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花ひらくエコール・ド・パリの画家たち 【平塚市美術館】

先週の土曜日に、平塚市美術館まで遠征して「開館20周年記念展 花ひらくエコール・ド・パリの画家たち パスキン、そしてシャガール、フジタ、ローランサン…」を観てきました。

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【展覧名】
 開館20周年記念展
 花ひらくエコール・ド・パリの画家たち
 パスキン、そしてシャガール、フジタ、ローランサン…

【公式サイト】
 http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/2011203.htm

【会場】平塚市美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】平塚駅


【会期】7月16日(土)~9月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構人は多めでしたが、混んでいるというほどではなく自分のペースで観ることができました。

さて、この展覧会はエコール・ド・パリの時代の展示となっていますが、北海道立近代美術館のパスキンのコレクションが主役で、他の画家は同時代の画家という感じで数点ずつという内容となっていました。エコール・ド・パリの展覧会はしょっちゅうありますが、パスキンが主役というのは滅多に無いかも??
 参考記事;
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想後編(横浜美術館)
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想後編(横浜美術館)
  エコール・ド・パリ展 (松岡美術館)

構成は3つの章に分かれていてそれぞれ面白い作品がありましたので、気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。


<パスキンの油彩>
まずはパスキンの油彩です。パスキンはブルガリアで1885年に穀物商の家に生まれ、1905年にパリに移り画家の道に入りました。天性の素描家でどんな時にも手を動かして素描を描いていたそうで、パリに行く前にはミュンヘンで風刺雑誌「ジンプリツィシスム」の挿絵を描いていたこともあったそうです。(そのためかパリでも社会の底辺の人々を題材としていました。) その後、1907年頃から本格的な油彩を始め、最初は厚塗りでぎこちなかったものの、対象を感覚的に捉えていたそうです。また、この頃のフォーヴィスムやキュビスムの影響で当時の前衛にもチャレンジしています。 やがて1914年にアメリカに渡り、20年にパリに戻ってからは女性や裸婦を中心に描くようになり、1920年代後半には素描の線を生かした淡い色彩の繊細な作風に変化して行きました。パスキンの裸婦は貧相だったり無防備な様子で描かれているようですが、内面的なものを追求しているとのことで、この章でもそれを伺わせる作品が並んでいました。

最初にアトリエの写真が展示されていて、シャガールやスーチン、モディリアーニなどがいたラ・リュッシュ(蜂の巣)や、ピカソ達がいたバトー・ラヴォワール(洗濯船)などの写真が並んでいました。また、エコール・ド・パリを語る上で欠かせないカフェの写真やマティスの制作風景の写真などもありました。

ジュル・パスキン 「女学生」 ★こちらで観られます
カーペットの上?でクッションに横たわっている女性を描いた作品です。手を組み、目を閉じてうつむく姿はちょっと悲しげな感じもします。背景には青や赤、白、黄色のカーテン、カーペットは黄色、服は紺色というように色の取り合わせは強くなりそうな対比ですが、実際には落ち着いた色彩なのが面白く思いました。写実的で初期の油彩のようでした。

ジュル・パスキン 「ソファに腰掛けるシュザンヌ」
シュザンヌというのはユトリロの母のシュザンヌ・ヴァラドンのことかな?? 裸婦像で、うなじに手をやり足を組んで赤いソファに寄りかかっている姿です。右のほうをじっと見つめているのですが、ちょっと怪訝そうにも見えました。これも色は対比的ですが、柔らかい印象を受けました。
この辺の作品を観ていると、具象的ですが徐々に独自の世界になってきている感じがします。

ジュル・パスキン 「キューバの人達」 ★こちらで観られます
人々や馬が行き交う街の様子を描いた作品です。だいぶ簡略化されてセザンヌやキュビスムのような雰囲気があり、色合いは淡めです。右のほうで額を拭う女性や、中央の馬などに目が向きました。こんな作風もあることに驚きました。この辺は作風の変遷が面白いです。
近くにはサルモン(ピカソたちの仲間)を描いた肖像もありました

ジュル・パスキン 「腰掛ける女」
足を組んで椅子に座る女性を描いた作品です。露出の多い服で、肩に毛皮のようなものを羽織っています。茶色くぼんやりした背景で、ややキュビスム的な雰囲気を感じます。ぼやけた色合いですが女性の存在感がありました。

ジュル・パスキン 「花束を持つ少女」 ★こちらで観られます
紫の服を着た少女が赤やピンクの花束を持って白いソファに座っている様子を描いた作品です。あまり機嫌が良くなさそうな顔で何か不安なのかな? 輪郭線が残っているのですが、これは素描の線らしく、それを油彩でも活かしているようでした。また、全体的に淡い色彩の中で赤い花の鮮やかさが目を引きました。

ジュル・パスキン 「三人の女達」
白い布の上で横たわる3人の裸婦を描いた作品です。淡い色で裸婦が布に溶けこむような感じもしますが、境界線に素描の筆跡が残っています。3人ともまどろむような顔で夢見ているような雰囲気でした。パスキンというとこういう画風を思い浮かびます。好みの作品です。

この辺は裸婦や女性像が並びます。


<エコール・ド・パリの時代>
続いてはエコール・ド・パリのコーナーです。エコール・ド・パリというのはパリに集まった外国人画家によって彼らの故郷をルーツにするものを取り入れるなど、既存のパリの芸術とは違った表現をした芸術の潮流で、ラ・リュッシュ(蜂の巣)やバトー・ラヴォワール(洗濯船)といったアトリエを兼ねたアパートや、カフェなどを拠点にして、お互いに交流していました。一口にエコール・ド・パリと言っても、画風は様々なので一緒に括っているのは便宜上と言っても良いかもしれません。ここにはそうした個性的なエコール・ド・パリ時代の画家の作品が数点ずつ並んでいました。

マリー・ローランサン 「三人の娘」
パステル調の淡く明るい色彩で描かれた3人の女性像です。青や赤の服で華やかかつ神話の中の世界のような雰囲気があります。ローランサンと言えばこういう作風というくらい、らしさがありました。以前どこかで観た気もします。
隣には早い時期の作品もあり、時期による作風の違いもよく分かりました。
 参考記事:マリー・ローランサンの扇 (川村記念美術館)

この辺にはドランやアンドレ・ロートの作品もありました。

マルク・シャガール 「パリの空に花」
青で描かれたエッフェル塔が建つパリを背景に、宙を舞うウェディングドレスを着た女性と、その隣で逆さまになった男性が寄り添っている様子を描いた作品です。また、画面の右側からは赤い花束が大胆に伸びていて花嫁と共に流れるような対角線となっていました。おなじみの題材が揃っているように思いますが、やや色が薄い気がするかな。大画面で見ごたえのある作品でした。
 参考記事:シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い―交錯する夢と前衛― (東京藝術大学大学美術館)

モーリス・ユトリロ 「シセイ・アン・モルヴァン」
どんよりした雲の下のパリの通りを描いた作品です。全体的に落ち着いた色合いで、恐らく初期の「白の時代」(最も評価が高い時期)の作品だと思います。微妙な色の違いがあり、家の壁の表現は特に見事です。画面に人通りはありますが、曇りの憂鬱な雰囲気も流石です。
 参考記事:モーリス・ユトリロ展 -パリを愛した孤独な画家- (損保ジャパン東郷青児美術館)

この辺にはユトリロがもう1点と、近くにはパスキンの嫁のダヴィッドの作品もありました。

モイズ・キスリング 「魚の静物」
カゴから投げ出されたように折り重なって机に乗っている様々な魚を描いた静物です。色とりどりの魚はちょっとグロテスクな風貌をしていますが、質感や曲線の表現が面白いです。
この隣にもキスリングの作品があったのですが、そちらはキスリングっぽくなく、キュビスム、シュプレマティスム、フォーヴィスムなどを足したような画風でちょっと驚きました。

モーリス・ド・ヴラマンク 「風景」
暗い雲の立ち込める空の下、手前に伸びる道とその脇の家々を描いた作品です。家はややセザンヌ的な幾何学性があり、手前の道や雲は流れるような力強い筆後がありました。

ヴラマンクはもう1点ありました。ここまでこの章は風景画が中心でしたが、ここからは人物中心です。

モイズ・キスリング 「オランダの娘」
青を背景に青い服と白いレースの服とベールのようなものを被った女性で、やや虚ろな目をしているのはキスリングの人物画の特徴ですw 色が強くなめらかな印象があり、青地に白の服は爽やかな雰囲気でした。
ちなみに、これは前にどこかで観たことがあると思って自分のブログで調べてみたら、日本の美術館名品展に出てたようです。
 参考記事:日本の美術館名品展 2回目 (東京都美術館)

この両脇もキスリングの作品で、他にもペール・クローグやドンゲンもありました。

藤田嗣治 「二人裸婦」
腰掛ける金髪の女性と裸婦とその膝にもたれ掛かる黒髪の裸婦を描いた作品です。シーツのようなものを背景に柔らかい胡粉のような色合いで、細い輪郭線と緻密な陰影で表現されていました。結構大きな作品ですが繊細な美しさを感じます。
 参考記事:
  藤田嗣治展 人物と動物 所蔵作品より (目黒区美術館)
  藤田嗣治-東京・ニューヨーク・パリ (目黒区美術館)
  よみがえる幻の壁画たち レオナール・フジタ展 (そごう美術館)

藤田は他にも「ル・アーヴルの港」などもあります。また、モディリアーニによる藤田の像も久々に観ました。
  参考記事:セーヌの流れに沿って-印象派と日本人画家たちの旅 感想後編 (ブリヂストン美術館)

続いてはシャガールのリトグラフのコーナーです。「ダフニスとクロエ」のシリーズの作品が1部屋を占めていて、水彩のように明るく軽やかな色合いの作品が並んでいます。淡いけど色の対比はシャガールそのもので物語を盛り上げているようでした。


<パスキンの素描、水彩、版画>
最後はパスキンの素描や水彩、版画のコーナーです。パスキンは1914年まで風刺画を描いていたそうで、1914年にアメリカに渡った後は1917年にダヴィッドと結婚し、メキシコやキューバを旅行してその土地のタイトルをつけては日記的に素描を描いていたそうです。(解説によるとこの頃の画風はおおらかなのだとか) その後もチュニジアやアルジェリアを旅行していたようです。
1920年代になると油彩同様に裸婦が多いそうですが、版画は油彩の繊細な作風と異なり明暗のはっきりした線で表現したようです。ここにはそうした様々な画風の作品が並んでいました。

ジュル・パスキン 「パリの貧民街」
風刺というか、貧民街でクラス人々を描いた作品です。道端で子供たちが遊び、男女がそれを観ています。サラサラっと描いたような細い素描に色付けした感じで、ありのままを描いているようでした。

この辺は小さめの作品が並びます。

ジュル・パスキン 「黒いスカートのエルミーヌ」
足を曲げて腕を組んで横たわるエルミーヌ・ダヴィッド(まだ結婚する前の奥さん)を描いた作品。ほとんどモノクロですが髪の毛と唇だけ色がついていて、結構写実的な作品でした。素描の力量を感じます。

ジュル・パスキン 「キューバの外輪船」
黒い煙突のある平べったい白い船と、ヤシの木が生えるキューバの風景を描いた水彩です。軽やかな色が付けられていて爽やかな雰囲気がありました。
この辺はキューバを題材にした作品もあります。それにしても作風が色々あって1人が描いたとは思えませんw

ジュル・パスキン 「国吉夫人」
国吉というのは日本人画家の国吉康雄のことかな? ソファに足を組んで座るスカートの女性を描いた作品です。ショートカットの髪で目をつぶっていて、クールな印象を受けます。やや仏像的な優美さもあるかな。素描ですが内面的なものを感じさせる作品でした。
近くにはかなり抽象に近い作品や、サロメやシンデレラの挿絵のような作品もありました。


ということで、中々貴重な機会となっていました。どうせならパスキンに絞ってもう少し詳しく掘り下げてくれたらなあとも思いますが、世間的にはパスキンって誰?という感じで興行的には厳しいのかなw この美術館は施設自体も綺麗な建物なので、気になる方はチェックしてみてください。


おまけ:
4年ほどに渡って活躍してくれたコンパクトデジカメのLUMIX (ルミックス) DMC-TZ3ですが、約21,000枚ほど撮ったところで引退となりました。まさに名誉の引退。(しかしまだ使えるので友人にあげましたw)
今後は代わって新たに購入したOLYMPUSのSZ-30マルチレコーディングが後継を担います。今度は24倍までズームが効く凄いやつです。
 参考リンク:OLYMPUS SZ-30MR


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