思いますがw 背後では鉢から大量の水を出して白い2頭の象に水浴びをさせている羅漢と従者もいました。水を出したり変化したりと神通力はかなり自由自在ですねw 近くの52幅でも顔の皮を剥いだら不動明王だったという作品もありました。

ここら辺には以羅漢ビームを出す作品が多く、最後には邪鬼たちも観念している様子も描かれています。また以前に森美術館で観た「五百羅漢図 第59幅 神通」も展示されていました。
 参考記事:医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る (森美術館)


<第61~70幅 禽獣たちを手なづける場面>
続いては鳥や獣、想像上の動物などを従えた羅漢を描いた禽獣シリーズです。

狩野一信 「五百羅漢図 第61幅 禽獣」
鹿の耳掃除をしている羅漢や、ヒョウ?を肩に乗せている羅漢、空には謎の獣に乗って駆ける羅漢の姿もあります。何だか楽しそうに遊んでいる様子を描いたように思えますが、鹿の耳掃除は中国の羅漢図にもある題材だそうで、一信はよく研究していると解説されていました。
この辺には鳳凰や亀、孔雀、鷹、蝙蝠、龍、虎、白澤(はくたく)、唐獅子など縁起の良い動物や想像上の霊獣たちと一緒の羅漢たちの作品もありました。


<第71~74幅 竜宮に招かれ、供養を受ける場>
続いては龍王の招きで竜宮に向かう羅漢を描いた4幅のシリーズです。

狩野一信 「五百羅漢図 第71幅、第72幅 龍供」
これは板橋区立美術館の展示の際にご紹介しましたが、2幅対で展示されていました。71幅では模様のように単純化された波立つ緑の海を渡る羅漢たちの絵で、虎、龍、わに?、蓮の葉などに乗っています(みんな当然のように海の上を歩いています)後ろのほうには鐘を運ぶ鬼みたいな人たちも海を歩いていて、とてもシュールな光景ですw 72幅のほうでは竜宮に到着した様子で、こちらには馬や海老、タコなどに乗った羅漢がいました。乗ってるものも含めて楽しい作品に思ったのですが、解説によると人物が小さく羅列的になっているそうで、体力の衰えで弟子の関与する割合が増えているとのことでした。
 参考記事:諸国畸人伝 (板橋区立美術館)
この次の73、74幅では中国風の竜宮で龍王に迎えられている羅漢の姿もあり、こちらも面白い作品です。


<第75~80幅 仏像や舎利を洗い、寺院を建立する場面>
続いては仏像や寺院を建立する羅漢を描いた作品のコーナーです。

狩野一信 「五百羅漢図 第79幅、第80幅 堂伽藍」
大工として寺を建立している羅漢たちを描いた作品です。大きな柱を持ったり、工具で木に穴を開けたりとせっせと働いています。79幅では柱が画面をじぐざぐに横切っている構図となっていて、斬新さを感じました。
この隣には図面を書いている羅漢の絵もありました。万能集団ですねw

<第81~90幅 さまざまな天災、人災からの救済を表す場面>
第81~90幅は地獄絵の再来を思わせる七難を描いたシリーズです。七難というのに八つあるような…w(震、風、羅刹、悪鬼、刀杖、賊、枷鎖、盗) 誰もが出くわす可能性がある恐ろしい風景が広がっていました。

狩野一信 「五百羅漢図 第81幅、第82幅 七難 震」
地震の災難を描いた作品で、倒壊した家の下敷きになっている人や、火が廻っている様子が描かれています。人々は逃げ惑い羅漢の従者に助けられています。雲の上の羅漢たちも龍の置物で火を止めようとしているようでした。生々しさがあり、少し前の地震を思い出して恐ろしい光景です。
震災の影響を受けた展示に合う非常にタイムリーな題材ですが、一信も1855年(安政2年)の大地震に被災したらしく、日記にもその様子が書かれているそうです。
また、この隣には台風で大洪水に襲われる様子が描かれた作品もありました。町が海のようになっていて、やはり先日の地震と津波を思い出します…。

狩野一信 「五百羅漢図 第89幅 七難 枷鎖、第90幅 七難 盗」
89幅は罪人たちが裁きを受けるシーンと頭上の雲に乗った羅漢が描かれた作品です。手前では三角木馬に乗せられ拷問にかけられる者、置くには正座の上に石を積まれる拷問を受けている者の姿があります。どちらも実際にあった拷問で、これまたリアルな生々しさがありました。 90幅は、強盗にあっているお金持ちの家を描いた作品で、こちらも残忍さを感じる光景となっていました。


<第91~100幅 須弥山のまわりにある4つの大陸を巡る場面>
いよいよラストの10幅です。仏教の世界観の中心である須弥山を題材にした作品群で、締めくくりのラストスパート!と言いたい所ですが、前編でご紹介したとおり一信は96幅のところで亡くなってしまいました。残り4幅は妻や弟子によって完成されたそうですが、90幅あたりと作風は似ていて、その時には既にだいぶ弱っていたと推測されるようです。

狩野一信 「五百羅漢図 第91幅 四洲 南」
インドのアショカ王が即位するのを祝福するシーンを描いた作品です。インドのはずなのに中国風の建物や、大和絵風の松が描かれているなどチグハグな感じを受けます。羅漢たちも妙に小さくなっているような…。むしろ90以降の全部の作品から衰えを感じさせました。

狩野一信 「五百羅漢図 第99幅、第100幅 四洲 北」
最後の2幅です。極楽浄土を思わせる池の周りで、天女たちが舞ったり舟遊びをしているのを雲の上の羅漢たちが眺めています。やはり羅漢たちは小さくて迫力もないかな…。構成は一信のものを引き継いでるようですが最後の最後はちょっと微妙。 モーツァルトのレクイエムみたいなものかもしれませんね。

出口には五百羅漢の見所を説明した20分くらいの映像もありました。かなり詳しいので会場内で流してくれれば良いのにw

ということで、非常に見ごたえのある展示でした。これを機に狩野一信の評価も一層高まっていくのではないでしょうか? ユーモアたっぷりの内容ですので、美術展をあまり観たことが無い人も楽しめるかと思います。お勧めです。
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こんにちわ 21世紀 さん。

流木作品(京都流木民芸)です。
あし@を休止しておりますが宜しく。
Re: No title
>流木作品さん
ご丁寧にありがとうございます。特に告知はなくて大丈夫ですよ。
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