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モーリス・ドニ -いのちの輝き、子どものいる風景- 【損保ジャパン東郷青児美術館】

ちょっと間が開きましたが、前々回にご紹介したお店でランチを摂った後、新宿西口にある損保ジャパン東郷青児美術館に移動して、「モーリス・ドニ -いのちの輝き、子どものいる風景-」を観てきました。自分でも気づかなかったのですが、ここに来るのは1年ぶり。今年は初めてとなりました。(セガンティーニの展示が地震で延期になったりしてたし…。) 

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【展覧名】
 モーリス・ドニ -いのちの輝き、子どものいる風景-

【公式サイト】
 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index.html
 http://www.nhk-p.co.jp/tenran/20110201_171321.html

【会場】損保ジャパン東郷青児美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】新宿駅

【会期】2011年9月10日(土)~11月13日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と空いていて、自分のペースでじっくりと観ることが出来ました。

さて、今回はナビ派の画家モーリス・ドニの個展となっていて、孫娘のクレール・ドニを始めとした子孫の協力を得て集められた作品が並んでいます。個人所有の作品が多く、世界初公開の作品もあるようで、貴重な機会となっていました。詳しくはいつも通り各章ごとに気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。


<序章:若き日のモーリス・ドニ>
まず最初は初期の作品のコーナーです。ドニは鉄道会社の父と、帽子屋の母の元に生まれました。早い時期から画家を天職と認識していたらしく、1888年にアカデミー・ジュリアンに入学して在学中にナビ派を結成し、その広告塔となりました。(ナビ派はポール・ゴーギャンの影響を受けたグループで、平坦で装飾的な画面が特徴です)
 参考記事:オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)
初期は人物と風景に関心があったらしく、ここには身内を始めとした人物を描いた作品が並んでいました。(…というか、この展覧会の作品の大半は人物を描いたものです)

モーリス・ドニ 「新聞を読む父」
戸外で新聞を読んでこちらをふと見る仕草をしている父親を描いた作品です。平坦で落ち着いた色彩で具象的に描かれていて、口ひげをたくわえネクタイ姿の父親は穏やかそうですが、厳格な所もありそうにも見えました。
解説によると、父はドニの画才を理解せずに銀行家や技師になることを望んでいたそうですが、その重圧を跳ね除けるようにこうした父の肖像を何枚も描いているとのことでした。この作品の隣には母親の像もあります。

モーリス・ドニ 「黒いショールの母親」
点描技法を取り入れて描かれた母子の像です。背景には田園風景が広がり、抑えられた色調で、所々に点を打って明暗や色の違いを表現しています。全体的にそんなに明るくはないのですが、子供のマフラーの赤が目を惹きました。点描技法にもチャレンジしていたことがわかるのも参考になります。

モーリス・ドニ 「ロザリオ」
これは10/7の夜に行われる「ロザリオの聖母の記念日」の礼拝をする人々を描いた作品です。ロウソクを灯した人や黒い服の女性などが描かれ、左にはドニが恋した女性(母の帽子屋で働いていた女性)の頭だけが画面に収まり、体は画面外で描かれていないという大胆な構図となっています。この女性は後にシスターになったらしく、目をつぶり真剣に祈っている姿からは敬虔な信仰心を感じました。ドニは熱心なカトリック教徒だったようで、この作品全体的にも神秘的な雰囲気がありました。


<第1章 くつろぎのなかで>
続いて、1章は主に母子をテーマにした作品のコーナーです。ドニが母子の美しい情景を目にした感動を表現した作品が並んでいました。

モーリス・ドニ 「薄紫のガウンを着た母親」
椅子に腰掛けて赤ん坊の息子に授乳しているドニの妻を描いた作品です。黒い輪郭線で縁どられていますが、圧迫するような強さはなく柔らかな感じを受けます。母の顔もそれに合わせて穏やかで幸せそうな雰囲気がありました。しかし、この赤ん坊(ジャン=ポール)は生後4ヶ月で亡くなったそうです。
この近くには赤ん坊が亡くなった頃の様子を描いた作品もありました。

モーリス・ドニ 「フラ・アンジェリコ風のショーソン夫人」
豪華な別荘の前に座って、子供を抱えて本を読む青い服の女性を描いた作品です。背景はイタリアの風景で、様式化した感じでやや明るい画面のように思います。
解説によると、ドニは1897年の暮れをイタリアのフィレンツェ郊外にある友人の別荘で過ごしたらしく、ルネサンスの巨匠の作品の模写などを行っていたそうです。これらは批評家からの評価は低かったようですが、巨匠たちの作品をドニの中で咀嚼していたようです。

モーリス・ドニ 「ランプの下の入浴(ル・プルデュの母子像、夜の効果)」
ランプで赤みがかった部屋の中、2人の女性と赤ん坊、3歳くらいの女性が描かれた作品です。顔も体も赤っぽく、温かみを感じさせます。母親は慈愛の表情を浮かべていて、背景は窓から見える港の夕暮れの風景となっていました。観ているだけでもほっとするような幸せを感じさせます。

この辺で気づいたのですが、今回の展示品は個人所有の作品が多いです。観たこと無いものばかりで貴重な機会となっています。

モーリス・ドニ 「子どもの身づくろい」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、縞模様のドレスを着た女性が赤ん坊を抱いて頭を洗っている様子が描かれています。赤ん坊はお構いなしで、自分の足を触って遊んでいるようです。背景には赤いソファやピンクのカーペットなどが描かれ、装飾性や色の対比、差し込む光の強さなどを感じました。解説によると、キリストの洗礼を思わせるそうです。

モーリス・ドニ 「バラを持つマルト」
紫のドレスを着てバラを持つドニの妻マルトを描いた肖像画です。背景には花束や花柄のソファ?、男の子の顔なども描かれていて、右上には鏡に後ろ姿が反射しています。色は抑えがちですが、装飾的で華やかな雰囲気がありました。このマルトは首にドニから貰った子供の乳歯で作ったネックレスをつけていて、この作品の隣には実際に絵に描かれたネックレスも展示されていました。また、マルトは普段着で描かれていることが多いらしく、こうして着飾っているのは貴重なものだそうです。
…これも幸せそうに見えるのですが、この絵の10年後(1919年)にマルトは亡くなっています。

モーリス・ドニ 「夕暮れの三相」
これは前妻のマルトが亡くなって3年後に再婚したエリザベツ・グラトロール(通称リズベツ)を3人並べて描いた作品です。テラスに集まった3人のエリザベツたちは、それぞれ3つの個性を描いているらしく、中央には親しげな表情のエリザベツ、左には楽譜を開いて歌っている音楽家としてのエリザベツ、右は編み物をしながら子供にしがみつかれている母としてのエリザベツを描いているようでした。背景には紫の海と水色の空が広がり、柔らかく包み込まれるような温かみを感じます。解説のよると現実世界を美化している面もあるようでした。


<第2章 子どもの生活>
続いては子供を描いた作品が並ぶコーナーです。ドニは子どもや孫を頻繁に描いていたそうで、ここにもそうした作品が並んでいます。今回の展示の立役者である孫娘のクレール・ドニ氏によると、ドニは子供に長時間ポーズを取らせることはなく、優しく接してくれる人物だったそうです。

モーリス・ドニ 「リンゴを持つベルナデット」
リンゴを両手で持っている青地に白の水玉模様の服を着た幼児を描いた作品です。どこを見ているのか分からない表情をしていますが、無心にリンゴを持っている姿が何とも可愛らしかったです。子供ってたまにこういう表情してるよなあ…w

モーリス・ドニ 「バルコニーの子どもたち、ヴェネツィアにて」 ★こちらで観られます
これはポスターの1つになっている作品で、イタリアのヴェネツィアへ旅行した際に宿泊した所のバルコニーに集まる3人の娘たちを描いたいます。背景にはサン・ジョルジョ・マッジョーレが見えていて、手前には装飾的な柵を背に幼児(4女)と手を繋ぐお姉ちゃん(3女)、しゃがみこんで2人を観る次女の姿があります。何をしているのか分かりませんが3人とも楽しそうで可愛らしく描かれています。光の表現が明るく、優しく幸せな雰囲気を発していました。この作品の隣にはこれと似た光景の写真があり、サン・ジョルジョ・マッジョーレの位置や子供の向きがちょっと違うものの、この写真を元に描いているような感じでした。

この辺はこうした子供を描いた作品が続きます。たまに時系列が戻ったりしますが、テーマ重視のようです。

モーリス・ドニ 「スパニエル犬のいる浜辺(1)」
海岸で遊ぶ裸婦や子供たちを描いた作品で、中央付近には白いドレスの女性が犬を連れています。その周りには授乳する母子などもいて、夏ののんびりした海水浴じゃないかな。若干、点描のような技法がみられ、やや抽象的で人物の顔が描かれていませんが、これは1908年頃に描かれた作品なので、白いドレスの女性は前妻のマルトのようです。私にはマルトが一際大きく見えましたが、色のせいかな? これまた幸せな感じがある作品でした。

モーリス・ドニ 「家鴨競争」
海辺に沢山の人が集まってお祭り騒ぎをしている様子を描いた作品です。海にアヒルを放って、それを皆で捕まえに行くようで、水着を着た人々やそれを見物する黒い服の人々、奥にも船からの見物人や、遠い背景にヨットのレースの様子なども描かれていました。黒が周りに多いせいか、上半身裸の男性たちに自然と目がいくかも? 解説によると、水平線を高くとる技法は浮世絵からの影響だそうです。賑やかな中に計算された構図があるように思いました。

2章の最後のあたりには壁一面に子供を描いた作品が展示されていました。これは結構驚きます。


<第3章 家族の肖像>
続いては家族の肖像に関するコーナーです。家族の肖像は古くからある伝統的な題材ですが、ドニはそこに通常は肖像に使わないような形を使うことで、伝統的なモティーフに新しい印象を加えたそうです。また、自分の家族を聖書や当時の人物に見立てていたりしたそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

モーリス・ドニ 「家族の肖像」 ★こちらで観られます
これもポスターとなっている1枚で、赤ん坊を抱く紺色の服の妻(恐らくマルト)と2人の女の子がテーブルの前に集まっている様子を描いた作品です。背景にはオレンジ地の布や緑の壁紙など、淡い色合いながらも妻を引き立てるような対比的な色となっているようでした。皆微笑んでいて楽しそう…。ドニの妻や子供を大事に思っていた様子が伝わってきました。

モーリス・ドニ 「キャステラ家の肖像」
大きめの作品で、戸外の木の下に集まるキャステラ家の夫妻と5人の子供たちが描かれています。犬を抱っこしていたり、背景に馬や牛、犬なども描かれているなど、何とも賑やかで幸せそうな雰囲気があります。色合いも鮮やかで、装飾的で平坦な印象を受けました。
解説によると、この作品の依頼を受けた際にこの家に10日ほどの滞在したそうですが、やはり子供に長時間ポーズを取らせるようなことはなく、スケッチしたものなどを元に描き上げたそうです。

モーリス・ドニ 「光の船」 ★こちらで観られます
円形の絵で、ヨットのような船に座る3人の男の子たちと、左上に航路を見失った船を救ったとされる聖母マリアと幼子イエスが雲に乗って現れる様子が描かれています。この子供たちはドニの息子らしく、マリアもエリザベツ(再婚した妻)の面影があるそうです。解説によると、人生の荒波の中で光を与えてくれる存在で、息子たちを委ねているのを表しているようでした。絵は装飾的な感じですが、人物の表情は写実性もあるように思います。

モーリス・ドニ 「ブルターニュの供物(食前の祈り)」
ドニ家の別荘の食堂に飾った3枚セットの大きな作品です。中央に妻に似た聖母子が描かれ、両脇にはぶどうや卵など食事を運ぶ4人の女の子たち(ドニの娘たち)などが描かれています。手前には沢山の食品があり、装飾的で平坦な画風で宗教画のように家族が描かれているようでした。

この章の最後のあたりには息子の洗礼祝いの箱や、絵が入った出生通知書、ドニの別荘の写真、ドニが描いた日本人の肖像の写真 なども展示されていました。


<第4章 象徴としての子ども>
最後の章も子供がテーマとなっています。家族の情景や日常は聖書やギリシャ神話の主題をドニに連想させたらしく、象徴的・装飾的に展開させるきっかけとなったそうです。

モーリス・ドニ 「聖母賛歌」
キリストを身ごもったマリアが、洗礼者ヨハネを宿した従姉妹のエリザベツの元を訪れたシーンを描いた作品です。手前で赤い服に白いベールを被ったマリアと、白い服のエリザベツが手を握っていて、周りには燭台を持った女性や祈る人々の姿もあります。背景は夕日に染まる港湾で、黄色く光る海が神秘的な雰囲気を強めているように思いました。

この辺はキリストの物語に関連した作品が多かったように思います。礼拝堂の装飾やステンドグラスの習作などもあります。また、古典主義の方向の作品などもありました。

モーリス・ドニ 「幼子イエスへの賛辞(1)」
階段の上あたりで人指し指をたてて右のほうを見ている白い服の少年イエスと、その脇に膝まずいて祈る3人の赤い服の女の子、その背後で祈る男女が描かれています。イエスと男女には光輪が浮かんでいるので後ろの2人は聖人かな。(聖母?) 背景には大きな葉っぱが絡まったアーチが描かれていて、それが装飾的な雰囲気を強めているように思いました。3人の娘は恐らくドニの娘じゃないかと思いますが、左端の子だけはこっちを観て振り返っているのが悪戯っぽくて可愛かったです。

モーリス・ドニ 「泉(《黄金時代》の一枚目のパネル)」
頂点を切り取った三角形を横に倒したような変わった形の作品で、これは階段室用の装飾として作られたと聞いて納得ですw 「黄金時代」というアングルなど過去の巨匠も取り組んだ神話?を題材にしていて、花輪を被った裸婦と、裸の少女が岩から流れる生命の水を飲んでいます。柔らかく幻想的な色合いで、どこか清涼感すら感じました。


ということで、滅多に観られなそうな個人コレクションの数々を観ることができました。似た主題が多いので、見比べることができたのも良かったかな。幸せそうな絵が多いですが、実際には結構悲しい別れもあったことも知ることができたので、今後の鑑賞の参考にもなりそうです。今季お勧めの展覧会です。


おまけ:
この美術館からもスカイツリーが見えます。最近どこからでも見えますがw
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Comment
No title
こんばんわ!
 私も先週行ってきました。子どもの歓声が聞こえてくるような作品群はとても和みました。
 美術館入り口の展望台?は撮影可だったんですね~私が行った日は房総まで見えました。
Re: No title
>だまけんさん
コメント頂きありがとうございます^^
この展示を観て私の中でドニのイメージがちょっと変わりました。
幸せそうな作品が多いですよね。

え? 房総まで見えるって凄いですねw そんな遠くまで見えるのかあ。
今度私も、単眼鏡で遠くまで観てみようと思います^^
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