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ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション  (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」 の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。
 前編はこちら

P1190666.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション
【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/washington/index.html
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2011/nga/index.html

【会場】国立新美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2011年6月8日(水)~9月5日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
さて、前編では2章の印象派の展示までご紹介しましたが、まだ印象派のコーナーが続いています。今日は2章の途中から最後までをご紹介しようと思います。


<第2章 印象派>
印象派のコーナーには女性画家の作品を並べたコーナーがありました。

エヴァ・ゴンザレス 「家庭教師と子ども」
門の近くで座ってこちらをじっと見る女性と、後ろを向いて門で遊んでいる子供を描いた作品です。何故かこんなところで腰掛けていたり地面に傘が落ちていたりと、ちょっと意味深でシュールな感じすら受けましたが、この取り合わせはどこかで見たような…。と思ったら、前編でご紹介したマネの「鉄道」とちょっと似たところがあるように思いました。(座ってこちらを見る女性と、背を向けている子供という点が共通しています) 解説によると、この画家は元はマネのモデルを務めていた女性で、マネの唯一の公式の弟子でもあります。同時代のモリゾやカサットといった女性画家に比べて再評価が遅れていますが、近年見直されてきているそうです。

ベルト・モリゾ 「姉妹」
バラ模様のソファに腰掛ける2人の女性を描いた作品です。2人とも水玉模様の服を着ていて、右の女性は扇子を持っています。背景の壁にも扇子が飾ってあり、これはドガがモリゾに贈った扇子だそうです。全体的に華やかな物が多く描かれていますが、2人ともどこか虚ろな感じで寂しい雰囲気がありました。解説によると、この作品はモリゾが姉と別れた頃に描いた作品だそうで、姉妹の絆を込めたのでは?との解釈でした。

この辺にはモリゾの作品が3枚あります。モリゾはかなり好きな女性画家なのでこれは嬉しい。

メアリー・カサット 「青いひじ掛け椅子に座る少女」 ★こちらで観られます
今回のポスターにも使われている作品で、アメリカ生まれの印象派でパトロンでもあった女性画家カサットの絵です。青いソファでぐで~っと寝そべるように座っている少女と、隣のソファでうつぶせている黒い犬が描かれ、少女は退屈そうに見えます。全体的に青が多く、白い服、白い肌の少女は画面の中で非常に目を引きました。解説によると、カサットはこの絵で様々な青を試そうとしていたそうで、同じ青でも微妙な色の違いで明暗などを感じました。

カサットも3点あり、いずれも良かったです。女性画家コーナーも充実しています。
この辺の休憩室では「珠玉のコレクションを作った人々」という2分半程度の映像がありました。メロン一家だけでなく、たくさんの財界人、市民などによって寄贈され、ラファエロ、ティチアーノ、フェルメール、レンブラント…といった印象派以前の巨匠の作品も所蔵していることが紹介されていました。


<第3章 紙の上の印象派>
続いてはエッチングやリトグラフなどの版画やパステルなどの作品のコーナーです。油彩に比べると地味な感じもしますが、面白い作品が並んでいました。

エドゥアール・マネ 「ベルト・モリゾ」
これは先ほどご紹介したモリゾを描いた肖像で、恐らくオルセーにある「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」を単色の版画にしたものだと思います。結構、簡素な感じになっていて、油彩とはまた別の雰囲気がありましたが、やはりモリゾは美人ですw
 参考記事:マネとモダン・パリ (三菱一号館美術館)

この辺にはマネやピサロのリトグラフなどもありました。

エドガー・ドガ 「ディエ=モナン夫人」
パステルで描いた下絵作品で、本画はシカゴ美術館にあります。ピンク色の帽子を被ってちょっと笑っているような表情をしています。顔や帽子はささっと塗ったような塗り方ですが、個性がよく現れているように思いました。解説によると、本画はまるで酔っ払いのようだと受け取られなかったそうですが、確かに気の強い怖そうなおばちゃんって感じがしましたw

この辺にはドガのリトグラフや、何年か前にbunkamuraにも来たルノワールの「田舎のダンス」の下書きのような作品などが展示されていました。

ポール・セザンヌ 「ゼラニウム」
これは水彩画で、緑鮮やかな葉っぱ(ゼラニウム)を描いた作品です。水彩ならではの透明感があり、塗り残した部分は光があたっているような感じがしました。解説によると、セザンヌは鉛筆の下書きと着色を交互に行う技法だったそうです。

ポール・ゴーギャン 「ノア・ノア(かぐわしい)」
これはゴーギャンがタヒチから一時帰国した際にタヒチを題材に作った版画シリーズの1枚です。白黒で、中央に「NOANOA」と描かれた標識のようなものが立ち、その周りに2人の作業する女性と獣、家々などが描かれています。素朴な雰囲気があり、原始的なパワーがありました。
 参考記事:
  ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)
  森と芸術 (東京都庭園美術館)

この辺にはゴッホの「ガジェ医師(パイプを持つ男)」なども展示されています。
 参考記事: 
  医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る (森美術館)
  ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)

メアリー・カサット 「入浴」
青いお風呂に黄色い服の女性が手を入れて湯加減をみている様子を描いた版画です。左手で子供を抱いていて、日常を描いたような感じを受けます。それと共に、シンプルな線を使った表現は明らかに浮世絵からの影響を感じさせました。(近くで見ていたお客さんが和風だね~と言ってましたが、かなり的を射ていると思います) 実際にカサットは万博で浮世絵を見て心を奪われたそうです。

カサットの版画も5点くらいありました。


<第4章 ポスト印象派以降>
最後はポスト印象派以降のコーナーです。このコーナーがまた素晴らしく、特にセザンヌとゴッホは見所となっていました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック  「犬を抱く女性」
珍しいロートレックの油彩作品です。庭で木の椅子に腰掛けて黒い犬を抱える女性が描かれ、背景には木を組んだ壁も見えます。女性は背筋をぴんと伸ばしこっちを見ていて、その顔はちょっと気が強そうな内面まで伝わるようでした。結構勢い良く描かれたようなタッチも面白い作品です。
先ほどの版画のコーナーにもロートレックの作品は2点ほどありました。

ポール・セザンヌ 「『レヴェヌマン』紙を読む画家の父」 ★こちらで観られます
縦長の大きなキャンバスに描かれた等身大くらいの老紳士の肖像で、これはセザンヌの父親です。背の高い椅子に座り、目を細めて新聞を読んでいて、厳格そうな感じがあります。解説によると、父親は息子に銀行家になって欲しかったそうです。それに対して、この新聞は『レヴェヌマン』という当時の革新であった印象派を支持した新聞に差し替えられているそうで(実際読んでいたのは保守的な新聞)、父に自分の芸術を理解して欲しかったのか、それとも反骨なのか、セザンヌからの返答のような感じでした。 また、パレットナイフで厚塗りされた技法はクールベからの影響とも説明されていました。

ポール・セザンヌ 「りんごと桃のある静物」
机の上のリンゴや壷、カーテンなどを描いた静物です。現実ではこういう配置にはならなそうですが、セザンヌは正確に描くことよりも色と形をどう調和させるかを重視し、厳格な構成を作っているようでした。質感や形はちょっと重い雰囲気もありましたが、後世への影響を感じさせる作品でした。

ポール・セザンヌ 「赤いチョッキの少年」 ★こちらで観られます
これも今回の展示のポスターにも使われている作品です。腰に手を当てる赤いチョッキと帽子の男が描かれ、ちらっと右のほうを見ています。背景が抽象的だったり、着ている服から幾何学的な要素を感じるなど、色合いも含めて後のキュビスムがセザンヌから学んでいったのがよくわかる作品でした。これはかなりの傑作だと思います。

セザンヌはこの他にも2点の風景画がありました。

ジョルジュ・スーラ 「オンフルールの灯台」 ★こちらで観られます
手前に浜辺、中央奥に灯台、右奥に建物が建っている風景画です。スーラお得意の細かい点描によって表現されていて、ちょっとざらついたような感じを受けます。絵の中に人っ子一人見当たらず、時間が止まったような静けさがありました。また、全体的に直線が多く使われ、垂直・水平・対角線など幾何学的な要素もあるように思いました。

ポール・ゴーギャン 「ブルターニュの踊る少女たち、ポン=タヴェン」 ★こちらで観られます
3人の少女たちがお互いに背を向けて手を繋ぎ、踊っている様子を描いた作品です。「クロワゾニスム」という技法が使われ平坦でデフォルメされたような印象を受けます。また、背景には町並みなども見えますが、素朴な雰囲気が強いように思いました。 それにしても、左端の子は無表情であまり楽しくなさそうですw

フィンセント・ファン・ゴッホ 「自画像」 ★こちらで観られます
左向きで絵筆とパレットを持つゴッホの自画像です。痩せていて、緑と黄色で描かれた顔は死者のようですが、顔の表情は険しく強い意思を感じます。また、ゴッホの頭の周りには細長い線が無数に渦巻いていて、それがオーラのようになり鬼気迫る雰囲気を強めているように思いました。解説によると、この絵は有名な耳切り事件の後に描かれたそうで、精神病の発作を起こしていた時期の作品のようです。また、これは鏡に映った自分を描いているのですが、隠れている方の耳は既に切られているそうです。 そうした時期の顔のせいか、昨年観た自画像より緊張感を感じました。
 参考記事:ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)

ゴッホはこれを含めて3点ありましたが、どれも素晴らしいです! 最後の最後まで大満足でした。


ということで、美術ファン必見の素晴らしい内容となっていました。あまりに良かったのでこれ以上置く場所が無いと自覚しつつもカタログを買ってしまった^^; ショップは他にもグッズが充実していて、ちょっと面白かったのが今回の展覧会の絵の中に出てくる犬グッズ! 目の付け所がツボでしたw

これからどんどん人気が出て混んでくると思われますので、行く予定の方はお早めにどうぞ。私はリピート確定です^^



追記:
後日、改めて2回目を見てきました。その時の感想はこちらです。
  ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 2回目感想前編(国立新美術館)
  ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 2回目感想後編(国立新美術館)

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