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国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス (感想後編)【東京都庭園美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京都庭園美術館の「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」 の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。
 前編はこちら

P1200767.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス

【公式サイト】
 http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/glass/index.html

【会場】東京都庭園美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】目黒駅(JR・東京メトロ) または 白金台駅(東京メトロ)
【会期】2011年7月14日~9月25日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
 
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では1階の展示をご紹介しましたが、後編は2階の展示をご紹介します。

<2章 ヨーロッパ諸国の華麗なる競演>
2章からは2階の展示です。階段を登ったところに大きなテーブルがあり、その一角の作品群に目を奪われます。ガラスの木のような菓子器、4つの燭台、壁の鏡、花の形の照明、シャンデリアも花の形をしています。(アールヌーボー期の作品などもあるようでした) この豪華さと華麗には驚きました。今回の展示でも必見です。

[技巧と洗練-ヴェネティア、イギリス、フランス、オーストリア、ボヘミア、ドイツ(19世紀)]
続いては19世紀の作品です。19世紀に入ると新古典主義の流行で、カットや金彩を用いた抑揚の聞いた装飾が主流となったそうですが、製品の質や芸術性は前時代に劣ることも少なく無かったそうです。その後、工芸が再び勢いを取り戻したきっかけとなったのは万国博覧会で、それ以降は新しい表現が模索されて行きました。ここにはそうした19世紀頃の作品が並んでいました。

52 ジャコモ・ラファエリ 「モザイク画 ティボリの大滝と巫女の神殿(金彩を施した木製額縁付)」 ミラノ
滝を眺めている家族や崖の上の古代遺跡のような神殿を描いた絵です…。と思ったら絵ではありません! これは非常に細かいガラスのモザイクで出来た作品で、よく観ると細かい破片であることが分かるのですが、絵のようにしか見えませんでした。驚きです。

57 アントーニオ・サルヴィアーティ博士社 「コリント式 ガラス製水差し」 ヴェネティア
琥珀色の水差しの表面に水色(空色)のガラスの破片が無数についている作品です。水差しには把手があり、首の細い形はルネサンスからの伝統だそうです。なかなか優美な雰囲気がありました。
この辺にはギリシャ・ローマの陶器を模倣したコリント式のガラス器もありました。

60 アントーニオ・サルヴィアーティ博士社 「蛇を象った手付水差し」 ヴェネティア
緑色の水差しで、把手は金色の蛇となっていて、下には3匹の白いイルカもくっついています。解説によるとイルカは海洋王国ヴェネツィアの勝利、蛇は叡智としてのキリストと闇の力としての悪魔という意味だそうです。イルカも蛇もちょっと間の抜けた顔をしているのが可愛いかったですw
この近くにはドイツやオーストリアのタンブラーなどがありました。その隣りの小部屋には小さなステンドグラスも2点あります。

77 「婚礼用のダブル・カップ」 シレジア
両手で棒のようなものを持ち、その上の器を持ち上げる仕草をした女性像型のカップで、これはユングフラウ(乙女)と呼ばれるルネサンス時代のドイツの婚礼用の器の再現だそうです。スカートの部分と頭上の器がカップとなっていて、新郎は逆さにしてスカートの部分(容量が大きい方)、新婦は器の方(容量が少ない方)でお酒を飲むようでした。中々お洒落で意匠の面白い作品でした。

80 「栓付デカンター」 アイルランド、コーク?
無色透明のカットグラスで、側面に菱形や轆轤目のような模様のカットがあります。非常に透明感があって、ひんやりした印象を受けると共に幾何学的な模様が面白い作品です。解説によると、1676年にイギリスで開発されたクリスタルガラスは酸化鉛を20~30%程度含み、高い透明度とカットに適した硬さがあるそうで、これは19世紀のクリスタルガラスの中心地であるアイルランドのコークの作品のようでした。


[手仕事の小宇宙]
18世紀半ば、ロマノフ朝のペテルブルグでは貴族たちはいかに独創的な装飾を披露できるか競いあっていたそうで、ヨーロッパ各地のガラスを取り寄せていたそうです。また、19世紀前半のヨーロッパではガラスビーズが脚光を浴び、ビーズ刺繍や手工芸が隆盛したそうです。このコーナーではそうした手仕事で作られた作品が並んでいました。

95 ジョン・マグソン 「懐中時計」 ロンドン
まるでダイヤモンドのような小さなカットグラスがびっしりと覆った懐中時計の入れ物です。その形からオニョン(球根)と呼ばれたそうで、面白い形をしています。時計も黒いエナメルの文字盤と金でできていて、気品のある作品となっていました。

この辺には煙草入れなどの細かい作品が並んでいます。

104 「都市風景を描いた刺繍画」 ドイツ?
都市の風景を刺繍にしたハンドタオルくらいの大きさの作品です。これは全部ビーズでできている驚異的なもので、キラキラ光っていました。絵自体は素朴な印象を受けますが、手が込んでいて技術の高さを感じさせました。

この辺にはビーズでできたハンドバッグや、大きな刺繍画(これも1mmにも満たないビーズでできている)などが並んでいました。ビーズも侮れません。


[新しい夜明け-アール・ヌーヴォー、アール・デコ(19世紀後半~20世紀初頭)]
19世紀末以降、アール・ヌーボーはガラス工芸に大きな変革を起こし、ガレやドーム兄弟は多層式ガラスを用いた自然主義的・象徴主義的な様式を作り上げました。また、20世紀初頭にはラリックたちが活躍したアール・デコが全盛期を迎えました。ここにはアール・ヌーボー、アール・デコの時代の作品が並んでいました。
 参考記事:
  エミール・ガレの生きた時代 (目黒区美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想前編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想後編 (国立新美術館)

116 エミール・ガレ 「ヒキガエルとトンボを描いた花器」 フランス、ナンシー ★こちらで観られます
パリ万博に出品された黒のシリーズに属する作品で、黒っぽい扁平で丸い花器の側面に、飛び立つトンボに襲いかかるようなカエルが浮き彫りになっています。トンボもカエルと同じくらいの大きさで、いずれも目を引きます。背景には水色や茶色っぽい部分もあり、不思議な色合いで幻想的でした。解説によると、カエルとトンボは善と悪という解釈もあるようです。

この辺には1870年代に流行したアラビア様式の花器や大杯、中国の青磁を模倣した器、イギリス産の日本風花器など東洋趣味の作品もありました。

117 エミール・ガレ 「クレマチスの花と葉、巻きつく茎を描いた花器」 フランス、ナンシー
黒い茎とピンク色の花を咲かすクレマチスを模した花器です。透明とピンクの部分があり、下には花の形の銀も張り付いています。この頃の花言葉ではクレマチスは理性を表すそうですが、これは「悪の華」というボードレールの詩集の一節に関係があるようです。解説によると「諸々の花と默せる万象の言葉」という文字が刻まれていることでしたので探してみたら、左下の方にうっすらと文字らしきものがありました。詩を題材にするセンスは日本からの影響かな? 意味深い作品でした。

この辺にはドーム兄弟やラリックの作品もありました。ラリックはちょっと少なめで残念。


<3章 ロマノフ王朝の威光-ロシアのガラス(18~20世紀)>
最後はエルミタージュ美術館のあるロシアに関するコーナーでした。
ロシアでは11世紀からガラス製造が始まりましたが、本格化はモスクワ公国が成立してからで、17~18世紀ころは贅沢品だったようです。18世紀半ばにガラス製造の円熟期を迎えると、1777年にエカテリーナ2世が内縁の夫であるポチョムキン公爵にガラス工場を贈与しました。その後、公爵が死んだ後には国有化されて、ロシア帝室のガラス工場としてヨーロッパでも有力な拠点となったそうです。19世紀末には経営悪化で磁器工場に接収されてしまったようですが、ガレなどを模倣して制作していたそうです。ここにはそうしたロシア製のガラスが並んでいました。

141 「王冠の下に[Mя][MYa]のモノグラム(組合せ文字)のある栓付デカンター」 ロシア
大きなアメジスト色のデカンターで、ほとんど黒に見えます。金で絵付けされていて、シュロの葉の模様や王冠、「Mя」というモノグラムなどが描かれていました。どっしりとした風格のある作品でした。

135 ポチョムキン・ガラス工場 「植木鉢のヤシの木を模した枝付燭台」 ロシア ★こちらで観られます
大きな燭台で、植木鉢に入ったヤシの木の形をしています。葉っぱのところには大粒のクリスタルガラスが垂れ下がっていて、台座の部分には4頭のスフィンクスの像がありました。ガラスの葉が何とも豪華で、迫力があります。解説によると、エキゾチックなヤシの木はロシアの宮殿で極めて人気だったそうです。これは今回の展示の中でも見どころだと思います。

157 「花器」 ロシア ★こちらで観られます
金の台の上に浅いカップのついた形の花器です。器の部分は赤いゴールド・ルビーグラス(詳しくは前編の記事をご参照ください)で、両脇に金の鳥の把手がついています。器の色が微妙に違っていて、非常に美しい色合いでした。解説によると、ニコライ1世の部屋に置かれていたそうです。 それにしても花なんて入るのかな?ってくらい底が浅いですw

この辺にはモザイク絵の作品もありました。

167 「ゴリーツィン公爵家の食器セットより4点の品」 ロシア ★こちらで観られます
ゴールド・ルビーグラスにロシア・ビサンティン様式の金の紋様を施した食器セットです。ガラスの赤も美しいですが、金の部分が多くて見栄えがします。幾何学的な模様や草花の組み合わせなど気品のある作品でした。

159 「花器」 ロシア
巨大な透明の花器で、把手に2匹ずつ蛇が絡みあっています。(2×2で4匹) 紋様のようなカットと装飾に威厳すら感じました。

183 「梅瓶(メイビン)を模した花器」 ロシア
深い青地に金色で中国風の絵が描かれている作品です。鳥や木、花など、青に金が映えて美しく、壺のような形も優美でした。

185 「花器 ケシと蝶々」 ロシア
観た瞬間にガレの作品か?と思うほど似た作風の作品です。ひしゃげた形で多層ガラスの技法で作られていて、乳白色の地にケシの花があります。蝶々はどこかよくわかりませんでしたが虫は側面にありました。色合いも風格もガレを模倣しているようで、敬意を払って作成しているとのことでした。
この辺にはガレやドームのような作品もいくつかありました。


ということで、非常に楽しめる展示でした。この暑い時期に涼しげなのも良いですね。空いている時に観ることができたこともあり、満足できる展覧会でした。
なお、庭園美術館はこの展示が終了した後、建物自体を公開する恒例の「アール・デコの館」が1ヶ月程度あり、その後は長期の休館となるようです。
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