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日本の美・発見V大雅・蕪村・玉堂と仙がい-「笑(わらい)」のこころ 【出光美術館】

先日の土曜日に、出光美術館へ行って公開初日の「日本の美・発見V大雅・蕪村・玉堂と仙がい-「笑(わらい)」のこころ」を観てきました。

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【展覧名】
 日本の美・発見V大雅・蕪村・玉堂と仙がい-「笑(わらい)」のこころ

【公式サイト】
 http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html

【会場】出光美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR・東京メトロ 有楽町駅/都営地下鉄・東京メトロ 日比谷駅

【会期】2011年9月10日(土)~10月23日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混雑感はありませんでしたが、人気があるようでお客さんは結構来ているようでした。

さて、今回の展示は出光美術館のコレクションを集めた内容で、「笑い」をテーマにした内容となっています。タイトルの通り、池大雅、与謝蕪村、浦上玉堂、仙の4人の作品が中心となっているので、江戸時代の文人画と禅画の展示です。文人画は元々、中国の士太夫という官僚の余技として描かれた画のことで、日本では18世紀(江戸中期)に京都で華開きました。かつて中国官僚たちが画に託した屈折した心境というのは完全に理解されることはなかったようですが、自在な水墨に胸をときめかせていたそうです。そしてその想像力の源の1つが笑いであったそうで、今回はそれを抜き出し、全56点の作品が並んでいます。
テーマ別や各人の章も設けられ、それぞれ特色ある内容となっていましたので、章ごとに気に入った作品をご紹介しながら展覧会の様子を振り返ってみたいと思います。


<第1章 笑いの古典 ―瓢箪ころころ、鯰くねくね>
まず最初の章は、「丸くすべすべした瓢箪(ひょうたん)でぬるぬるした鯰(なまず)をおさえるとは如何。」という禅問答がテーマの作品が並んでいます。これをテーマにした如拙の「瓢鮎図」は昔から名画とされ、日本の文人たちの心を捉えていたそうで、ここにも面白い作品が並んでいました。
(※確か瓢鮎図は2~3年前に観たのですが、ブログには書いていなかったようです…。。元々「鮎」はナマズのことを指していたので誤字ではありません)

池大雅・大典顕常 「瓢鯰図」 ★こちらで観られます
太った禅僧が、自分よりも大きな瓢箪を持ち、足元の巨大な鯰を押さえつけている様子を描いた作品です。墨の濃淡でサラサラっと描かれたような感じで、ナマズも僧もとぼけた顔をしていて可愛らしいです。上には賛があり、要領を得ないことに必死になってしまう人の宿命を可笑しく詠んでいるようでした。

仙 「行脚僧画賛」
修行僧?が瓢箪に入った酒を美味そうに飲んでいる様子を描いた作品です。簡略化されていますが、嬉しそうな感じが伝わってきます。解説によると、行き過ぎた修行は意味がなく、形式だけの修行に終わった僧を暖かむも戒めの目が向けられているとのことでした。見た目はゆるい感じでも禅の思想が詰まっている仙ならではの作品かもしれません。


<第2章 無邪気な咲い ―大雅のおおらかさ>
続いての章は池大雅の作品が並んでいました。池大雅は子供の頃から才能を発揮して神童と呼ばれていたそうです。晴れた日に砂をまいた野外で制作していたとの逸話も紹介されていました。

池大雅 「山邨千馬図」
山の麓に集まった沢山の馬を描いた作品で、まさに1000頭くらいいそうなくらいびっしりと細かく描かれています。それでも1頭1頭が柔らかくデフォルメされて描かれていて、所々には人間の姿(馬売?)もありました。解説によると、酔った人に千馬図を描いて欲しいと言われた池大雅は、他日にと断ったものの、すぐに描いて欲しいと言われたのでその日に描いたそうです。こんな細かい作品をよく描いたものだと驚きのエピソードでした。肉眼では細かすぎるくらいなので、ミュージアムスコープ必須です。

池大雅 「南極寿星図」
南極寿星というのは七福神の1人の寿老人のことで、道教から来た神様です。大きく描かれた寿老人と、その背後に鹿(よく寿老人とセットで描かれる)と、侍童の姿も描かれています。デフォルメされた寿老人はコミカルで、濃い墨の輪郭が強い存在感を出していました。その表情はにこやかで、観ているだけでおめでたい感じがあります。後ろの侍童も何だか楽しそうでした。
 参考記事:知られざるタオの世界「道教の美術 TAOISM ART」 -道教の神々と星の信仰- (三井記念美術館)

この辺には5幅対の寿老人を題材にした掛け軸や、布袋を描いた作品、お祭りを描いた屏風などもありました。屏風もお祭りの賑やかで楽しそうな雰囲気がありました。

池大雅 「十二ヵ月離合山水図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の大きな屏風です。1扇ごとに1ヶ月となっていて、合わせて12ヶ月の山水図が描かれています。右隻が春で左隻が冬かな。1~4月頃はなだらかな山の風景で、3~4月あたりはのんびり楽しそうな人の姿もあります。一方、左隻の方は切り立った山が描かれていて、まるで入道雲のような形をしていました。そこに滝が流れていたり、紅葉していたり雪が降ったり霞が出たりと、様々な表情を見せていて、いずれも点描などを織りまぜた独特の雰囲気がありました。


<第3章 呵呵大笑 ―幸せを招く笑い型>
続いて3章は禅宗と関係のあるコーナーでした。禅宗では笑いは無我の境地を示す表情として大切にされているそうで、中国では厳しい表情の寿老人も日本では笑った顔になるなど、絵の表現にも影響を与えているようです。

相阿弥 「腹さすり布袋図」
九州国立博物館にある作品の模写で、腹をさすって歯を見せて笑う布袋が描かれています。オリジナルは足利義教が花園天皇を自宅に招いた際、最も格式の高い掛け軸として扱ったものだそうです。豪放に笑っているのですが、目が細くて顔が怖いw 何度観ても映画「シャイニング」のお父さんを彷彿してしまいますw
 参考記事:東京国立博物館の案内 (2009年08月)

仙 「鬼笑画賛」 ★こちらで観られます
まるで落書きのように単純な線で描かれた掛け軸です。2匹の鬼が笑い転げていて、特に右側の鬼は爆笑していますw どうやら「来年のことを言うと鬼が笑う」をそのまま絵にしたようで、よほどおかしなことを言ったのか?と思わせるほどの笑いっぷりでした。一見、下手っぴなようで親しみのあるところが仙の好きな所です^^

「踊布袋図」
右手で竿を持ち、大きな袋を担いだ布袋を描いた作品です。表情は細かく描かれ、愉快そうに笑っています。衣は流れるようで、颯爽とした雰囲気がありました。これでも氷の上を歩いているようですが、余裕そうです。

仙 「三福神虎渓三笑画賛」
大きな鯛を釣り上げた恵比寿が、頬ずりするかのように満足気な顔をしています。その横では寿老人と大黒が楽しそうに祝福していて、三人とも大喜びしている様子が何とも可愛らしいです。デフォルメが良い具合にゆるキャラのような雰囲気を出していました。

このコーナーも含めて仙の作品は特にわかりやすくて面白いです。百歳の老人が百人集まった作品なども好みでした。
なお、この近くも含め館内のあちこちに陶器の作品などもありますが、今回はそれらのご紹介は割愛します。


<第4章 達観した笑い ―玉堂の極み>
続いては浦上玉堂のコーナーです。浦上玉堂は元は上級の藩士でしたが、50歳の頃に備前岡山の鴨方池田藩を脱藩した後、2人の息子と七弦琴と共に全国を遊歴した文人画家です。(ある意味、中国の文人たちに近いのかも…) 浦上玉堂の作品はほとんどこのコーナーにまとめられていました。

浦上玉堂 「發墨山水図」
仙人でも出てきそうな縦長の山と、その麓の林や家を描いた作品です。中央付近に家があるのですが、その周りの木の部分が墨のみでうっそうとした雰囲気をよく表現していました。
なお、実際の作品名の「發」にはさんずいが付いた漢字で、はつぼくと読みます。これは墨をそそぐという意味で、特殊な用墨法で描いているようです。また、酒を飲んで琴を弾いて気分の高揚によって墨を重ねたと解説されていました。

この辺は山水の作品が多いように思います。笑いというテーマとしては素人には関連性を見出すのは難しいかもw

浦上玉堂 「雙峯挿雲図」 ★こちらで観られます
大きめの掛け軸で、山々やその合間の水辺で漁をしている人などが勢いを感じる筆で描かれています。山の中腹あたりには隠士の姿もあり、解説によるとこれは作者の分身ではないかとのことでした。山の形など奇妙な雰囲気もあり、独特の世界観がありました。

この辺には浦上玉堂の持っていた琴も展示されていました。


<第5章 知的な嗤い ―蕪村の余韻>
続いては与謝蕪村のコーナーです。一般的には俳人として有名な蕪村ですが、当時から文人画家としても名を馳せていました。南蘋派、浙派、南宗派といった中国のスタイルを学んだそうで、都会人ならではの洒脱な作風となっています。

与謝蕪村 「筏師画賛」
筏の上で笠と蓑をみにつけた舟人が舟を漕いでいる姿を描いた作品です。他の作品に比べてかなり簡略化されていて、蕪村にもこういう画風があるのかと参考になります。素早くすらっと描いたような感じですが、蓑の質感や流れるような雰囲気が洒落ていました。

与謝蕪村 「山水図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風です。高い位置から見下ろすように、湖とその湖畔に立つ大きな岩山の数々が描かれています。霞がかかるような雰囲気で、下の方にはのんびりと暮らす人々の姿もありました。一種の理想郷みたいな感じなのかな。


<第6章 笑わせてちくり ―仙さんの茶目っ気>
最後は仙のコーナーです。仙は博多聖福寺の住職で、その絵は決まったルールがない「画無法」の精神で禅の教えをユーモラスに描いています。しかし、賛には結構真面目な内容が書かれていて、考えさせられるところもあります。

仙 「書画貼交屏風」
6曲1双の屏風で、絵と賛が交互に描かれています。これまた落書きみたいでありながら温かみを感じる画風で、人々の生活の様子をゆる~~い感じに描いています。賛の字もあまり上手いとは思えませんが良い味出してますw

この辺には亀石という仙が所有していた石と、その石の銘を書いた書面が展示されていました。仙は石の造形に興味があったらしく、それをきっかけにして旅するほどだったそうです。自然の造形の神秘に惹かれていたようでした。 この石以外にも天然の石を硯としたものなども展示されていました。 また、その先には仙の姿の像などもあります。

仙 「鯛釣恵比須画賛」 ★こちらで観られます
釣られた鯛と全身で喜びを表現する恵比寿を描いた作品です。恵比寿は踊っているようで、口を大きく開けています。賛にも「よろこへ」と書いてあり、楽しそうな雰囲気が伝わってきました。

仙 「花見画賛」
木に垂れ幕を張って、お花見をする人々を描いた作品です。木にはちょこっとしか花は咲いていないのですが、みんな楽器を弾いたり遊んでいたりしていて、花を気にしているようにも見えませんw ただお祭り騒ぎしたいだけなのでは?w 右の方では飲み過ぎたのか吐いている人がいたり、黒く塗りつぶされたところには「かきそこない」と書かれているなど、何でもありのゆるゆるな雰囲気が漂っていました。ひよこみたいなものもいたのがマスコットみたいで可愛かったです。
仙には描き損ないがよくあるようですが、これを笑いに変える懐の深さがあります。龍虎を描いて、龍だか虎だか分からなくなったとか書くなど、面白い賛をつけて笑いを誘うようでした。まさに「画無法」ワールド全開ですw

仙 「虎画賛」
虎というか猫のような作品で、賛にも「猫」の字があります。顔が大きくて可愛らしい絵なのですが、これは「虎、うそぶけば風生ず」(立派な君主には立派な臣下が現れる)という禅の言葉に基づく作品のようでした。ゆるいだけでなく裏打ちされた精神があるのが仙の魅力の1つかも。

この辺にはペンギンの絵か!?と思うような達磨の絵などもありましたw


ということで、若干テーマとあまり関係なさそうな絵もありましたが楽しむことができました。やはり蕪村や池大雅あたりの文人画は良さが私にはイマイチわからないものの、仙の作品が多く観られただけでも満足です。仙はわかりやすい楽しさがありますので、明るい気分になりたい方は是非どうぞ。
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