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破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 (感想後編)【太田記念美術館】

今日は前回の記事に引き続き、太田記念美術館の「没後150年記念 破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風」 の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら⇒   破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
 前期展示はこちら⇒破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館)

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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 没後150年記念 破天荒の浮世絵師 歌川国芳
 後期:遊び心と西洋の風

【公式サイト】
 http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/H230607kuniyoshi.html

【会場】太田記念美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】原宿駅、明治神宮前駅

【会期】
 前期:〈豪傑なる武者と妖怪〉 2011年6月1日(水)~6月26日(日)
 後期:〈遊び心と西洋の風〉  2011年7月1日(金)~7月28日(木)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では(遊)戯画・狂画の途中までご紹介しましたが、後編ではその残りと「(爽)美人画・風俗画」、「(憧)洋風画」をご紹介しようと思います。


<(遊)戯画・狂画>

歌川国芳 「道外見冨利十二支」
3枚セットの続絵で、人々が子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥の十二支の格好を真似ている様子を描いた作品です。巳(蛇)なんかは胡坐を組んでいるだけにも見えましたが、とぐろを巻いた蛇と解釈すればいいのかな?w 実はこの12人は役者の顔になっているそうで、恐らくこれも役者絵が禁止されたことによる発想の転換の1つなのかな。ちょっと滑稽で面白いです。

歌川国芳 「荷宝蔵壁のむだ書」 ★こちらで観られます
こちらも3枚セットの作品です。無数の人物の似顔絵が描かれていて、 一見すると中学生が教科書に落書きしたような表現となっていますが、各人は個性的で特徴を伝えてきます。中央にはニャロメのような猫がふらふらっと踊っている様子が描かれ、隣には「大でき」と自画自賛しています。この脱力感は観ていて笑えました。ロックですねえw

この辺には画帖も並んでいました。

歌川国芳 「両面相 奇異上下見之図」
10人の顔が描かれた作品で、おかめや恵比寿などが描かれています。この作品には仕掛けがあり、逆さにひっくり返すと外道やひょっとこ、狸の顔に早変わりするという面白い趣向です。おもちゃ絵の一種だと思いますが、こういう遊び心が国芳の魅力ですね。
 参考記事:おもちゃ絵の世界 ~見る・作る・遊ぶ・学ぶ~ (紙の博物館)

歌川国芳 「朝比奈小人嶋遊」
これは以前にもご紹介したかな。曲亭馬琴の「朝比奈巡島記」を題材にした3枚セットの続絵で、主人公の朝比奈という隈取をした半裸の巨人が画面いっぱいに寝そべっています。その巨人の前には小人のような大名行列が行進していて、ガリバー旅行記のような光景となっていました。解説によると、この大名行列を見下ろす構図が武家を蔑視していると解釈されるのを恐れて早々に販売を打ち切ったそうです。デフォルメが面白くて溢れんばかりの迫力でした。
 参考記事:歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館)

歌川国芳 「全盛黄金花」
これも3枚続きの作品です。右で枡に入れた小判を投げる男が描かれ、これは紀伊国屋文左衛門を見立てているそうです。また、中央から左にかけては落ちてくる小判を必死に集めたり奪い合う人々が描かれていて、何ともあさましい光景ですw 宵越しの金を持たない江戸っ子だった国芳がこういう図を描いているのは皮肉なのかな? ちょっとシニカルなものを感じました。


<(爽)美人画・風俗画>
続いては美人画や風俗画のコーナーです。国芳は役者や武者絵で有名になった絵師ですが、美人画も生き生きとしていて、綺麗なだけでなく感情豊かな作品が並んでいました。また、子供をよく描くのも特徴らしく子供を描いた作品も多々あります。

歌川国芳 「譬論草をしえ早引 と 砥」
美人の母親に膝枕をして貰い、首の後ろを剃刀で剃って貰っている子供を描いた作品です。手を伸ばしていて、その先にはじゃれてくる猫の姿がありました。何ともほのぼのしていて、可愛らしさや幸福感がありました。

歌川国芳 「山海愛度図会 えりをぬきたい 遠江須之股川」 ★こちらで観られます
後姿の美人が手鏡を観ていて、その鏡に顔が映っている様子を描いた作品です。うなじに手をやっていて、美しいラインの白い背中が非常に色っぽいです。手鏡の後ろでは2匹の猫達が戯れている様子もほのぼのしていました。 左上には港の様子を描いた画中画もありましたが、これの意味は分かりませんでした。

歌川国芳 「五節句之内 睦月」
3枚続きで、3人の美人の母親が子連れで描かれた作品です。しかし、それ以上に目立つのが中央やや右に描かれた大きな達磨の絵の凧です。繊細に描かれた美人達に比べ、ダイナミックな筆致となっていて対比的でした。凧を観て驚いている子供たちの表情も生き生きしていました。

歌川国芳 「山海愛度図会 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」 ★こちらで観られます
白い猫が美人に甘えて抱きついてきた様子を描いた作品です。タイトル通りちょっと痛いのか、やや身をのけぞらせていますが、その表情からは猫を慈しむような愛情を感じました。猫も悪戯っぽい表情をしていて何とも可愛い^^ 幸せそうな作品でした。 これも左上に、海の上の舟と謎の大蛸?が描かれた画中画がありましたが、その意味はわかりませんでした。

歌川国芳 「大願成就有ヶ瀧縞 金太郎鯉つかみ」 ★こちらで観られます
頭に赤い手ぬぐいのようなものを巻いて、包みにくるまれた琴を運ぶ女性を描いた作品です。背景には巨大な鯉を持ち上げる赤い肌の金太郎の画中画があり、琴を運ぶ姿と同期するようなポーズとなっていました。さらに、よく見ると琴の包みも魚の鱗のような模様となっているのも面白いです。機知に富んだ作品でした。

この少し先で2階は終わりで、続いては地下です。

歌川国芳 「暑中の夕立」
3枚続きの美人画で、1枚に1人ずつ土砂降りの中で傘を差して立つ美人が描かれています。色鮮やかな着物を着ていて、そこからすらっと出た白い肌が色っぽいです、ポーズや傘の配置も面白くて、立っているだけなのに躍動感がありました。


<(憧)洋風画>
最後の章は国芳が西洋から影響を受けた様子が分かるコーナーです。国芳は西洋画を熱心に学んでいたようで、直接的に作品にモチーフを取り入れた作品も並んでいました。

歌川国芳 「東都名所 かすみが関」
両脇に壁のある坂道を描いた作品です。手前に向かって八の字に広がる壁には遠近感があり、坂の上の人物には頭しか描かれておらず坂の勾配が急であることを表現していました。空の様子なども西洋からの影響なのかな? 西洋画から様々な要素を取り入れているのがよく分かる作品でした。

歌川国芳 「東都三ッ股の図」 ★こちらで観られます
これはスカイツリーを予言していた絵では!?と話題になった作品です。去年あたりに、「東都三ッ股の図」で急に検索されるようになった時は何事かと思いましたw 
手前に川岸で舟の底を火であぶる2人の男が描かれ、そこから立ち上る煙や空の雲などが幾重にも重なった表現となっています。その奥の対岸には2つのやぐらが見え、1つは火の見やぐらなのですが、もう1つはそれよりずっと高いやぐらとなっています。これがスカイツリーだ!と話題になったのですが、どうやら正体は井戸掘りの為のやぐらを強調したもののようです。 この絵では空気の表現などを取り入れたのかな? 面白い発想の作品でした。
 参考記事:
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館)
  東京スカイツリーの写真

ニューホフ 「東西海陸紀行」
これは西洋の本で、オランダの東インド会社が調べさせたブラジルやパレンバン、バタヴィアなどの様子を描いたものです。展示されているページには、吹き矢を吹く腰布の男達が描かれていました。国芳はこの本から構図や風景、人物などを転用しているそうで、ここから先の作品にはこの「東西海陸紀行」の写真と国芳の作品が並んで展示されていました。外国からの影響を直接的に知ることが出来る本です。

歌川国芳 「二十四孝童子鏡 董永」 ★こちらで観られます
天女が空に昇天していくのを両手を挙げて見送る中国風の男達を描いた作品です。右端に立つ男性は両手を上げて左足を浮かせているのですが、これには元となる図があり、先ほどの「東西海陸紀行」の「一人のブラジル人」という絵から写したもののようでした。隣にあった写真と比べると、確かに同じポーズで参考になりました。並んで見るとよく分かって面白いです。

歌川国芳 「忠臣蔵十一段目夜討之図」
高い塀にハシゴをかけて討ち入りする忠臣蔵のシーンを描いた作品です。その塀や建物が幾何学的で、どこか日本離れした感じを受けたのですが、これにも元となる絵が存在します。「東西海陸紀行」の「バタビアの領主館」というのがそれで、構図と建物の形はすっかりそのままとなっていました。しかし、右上に満月が出て、雪原が月光に照らされるような静かな雰囲気は独特で、原画とは違う雰囲気がありました。どこかシュールささえも感じるくらいでした。

歌川国芳 「誠忠義士肖像 吉田沢右エ門正固」
ねじり鉢巻をして呼子という警笛のようなものを吹く四十七士の一人を描いた作品です。これはさきほどご紹介した、「東西海陸紀行」の吹き矢を吹く男をクローズアップしたような構図で、比べてみるとねじり鉢巻をしているところまで似ています。しかし、笛のほうが短いので、若干手の組み方を変えているなど、ちょっとした違いもありました。こういうポーズも当時は珍しかったのかな??


ということで、後期も充実の内容となっていました。単に奇異なだけではなく、機知に富んでいて勉強熱心でもあったことがよく分かる素晴らしい展示です。これでもうちょっと会期を統一してくれれば嬉しいのですがw まあ、混んでるのは人気があるからかな。絵画に詳しくない人でも楽しめる展示ですので、混雑を我慢できるようならお勧めしたいです。
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Comment
No title
 こんばんわ!
 前期・後期とすばらしい展覧会でしたが、「山海愛度図会 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」は歌川国芳の作品だということをこの展覧会で知りました。
 この美術館で次回開催される弟子の芳艶の展覧会も興味深いです。ではまた~
Re: No title
>だまけんさん
コメント頂きありがとうございます。
この作品は猫愛に溢れた作品で猫好きとしては見ていて和みました^^
次の展示もパンフレットを見てると面白そうですね。
ここにはしばらく行ってませんでしたが、またしばらくチェックしていこうと思います。
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