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酒井抱一と江戸琳派の全貌 (感想後編)【千葉市美術館】

今日は前回の記事に引き続き、千葉市美術館の 「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」展 の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌

【公式サイト】
 http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2011/1010/1010.html

【会場】千葉市美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】千葉駅(JR・京成)京成千葉中央駅(京成) 葭川公園駅(千葉都市モノレール)など


【会期】2011年10月10日(月・祝)~ 11月13日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間30分程度

【混み具合・混雑状況(平日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では上の階の展示をご紹介しましたが、今日は後半の下の階の展示をご紹介します。
 参考記事:
  琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第1部 煌めく金の世界 (出光美術館)
  琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第2部 転生する美の世界 (出光美術館)
  琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第2部 転生する美の世界 2回目(出光美術館)
  国宝燕子花図屏風 琳派コレクション一挙公開 (根津美術館)
  生誕250年 酒井抱一 -琳派の華- (畠山記念館)
  生誕250年 酒井抱一 -琳派の華- 2回目(畠山記念館)


<第6章 江戸文化の中の抱一>
抱一は琳派の作品を描くと同時に、多様な作風を試みていたようです。江戸文化の様相が色濃く反映されているようで、内妻と合作を作ったり、漢学者の亀田鵬斎をはじめ豪商や料亭の主人などとの交流が伺える作品が並んでいました。(内妻と亀田鵬斎については前編をご参照ください)

<第7章 工芸意匠の展開>
7章と6章は同じ展示室に並んでいたので、一緒にご紹介します。抱一は琳派の絵師の多くと同じく、多様な工芸意匠も手がけました。特に蒔絵師の羊遊斎との合作はブランドとして重宝されたようです。ここにはそうした工芸に関する作品も並んでいます。

7章に関連して、抱一の絵をそのまま小袖にしたもの、団扇、扇、蒔絵の下絵、盃、印籠、小皿、雛屏風(今年の出光美術館にも出品されていたもの)、櫛、小さいタンスなどが展示されていました。ちょっと変わったものだと、抱一デザインの団扇が描かれた浮世絵などもあります。

[俳諧人とのネットワーク]

113 酒井抱一 「隅田川窯場図屏風」
6曲1双の屏風で、右隻に大きな窯場と沢山積まれた藁?や作業している人が描かれ、左隻には筑波山と広い水面を進む船が描かれています。水墨による幽玄な雰囲気があり、ここまで観てきた画風とはまた少し違う趣きがあるように思いました。窯場あたりは琳派風かな。

126 八百屋善四郎 「料理通 初編/二編」
抱一は八百善(やおぜん)という料亭の主人と深い交流があったようで、これはその料亭が出した料理本です。ベストセラーとなったそうで、抱一も初編と二編に絵を描いていました。描いてあるのは山葵やしめじ、ハマグリなどで写実的でありながら洒脱な雰囲気があります。ちなみに、この本には他に葛飾北斎や谷文晁、渓斎英泉なども名を連ねているようです。

170 酒井抱一 「月に秋草図屏風」
最晩年の作品で、2曲の屏風となっていますが元々は襖絵のようです。アーモンド上の黒い月(元は銀?)が浮かび、その下にススキや桔梗などの秋草が描かれています。その草花は非常にリズミカルで、曲線が優美でした。余白にも独特の味わいがあります。


<第5章 雨華庵抱一の仏画制作>
続いては仏画のコーナーです。忘れてしまいがちですが抱一は出家した身であり絵師の仕事の1つに仏画制作があります。古い仏画の模写や谷文晁の作に共通する構図など周到な準備をして臨んでいたようです。また、この章の名前になっている雨華庵(うげあん)というのは1809年に移り住んだ下谷大塚の画室兼仏事を営む場で、後々の弟子に引き継がれていったようです。

142 酒井抱一 「妙音天像」
琵琶を弾く妙音天(弁財天)を描いた作品で、光明皇后が描いたものを模写しているそうです。鮮やかで動きを感じる表現となっていて、表装の部分も文様化された海となっているのも面白いです。なお、抱一は江ノ島の弁財天によくお参りしにいってたともことでした。

この辺には弟子の鈴木其一やその子供の守一の作品なども並んでいました。

153 酒井抱一 「白蓮図」
大きく花開く蓮を描いた作品です。花と葉が淡く色付けされ、瑞々しく風情があります。蓮は琳派でもよく描かれる題材ですが、僧である抱一にとっては鎮魂や再生を願う花でもあると解説されていました。清廉な雰囲気のある作品です。
これも出光の展示で観たような…。

抱一の作品はこの辺までだったと思います。


<第8章 鈴木其一とその周辺>
この章からは抱一の弟子や孫弟子のコーナーです。抱一の最初の弟子は鈴木蠣潭(すずきれいたん)で、酒井家の家臣として抱一の世話をする傍らで画業も手伝っていたようです。わずか26歳で亡くなったので点数は少ないのですが、確かな技量を持っていたらしく、このコーナーで観ることができます。また、その蠣潭が死んで鈴木家に養子に入ったのが鈴木其一で、其一も酒井家の家臣として抱一を補佐していたようです。其一が30代の頃からは「かいかい其一」(漢字は難しい!)という号を使って師風を脱する大胆で明快な作風となり、晩年は「菁々其一(せいせいきいつ)」と称し家督を鈴木守一に譲り、多様な作品を残しました。

<第9章 江戸琳派への水脈>
8章と9章は同じ展示室に並んでいたので、一緒にご紹介します。
酒井鶯蒲は寺の二男として生まれ、12歳で妙華尼(抱一の妻)の養子に迎えられ、雨華庵2世となりました。34歳で没したので作品は少ないものの、この章で観ることができます。 また、其一に次ぐ高弟の池田孤邨や、晩年の弟子の田中抱二の作品などもあり、その後の江戸琳派の流れを知ることができます。江戸から明治になった頃には、其一の子の守一や雨華庵4世の道一、道一の兄の光一などが活躍し、雨華庵5世の唯一で江戸琳派は途絶えたそうです。

194 鈴木蠣潭 「山水図屏風」
小さめの6曲1双の屏風です。金泥に大和絵や琳派を感じる画風で山々や川が描かれています。重厚さと軽やかさを織りまぜているように感じ、雅な雰囲気がありました。確かに素晴らしい絵師です。若く亡くなったのが惜しい限り。

[酒井鶯蒲とその周辺]
261 酒井鶯蒲 「地蔵尊」
錫杖を持った地蔵を描いた作品です。色が濃く、輪郭も太いのでがっしりした雰囲気があります。抱一の作風とは違うものを感じました。

255 酒井鶯蒲 「白藤・紅白蓮・夕もみぢ図」
タイトル通り、白い藤、蓮の花と葉、もみじの木が描かれた3幅対の作品で、抱一の作品を模した掛け軸です。単純化された意匠や色合いは抱一に近いですが、より平坦な雰囲気がありました。解説によると、これまで本阿弥光甫の作と考えられていたようです。

[江戸琳派の遊戯性 ~ 小さきものたち]
287 鈴木其一 「四季歌意図巻」
小さな巻物で、かなり細かく富士山を背景にした秋の絵など四季の風景を描いています。復興大和絵の影響を受けているそうで、大和絵の雰囲気が強いのですが、私にはどことなく中国風の雰囲気を感じました。

[田中抱二]
272 田中抱二 「夏草図屏風」
燕子花や朝顔、芍薬、百合などの夏から秋の草花が並ぶ様子を描いた屏風です。金地に色鮮やかかつ緻密に描かれ、抱一から受け継がれているのがよく分かります。密集して描かれているのがちょっとわざとらしいくらい鮮やかかなw

273 田中抱二 「三十六歌仙図屏風」
琳派に受け継がれた画題で、今年の出光美術館の琳派展で其一の同じ構図の掛け軸を展示していました。色鮮やかかつ華麗な雰囲気で三十六歌仙が集まる様子が描かれ、琳派の先人の作と見間違うほどの完コピでした。ちなみに其一の掛け軸は今回の展示でも最後の方に展示されています。

この辺にはやはり出光美術館の琳派展で観た鈴木其一の「蔬菜群虫図」や、根津美術館の「夏秋渓流図屏風」なども展示されていました。

[江戸琳派と浮世絵]
300 鈴木其一 「雪月花三美人図」
3幅対で、それぞれ雪の積もる枝、月、桜の花の下の着物の美女が描かれている作品です。それぞれ、画面の中段付近に短冊のようなものがあり、そこには抱一の俳句が書かれているようでした。浮世絵風の作風であるのにも驚きましたが、師匠への敬意も感じる作品でした。

249 市川其融 「水花菖蒲図」
2幅対の掛け軸で、曲線で単純化された川を背景に色とりどりの菖蒲(燕子花)が並んでいる様子を描いています。右幅は青の花と白の花、左幅は紫の花も混じっていて、お互いの色合いのバランスが対になっているように見えました。琳派の伝統を受け継ぎつつも独特な感性が感じられて良かったです。

[池田孤邨]
266 池田孤邨 「青楓朱楓図屏風」
これは前編でご紹介した抱一の同名の作品とよく似た6曲1双の屏風です。抱一の作品に比べると、木々が太く感じられるせいか、よりデフォルメされた感じもしました。煌びやかで色の対比が美しい作品です。

[江戸琳派と能絵]
297 鈴木其一 「釣鐘図」
掛け軸に大きな釣鐘のみが描かれている作品です。周りが余白であるため、より一層大きく感じるかな。鐘の上部には龍の彫刻、胴の部分には中国風の美女と龍らしきものが描かれていて、写実的な緻密さを感じました。これは歌舞伎で有名な「道成寺」の釣鐘を描いたものであると推測されているようでした。

[節句画と描き表装]
309 鈴木其一 「業平東下り図」
310 鈴木守一 「業平東下り図」
2枚同名の作品が並んで展示されていました。どちらも在原業平が馬に乗りながら振り返って富士山を見ている様子が描かれていて、ほぼ同じ構図です。やや、富士山やお供の位置が違うかな? 守一もまた其一から受け継いだ伝統をしっかりと伝えていることを感じさせる作品でした。

先ほど名前を挙げた鈴木其一の「三十六歌仙図」はこの辺にありました。

[江戸琳派の抱一顕彰]
327 山本素堂 「鶴図屏風」
山本素堂は抱一の弟子で雨華庵4世となった酒井道一の父です。6曲1双の屏風で、右隻には群れ飛ぶ鶴たち、左隻には川辺で休む鶴たちが描かれています。金泥に単純化された大和絵風で、群れた鶴がリズミカルに並んでいます。非常に華麗な雰囲気があり、好みの作品でした。

324 中野其明 「尾形流略印譜」
これは前編でご紹介した、琳派の印章を集めた抱一作の印譜をさらにパワーアップさせたものです。抱一以降の印も補強したようで、貴重な資料となっているようです。 こういう研究まで引き継いでいるとは驚きでした。

328 酒井道一 「桐菊流水図屏風」
2曲1双の屏風で、金地を背景に川辺の桐の木や菊の花などが描かれています。右隻の木の幹はダイナミックな印章を受ける一方、草木は意外と写実的な雰囲気があるものの、様式化されているのが面白いです。解説によると京琳派の影響を強く受けているとのことでした。


ということで、時間をたっぷり使って観てきたので最後は駆け足となってしまいましたw弟子の流れや関係を知ることも出来たのも良かったです。 しっかり図録も買ったので、暇な時に開いては余韻に浸っています^^ まさに抱一の集大成と言える内容だと思いますので、お勧めです。
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