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不滅のシンボル 鳳凰と獅子 【サントリー美術館】

前回ご紹介したニューオータニ美術館の展示を見た後、バスで六本木まで移動してサントリー美術館で「開館50周年記念 美を結ぶ。美をひらく。 II 不滅のシンボル 鳳凰と獅子」を観てきました。この展覧会は7期に分かれていて、私が行ったのは1期でした。

P1190652.jpg

【展覧名】
 開館50周年記念 美を結ぶ。美をひらく。 II 不滅のシンボル 鳳凰と獅子

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/11vol03/index.html

【会場】
 サントリー美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店

【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2011年6月8日(水)~7月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上にお客さんがいて、ちょっと混んでいるように感じました。

冒頭にも書きましたが、この展示は7期に分かれていて、会期によっては狩野永徳・狩野常信の「唐獅子図屏風」も展示されるという豪華な内容となっています。(永徳は5~7期) 行く時期によって内容が大きく異なりますので、お目当ての作品がある方は作品リストをご確認しておくことをお勧めします。
 参考リンク:作品リスト(pdf)

私はこの展示は2回行っていて、先日ご紹介した国立新美術館の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の後にも行ったのですが、その時は2期でした。 と言っても1期と同じ内容のようで、混み具合も同じくらいでした。

さて、今回はタイトル通り、鳳凰と獅子という霊獣を主題にした作品を集めた展覧会となっていて、古今の絵画や工芸、衣装、面や銅鏡などもあるという幅広い内容となっていました。12の章に細分化されていましたので、詳しくは気に入った作品と共に章ごとにご紹介しようと思います。


<第1章 暮らしの中の鳳凰と獅子 ― 御輿・獅子舞・狛犬>
まず入口に狛犬が置かれていました。1章はそうした暮らしとの関わりをテーマにしています。そもそも鳳凰と獅子についてですが、鳳凰は優れた天子が世に出てくる兆しとされた想像上の鳥です。それに対して獅子はライオンを原型としていますが、半ば想像上の動物となっていて姿もライオンからかけ離れた姿をしています。「獅子」と「ライオン」は別物と考えた方がいいかもしれません。

「日吉山王・祇園祭礼図屏風」
6曲の屏風で、日吉山王の祭りの様子を描いています。大和絵風で手前に琵琶湖があり、舟に乗った神輿の上には鳳凰の像も観られます。そういえばお神輿の上には鳳凰をよく観ますね。 金雲や山並みがリズミカルで、祭りは勇壮な雰囲気がありました。


<第2章 古代における鳳凰と獅子 ― 銅鏡や磚をめぐって>
続いては古代の鳳凰と獅子のコーナーです。鳳凰は麒麟、亀、龍と共に四瑞として古くから尊ばれていて、唐時代の銅鏡にもその姿が見られます。また、銅鏡には獅子に似た「さんげい」という獣の姿もよく用いられます。
 参考記事:中国青銅鏡 (泉屋博古館 分館)
ここにはそうした銅鏡や、リリーフなど古い時代の作品が並んでいました。

「鳳凰文磚」 ★こちらで観られます
鳳凰は飛鳥・白鳳時代に日本にも伝わってきたそうで、これは鳳凰のリリーフです。石に彫られていて、翼を広げて見事な尾をしています。堂々としていて風格すら感じました。解説によると、これは須弥壇の側面にはめ込まれていたそうで、朝鮮からの影響があるとのことです。また、これは官製はがきの図案の元となっていて、確かに見覚えがありました。

「銅製貼銀?金双鳳?猊文八稜鏡」
作品名の漢字が難しすぎて表示できませんw これは8枚の蓮の葉を並べたような八稜の銀色の鏡で、真ん中に紐を通すための穴があり、そこが獅子の姿となっています。その周りを囲うようにさんげいと鳳凰が追いかけっこするように取り囲んでいて、緻密な彫りでまるで螺鈿のような輝きがありました。この頃にはすでに獅子と鳳凰がセットとなっていたようです。
この辺は銅鏡が数点ならんでいました。


<第3章 獅子舞と狛犬―正倉院の頃から始まる守護獣の歴史>
続いては獅子舞と狛犬のコーナーです。獅子舞というと日本のお正月のイメージですが、獅子舞は大陸からもたらされた伎楽の師子(しし)などに端を発しているそうです。ここにはそうしたルーツを感じさせる作品もありました。

「伎楽面 師子 正倉院宝物模造品」
これは正倉院の宝物を再現したものです。真っ赤な肌に緑のふさふさした毛で、大きな牙とぎょろっとした目が特徴です。迫力があって、ちょっと恐ろしい感じもしますが、ライオンからは程遠く、むしろ熊みたいな感じでした。これが獅子舞の元と言われると確かにそう見えるような見えないようなw

「金銅獅子唐草文鉢」 ★こちらで観られます
これは国宝で、金色の大きめな鉢です。側面に文様があり、わかりずらいですが四頭の獅子が描かれているようです。これは托鉢や供養具として用いるものだそうで、観た瞬間から一級品ならではの風格を感じました。素晴らしいです。
なお、この展示は国宝も数点ある貴重な内容です。たまにそうとは気がつかない時もありますがw

「獅子・狛犬」
2頭セットの狛犬で、元は3対あるものだそうです。右は口を開けている阿行、左は口を結んだ吽行で、2つ合わせて阿吽(あうん)となっています。それ以外は似ているのですが、阿の方は獅子で、吽のほうは狛犬なのだとか。本当に犬のようにちょこんとしていて、ちょっと愛嬌すら感じられましたw
この辺には何対かの狛犬が並んでいました。


<第4章 仏教における獅子 ―文殊菩薩像を中心に>
続いては仏教と獅子の関わりについてのコーナーです。獅子は文殊菩薩の眷属で、よく文殊菩薩を背に乗せた姿で表現さてます。ここにもそうした作品が展示されていました。

「文殊渡海図」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている国宝です。青い獅子の上に座る文殊菩薩と眷属たちがかかれ、雲に乗って海を渡っているようです。非常に力強く、吼えるようなしぐさの獅子に威厳を感じます。その一方で、上に乗る文殊菩薩は凛々しい雰囲気がありました。

この辺はこうした獅子に乗った仏を表現した作品が並び、曼荼羅や舎利容器を乗せた獅子の像(舎利容器を文殊菩薩に見立てている)、舎利塔などもありました。


<第5章 鳳凰降臨― 彫像や神宝にみる高貴なシンボル>
ここは4点くらいしかなかったかな。鳳凰は建物の上に飾られることがあり、ここにはそうした品が並んでいました。

「鳳凰 模造」
有名な宇治の平等院鳳凰堂の南北の両端にある金銅製の鳳凰像! …の模像ですw 直立して翼を広げ、立派な尾を持っている姿は神々しく、顔はやや険しく威厳や高貴さを感じさせました。これも10円玉の表に描かれていると言えば描かれていますね。


<第6章 よみがえる鳳凰 ―東アジアにおける鳳凰図の展開>
ここは今回の見所の1つで、掛け軸や屏風作品の並んだコーナーでした。

伊藤若冲 「旭日鳳凰図」
久々に観る若冲の鳳凰図です。極彩色の鳳凰が二羽(鳳と凰の雌雄かな)、岩にとまっていて、右上の真っ赤な旭日を見上げています。羽、尾、打ち寄せる波などは非常に細かく描かれ、色合いとともに優美で威厳のある雰囲気がありました。特に尾は躍動感もあって、本当に素晴らしい作品です。
 参考記事:皇室の名宝―日本美の華 <1期> 感想前編 (東京国立博物館 平成館)

狩野探幽 「桐鳳凰図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の金屏風です。右隻には桐の木がある川のほとりで休む雌雄の鳳凰、真ん中には雛らしい鳳凰の姿も見えます、左隻は空からふわ~っと降りてくる白っぽい鳳凰と岩にとまった鳳凰が描かれています。煌びやかで豪華な画面ですが、優美で厳かな雰囲気すら感じました。
ちなみに、鳳凰は桐と竹とよくセットで描かれていますが、これは鳳凰は桐の木に棲み、竹の実を食べるという伝承を元にしています。また、この絵のように五鳳凰図は中国の故事にのっとり優れた天子が集まることを表しているそうです。この絵には表装の飾り金具に三つ葉葵の門が入っていることから徳川将軍家との関わりもあるようでした。

この辺には鳳凰をかたどった青磁や白磁の器などもありました。


<第7章 工芸にみる鳳凰と獅子 ―唐物や茶道具を中心に>
続いては茶道具や蒔絵などの工芸品のコーナーです。

「桐竹鳳凰蒔絵文台・硯箱」 ★こちらで観られます
蒔絵の文台と硯箱のセットで、蓋に桐の木の上に立つ鳳凰の姿があります。文台のほうにも竹林を背景に堂々とした鳳凰が表されていました。また、この作品で特に面白いのが硯箱の中で、卵の形をした水滴がありました。銀色で滑らかな質感があり、本当に卵みたいな…。小さくて可愛らしかったです。

「鳳凰(旧金閣所在)」
これは火事で焼け落ちた以前の金閣寺の唯一の生き残りと言える、屋根の上の鳳凰のオリジナルです。偶然、火事のときは補修のため取り外されて難を逃れたそうです。 直立する鳳凰で、非常に凛々しい雰囲気がありました。
 参考記事:番外編 京都旅行 金閣寺エリアその1


<第8章 屏風に描かれた鳳凰と獅子 ―「唐獅子図屏風」から若冲まで>
続いては屏風のコーナーです。1~2期には伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」のみが展示されていました。

伊藤若冲 「樹花鳥獣図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風で、去年の「伊藤若冲 アナザーワールド」にも展示された点描画のような作品です。1cm四方くらいの升目に区切られていて、モザイクのようになっています。 右隻には大きく描かれた白象を中心にたくさんの動物が描かれ、象の右には上を見上げる青い唐獅子の姿もあり、他にも虎や鹿、猿、熊などもいて、どこか涅槃図を思わせます。実際、唐獅子の見上げるポーズは涅槃図を元にしていると考えられるようです。それに対して左隻は、羽を広げて尾を翻す鳳凰と、その周りに集まる鳥たちが描かれています。鶏やアヒル、オシドリなどもいますが、こちらにも日本にはいなそうな鳥の姿もありました。色合いも鮮やかで、見事としか言いようがありません。新印象主義の画家が見てたらどう思ったんだろうかw
 参考記事:伊藤若冲 アナザーワールド (千葉市美術館)


<第9章 獅子の乱舞 ―芸能と獅子をめぐって>
ここからは下の階です。階段下のあたりには能や歌舞伎に取り入れられた獅子のコーナーがありました。

「能面 獅子口」
石橋(しゃっきょう)という能の演目で使われる金色の獅子面です。大きく口を開け、眉をひそめた顔は迫力があります。また、この隣には「観世流十番綴謡本」という謡本や小鼓胴に描かれた獅子、石橋に使われる牡丹の造花などもありました。
ちなみに石橋の先には文殊菩薩の浄土があるそうで、修行が足りないと渡れないようです。
 参考記事:石橋 (能)のwikipedia

「天台岳中石橋図 旧慈門院襖絵」
歌舞伎の「石橋」をイメージした襖絵です。アーチ状の石の橋の上に、じっと身を潜めている獅子が描かれ、頭には牡丹を乗せて毛が非常に長い姿をしています。…むしろリボンをつけたシーズー犬みたいな感じですw 顔も愛嬌があって面白かったです。 牡丹と獅子のセットはこの演目に由来するのかなあ??

ここには他にも振袖や人形なども展示されていました。

歌川広重 「獅子の児おとし」
「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」という諺をそのまま絵にしたような作品です。必死に登ってくる子獅子を見守る親獅子がかかれ、厳しくも親子の絆を感じさせます。ちょっと心配そうに見えるかな。 縦長な絵であるせいか、崖が非常に切り立った感じがより緊張感を増していました。


<第10章 江戸文化にみる鳳凰と獅子 ―色絵陶磁器から水墨画まで>
続いては江戸時代にお目出度い象徴として市民に受け入れられた鳳凰と獅子についてのコーナーです。ひたすら明るく華やいだ存在として表現されているようでした。

最初に鳳凰の大皿が3枚あり、その後に香炉に乗る獅子、お琴とその入れ物に象嵌された鳳凰、振袖などの作品などもありました。

長沢蘆雪 「唐獅子図屏風」
8曲1双の獅子を描いた水墨の屏風です。右隻は今にも飛び掛ろうと身を低くしている獅子、左は大きく口を開けて2本足で立って襲い掛かるような獅子が描かれ、お互いに向き合うようになっています。毛の表現が非常にスピード感のある描き方で、動きや躍動感を感じさせました。迫力があります。


<第11章 蘭学興隆から幕末へ―洋風画と浮世絵をめぐって>
続いては江戸時代から幕末の時代で、オランダから輸入された写実的なライオンの図鑑が入ってきた影響も分かるコーナーでした。

宋紫石 「ライオン図」
この作品の近くにヨンストン著『動物図譜』という作品があり、それを見て描いたライオンと獅子の中間のような作品です。見た目はだいぶライオンっぽくなりましたが、滝の前で狛犬のように座っているのは獅子っぽく、まだ生態までは伝わっていなそうな感じでした。

葛飾北斎 「鍾馗騎獅図」
これは北斎が85歳頃の肉筆画で、疾走する獅子にまたがった鍾馗が描かれています。この獅子は完全に唐獅子っぽくて、毛を翻して飛んでいくような勢いがあります。前をじっと見て右手で鞭のようなものを持つ鍾馗も迫力がありました。 それにしてもやけに進行方向である左側に被写体が寄っているような…。迫力の源にはその効果もあるのかも。


<第12章 不滅のシンボル―人間と共に生きる鳳凰と獅子>
最後は明治以降のコーナーです。明治になると動物園のライオンを写生した作品も現れました。

竹内栖鳳 「大獅子図」 ★こちらで観られます
4曲の大きな屏風です。リアルなライオンが寝そべっていて、左に向かって吼えるような顔をしています。描写の線が細くて、ふわふわした毛並みの表現や、威厳に満ちた迫力ある顔などが緻密にかかれていました。
この絵の隣には52ページに渡って描かれた写生帖もありました。アントワープで写生したそうです。

最後には鳳凰と唐獅子の布団地、花瓶、七宝の時計、壷などもありました。


ということで、予想以上に楽しめる内容でした。最近は地味めな展示が多かったので、こんなに豪華な作品が出てくるとは驚きw ちょうどこの日にサントリー美術館の会員の更新を行ったので、できれば会期違いで出てくる8章の作品は3つとも観たいと思っています。
 参考リンク:サントリー美術館のメンバーズ・クラブ

体力があれば国立新美術館のワシントン・ナショナル・ギャラリー展とハシゴしてみるのも良いかも知れません。



後日、唐獅子図屏風もある5期の展示も見てきました。その時の記事はこちら


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