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描かれた不思議 トリック&ユーモア展 エッシャー、マグリット、国芳から現代まで 【横須賀美術館】

前回ご紹介したお店でランチバイキングした後、横須賀美術館へ行って「描かれた不思議 トリック&ユーモア展 エッシャー、マグリット、国芳から現代まで」へ行ってきました。この展示には前期・後期があるようで、私が行ったのは前期でした。
(感想はトリックのネタバレが大いに含まれていますので、混み具合についての記載の後に空白行を入れておきます。)

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【展覧名】
 描かれた不思議 トリック&ユーモア展 エッシャー、マグリット、国芳から現代まで

【公式サイト】
 http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/944.html

【会場】横須賀美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】馬堀海岸駅、浦賀駅、JR横須賀駅など

【会期】
 前期:2011年9月10日(土)~10月2日(日)
 後期:2011年10月4日(火)~11月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(祝日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多くて場所によっては人混みができていましたが、大体の場所は自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示はいわゆるだまし絵・トリックアートの展覧会となっています。ここ2~3年くらい毎年のようにこの手の展覧会をやっているように思いますが、この展覧会はそれらを合わせたような内容となっていました。各章で内容がだいぶ違っていましたので、詳しくは気に入った作品とともに章ごとにご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  奇想の王国 だまし絵展 感想前編 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  奇想の王国 だまし絵展 感想後編 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  奇想の王国 だまし絵展 2回目 感想前編 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  奇想の王国 だまし絵展 2回目 感想後編 (Bunkamuraザ・ミュージアム)  トリック・アートの世界展 -だまされる楽しさ- (損保ジャパン東郷青児美術館)


ここから先はネタバレOKな人向けの記事になります。 しばらく空白行を入れますので、画面をスクロールしていってください。






























**************** ネタバレあり感想 ここから ***********************


<第1章 トリックがみちびく迷宮-M.C.エッシャーの世界>
最初はエッシャーのリトグラフの章となっていて、エッシャーの代表的な面白い作品が並んでいました。
 参考記事:迷宮への招待 エッシャー展 (そごう美術館)

M.C.エッシャー 「昼と夜」
これは以前にもご紹介したか。左右対称の田園風景と、その上を飛ぶ鳥を描いた作品です。モザイクの正則分割の手法で、白黒の畑がいつの間にか鳥となっていて、左右も反転しながらお互いに組み合わさっているというパズルのような面白さがあります。これは一度は観ておきたい作品です。

M.C.エッシャー 「婚姻の絆」
螺旋状に皮を向いたような人の顔が2つ並んで、お互いに帯が繋がっているような感じの作品です。トリックというかちょっと不思議な感じがします。解説によると、これは子供の時に観た透明人間の映画に影響を受けて描いた作品のようでした。

ここら辺には以前ご紹介した「上りと下り」「物見の塔」「滝」「凸面と凹面」「登って降りて」など有名な作品も展示されていました。登っているつもりがいつの間にか下っていて無限ループしたり、遠近表現・大小表現の不思議を味わうことが出来ます。

M.C.エッシャー 「モザイクⅡ」
真ん中に仏陀のような人と、周りに沢山の動物たちが集まった様子を描いた作品です。有機的な形で異形の生物なのですが、お互いに白と黒で交互に組み合わさっているのが面白いです。というか、この組み合わせ方は凄いw


<第2章 日本絵画の中のあそび>
続いては日本画のコーナーです。ここは一昨年のbunkamuraの展示の趣向に似ていたかな。

歌川広重 「即興かげぼしづくし」
影絵遊びの指南書となる作品シリーズです。障子に映る影と、それを形作っている実際の姿をセットで描いたものが4つ並んでいました。特に好みなのは「岩に雁 ねこ」という作品で、頭の上で着物を張って耳の部分をつくり、背中に笠を背負って猫の丸い体を表現していました。何とも洒落の効いた面白いシリーズです。

清水節堂 「幽霊図」 ★こちらで観られます
目が異様に大きなガリガリの体の幽霊を描いた作品です。いわゆる「描表装」という、掛け軸の絵の周りの部分も絵で描く技法を使っていて、天の部分にまで頭が出ていて絵から抜けだしたような感じでした。足は透けて風帯の部分が風に揺らいでいるなど細かい所も凝っていて、大泣きする子供がいるほどの迫力でしたw
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この辺には円筒の鏡に写して観る「アナモルフォーシス」の技法の日本版「鞘絵」のシリーズもありました。若干分かりづらいですが、再現コーナーもあります。

歌川国芳 「人かたまって人になる」
タイトルの通り、沢山の人がひっついて人の顔に見える不気味で面白い作品です。目の部分はオッサンのパンツのような(しかもビキニっぽいw)もので、キモさと洒落っ気があって笑えました。
歌川国芳は他にも「みかけはこはゐがとんだいゝ人だ」「としよりのよふな若い人だ」「人をばかにした人だ」といった、人が合体して人となるシリーズの作品もありました。
 参考記事:
  江戸東京博物館の案内 (2010年03月)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館)

歌川国芳 「一ッかしら」
武者や鬼、役者、相撲取りなどを描いた作品なのですが、2~3人が1つの頭を共有しているように見える奇怪な作品です。ぶつかり合うような姿勢で上手いこと頭が重なっているように見えるので、何人いるのかちょっと迷いますw それにしても何でこういう絵を描こうと思ったのか、国芳親分に訊いてみたいものですね。

歌川国盛 「鳥のはんじもの」
「判じ絵」というなぞなぞのような絵です。鈴に日がついて「すずめ」とか、火の輪で「ヒワ」、戸に歯がついて「ハト」といったように発音がキーとなることが多いかな。隣に解答もあるので、これは何だろう?とじっくり考えながら観てきました。結構難しいです(そもそも鳥の名前をそんなに知らないせいもあります。) 鳥の他に、虫のシリーズもありました。
  参考記事:おもちゃ絵の世界 ~見る・作る・遊ぶ・学ぶ~ (紙の博物館)


<第3章 まどわしの世界-シュルレアリストの方法>
続いての3章はガラっと内容が変わってシュルレアリスムのコーナーです。正直、トリックというわけでもないような作品があったようにも思いますが、不思議な作品が並んでいました。
 参考記事:
  シュルレアリスム展 感想前編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 感想後編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 2回目 (国立新美術館)
  森と芸術 (東京都庭園美術館)
  ベルギー幻想美術館 (Bunkamuraザ・ミュージアム)

マックス・エルンスト 「子供、馬そして蛇」
「デカルカマニー」という手法を用いて描いた作品で、フィルムや紙を貼り付けた後にはがして偶然の模様を出しています。白い壁のようなものの前に謎の対象が描かれていて、蛇はわかるけど馬と子供を描いているのかはわかりません。どこか不安を覚えるような感じを受けました。
近くには横浜美術館のオスカル・ドミンゲスの「無題-デカルカマニー」(顔に見えるものが描かれた作品)などもありました。

ルネ・マグリット 「公園」 ★こちらで観られます
柱の影から出てくる紳士 …と思ったら背景であるはずの森が柱のように人物の手前に来ているというマグリットの代表作「白紙委任状」を彷彿とさせる作品です。右には隠れているはずの部分が反転しているなど、トリックが多くて面白いです。
マグリットはこれを入れて3点ありました。

サルバドール・ダリ 「シュルレアリストの時間の目」
上の方には大きく描かれた目があり、その瞳の部分が時計となっています。その前には木々が描かれ、手前では3匹の蝶がトンボのような胴体で描かれているなど夢の中のような不思議な光景です。蝶の下には親子らしき姿もあるのですが、しばらく見ていると言い知れぬ怖さを感じました。

サルバドール・ダリ 「女の胸像(回顧された)」
色つきの女性の胸像です。首からとうもろこしを首飾りのようにかけていて、首には奇妙な踊る人の模様があり、チョーカーもつけています。額の部分には蟻が群がるようなペイントがあるのも奇妙で不気味です。頭にはフランスパンを乗せていて、その上にはミレーの「晩鐘」を彫刻にしたものが置かれていました。意味などはまったくわかりませんが、ダリ独特の面白さ・奇妙さ・恐ろしさなどを感じました。


<第4章 さまよう視線-知覚と美術と、ユーモア>
ここから先は現代アートのコーナーです。特に日本人の作品が多くて、昨年の損保ジャパンのトリックアート展と趣向が似ていたように思いますが、私にとってはこの辺りから目新しい作品もありました。
 参考記事:トリック・アートの世界展 -だまされる楽しさ- (損保ジャパン東郷青児美術館)

飯田昭二 「Half & Half」
青い鳥かごの中に白いハイヒールと青いハイヒールが置かれています。右から観ると2つとも白となり、左から観ると2つとも青に見える不思議な仕掛けで、見る場所によって色の区切りの部分が違って見えます。この仕掛けは鏡を使ったもので、巧妙に鏡が配置されているのですが、見ている人には実物そのものに見えました。

高松次郎 「ビーナスを観る女の影」
壁にくっついたビーナスの頭とその周りにハンドバッグを持った女性の影ができている作品です。実はこれは影も絵で表現されているのですが、どこまでが本物の影で、どこからが絵なのかは見極めるのは至難でした。
高松次郎はこの他にも2点ほど展示されていました。
 参考記事:陰影礼讃―国立美術館コレクションによる (国立新美術館)

関根伸夫 「位相 No.4」
半円のベニアのオブジェが壁に続いていて、絵の部分と繋がって円筒形を成すという作品です。勿論、絵の部分は平面なので横から観ると全然円筒ではないのですが、場所を変えるとオブジェと絵の境界線が曖昧となり一体となっているのが面白かったです。意外と人間の視覚もあてになりませんw

鈴木慶則 「非在のタブロー(キリコによる)」
右半分はデ・キリコの絵、左半分はキャンバスの裏側に見える作品です。しかし実は左半分も絵でできていて、発想としては描表装に似ているかも。凄いリアルです。右半分には穴が開いているのですが、実際に裏を観ると穴が開いているなど、どこまでが絵でどこからが実際なのか分からなくなるような作品でした。

福田繁雄 「Images of illusion 1984」
小さな任天堂の花札がびっしり並んだ作品です。近くで観ると何かよく分かりませんが、ちょっと離れて目を細めてみてみるとモナ・リザに見えるという面白い作品でした。
この近くには福田繁雄の代表作である「victory」もありました。

福田繁雄 「アンダーグラウンド・ピアノ」
複雑に入り組んだ形のピアノのようなものが置かれていて、それそのものを観ても何だか歪んでいてよくわかりません。しかし、その後ろに置かれた鏡の中にはグランドピアノが写っているのが非常に不思議でした。遠近感や大小によって、鏡に写っているものが必ずしも実物ではないとわかる興味深い作品です。

ヴィクトル・ヴァザルリ 「C.T.A-103-A」
黒~灰色の四角が渦巻くように描かれた作品で、オプアートと呼ばれる光学的な幾何学模様の画風です。観ていると目がチカチカして酔いそうになりますw 観るということそのものに問い掛けをしてくるような作品でした。
近くにはうねって見える作品や、オノサト・トシノブの作品などもありました。

U.G,サトー 「見え隠れのスクリーン」
黒い屏風のような形の作品です。左から観るとシマウマが走っている姿となっていて、右から観るとチーターが走っている姿となります。折りたたみを利用してこうした表現になっているようで、角度を変えてみるのが面白かったです。
この作家は他にも「蝕まれた箱」という見る角度によって日本や世界の地図に見える作品も良かったです。

この少し先には福田繁雄の娘の福田美蘭のコーナーもありました。折りたたむ感じで開閉する絵や、キャンバスの裏面に描かれたような作品、ステッカーの絵などがありました。また、展覧会の入口付近にも福田美蘭の作品はいくつかおいてあります。


<第5章 絵、それとも写真? -リアリズムの諸相>
最後はリアリズムのコーナーです。これも損保ジャパンの展示に似た趣向のコーナーがあったようにも思いますがw スーパーリアルを追求した写真と間違えそうになる作品が並んでいました。

伊藤靖子 「Untitled」
薄い青のヒビ割れ模様の入った器を描いた作品です。その光の反射や質感、柔らかな影は写真としか見えないほどで、気品を感じます。解説によると、一旦写真を撮ってから主観を捨てて描いているそうです。この作品の他にもクッションを描いた作品なども良かったです。

金昌烈 「水滴 J.T.82024-79」
布地に真ん丸の水滴が描かれた作品です、レンズ状に光を通していたり影が落ちていたりとリアルな感じです、解説によると、だまし絵を描くためでなく、全てを溶かして無にするために描いているそうですが、壁に水滴がくっついているように見えました。

チャック・クロース 「ジョージア/フィンガーペインティング」
大きな女性の肖像で、これはあまりリアルじゃないぞ?と思ったら、全部 指紋で描いている作品らしく、無数の指の跡が残っていました。恐るべき手間のかかった作品でした。

この辺には上田薫のなま玉子の絵やジャムの絵などもありました。

小瀬村真美 「四季草花図」
これは映像の作品で、日本画の屏風絵や襖絵の光景を実際に再現し、写真を動画として編集したものです。風にそよぐような感じや、雪が舞う様子、雨が滴る様子など、絵と映像が融合したような面白さがありました。


**************** ネタバレあり感想 ここまで ***********************

空白行送り






































ということで、ちょっと前に似た展示を観たなあという感じがしないでもないですが、色々なトリックが一堂に介しているのでダイジェスト的に観ることができました。子供連れが多めの展示だったのですが、子供たちも目を見張ってトリックを見破ろうと楽しそうでした。ここは美術館自体も魅力的なので、横須賀観光と共に行ってみると面白いと思います。
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