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日本美術にみる「橋」ものがたり -天橋立から日本橋まで- 【三井記念美術館】

この前の祝日に、日本橋の三井記念美術館で 日本橋架橋百年記念 特別展 日本美術にみる「橋」ものがたり -天橋立から日本橋まで-を観てきました。この展示は5期に分かれていて、私が行ったのは1期でした。

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【展覧名】
 日本橋架橋百年記念 特別展
 日本美術にみる「橋」ものがたり -天橋立から日本橋まで-

【公式サイト】
 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

【会場】三井記念美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】銀座線三越前/新日本橋駅/東京駅/神田駅

【会期】2011年7月9日(土)~9月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(祝日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
あまり混んでいなかったので、自分のペースでゆっくり観ることができました。

さて、今回の展覧会は日本橋が石造りになってから100年ということで橋をテーマにしていました。陶器、蒔絵、屏風などなど様々な作品がテーマごとに分かれて並んでいましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、冒頭に書きましたように会期が細かく分かれていますので、気になる作品がある方は事前に展示時期を確認することをお勧めします。(念のため、この記事では作品番号も併記しておこうと思います)
 参考記事:作品リスト(PDF)


<展示室1 工芸に見る 橋の意匠>
まずは工芸のコーナーです。陶器や蒔絵などが並んでいました。

1-1 野々村仁清 「色絵柳橋図水指」 ★こちらで観られます
壺のような形の水差しです。色絵で側面に、赤と銀の板が交互に並んだ赤い欄干の橋が描かれています。その隣には緑の柳があり、上には銀色の雲も描かれていました。解説によると、これは源氏物語の宇治橋をイメージしているそうで、橋に柳というのは中国から伝わった組み合わせだそうです。雅で大胆な構図が面白い作品でした。

この辺は蒔絵の印籠や香合に描かれた橋、志野茶碗などもありました。

1-10 「住吉蒔絵貝桶 (1対の内1合)」
大きな8角形の蒔絵の貝桶です。黒地に金で松や鳥居、川にかかる太鼓橋、御所車、空飛ぶ鶴などが描かれています。これは貝遊びの道具を入れるための容器で、本来は2つセットなのですが1つだけ展示されています。これも源氏物語を題材にしたもので、明石の君が源氏一行の住吉詣を伺っているシーンを表しているようでした。非常に絢爛で、おめでたい文様が多い作品でした。

この辺は見事な蒔絵が並んでいました。宇治橋や住吉を主題にした作品が多いかな。


<展示室2 工芸に見る 橋の意匠>
展示室2は1点のみの展示です。

2-1 「志野茶碗 銘 橋姫」 ★こちらで観られます
白い志野茶碗で、側面に水墨のように簡略化された橋の欄干が描かれ、裏には屋根が描かれています。素朴でどっしりしている一方で、水墨的な情感がありました。解説によると、これも源氏物語に関係があるそうですが、その他に橋姫伝説というものを題材にしているとも考えられるようです。これは恋敵を呪い殺すために丑の刻参りの格好をして宇治川に21日間水に浸かり続けて鬼となった女の伝説だそうで、そう思いながら観るとちょっと恐ろしい一面があるのかも。


<展示室3 橋にちなんだ茶道具取り合わせ>
ここは茶室に志野茶碗などが展示されていました。数点しかないのでご紹介は割愛します。

<展示室4 神仏の橋、名所・文学の橋>
[神仏の橋-天界・浄土とこの世の架け橋-]
続いては宗教的な意味のある作品や名所・文学を題材にした作品が並んだコーナーです。橋にはこの世と浄土を繋ぐ架け橋という意味もあったようです。

4-1 「二河白道図」 ★こちらで観られます
画面の下はこの世、上には三尊像のいる極楽が描かれた作品です。この世と極楽の間には細い道が描かれていて、今は変色していますが元は白い道だったそうで、これが2つの世界を繋ぐ橋かな?道の左側は真っ赤な怒りの火河、右側は濁った貪欲の水河を示していて、これがタイトルの二河白道のようでした。宗教観が強く反映された作品です。

4-15 雪舟等楊 「天橋立図」 ★こちらで観られます
大きな水墨の掛け軸で、国宝です。天橋立とその周りの様子を空から観たような視点で描いていて、砂浜部分には松が生えている様子が分かります。また、山の上や沿岸部に寺がいくつもあり、○○寺というように横に名前が書いてありました。水墨の濃淡によって神仙の雰囲気がありますが、曼荼羅的な要素もあるように思いました。こんな視点って本当にあるのかな??

[神仏の橋-聖俗境界の橋-]
神社や寺社に橋が多いのは聖と俗の境目であるそうで、ここには神社の曼荼羅に描かれた橋などが展示されていました。言われてみれば確かに寺社には橋が多いかも??

4-4-1 狩野探幽 「東照社縁起絵巻(仮名本) 第三巻」 ★こちらで観られます
深沙大王(じんじゃだいおう)が蛇を橋にした伝説が縁起となっている大和絵風の絵巻です。川にかかる橋と湖が描かれ、細かくて軽やかな雰囲気があり、絵の隣の書も美しい作品でした。

この辺は日光を題材にした作品が3点ほどならび、その後は伊勢と八坂神社の掛け軸などもありました。

[名所・文学の橋]
ここには源氏物語や伊勢物語を題材にした作品が並んでいました。

4-21「柳橋水車図屏風」 ★こちらで観られます
6曲の屏風で、1双のうち左隻のみを展示していました。単純化された金色の橋と緑の柳が描かれ、左端には水車が回っています。銀の様式化された波の中に、護岸用の蛇篭もあり、幾何学的なリズム感や静かな風情を感じます。
これは長谷川等伯の弟子に伝わった作の1つらしく、これと似た作品はいくつか眼にしたことがあります。解説によるとこれも源氏物語の宇治橋を連想するとのことでした。会期によって左隻・右隻を入れ替えるようですが、この作品は1双で観るから価値があるのでは?w 
 参考記事:没後400年 特別展「長谷川等伯」 感想前編(東京国立博物館 平成館)

4-28 伊藤若冲 「乗興舟」 ★こちらで観られます
白黒が反転したモノクロな絵巻です。拓本画という技法でちょっとざらっとした質感があります。この作品は何度かご紹介していますが、この作品は桂川と宇治川が合流しているところを描いているというのは初めて知りました。何度観ても斬新な面白さのある作品です。
 参考記事:
  煌めきの近代~美術から見たその時代 (大倉集古館)
  伊藤若冲 アナザーワールド 2回目(千葉市美術館)


<展示室5 諸国の橋>
続いては浮世絵などのコーナーです。珍しい橋を集めた葛飾北斎の「諸国名橋奇覧」(冨嶽三十六景と同じ頃の作品)などを始め、日本全国の変わった橋を題材にしていました。

5-2 葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 かうつけ佐野ふなはしの古づ」
これは群馬にあった橋を描いた浮世絵です。川にくの字になっている橋がかけられ、周りは雪景色となっていて、橋の上には傘をかぶって雪の積もった人々が渡っています。この橋の何が変わっているかというと、橋の下に沢山の小舟が並んでいて、その上に橋をかけた浮き橋のようでした。橋自体も変わっていますが、北斎独特の季節感やその場所の個性を引き立てるような構図も良かったです。

5-11 歌川広重 「東海道五十三次之内 掛川〔秋葉山遠望〕(保永堂版)」
東海道五十三次の中でも好みの作品です。手前に大きな橋、奥に山があり、画面からはみ出して凧が飛んでいる様子も描かれています。橋を行き交う人は身を低くして傘を抑えていて、糸が切れて飛んでいった凧と共に風の強さを感じました。
 参考記事:広重と北斎の東海道五十三次と浮世絵名品展 (うらわ美術館)

この部屋には大坂を描いた屏風や青銅製の擬宝珠(ぎぼし)などもありました。


<展示室6 橋の番付 日本大橋尽くし>
この部屋は狭い小部屋なのですが、浮世絵と共に当時の橋のことがよく分かる作品が並んでいました。

6-9 五雲亭貞秀 「浪速大湊一覧」
大坂の街を鳥瞰するような視点で描いた3枚セットの続絵です。手前には遠近感を強調した大きな天満橋がかかり、そこに大名行列が隙間なくギッシリと並んでいます。背景の景色には無数の運河のような川とそこにかかる橋が描かれ、八百八橋と呼ばれた大坂に相応しい風景となっていました。

ここら辺には北斎の諸国名橋奇覧シリーズもあり、山口の錦帯橋や岡崎の矢作橋などを題材にした作品が並んでいました。

6-1 「日本大橋尽番付」 ★こちらで観られます
これは橋を相撲の番付に見立てて書いた番付表です。東西に分かれているのですが、横綱は無かったらしく、東の大関には矢作橋(二百八ケン=374m)、西の大関には錦帯橋(百六五ケン=225m)の名前がありました。どうやら東西の橋の長さ対決のようですが、それだけではなくさらに洒落がきいていて、行事の名前欄にも千住橋や両国橋の名前となっていました。見た目も相撲の番付表みたいだし、発想が面白い作品でした。


<展示室7 京の橋・江戸の橋>
最後の部屋は京都と江戸の橋を題材にしたコーナーです。

[京の橋]
まずは京都です。

7-6 「洛中洛外図屏風(歴博D本)」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風です。右隻には鴨川にかかる三条大橋などが描かれ、下のほうには祇園祭の山鉾巡業の様子が描かれています。鴨川の向こう岸には神社仏閣が多いかな。左隻には二条城を中心に堀川通りが描かれ、こちらにも祇園祭の一行がいました。幾何学的ですっきりとした画風に思いましたが、人々の賑わいが伝わってくるようでした。
 参考記事:
  【番外編】 京都旅行 祇園~清水寺エリアその1
  【番外編】 京都旅行 祇園~清水寺エリアその2
  【番外編】 京都旅行 銀閣寺・下鴨神社
  【番外編】 京都旅行 堀川今出川エリア

[江戸の橋]
最後は江戸のコーナーで、日本橋についても触れられていました。

7-11 「隅田川風物図巻」
10mにもなる絵巻で、スタートには富士山をバックにした江戸城が描かれています。日本橋、江戸橋などから永代橋などまで江戸の色々な橋が並んでいて、こうして観ると江戸も水の街であったように思えます。解説によると、この作品にはカラクリがあり、裏から光を照らすと花火の火花や家の灯りが透けて見えるそうです。せっかくならちょっと観てみたいものですw
なお、この作品は展示期間で場面替えをするそうです。

7-23 歌川広重 「東海道五十三次之内 日本橋〔行烈振出〕(保永堂版)」
有名な東海道五十三次の一番最初のスタート地点です。そのため、タイトルもすごろくに見立てて振り出しとなっています。日本橋を渡ってくる大名行列や、手前にいる沢山の行商人などが描かれ、雑多で活気のある様子が伝わります。この作品は摺りによって若干の変更が行われているわけですが、これは保永堂版であるものの、保永堂が独自で出した異版だそうです。まあ単独で見てもどこがどう違うというのを見つけるのは無理ですけどねw

この辺には歌川広重は数点あり、ゴッホも模写した「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」などもありました。
 参考記事:浮世絵入門 -広重《東海道五十三次》一挙公開- (山種美術館)

7-28 堀潔 「日本橋と旧帝国製麻kk」 ★こちらで観られます
石橋になった日本橋と、東京駅や三菱一号館のような建物を描いた作品です。日本橋には道路が通り、自動車や自転車があります。奥には赤い壁の建物は、ジョサイア・コンドルの弟子の辰野金吾が設計した旧帝国製麻kkで、昭和60年に取り壊されたそうです。繊細な筆致で明るい色合いとなっていて、写実的でありながら爽やかな雰囲気がありました。すぐ近くにあった昭和10年ころの写真と見比べてもそっくりでした。
 参考記事:三菱一号館竣工記念「一丁倫敦と丸の内スタイル展」 (三菱一号館 美術館)


ということで、思った以上に色々な作品があって楽しめる展示でした。空いている時に観られたのも良かったw 夏に相応しい涼しげなテーマですので、目から涼を取り入れるのも良いかもしれません。
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