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北斎とリヴィエール 三十六景の競演 【ニューオータニ美術館】

先週の土曜日に、赤坂見附のニューオータニ美術館へ行って「北斎とリヴィエール 三十六景の競演」を観てきました。

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【展覧名】
 北斎とリヴィエール 三十六景の競演

【公式サイト】
 http://www.newotani.co.jp/group/museum/exhibition/201109_hokusai/index.html

【会場】ニューオータニ美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京メトロ 赤坂見附駅・永田町駅


【会期】2011/9/3(土)~10/10(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混んでいるわけではありませんが、結構お客さんがいて人気の展覧会となっているようでした。

さて、今回は日本人であれば誰もが知っている浮世絵師 葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」と、フランスの浮世絵師とまで言われるアンリ・リヴィエールの「エッフェル塔三十六景」を全作品展示するという内容となっています。展覧会は大きく分けて4つの章となっていましたので、いつも通り気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。


<アンリ・リヴィエール>
まずはアンリ・リヴィエールのコーナーです。名前から分かる通り、「エッフェル塔三十六景」は北斎に触発されて作られた作品で、北斎や歌川広重の浮世絵から構図、題材、表現方法などを学んだ様子が伺えます。アンリ・リヴィエールは1864年生まれの画家で、新印象主義の画家ポール・シニャックと知り合いモンマルトルのカフェ「シャ・ノワール(黒猫)」でジャポニスムに出会いました。その後、積極的に日本の工芸や浮世絵を収集し、木版画制作も独学で学ぶなど木版の復興と多色リトグラフの開発に尽力しました。ここではその代表作の1つである「エッフェル塔三十六景」(多色リトグラフ)がすべて並んでいます。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 扉絵」 ★こちらで観られます
これはシリーズ中唯一の想像上の風景を描いた作品です。上半分から左半分にかけて、様式化された黄色い葉っぱが覆い、右下辺りにエッフェル塔の姿があります。雲の形もデフォルメされていて、解説によるとこの雲には狩野派に通じる表現があるようです。色は抑えめで落ち着いた雰囲気とアールヌーボー風の洒落たデザインセンスを感じました。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 エッフェル塔の建築現場」
左上にまだ台座部分しかないエッフェル塔が描かれ、手前には傘をさした後ろ向きの人の姿があります。周りには雪が積もり、空からも雪が舞っています。これは歌川広重の「蒲原 夜之雪」の雪の中を行き合う人達を想起させると紹介されていましたが、確かに雰囲気がよく似ているように思います。また、傘をさした人は北斎漫画の影響とのことでした。

この辺には工事中の様子を描いた作品が他にもありました。
各作品には影響を与えたと思われる浮世絵の写真も一緒に展示されているのがわかりやすいです。確かに似たような構図が多く色合いは淡めでした。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 パッシー河岸より、雨」
土砂降りの雨の様子を描いた作品です。やけに地面に近い位置の構図となっていて、右にリヤカーのようなものが置かれ、奥には左上に向かって伸びるクレーンがあります。エッフェル塔はそのクレーンと地面が織りなす三角形の中に描かれていて、これは北斎の「遠江山中」を想起させる構図となっていました。解説によると低い位置に視点を置いているので、泥と雨を跳ね飛ばす水たまりをリアルに表現しているとのことで、雨が斜線で表現されているのも浮世絵の影響のようでした。機械類があってもどこか浮世絵らしさを感じるのが面白い作品でした。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 セーヌ川の祭り、7月14日」
暗闇の中に立つエッフェル塔を描いた作品で、頂上あたりから周りに光線が伸びていて、絵の下半分には川に浮かぶ沢山の舟に多くの人影が描かれています。その周りには日本式の提灯も無数にぶら下がっていました。これはフランス革命記念日のお祭りらしく、浮世絵の花火の絵を思い起こすと解説されていましたが、花火というよりは灯台みたいな感じに見えるかな。楽しげな雰囲気の作品でした。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 塔のペンキ塗り」
ロープに掴まってエッフェル塔の柱にペンキを塗る人を描いた作品です。エッフェル塔の中から柱をみたような構図で、網目のように鉄骨が行き交っている所にぽつんと小さい人影がある感じです。この作品には元にした写真があり、作品のすぐ近くに展示されていました。見比べてみると、ちょっと誇張されていますがほぼ同じで写実性もありました。

リヴィエールは写真家でもあったようで、こうした写真を元にした作品もあるようです。この隣にも同じように写真と一緒に展示された作品がありました。また、この作品同様にエッフェル塔の中からの構図の作品も何点かあります。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 屋根の上」
屋根の上から観るはるか遠いエッフェル塔が描かれた作品です。周りには煙突が無数に立っていてちょっと煤けてうらぶれた感じがして、じぐざぐに手前に向かってくるような屋根の表現なども含めて面白い構図です。北斎の作品でも屋根の上を描いた作品をよく観るかな。手前では2匹の黒猫が追いかけっこするように描かれているのですが、左の猫は下半身だけしか画面に収まっていないなど、大胆な切り方となっていました。これも浮世絵の影響かな?  解説によると黒猫はカフェ シャ・ノワールを意識しているとのことでした。

この辺は町と一緒に描かれた作品が並んでいました。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 ジャヴェル河岸より(転轍手の小屋)」
左から煙を吐いて走る汽車が走ってきていて、横に向かってその線路が伸びています。その脇にはチェック柄のような信号らしきものや、煙突のある粗末な小屋(転轍手の小屋?)が建っています。背景には工場の煙突のようなものやエッフェル塔の影があり、垂直方向に伸びる線が全体的に多いせいか幾何学的でリズム感があるように思いました。

アンリ・リヴィエール 「エッフェル塔三十六景 パッシー河岸より、石炭商人」
馬車とその荷台に立っている人を描いた作品で、背景には空にうっすらと浮かぶ三日月と、空気にかすむエッフェル塔が描かれています。その手前では大きくカーブするように描かれた轍(わだち)があり、右には背の高い棒?のようなものがありました。この作品もやけに地面が上のほうまで描かれていて、轍の質感に目が行きました。また、解説によると、この作品にはリヴィエールが元々手がけていた影絵芝居の絵を思わせる要素があるようです。そのせいか、夕方の風景に郷愁を誘われました。

今回はエッフェル塔三十六景の他に「時の魔術師」というシリーズの作品も2点あるようでした。


<葛飾北斎>
続いて葛飾北斎の冨嶽三十六景のコーナーです。このシリーズは毎年のように全作品一挙公開している展覧会があるので、今回は今までご紹介してなさそうな作品について挙げていこうと思います。
 参考リンク:冨嶽三十六景のwikipedia
 参考記事:広重と北斎の東海道五十三次と浮世絵名品展 (うらわ美術館)

北斎は生涯に93回の転居、30回の改号をしていた飽くなき求道者だったようで、この冨嶽三十六景は晩年の「為一(いいつ)」と名乗った時代の作品となります。冨嶽三十六景と言いますが実は46枚あり、これは人気が出たために10枚の追加を行った為です。西村永寿堂の版で、今回の展示品はちょっと保存状態が古びた感じでしたが、プルシアンブルー(ベロ藍)が美しく残っていました。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図」
越後屋の2つの屋根と、その間に顔をのぞかせる富士山を描いた作品です。屋根の後ろには凧があがっていて、その糸による斜めの線が、屋根と富士の斜線と呼応しているかのようです。また、細かい所も面白く、屋根の上で大仰なポーズをしている人達や、看板に「現金、無掛値」という有名な文句も描かれていました。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 常州牛堀」
手前に大きめの屋根付きの舟が左上に向かって大きく突き出している様子を描いた作品です。これは舟が霞ヶ浦に出る様子を描いているようですが、誇張された迫力がありました。左上には立派な富士もあり、この構図は何度観ても驚かされます。

この近くには「神奈川沖浪裏」「駿州江尻」「凱風快晴」「山下白雨」「遠江山中」「尾州不二見原」といった有名作・傑作が並んでいました。どれも大好きな作品です。またリヴィエールの写真やモノグラムなども展示されています。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 甲州三島越」
中央に巨大な木が立ち、その根元のあたりで3人の旅人が手をつなぎ合って幹の太さをはかろうとしています。3人がかりでも半周にもならないくらいで、木の大きさが伝わってきます。その後ろには富士山が雄大にそびえ、自然の偉大さや人々の陽気な雰囲気が伝わってくるようでした。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 甲州三坂水面」
雪のない富士山と湖、そのほとりの家々を描いた作品です。水面には富士山の姿が写っているのですが、何故か雪が降り積もり、位置もずれていてすごい違和感を覚えます。意図は分かりませんが記憶に残る作品です。

このあたりで36図で、残りは追加分の10図となります。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 本所立川」
水辺に集まった沢山の材木の置場を描いた作品で、富士山は右上の方に木の隙間に描かれています。周りでは3人の人が働いていて、左にはビルのように高く積み上がった木材の上からモノを落とす人、その下で大きくのけぞって見上げる人が描かれています。右のほうはまっすぐに伸びた長い木材などがあり、全体的に線の多い画面構成になっているように思いました。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 駿州大野新田」
奥に頭を覗かせる富士山、その裾野に芦の茂みが広がり、手前には刈り終わった芦を馬や牛の背に乗せて運ぶ人々が描かれています。周りは夕焼けで家路につく所なのか、人々の表情は楽しげで、まるで金曜日の夕方の自分を観ているような気分になりますw 芦の束や牛馬がリズミカルに感じられるのも面白い作品でした。

この辺には「富嶽百景 全3巻」や、少し進むと北斎漫画のコーナーもあります。また、北斎の表現に関する興味深いコーナーがあり、それによると北斎は「三つわり法」という構図をよく用いたそうです。これは西洋の「一点透視法」とも違った独自のもので、地を画面の1/3、空を2/3で表すことで安定感を出すようです。その例として「深川万年橋下」や「江戸日本橋」を引き合いに出していました。


<歌川広重>
最後の辺りには広重の作品も数点あります。リヴィエールが参考としたと思われる、「吉原 左富士」「蒲原 夜之雪」「大はしあたけの夕立」「鉄砲洲稲荷湊神社」「両国花火」などです。こちらを観ると、リヴィエールは北斎だけでなく広重からの影響も強いことが分かります。
 参考記事:浮世絵入門 -広重《東海道五十三次》一挙公開- (山種美術館)


<ジョルジュ・オーリオル>
最後のコーナーはジョルジュ・オーリオルという人の作品です。この人もシャ・ノワールの常連でリヴィエールやロートレックと親交があったらしく、エッフェル塔三十六景では装丁と文字を手がけたそうです。 この人自身の作品はロートレックやアールヌーボーを感じさせるものの、優しい雰囲気の作風に思いました。表紙や賞状のデザインなどもありました。


ということで、観たくても中々観る機会の無かったリヴィエールの作品や、北斎の名作を観ることが出来て満足できる内容でした。
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