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没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術 【ブリヂストン美術館】

前回ご紹介したお店で休憩した後、ブリヂストン美術館に移動して、「没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術」を観てきました。

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【展覧名】
 没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術

【公式サイト】
 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibitions/

【会場】ブリヂストン美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・都営浅草線宝町駅


【会期】2011年7月17日(日)~9月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(祝日16時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
思ったより空いていて、自分のペースで観ることができました。とは言え、行った時間が遅かったので見終わる頃には閉館ギリギリでしたがw

今回の展覧会は青木繁の没後100年を記念した展示で、この美術館にしては珍しくほとんどの部屋が特別展となっていました。こんなに良い内容なのに人が少ないのは、そもそも青木繁の名前でピンとくる人が少ないためではないか?とちょっと寂しいことを考えてみたりw しかし、青木繁を知らなくてもこの展示を見れば一気に知ることができる充実のラインナップとなっていて、青木繁というと若くして死んだプライドの高い孤高の天才というイメージでしたが、この展示を全部観終わった頃に思い返してみたら半分当たっていて半分間違っていたように思います。(何年か前に同じような展覧会があった気がしますが忘れてます^^;)

先にざっと青木繁の生涯の概要をご紹介すると、1903年(東京美術学校の在学中)に白馬会第8回展で白馬賞を受賞し、翌年に出品した「海の幸」などで注目を浴びました。しかし、家の都合で帰郷すると、東京に戻ることが出来ず、中央画壇に戻ることなく28歳の若さで亡くなりました。死後、友人たちがその業績を広く知らせるために遺作展を開催し、改めて注目を浴びたそうです。今回はそうした時系列に沿って展覧会が進んでいきます。詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


最初の1部屋だけこの美術館が誇る印象派などの主要なコレクションが並び、それ以外の部屋が特別展となっていました(古代の部屋は閉鎖)

青木繁 「自画像」
冒頭にあった自画像です。大きな目と厚い唇をした赤い服の自画像で、斜め向きでこちらに目を向けています。茶色の背景なのですが、それに溶け込むような感じかな。美大の卒業制作として描かれた作品らしく、左下に「かつて東京美術学校に在る日 青木繁」と書いてありました。解説によると、途中で絵の具がなくなり、間に合わせの絵の具を使ったことによって調子が変わったと言っていたとのことでした。ちょっと神経質そうな感じがするように思いました。


<第1章 画壇への登場─丹青によって男子たらん 1903年まで>
まずは画壇に登場した頃までのコーナーです。青木繁は1882年に旧久留米藩士の息子として生まれました。中学の頃から仲間と文芸雑誌を作り、洋画家の森三美(坂本繁二郎も師事した人)から手ほどきを受けていたそうです。1899年には地元の学校を退校して上京し、小山正太郎(フォンタネージに師事した洋画家)の画塾に入り、1900年には東京美術学校の西洋画科選科に入学しました。(当時の教師陣には黒田清輝や藤島武二もいました。)
ちなみに、青木繁が画家を志すようになったのはアレクサンダー大王を崇拝していたからだそうです。…って話が見えませんねw どうやら青木繁は、この時代に軍人になっても到底にアレクサンダーの心事に到達できないと考えたようで、その結果、芸術によって高潔で偉大で真実な者になれるという考えに至ったようです。ここには画家を志した学生時代の作品も含め、初期の作品が並んでいました。


青木繁 「輪転」
金色に光る大きな太陽と、その周りを渦巻くような緑の円、その円の流れの中で踊るような裸婦が4人描かれた作品です。ぼんやりしていて神秘的で、渦が輪廻の輪なのかなと思いながら観ていました。
青木繁にはこうした神話や宗教を思わせる神秘的な作品が結構あるように思います。後半には神話のコーナーもありました。

青木繁 「舞妓」
黒田清輝の「昔語り」に描かれた芸妓の上半身の下絵を模写した作品です。黒田の原作によく似ていて、本人の作そっくりでした。 青木繁は黒田清輝に対しては尊敬と反発が相半ばの複雑な感情を持っていたそうです。たまに黒田っぽいなと感じる作品があるけど、全般的には作風はあまり似てないように思います。
 参考記事:
  黒田清輝と京都 (東京国立博物館 本館18室)
  近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 (岩手県立美術館)

この辺にはスケッチや水彩が壁一面に並んでいます。赤城山など様々な場所を旅していたようで、写実的でささっと描いたような作品がありました。また、代表作の黄泉比良坂の習作などもあります。画風も様々です。


<第2章 豊饒の海─《海の幸》を中心に 1904年>
青木繁は東京美術学校卒業後の1904年の7月中旬に、画家仲間の坂本繁二郎、森田恒友、恋人の福田たね と一緒に4人で房州布良(千葉の館山付近)に1ヶ月半ほど滞在したそうです。そこで、代表作「海の幸」も描かれ、9月下旬に未完成のまま出品したそうですが、多くの人から高い評価を受けたそうです。同時に、布良滞在中には点描による外光表現の模索や、モネ的な要素の作品も描いていたようです。また、同じ年の作品からはラファエル前派の影響もあるそうで、1904年は青木繁の充実の年とのことでした。ここにはその頃の作品が並んでいました。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)

青木繁 「海景(布良の海)」 ★こちらで観られます
ゴツゴツした岩場に波が押し寄せる風景を描いた作品です。波が複雑な色をしていて、確かにモネからの影響を連想させます。海の力強さと、色合いの緻密さを感じる作品でした。
 参考記事:うみのいろ うみのかたちーモネ、シスレー、青木繁、藤島武二など (ブリヂストン美術館)

この辺には点描を若干使った作品もありました。

青木繁 「海の幸」 ★こちらで観られます
おそらくこの画家で一番有名な作品です。裸の漁師が2列×5人並んで左へと歩いて行く様子を描いていて、先頭の人はサメのような大きな魚を担いでいます。画面中央あたりには銛に乗っけた魚の姿もあり、堂々たる凱旋の雰囲気があります。赤い輪郭線などで描かれているので、原初的な風景と相まって非常に力強い生命感を感じました。また、人々の顔は細かく描かれている人もいれば、まだ描かれていないような人もいて、未完成だったことが伺えました。

青木繁 「農家」
緑に囲まれた藁葺き屋根の農家を描いた作品です。ぼんやり柔らかい色使いはこの部屋の他の作品とはだいぶ印象が違っていて、どこか黒田清輝の作風を思わせました。

この辺の作品も作風が色々あるように思います。

青木繁 「男の顔(自画像)」
髪が長く口ひげを生やした自画像です。入口にあった自画像と似たポーズで描かれていますが。こちらはまるでキリストのような風貌に見えました。顔自体は変わりませんが、雰囲気は結構違うように思います。

この辺りの部屋にはカルタに絵を描いた作品や、本の挿絵、扇なども展示されています。「女の顔」という作品も好みでした。 さらに進むと、次の部屋にはスケッチや漫画のような戯画もあって興味深かったです。


<第3章 描かれた神話─《わだつみのいろこの宮》まで 1904-07年>
青木は国内外の神話や聖書を拠り所にしていたそうで、特に日本の神話は発想の大きな源だったようです。ここにはそうした神話や聖書を題材にした作品が並んでいました。

青木繁 「大穴牟知命」 ★こちらで観られます
古事記のオオナムチノミコト(大国主命)の受難の物語を描いた作品です。中央下部に裸で仰向けになって倒れる大国主命が描かれていて、これは焼き石に打たれたらしく苦しそうに少し弓なりに仰け反っています。その周りでは2人の白い衣の女性が介抱していて、1人はこちらをチラッとみていて、こちらに気がついたような感じで、神話だけど生々しい雰囲気がありました。この作品はラファエル前派の影響を感じます。

青木繁 「旧約聖書物語挿絵 1.光あれ」
暗い海面の向こうに、十字型の白い光を放つ太陽が輝く様子を描いた作品です。これは旧約聖書の物語の挿絵の原画のようで、天地を創造した神が「光あれ」と光を造ったシーンのようです。それに相応しく、神聖で力強い光の表現となっていました。
この隣には同じ本の挿絵の作品が並び、モーセやダビデ王を描いた作品もありました。実際の本も展示されています。

青木繁 「わだつみのいろこの宮」 ★こちらで観られます
これもこの展示の目玉の1つです。古事記の綿津見の宮物語を題材にした作品で、釣り針を取りに来た山幸彦と豊玉姫の出会いのシーンとなっています。(後に2人は結婚) 縦長の画面で、上部に腰掛けている山幸彦、下部に豊玉姫と侍女らしき女性が一緒に瓶を持っています。右の女性が豊玉姫かな? 山幸彦と見つめ合っていて、柔らかい雰囲気ながらも一種の緊張感と神秘性を感じました。また、山幸彦が下ろした腕と、2人の女性が三角形を描いている構図も面白かったです。解説によると、縦長の画面に3人の人を嵌めこむ構図はエドワード・バーン=ジョーンズなどのイギリス美術の影響だそうです。
近くにはこの作品のための下絵もあり、入念に準備した様子が分かるのですが、残念ながらこの作品は東京府勧業博覧会で3等賞という不本意な結果に終わったそうです。それに対して抗議した雑誌への投稿なども展示されていました。こんなに良い作品なのに…。

青木繁 「日本武尊」
右手で槍を持ち左手で剣を握る男性と、その傍らで剣と矢を背負って座る男性を描いた作品です。どちらが日本武尊(ヤマトタケル)か分かりませんが、2人とも英雄然としています。 この作品をパッと観た時、ラファエル前派の作品を彷彿とさせました。と言うか、西洋の英雄像みたいな雰囲気があるように思います。

この辺は息子を描いた作品や、嫁との合作なども展示されていました。


<第4章 九州放浪、そして死 1907-11年>
青木繁は1907年に父の危篤の報を受けて九州の久留米に帰省しました。その後、家庭の事情で再上京もかなわず画壇復帰出来ないという状態となったようです。この頃、九州各地を放浪ししていたようですが、これは友人・知人のネットワークを利用しようとしていたとの見方もあるようです。しかしその後、復帰の夢も果たせぬまま肺病が悪化して夭折してしまいました…。 九州時代は精彩を欠いているとの評価ですが、この章には九州時代の作品が並んでいました。

青木繁 「秋声」
細い木の幹にもたれ掛かるような着物の女性を描いた作品です。だいぶスッキリした作風で、色合いも薄くなっているように思います。森の中に立って物思いに耽るような顔が神秘的でした。この作品を観ていると、似た作品を最近観た気がするのですが、思い出せずw

この辺には佐賀の風景を描いた作品や、犬など身近な題材の作品が多かったように思います。

青木繁 「朝日(絶筆)」 ★こちらで観られます
大きめの作品で、絶筆です。青い海の上にピンク~紫に染まる空と、今まさに登ってくる太陽が見えます。明るい色使いで希望を感じさせ、穏やかで清々しい雰囲気がありました。とても絶筆とは思えません…。ちょっと藤島武二の作風に近いように思いました。


<第5章 没後、伝説の形成から今日まで>
最後は没後のコーナーです。青木繁が亡くなって1年後に、坂本繁二郎らによって遺作展が開催され、翌年には画集が発刊されたそうです。1933年には郷里の久留米で青木繁特集が組まれ、河北倫明によって青木の評伝がまとめられたそうです。これによって、我々一般人にも知られるようになったようで、それに関する資料も展示されていました。

青木繁 「海景(円光寺坂戸)」
「海の幸」を描いた翌年にも房州を再度訪れていたようで、その際に滞在した寺で描いた作品です。4面の木の板に焼けた釘で荒波が描かれていて、ちょっと抽象的な感じもしますが波の激しさを感じます。結構大きかったです。

この辺には書簡や手紙、青木繁に関する本が展示されていました。高校の教科書もあって、青木繁の作品が載っています。 他にも羽子板やイーゼル、パレットなども展示されていました。

青木繁 「初代冨安猪三郎氏像」
紋付の正装をした初老の男性を描いた肖像画です。少し斜めからの構図で、口を結び遠くを見るような目をしています。かなり写実的ですが、実直そうな人柄が感じられました。
この辺で最後なのですが、肖像画がまとめて展示されていました。どれも人格まで伝わってきそうです。


ということで、一気に青木繁のことを知ることができました。代表作を一気に観ることができたのは収穫です。青木繁好きの方は是非とも足を運んでみてください。
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No title
こんばんわ!
 私も行ってきました。「春」と「秋」という作品はミシャっぽくて気に入りました。「夏」と「冬」は無いのか?と思い情報を収集中です~
Re: No title
>だまけんさん
コメント頂き、ありがとうございます。

>春」と「秋」という作品はミシャっぽくて気に入りました。
タイトルでは分からなかったのでどの辺にあったか作品リストを見たのですが、後期展示になっているような…。
他の名前かなあ??
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ブリヂストン美術館で開催中の 特別展「没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術」に行って来ました。 ブリヂストン美術館 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/ 天才と称されながらも29歳を待たずしてこの世を去った青木繁(1882年7月13日~1911年3月25日)...
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