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プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立西洋美術館の「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

PA221082.jpg

【展覧名】
 プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影

【公式サイト】
 http://www.goya2011.com/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/current.html#mainClm

【会場】国立西洋美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2011年10月22日(土)~2012年1月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日13時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では若い頃からご紹介しましたが、今回は絶頂期から晩年までの章をご紹介します。

<Ⅶ 国王夫妻以下、僕を知らない人はいない - 心理研究としての肖像画>
ゴヤは1780年にアカデミー会員となり、各界の著名人を描いて最も優れた肖像画家と評されたそうです。この章にはそうした肖像画が並んでいました。

48 フランシスコ・デ・ゴヤ 「赤い礼服の国王カルロス4世」 ★こちらで観られます
赤い服に沢山の銀の装飾を付け、青い肩掛けをしている国王の姿を描いた作品です。かなり写実的に描かれ、聡明そうな眼差しをこちらに向けています。質感や表情の豊かさが凄い…。 王の威光を感じさせる作品でした。

50 フランシスコ・デ・ゴヤ 「スペイン皇子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像」
この記事の冒頭にある写真の絵で、まるで女の子のように可愛らしい子供時代の王子の肖像です。頭と上半身だけ細かく描かれ、それより下はまだ描かれていないので習作のような感じかな? 全体的に明るく楽しげな雰囲気でした。

52 フランシスコ・デ・ゴヤ 「ガスパール・メイチョール・デ・ホベリャーノスの肖像」 ★こちらで観られます
机に頬杖をついて思索するようなポーズをとった男性の肖像です。この男性は啓蒙主義の知識人で、ゴヤの重要なパトロンであった人物のようです。何か悩んでいるように見えるのですが、解説によるとこのポーズは知的な才能を象徴する意味もあるようです。また、勲章の無い服を着ているのは公的であり私的であることを示し、手に持った手帳のようなものにはゴヤとこの人の名前が書いてあるようなので、相当に深い仲だったのかもしれません。この人はこれが描かれた頃には自らの信念を貫いて役職を罷免されたそうですが、優雅で知的な雰囲気で描かれているので、ゴヤからの敬意を感じました。

この近くには内縁の妻やパトロンの娘の肖像もありました。


<Ⅷ 悲惨な成り行き -悲劇への眼差し>
1804年に帝政を樹立したフランスのナポレオンは、その野望によってスペインも戦争と混乱に巻き込みました。ゴヤは1808年に戦争で荒廃した故郷を訪れ、そこで目にしたものを版画集「戦争の惨禍」として着手します。(しかし、この版画集が日の目を見たのは死後のことだそうです) ここには「戦争の惨禍」などの作品が並んでいました。

58 フランシスコ・デ・ゴヤ 「私は見た [戦争の惨禍] 44番のための準備素描」 ★こちらで観られます
版画集のための素描作品です。フランス軍が攻めて来る直前の光景らしく、恐れおののいて逃げ惑う人々が描かれています。手前には不安そうな顔の母子がいるのですが、左の方では我先に逃げる聖職者らしき姿もあって、批判的な意味がありそうです。
解説によると、ゴヤはスペインの市民の偉業を描くようにと召集されたようですが、故郷で見た光景の本質として英雄や具体的な戦いではなく、犠牲になった市民を描いたそうです。
この作品のあたりから一気に絶望的な作品が増えている気がします…。近くには死んだ人達を描いた作品もありました。

62 フランシスコ・デ・ゴヤ 「[戦争の惨禍] 15番 もう助かる道はない」
目隠しされて丸太に縛られた人物を描いた版画作品です。背景では同じように縛られた人達が銃殺され、手前では血を流して倒れている人もいます。タイトルからして希望が無いですが、暴力に対する絶望や無力感が伝わってくるようでした。

この辺にはこうした酷い光景の作品が並びます。処刑されたり戦ったりしている様子や、木に突き刺さって腕がもげている人の絵などもあります。

スペインでは独立戦争の後、フランスに加担した者は異端審問で取り締まられたそうです。ゴヤは英雄を描きたいといって首席宮廷画家の地位を保ったようですが、一方で当時の世相に批判的な作品を生んでいたようです。

71 フランシスコ・デ・ゴヤ 「死せる鳥」
これは油彩で、5羽くらいの鶏が折り重なるように死んでいる様子が描かれています。目に光がなく魂が無い感じがして、その姿は戦争で折り重なって死んだ人達の絵のイメージと重なります。解説によると、動物も人間も変わりないというメッセージがあるそうです。また、静物は戦時中に多く描かれたとのことでした。

この辺には死体の散乱する様子を描いた作品などもあります。


<Ⅸ 不運なる祭典 -[闘牛技]の批判的ヴィジョン>
続いては「戦争の惨禍」に続いて1816年に出された3番目の版画集「闘牛技」のコーナーです。これは商業的には失敗したらしく、名前から連想するような闘牛の華やかさや魅力ではなく、人間が理性に背いて他者を挑発して無意味な死の報いを受けるという、暴力と不条理をテーマにしていたようです。この辺は「戦争の惨禍」に通じ、それ故に闘牛好きには受け入れられなかったようですが、私にはテクニックや大胆さを感じるような作品もあるように思えました。

80 フランシスコ・デ・ゴヤ 「[闘牛技] 20番 マドリード闘牛場で フアニート・アピニャーニが見せた敏捷さと大胆さ」
襲いかかってくる牛を棒高跳びのように飛んで交わす闘牛士を描いた作品です。空中で静止するような場面で華麗な技術を感じました。

84 フランシスコ・デ・ゴヤ 「[闘牛技] 26番 落馬して牡牛の下敷きになったピカドール」
牛の下敷きにされ、馬と共に倒れている闘牛士を描いた作品です。周りではそれを追い払おうとしている人々が描かれていました。ぐったり倒れて死んでいるような姿は確かにファンには受け入れがたいものかもしれません。

この近くには客席に牛が突撃した事故や、闘牛で死んだ人々を描いた作品もありました。この頃のゴヤは何だか死に魅入っているかのようです。


<Ⅹ 悪夢 -[素描C]における狂気と無分別>
続いては戦争後に作られた126点からなる素描Cのコーナーです。その中には幻影を描いた作品があるようで、ここにはそうした題材の作品が3点だけ並んでいました。

90 フランシスコ・デ・ゴヤ 「同じ夜の3番目の幻影 [素描C] 41番」 ★こちらで観られます
足を上げて踊るような格好の老女?を描いた作品です。というか、犬みたいな顔をしているように見えますw 年甲斐もなく一昔前の格好をしているらしく、理性なき人の姿を描いているようでした。婆さんがミニスカで踊るようなものかなw 

他の2点も奇妙で、愚かそうな人を描いた作品でした。


<ⅩⅠ 信心と断罪 -宗教画と教会批判>
ゴヤは宗教画についても生涯を通じて取り組んだようですが、啓蒙主義的立場から人間性豊かな表現で描いていたそうです。ここにはそうした批判的な雰囲気の作品が並んでいました。

94 フランシスコ・デ・ゴヤ 「荒野の若き洗礼者ヨハネ」
ほとんど裸で十字架に布を付けたものを持ったヨハネの姿を描いた作品です。岩に腰掛け、天を仰ぐような感じのポーズをしています。 これは2000年に発見された作品らしく、古典彫刻を思わせるそうです。つややかで理想的な体つきの表現となっているように思いました。

この辺には油彩も2点ありました。その後は素描で、異端審問の裁判を受けるシーンを描いたものや、地動説で教会に裁かれたガリレオを描いた作品などもあります。


<ⅩⅡ 闇の中の正気-ナンセンスな世界の幻影>
続いては1810年代後半の版画シリーズ「妄」のコーナーです。恐怖、愚行、男女などをテーマに描いているようですが、これまでの批判で社会の改良を促す姿勢は無くなり、人間の愚かさと不条理を救いがたいと提示しているかのような作品郡だそうです。しかし、闇と対比された光の表現もあるようで、かすかな希望を見ることもできるのではないかとも解説されていました。 …私には救いがなく愚かさを感じる作品が多いように見えました。人間が嫌いなのではないか?と思うくらいです。

100 フランシスコ・デ・ゴヤ 「[妄] 13番 飛翔法」
暗い背景の中、コウモリのような羽を両手に持って飛んでいる人達を描いた作品です。自然の摂理に逆らう姿なのか、自由を守る努力を描いているのかはわからないようですが、シュールな光景に見えました。暗さと羽の形のせいか不安なものを感じます。

105 フランシスコ・デ・ゴヤ 「[妄] 12番 陽気の妄」
輪になって踊る人々を描いた作品です。タイトルには陽気とありますが、周りは暗く、無表情や邪悪な感じの表情をして不自然なポーズをしているなど何か不気味で怖い雰囲気がありました。


<ⅩⅢ 奇怪な寓話 -[ボルドー素描G]における人間の迷妄と動物の夢>
独立戦争後も首席宮廷画家だったゴヤですが、1824年に休職してマドリードを離れパリへ移りました。その後、ボルドーに居を構え、たまに一時帰国するくらいでボルドーに住んでいたようです。この時代には素描GとHがあり、柔らかい質感の石版用クレヨンが使われているようです。ここにもグロテスクで狂気や非合理を感じさせる作品が並んでいました。

116 フランシスコ・デ・ゴヤ 「空を飛ぶ犬 [素描G] 5番」
空から地上に向かう、背中に隼の翼をつけた猟犬を描いた作品です。後ろ足はヒキガエルのようで、様々な生物が混ざった怪物のような姿をしています。地上には逃げ惑う人々と思われる点などが描かれていて、狂気を感じました。

この隣には闘牛の牛に蝶の羽が生えた生物の絵もあり、羽の模様が人の顔のようで不気味でした。もう可笑しさのようなものはなく、グロくて暗い雰囲気です。


<ⅩⅣ 逸楽と暴力 -[ボルドー素描H]における人間たるものの諸相>
最後は素描Hのコーナーです。遊びと暴力という対照的なテーマとなっているのですが、やはり人間の愚かさを描いているようでした。

123 フランシスコ・デ・ゴヤ 「必死に喧嘩する二人の大男  [素描H] 38番」
笑っている2人が取っ組み合いしているようなじゃれているような、どちらともつかない雰囲気の作品です。2人とも顔が似ていてニヤニヤしているのですが、馬乗りになっている方の男の手にはナイフがありました。不気味で恐ろしいものを感じました。

他にはスケートをする修道士や、浣腸?をする作品などもありました。


ということで、油彩よりは素描が中心の展覧会と言えるかもしれませんが、ゴヤの内面が伝わってくるような面白い展示となっていました。晩年は狂気じみた雰囲気があって、そういう面からも楽しめます。 会期は長めですので、気になる方は是非どうぞ。
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Comment
No title
この女の子の絵はどうして未完なんでしょう?
すごく可愛い女の子でした。

ほしのあきさんに似ていませんか?
素晴らしい内容です
こんばんわ、はじめまして。

すごい、今一番見たい展覧会です。
静岡なので、タイミングを合わせるのが少し難しいですが、是非行きたいと思っています。
しかし、ゴヤがこんなに見れる事ってあるんですね。
驚いています。“着衣のマハ”も来ているなんて!

確かに、
「できれば裸のマハと比べて観てみたいものですが、流石に日本では無理でしょうねw これだけの傑作を日本で観られるのは貴重な機会だと思います。」
と、おっしゃっているように、欲を言えばそうなりますが、でも素晴らしい内容と思えます。
しかし、作品紹介も素晴らしいですね、感服します。
また、ブログに遊びにきます。

Re: No title
>パンピーさん
コメントありがとうございます^^
未完成の理由はわからないですが、充分良い絵ですよね。
確かにほしのあきに似てるかも… でも男の子みたいですよ。王子様らしいので。
Re: 素晴らしい内容です
>静岡建築太郎さん
はじめまして、コメント頂きありがとうございます。
この展覧会は版画作品が多めですが、それでもこれだけ観られるのは凄いと思います。
着衣のマハだけでも観に行く理由になりますからね。

ちょっとおうちから遠いようですが、会期が長めなのが救いかな?
もし東京に行かれるようでしたら、他の展覧会にもハシゴしてみるのも良いかもしれませんね
(体力は使いますがw)

また気になる展示があったら記事があるか見に来て頂けると嬉しいです。
今後共よろしくお願いします。
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